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第十五篇 暖まる傷口

 翔也は一人、幣原家の前に佇んでいた。もう夜は大分更けている。政光達とは早々に別れた。姫翠は部屋から退出する際、瑠子に呼び止められて何か話をしている。先に帰るのも何だったので、翔也は夜の冷えた空気の中、姫翠を待っていた。

 扉の開く音がしたので姫翠かと思って振り向いたが、現れたのは瑠子の父だった。

 翔也は反射的に頭を下げる。

「……すいません、お邪魔しました」

「いやいや、今日もありがとう。それで……、瑠子は何て?」

 穏やかな口調だったが、半ば諦念が混じっているように聞こえた。疲れているようにも思える。翔也は無意識に彼を元気付けるように言った。

「学校に、行きたいみたいです。今日はっきり言ってくれました」

「そうか……、やっと……」

 彼はあからさまに安堵していた。久しぶりにそんなほころんだ表情を見た気がする。

 その時、瑠子の父はふいに振り向き、慌てたように扉から離れた。

「あ……、すいません」

 おずおずと扉から出てきたのは姫翠だった。彼女はそのまま瑠子の父に向き直って言う。

「ええっと、私、大楽庭高校生徒会会長の由利と言います。幣原瑠子さんは私の責任で、学校にまた通えることができるよう尽力します」

「生徒会長さんがわざわざ……、本当にありがとう」

「い、いえ……。えと、本日はお邪魔しました」

 姫翠はぺこりと頭を下げて、いそいそと瑠子の父のもとから立ち去った。翔也も彼に別れの挨拶を述べて、幣原家を後にする。

 姫翠はどういうわけか、早足で翔也の先を歩いていた。翔也は急いで追いついて声をかける。

「会長……! いつの間にプライベートモードに入ったんですか」

「プ、プライベートモードって……、や、やっぱり、私もう会長じゃなくなってる?」 

 姫翠はおどおどと反問してきた。さっきまでの頼もしさはきれいさっぱりなくなってしまっている。

「ええ、そりゃもう、俺とあのアパートで初めて会った時みたいな感じになってます」

「ううう……。瑠子のお父さんにもう、今の私見せちゃったよ……大丈夫かな……」

 真っ黒な空から静けさが舞い降りてきているようだった。すっかり静まり返った住宅街に、二人分の足音が硬く響き渡る。

 翔也は夜空を見上げながら言った。

「まぁ……、余程の事が無ければ大丈夫だと思いますけど。紺屋先輩達が先に帰ってて良かったですね。──それで、あいつになんて言われたんですか?」

「……『翔也の家の隣に越してきたのって、会長さんだったんですね』、って……」

「え……」

 翔也は目を瞠って姫翠を見た。姫翠は力なく笑みを浮かべる。

「一週間前くらいに、このくらいの時間にあの辺で会ったよね。その時、私は知らなかったけど、家の前で翔也と話してるのあの子に見られてたんだね……。翔也が隣の人って誤魔化してくれたみたいだけど……、今日で流石にバレちゃったみたい」

 月葉に喫茶店へ付き合わされた日の夜のことだ。

「こ、こんなに暗かったのに、あいつ顔覚えてたんですか」

「部屋が暗かったから、目が慣れてたんだって……。でもあの子、鋭いところがあるんだね。翔也が、あの生徒会長が隣に住んでるのに何も言わないからには、何かやましいところがあるんじゃないか……って」

 翔也は目を瞠った。

「幣原がそう言ったんですか?」

「えっ、あ、いや……、やましいとは言ってないけど……、『何か訳があるんですか?』って。もう、私バレちゃったことで凄く動揺してたから、何て答えたかよく覚えてないんだけど……。よく考えたら、あの子は学校に来てないから、私のプロパガンダを知らないのね……」

