プロローグ1
俺は、何度あいつに負けただろう。
初めて会った5歳のころから10年間、何百何千とおれはあいつに戦いを挑み、そのたびに負けた。
俺は血反吐を吐くくらい努力していたのに。
あいつはろくに努力なんてしていなかったのに。
あいつは天才で、俺は凡才以下だった。
どれだけ走っても、どれだけ木刀を振っても。
全然差は縮まらなかった。
追いつけるなんて、誰も思っていなかっただろう。
剣術を教えてくれた爺さんも、仕事一筋だった親父も、にこにこ見ていたお袋も、
俺自身ですら、思っていなかった。
それでもずっと追いかけていた理由は、俺があいつに惚れていたからだろう。
綺麗で、強くて、寂しげで…。
そんな孤高の天才に出会ったときから惚れていた。
まあ、自覚したのは中学に入ってからだったが…。
綺麗なあいつの傍にいたくて、強いあいつに追いつきたくて、寂しげな顔を笑顔にしたくて、俺はずっと頑張ってきたのだと思う。
正直、勝てたら告白しようと思っていた。
友達に話したら「それ、死亡フラグだろ!」と笑われたこともあった。
少しでも良い効率の体の動かし方を、少しでもいい効率の修行法を、自分で考えて見つけ出していった。
頑張ってきたかいがあって、気づけば俺は強くなった。
他の奴に喧嘩で負けることもなくなったし、あいつと闘う時も闘う時間はどんどん伸びた。
実力差も少し、また少しと減っていくのがわかるようになった。
それでやっと、かすかな、一筋の勝算が見えた。
ずっと追っていたその背中が、手に届く所まで来た。
あと少しで勝てる。そんな時に……。
俺は異世界に召喚され、そして殺された。
俺、雪里蛍は、あいつ、姫路輝夜に1度も勝つことなく、告白もできないまま一生を終えた。
死亡フラグを折ることはできなかった。