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第13話

4章 死霊所しれとこ潜入編


煉獄れんごくの巻 第13話


 お待たせいたしました。

 私、山岡朝洋やまおか ともひろと妻は独立組織「マシガニオ」二番隊と合流し、斜里しゃり町中央部へと進みました。


 車二台に分乗しているのはマシガオニの軍師「今孔明」こと大久保崇広おおくぼ たかひろ、二番隊隊長の陸奥忠信むつ ただのぶ、二番隊所属の兵士三名、それに「昼型デイタイム」の私と妻の総勢八名でございました。


 荒れ果てた街に銃声が鳴り響いております。


 先にこの地に侵入した一番隊と敵が交戦中なのでございます。


 私たちは車を下り、徒歩で激戦区に近寄りました。


 血の匂いが鼻をつきます。

 三十mほど先です。

 昼間、ゾンビ化している私の感覚は人間の血に対して極端に敏感なのです。

 少しずつ自分の身体の特徴がわかって参りました。


 死んだ人間の血の匂いと生きた人間が流している血の匂いが、はっきりとこの距離からでも認識できます。


 死体は六つ。負傷者は三人。


 この数字には確信が持てます。


 斥候役の三人の兵士が戻ってきて、私が予想した数同様の報告をいたしました。


 私は心の中でほくそ笑んで頷きます。


 と、目前に大きな影。


 自動車ほどの大きさをもつその獣は「アムール虎」でございました。


 全身に浴びた銃創から、滝のような血を流しております。


 しかし、その表情からは闘志は消えておりません。


 足元には引きずられてきた兵士が、首や背中から流血しながら倒れております。


 「獣使いが近くにいる……探し出せ。そっちを始末したほうが早い」


 陸奥がそう指示を下すと、兵士三名が足音をたてずにその場から消えます。


 「それで、目先の脅威にはどう対処するつもりじゃ?こっちにはもう戦力が残っておらんぞ」


 大久保翁があくびでもしそうなほどのんびりとした口調で言います。


 陸奥は懐からリボルバーの銃を取り出し、


 「俺がやる。多勢に無勢は無粋だろ。戦士と戦士のさしの勝負だ」


 大久保翁が鼻で笑って、


 「フン。今度はトラとゴリラの戦いか」


 生きのいい負傷者の匂いがして目をこらすと、さらに向こうで銃撃戦が繰り広げられておりました。


 眼鏡を外してみると、さらに景色がよく見えました。どうやら視力も格段に向上しているようです。


 ひとりは流血おびただしい兵士。

 フラフラとしながら銃を撃っております。


 そこにすっと現れた女性……いや外見からでは少女と呼んだほうが妥当かもしれません。

 兵士の死角から忍び寄り、装備しているナイフを一閃。

 兵士は首から噴水のように血を吹き出してその場に崩れ落ちました。


 少女も左腕を負傷しており、もはや腕が上がらない様子です。


 そこに詰め寄る兵士。


 同じくナイフを持って少女に襲い掛かります。


 その姿には見覚えがありました。


 以前は女の子のように柔和な表情でしたが、幾分精悍になっております。

 身体は少女のように細いものの、それを遥かに凌ぐ力強さを感じました。


 沖田春香おきた はるかです。


 層雲峡そううんきょうの修羅場を逃れてから七か月は経過しておりましたが、間違いありません。彼です。

 

 少女は右手一本で沖田と対峙するものの、さばききれず後退していきます。

 沖田からはまるで血の匂いがしません。彼は一筋の傷も負っていないということです。


 また別の方角から負傷者の血の匂い。

 三人の兵士が獣使いを発見したようで、こちらも銃撃戦になっておりました。 獣使いは何発か銃弾を受け、胸や腕から血を流しております。

 こちらも高校生ぐらいの少年でございました。


 「よし、この間隙を縫ってわしらはわしらの仕事をする。お前たちは付いて来い」


 大久保翁がいつになく張り切ってそう言うと、激戦区とは全く別の方角に向かって走り出しました。


 私と妻もその後を追います。


 三分ほど走った先には「道の駅」がありました。

 看板でそうであったことが辛うじてわかる程度です。

 窓はすべてこなごな、廃墟と化しておりました。


 大久保翁はためらうことなくその内に入っていこうとしましたが、妻がその腕を掴んで引き留めました。


 店内の暗闇のなかにうろつく影。

 

 ゾンビです。


 十体近くいる気配があります。


 この銃声と溢れかえる血の匂いの中でなぜその場に留まっているのか不思議でございます。外に出ることを遮るものは無いのです。


 「あいつらしいの。慎重というか、抜け目がないというか……どれ小僧、あの店内に入って一仕事してきてもらえんか。なに、簡単な仕事じゃ。あそこに手がかりとなる物が置いてあるはずなのじゃ。それを取ってきてくれ」


 大久保翁が子どもにお使いでも依頼するような口調で私にそう言いました。


 「何があるんです?」


 「わしにもわからん。ただ、行けばわかるじゃろ。何かメッセージのようなものじゃ」


 どうも要領を得ません。


 「誰からですか?」


 「……なんじゃ、一から十まで説明せんと納得せんのか?」


 「ええ。囮に使われるのはもうまっぴらなんですよ」


 私の強い口調に、大久保翁も苦い顔をしながらも承諾し、


 「こちらのスパイからじゃ。おそらく魏延ぎえん坂本祥子さかもと しょうこの行方と、この先の道筋について書かれているはず。ここが当初からの受け渡し場所じゃった」


 確かに新政府に潜り込ませているスパイがいると以前に話しておりました。

 知床しれとこ潜入の入口もそこから判明すると……。


 「わかりました。行きましょう」


 私は頷きました。


 まあ、昼間はゾンビ化しているのですから何の問題もありません。

 例え百体のゾンビの群れがいようとも、襲われる心配はないのですから障害にはならないのです。


 しかし、何があるかわかりません。


 大久保翁が何を企んでいるかもわかりません。


 よって妻はその場に残しました。


 私は丸腰で道の駅に進みます。



 なぜ大久保翁がすぐに坂本の跡を追わないのか、私はここでその真相に気が付くことになるのです。


 

 それでは、この続きは私の命が続いた場合に更新させていただきます。


 失礼致します。





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