「プロパガンダ……?」

「うん。喧伝活動、っていうの?」

 姫翠は照れ隠しするように頬を緩めた。

「私が裕福な家庭生まれの手厚く育った子女っていう話、学校で聞いてない?」

「入学式の日に聞きましたけど」

 翔也は浅井の得意げな顔を思いしながらいう。あの情報によって、当時の翔也が抱いた生徒会長像は更に高尚なものとなった。それこそ、高嶺の花を仰ぐような心持ちで。

 すると、物憂げに姫翠を小さく息を吐いた。

「あれは実際は嘘なんだけどね……。私は身寄りが居ない孤児だって事を隠して、普通の生徒と同じように振舞ってたつもりだったけど、元はと言えば、そこに脚色がついてお金持ちの家柄だっていう噂ができちゃったの。──でもね、何だか、悔しくなっちゃった。不思議だよね……、褒められてるはずなのに凄く悔しかった。お金持ちの家の子だから、生徒会長もできて当然って……思われるのが、凄く嫌だったの……。生徒会長になるまで全然楽じゃなかったし、選挙結果開示の時も心臓が壊れると思うくらい緊張した。……なのに、さも当たり前のように言われるのが……悔しくって」

「……」

 翔也は何も言うことができずに黙り込んだ。浅井からその情報を聞いた時、いやしくも自分もそう思った。やはり会長となるには、そうでなければならない──。

「だからね……、私はむしろその噂を利用して意趣返しをしてやろうと思ったの。全校生徒を一挙に裏切って、人の本質はそんなレッテルが表すものじゃないって……、知らしめようと思った。だから、SNSを利用してその噂を敢えて私がかき混ぜていったの。そうしたら、面白いくらいに広まっていって、今じゃ学校で知らない人は居ないほどの常識になってた。……初日からもう翔也がその話を聞いてるっていうことは、もう一年生の間でも大分広まってるんだろうね。でも……」

 姫翠は少し寂しそうに視線を落とす。

「瑠子はそんな喧伝を知らなかった。だから、純粋な目で私を見てくれて……凄く嬉しかったのかも知れない。私が、こんな風にボロを出しちゃうなんて……、もしさっきああ言ってきたのが瑠子じゃなくて、私が自分で貼り付けたレッテルに騙されてる人が相手だったら、私は生徒会長のままだったと思う」

「そ、そうですか。……後は、同じような境遇だからかも知れませんね」

 翔也がぼそりと言うと、姫翠は不思議そうな目で彼の横顔を見た。

「同じ……?」

「会長は裕福という高級なレッテルから、本来の自分を暴露しようとしてますが、幣原ば障がいを持ってるわけです。そんな負のレッテルから挽回して自分を暴露しようとしてる……。とにかく、レッテルに囚われない、自分の本質を訴えようとしてるところで、会長と同じなんです」

