最終章 死霊所潜入編 維新の巻 第1話
はじめに
「闇と風と……」
ふと気が付くと、そんな言葉を漏らしている自分がおりました。
無力感、後悔、羨望、自己防衛。
腹立たしさと脱力感。
何かを願うわけでも、何かを呪うわけでもなく、ただ自分の中の何かを抑えるための言葉。自分の中の何かを表現するための言葉。
意味不明な、自分で自分自身を疑うような言葉。
創造とも、破壊とも一線を画すための精一杯の抵抗。
無意識から溢れ出るおぞましい何か。
言葉にのって現れる何か。
自分の存在を確認するための何か。
息苦しさと焦燥感。
目をつぶっても、耳を閉じても、心に迫る現実。
とるにたらない現実……
自分の全てを支配しようとする現実。
殺されることを防ぐための言葉。
死ぬことを逃れるための言葉。
消えることを恐れる言葉。
無情な言葉。
「闇と風と……」
私はそこに行く。
第4章 死霊所潜入編 維新の巻 第1話
数千年続く「ふうせん」の序章とも言うべきF元年。
「Fの御一新」と呼ばれる人類と日本の大革新の年でございます。
建設一年ともたずに崩壊した知床の新政府は、その後も大きな分断と禍根を日本の国土に残します。
独立組織「マシガニオ」は独立国家としてその隠し言葉を捨て、「オニガシマ」を名乗り大雪山山系を支配するに至ります。
国民は「和人」と称し、過酷な自然な中で生を得ました。
新政府の残党は尚も自分たちが正式な日本国民であることを宣言し、「和人」を「オニ」と呼び、領土の完全征服に多大な労力と時間を費やすことになります。
「オニガシマ」初代総統にしてZ統括、山岡朝洋。
わたくしのことでございます。
対して新政府の残党がまとまり「大和帝国」を建設。
初代皇帝に就いたのは……いえ、そこはわざわざ私が記す必要はないでしょう。
まあ、日本国家の分裂など、その後の人類が辿る歴史から比べると、実にとるにならない話ではございます。
人類はこの辺りから存亡を賭けた大きな戦いを幾つも経験することになるのです。
人類を存続するための戦争。
それは人類をただ浮彫にするためだけの「足掻き」でございました。
人類を守るために他者を封じるための戦い。
封戦……
Fは永遠と続くことになるのでございます。
生者と生者の戦い。
生者と死者の戦い。
死者と死者の戦い。
死者の国でも戦い。
悪魔との戦い。
神との戦い。
歴史は大きなうねりの中へと進んでいきますが、とっかかりは些細な事でございました。
溢れかえった人間数と支えきれなくなった自然数が引き起こした必然でございます。
人間同士の些細な戦争が、宇宙の真理を刺激する導火線となったのでございます。
そうでした。
あの頃の自分、自分を取り巻く環境、時代の流れを思い出して参りました。
あれはそう、「マシガニオ」のメンバーたちと共に知床の新政府に潜入した時のことでございます。
とるにたらない小さな波について語らなければなりません。
この小さな波がやがてとてつもない大きな波となって人類を飲み込むことになるのですから。
私が思い出したのは、まず、F一年五月二十一日のことでございます。
絶対絶命の危機に陥り、この身の終焉を覚悟した日のことです。
申し訳ありません。
今日はもう時間が無いようです。
この話の続きは、次回にさせていただきます。
それでは御機嫌よう。