「……ふふ」

 姫翠はどこか愉しげな笑みを漏らした。

「やっぱり……、翔也と会えてよかったな……。こんな、私を分かってくれる人で……、本当に良かった」

「そ、そんな……買いかぶりすぎですよ」

 翔也は横を向いた。『私を分かってくれる人』、という言葉が身に沁みる。瑠子に『分かってくれてない』と言われた後なので、皮肉のように聞こえなくもなかった。

「でもあの子、頑張ってるけどまだやっぱり警戒してるよね……。年上だからかな……」

 姫翠は肩を落とす。翔也はとっさに、慰めるように言った。

「……幣原は長い間人と会ってなかったから、無意識のうちにそうなってるんです」

「でも、生徒の前で私と一緒に顔を見せるって言った時──凄く怯えたような顔をしたから……。流石に、生徒会長のレッテルがあっても、怖いものは怖いのか」

 困ったように姫翠は笑いかける。翔也は改めて決意を固めるように、真面目な顔で言った。

「……やっぱり、やらないとダメですよね」

「そうだね……、で、でも無理強いはしないよ」

「いえ……、自分で言い出したことですから。むしろ、今日のことで一層覚悟が深まりました」

 翔也がそう言って姫翠の目を見た。姫翠は一瞬、驚いたように見返してきたが、やがて安心したように艶然と微笑む。

「そう。じゃあ──、よろしくね」

 数分後、アパートの姫翠の部屋の前までたどり着いて、姫翠は言った。

「じゃあ、また明日。絶対、成功させようね」

「はい。では、また明日……」

 姫翠は幼馴染の無邪気な少女のように自分の部屋へと入っていった。『生徒会長』という字が似つかわしくない、あどけない姿だった。

 翔也は自宅に入った。俊也は帰ってきていなく、部屋は時が止まったように静かだった。

「プロパガンダ……」

 翔也は小さく呟く。聞きなれない言葉だ。電子辞書を取り出して調べてみると、宣伝、というような旨の意味が出た。

 ──夜は更に深くなっていったが、俊也は帰って来なかった。携帯を確認してみると、今日は家に戻れない、とメールが届いていた。翔也は深く息を吐くと、そのまま深海に沈んでいくように眠りに落ちた。



 件の日の前日、四月三十日。

 祝日なので学校自体は休みだが翔也は会場のセッティングのため、大体育館に来ていた。セッティングとはいっても、主にステージ上についてのことだ。客席について言うと、いくらこの体育館が大きいとはいえ、生徒の数だけ椅子が用意できる広さはない。全員、床に直接座ることになる。

 翔也は体育館の中を見渡す。何度か来たことがあるとはいえ、中に人がここまで少ないのは初めてなので、改めてその大きさに驚いていた。

「あ、翔也」

 呼ばれたので振り向くと、声の主は姫翠だった。

「あ、こんにちは。何かできることありますか?」

「何だか、あんまり手伝えることは無いみたい。衝立を用意するだけだからね」

 具体的な段取りはほとんど、月葉達が執り行っている。この催しの要は、姫翠と翔也だ。でも月葉たちが、我々も生徒会役員なのだから、その要をバックアップするのは我々の仕事だ、という主張をしてきた。なので姫翠と翔也は了解して、彼らに準備は全面的に任せている。

 姫翠はステージの上を見やった。

「今日の準備は徹底的にしておかないとね。リハーサルもしなくちゃ」

「リハーサル……、ですか」

「でも瑠子が居ないから、やるとしても例の所だけかな」

 と、姫翠が言い終えた瞬間、二人に声がかけられた。

「あの、すいません、放送部の者ですけど……」

 翔也が声の方を向くと、どこかで見たことがある女子生徒が立っていた。向こうも翔也に心当たりがあるような顔をする。数瞬後、翔也は合点がいって声を漏らした。

「あぁ、あの男子トイレに入ってきた人……」

「あ! うちの勧誘をまんまとかわした人!」

 放送部員の女子は、じろじろと翔也と姫翠を見比べる。

「……君が会長様と一緒に居るということは……、もしかして、生徒会入りしたの!」

 勢い良い質問に翔也が尻込みすると、姫翠が優雅に微笑みかけて言った。

「あら、谷城さん、ここの生徒会のシステムは知ってるよね」

「え……、あ、はい! そうですよ、選挙を勝ち抜かなきゃ入れないんですよ!」

「そう。だから、彼はただのお手伝いってこと。今はね」

 谷城と呼ばれた放送部員は興味の炎を瞳にちらつかせた。

「意味深な発言ですね。生徒会主催の臨時イベントがある、って聞いてた時から、何か裏があるんじゃないかと思ってましたが……、あ、そうそう、うちの名前は谷城栄美っていうの、よろしく。ちなみに、二年です」

 唐突に翔也へ、話相手が変わった。翔也は目を白黒させながら返事をする。

「あ、えっと、一年の柄井翔也です」

「今、話しかけたのはちょっとした挨拶です。明日の『スピーチ』を記録するのはうちの部活ですから!」

「……えっ」

 翔也は何だか嫌な予感がした。

「録画、するんですか?」

「うん。というか、この体育館でしてるイベントは全部してるよ。入学式、卒業式はもちろん、講演会とか文化祭とかも、全部放送部が請け負って録画してます!」

 栄美は胸を張った。姫翠はにっこりとして言う。

「今回はあなたが責任者なの?」

「いえ……、いつもどおり佐藤先輩がリーダーなんですけど、今日はゲリラ性の下痢でトイレから出られないということなので、うちが代わりに来たんですよっ」

「そうなの……、お腹お大事に、って言っておいてくれる?」

「ははは、それだけで多分、治っちゃいますよ。佐藤先輩も男ですから!」

 栄美はニヤニヤする。翔也は常々姫翠の傍らに居るから忘れがちだが、彼女の会長としての人気はかなり高い。

「谷城さん……!」

 その時、栄美の後ろから気の弱そうなメガネをかけた男子が声をかけた。

「ん? 何?」

「マイクが一本足りないんだけど……持ってない?」

「え、何で! ちゃんと数持ってきたのに……置いてきたかな。じゃあちょっと、取ってくるよ」

「ごめんね……」

「いいのいいのっ。──えっと、会長さん、そういう訳なんで、よろしくおねがいします!」

「うん、こちらこそよろしくね」

 姫翠が言うと、栄美は嬉しそうな顔をして走っていく。その背中を姫翠は見つめながら訊ねてきた。

「知り合い?」

「まぁ一応……」

 何だか、あの苦行のトイレ篭りのことが無性に思い出される。

「結構、翔也も顔が広いのね。……じゃあ、ちょっと壇上に上がってみる?」

「……そうしましょう」

 翔也は頷いた。

 二人はステージに上がる。広大な体育館に対して、壇上はこぢんまりとしている印象がある。一般的な高校の体育館よりいくらか大きい程度なので、相対的に小さく見えるのだ。

 瑠子が姿を隠すことになる衝立は、焦げ茶色の木板を貼り付けたようなもので、翔也と同じくらいの身長がある。瑠子の身長ならば、まず問題なく収まるはずだ。それを数枚で囲むように設置すれば、横から見られる心配も無い。

 壇上のセッティングを指揮していた月葉が、二人に近づいてきて言った。

「とりあえずこんな感じ。あの子から見て真正面に一枚、左右に一枚ずつ。予定通り、キャスターは無くって、なるべく丈の高いやつ」

 翔也は感心したが、姫翠は首を少しかしげる。

「でも、ああやって囲んじゃうと私が瑠子を見られなるんじゃない? 一人で立たせるのは心細いだろうから、できれば私がそばにいても問題ないようにしてくれると嬉しいんだけど」

「……そう」

 月葉は小さく言うと、開いた部分をやや広くしたコの字の様に配置された衝立を見た。確かに、あれだと姫翠が居る予定の場所から瑠子の姿が見えそうにない。

 少し考えた後、月葉はまた姫翠の方を向いて言った。

「姫翠のいる場所を少し後ろにして、あの衝立をもう少し前に出せば、姫翠は後ろからあの子が見える。それであの子が衝立の中で後ろを向いていれば、二人共常に視認し合えるはず。どうせ、客から見えないんだから、あの子が後ろ向きでも問題ないと思う」

 翔也は月葉の頭の回転の速さに愕然としたが、姫翠も同じ風に考えていたらしい。

「それくらいしかなさそうね。じゃあ、それでお願い」

「分かった」

 月葉は軽く頷いて、もう一度衝立の辺りでこちらの様子を伺っている彰介や規華の方へ歩いていった。

 姫翠は衝立を遠目で観察する。

「大分軽そうだし、なかなか良い衝立かも知れないね」

「そうですね……。後はあれにガムテープを貼るだけですか」

「うん、そうね。──ねぇ、やっぱり私達が思ってる通りに、なると思う?」

 ふいに姫翠は少し気弱な表情で言った。翔也は神妙な顔でぎこちなく頷く。

「……十中八九は」

「何だかそれもそれでショックだな……」

 姫翠は困った風な笑みを浮かべる。何だかひどくいたたまれなくなって、翔也は必死に慰めの言葉を探した。

「会長のオーラは十二分ですよ。あの瑠子の心をすぐに開かせるだなんて、普通の人にはできませんよ」

「ふふ、誰が私の立場であっても、成り行きは変わらないっていうことは分かってるの。……でも、ひょっとしたら、思ったとおりにならないことがあるかも、って期待してたりもする……、ムシが良すぎるよね」

「……俺もできれば、思惑通りで無いほうが嬉しいですけどね」

 翔也が笑みを作って言うと、姫翠は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐ納得したように頬を緩ませた。

「どっちが思惑だかわからなくなりそうね」

「そうですね……」

 翔也は瑠子の顔を思い浮かべながら、天井を見上げて言った。


 当日の朝、始業の数十分前、翔也は大体育館の倉庫へ向かった。生徒会員はそこで集合がかけられている。今日、臨時の集会があることは先週、既に全校に知らされていた。無論、面倒臭がる声が多い。

「まぁ、受験生が忙しい時期じゃないからマシだよね」

 と、姫翠は平然として言っていたが、翔也はそんな風評が気が気でなかった。心臓は今朝から激しく脈打っている。高校受験の時のように、ひどく緊張していた。

「じゃあ、お姫様を迎えるとするか」

 手中でこの倉庫の鍵を弄んでいた政光が、体育倉庫の奥にある、屋外へと続く扉に手をかける。重そうな扉板を開けると、その先に朝の霞んだ空が見えた。そこから、道なりに行くと大楽庭高校に幾つもある門のうちの一つがある。

 用意していた下足で外に出て生徒会員でぞろぞろと門の前まで歩いて行くと、丁度一台の車がやってきて、門の前で停まった。

 後部座席の扉が開き、中から瑠子が現れる。そして、ぎこちない笑顔で言った。

「お、おはようございます」

「わぁ……」

 規華が声を上げた。

「髪切った!? 何か、全然イメージ変わっちゃった。可愛い!」

「あ、ありがとうございます……」

 瑠子は照れるように視線を逸らす。顔を上手く隠すほど長かった前髪が切られて、その火傷の痕ははっきりと見えるようになった。左目を覆う眼帯は翔也の言ったとおり、真っ白で清潔感があるものになっている。後ろ髪もかなり長かったが、今では肩にかかる程度まで短くなった。

 翔也は新鮮味よりも、懐かしさを感じるところが大きかった。昔はもっと短い髪だったが、前髪は当時のそれと同じように見える。そして、前と変わらぬまだ慣れていない相手にみせる照れ顔と相まって、ようやく翔也が見たがっていた瑠子に会えた気がした。

 だが、瑠子が望んでいるのは昔の自分でなく今の自分だ。翔也は自身を戒めるように、唇を強くつぐんだ。

 姫翠は車の方へ歩み寄っていき、運転している瑠子の父と二、三言交わして戻ってきた。挨拶でもしてきたのだろう。そして、瑠子の方を向いて口を開く。

「……今日はその日だけど、無理に明日から登校する必要はないからね。集まった生徒の反応を見て、これなら安心して行ける、って思ったら是非登校してもらいたいけど、不安を感じたら焦る必要は無いよ。また、いつかチャンスは来るから」

「わかりました……すいません、私のためだけに、こんな……」

 瑠子は申し訳なさそうにしていたが、周囲を見渡していた彰介が口を挟んだ。

「そろそろ、倉庫に戻ったほうが良く無いですか。登校中の人に見られますよ」

「あら、珍しく気が利くことを言うのね」

 月葉が視線を彰介に向けると、彼は苦笑した。

「先輩だって、もう少ししたら言うつもりだったんじゃないですか」

「まあね。──じゃあ、そ、その……行こうか」

 月葉はそう言って瑠子を見た。途端に、瑠子は緊張したような面持ちになる。

「は、はいっ……!」

「……」

 翔也は月葉が複雑そうな顔をするので、思わず噴き出しそうになった。






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