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第十二篇 生徒会、次の手

「……本当に良いの?」

 生徒会室の扉の前で、姫翠が訊いてきた。翔也は神妙に首肯してみせる。

「構いません。……これで幣原が戻る、のなら……」

「分かった。……じゃあ、入ろう」

 姫翠が扉を開けた。生徒会室には、姫翠と翔也以外の全員が揃っていて、一斉にこちらを振り向く。そんな視線の中へ姫翠は入っていった。

「ごめんなさい、遅れちゃって」

「す、すいません」

 翔也は姫翠に続いて入室する。

 彼らの到来に、真っ先に口を開いたのは月葉だった。

「どうしたの? 二人揃って遅れるなんて」

「先生を探してたんだけど、その時に会ったの。──とりあえずその報告は後でするよ。今日の生徒会を始めてからね」

 姫翠がそう言いながら、一番奥の席に座った。

 翔也が立ち位置に困って棒立ちになっていると、政光が椅子に腰掛けながらどこか皮肉っぽく言う。

「柄井、今日はちゃんと椅子あるぞ」

「えっ?」

「金曜に会長がどっかの会議室から持ってきてくれたんだ」

 政光の言う椅子は他のパイプ椅子と違うデザインで、どこか場違いな雰囲気を醸しながら、姫翠の席の傍らに置いてあった。

 姫翠は恥ずかしそうに微笑む。

「今まで、ベッドで窮屈な思いをさせちゃって、ごめんね」

「で、でも、俺なんかが会長の隣に座って良いんですか?」

「うん、だって、君は私の後継者だもの」

「……そう、でしたね」

 自分へかけられている期待の重みを感じながら、翔也は半ば強引に腰をその椅子に落ち着かせた。

「──それに、今回の件についての重要な参考人でもあるしね」

 その重圧を和らげるように、姫翠が補足した。政光が視線を翔也に向ける。

「件の生徒と、同じクラスなんだってな」

 翔也は口ごもった。瑠子とはクラスメイトというよりは、幼馴染であるという意識の方がずっと強い。何故だか素直に彼女を高校の同級生と考えることができなかった。

 姫翠が何も言わない翔也に代わって頷く。

「うん、YN組の幣原瑠子さん……、入学式に出席したきり、ずっと登校してきてない。その子の担任は白瀬先生っていう社会の先生──、さっきまでその人を探してたんだけど、今日はもう帰っちゃったみたいで……、それで遅れちゃったの」

「え、えっと、俺はその時にたまたま会長に出会ったので、一緒に……」

 翔也は上手く回らない口で補足すると、規華が合点がいったのかしきりに首を縦に振った。

「えっと、担任の先生を見つけて、どうするんですか? まぁ、協力してもらうのはそうだとしても、具体的な内容っていうのが……」

 そう質問したのは彰介だった。ちょっと間があってから、政光が答える。

「さしずめ、『教員で行った不登校者へのアプローチ』の詳細を教えてもらうこと……ってところか?」

「幣原さんの現在の様子を聞きたいっていうのは、それはそれで目的としてあるけど……私達が白瀬先生を探したのはもっと他の意図があるの」

 姫翠が言った。その言葉に月葉が鋭く反応する。

「……意図、ね」

「そう。でも、それを言うのは──また後でね。さてと、皆、何か対策案考えてきた? 幣原さんを学校にまた通えるように計らうための、作戦」

 姫翠は一同を見渡す。その一言で室内の空気が緊張した。翔也は固く唇を閉ざして、その緊張へ甘えるように誰かの発言を待つ。

「なるべく早く、っていうのは無理だと思う」

 ぽつりと月葉が言った。姫翠が頷く。

「うん、続けて」

「聞く話、怪我が原因の不登校でしかも長期間に渡ってるから、大分、劣等感が溜まりこんでいるはずよ。だから、生徒会で丁寧に話をして少しずつ自信を取り戻してあげる……、それくらいしか思いつかないわ。先生たちも、大人が行くよりも同年代のあたしたちと話したほうがその生徒にとって良いと思ったから、生徒会にこの話を持ち込んだんだと思う」

「俺も概ねそんなところだ……まぁ、その不登校の原因にもなってるらしい怪我の詳細がもうちょっとわかればいいんだけどな」

 政光が言った。そこで姫翠がちらりと翔也を見やる。彼に説明を促しているようだった。翔也はその目配せに応じておずおずと口を開く。

「……ええと、教えてもらってないんですか?」

「怪我がうんぬん、としか。詳細は全く」

 月葉が短く答える。翔也は一旦唇を固く結んでから、言った。

「彼女は爆発事故に遭って左目を失明、顔面に火傷を負いました……今でも、左半分に鮮烈に残ってます。それと、その事故でお母さんを亡くしてます。──彼女を庇って亡くなったそうです」

「……柄井、よく知ってるな」

 彰介が訝しむように言った。翔也は首肯して、できるだけ毅然として答える。

「はい、あいつは、俺の幼馴染ですから」

「えっ……」

 その一言で室内の空気が明らかに変わったが、あからさまな反応を見せたのは規華だけだった。その素直さが却って翔也には清々しく感じられる。必要以上に動揺を見せない月葉達の心遣いにも感謝したかった。

 一人声を漏らした規華は、あまり動じていない生徒会員たちの様子を見て、慌てた風に言った。

「ご、ごめん、ちょっとびっくりしちゃって……」

「そ、そんな気を使わなくても大丈夫ですよ」

 翔也も彼女につられて、うろたえたように言ってしまった。

 政光があくまで穏やかに姫翠へ視線を向ける。

「……会長はそのことを知ってたのか」

 姫翠はゆったりと頷いた。

「あの後、幣原さんが翔也と同じクラスっていうのに気づいたから、なにか知ってないかと思って彼に電話をかけたら……ね」

 姫翠は同意を求めるように翔也に目を向ける。実際のところ、彼女は直接彼に会いに来た。翔也は咄嗟に、姫翠が自分と学校外での関わっていることを隠そうとして作り話を講じているのだと理解する。

 なので翔也は話しを合わせて言った。

「……そうです」

「なら、もう本人へ何か、その件についての働きかけをしたの?」

 すぐさま月葉が質問を投げかけてきた。

「……えっと、今、お父さんにも協力してもらって、説得してる最中です」

 幣原宅には、あれ以来赴いていない。翔也が彼女を訪問するということは、そのまま登校の催促を意味するのだから、気軽に行けなくなってしまったのだ。

「……大分、話が進んでるみたいね」

「手回しが早いなぁ」

 月葉は淡々と、政光は感心したふうに言う。姫翠は表情を一切変えずに、話を進めた。

「それで、月葉と政光は時間をかける、っていう方向の話を出したけど、私と翔也で話し合って、もう一つの案を立てたの。……君たちとまるきり逆の方向の話なんだけどね」

 ──休日の間に、翔也は瑠子の素性や彼女との交流についてを姫翠にあらかた話し、それを踏まえて案を練った。なるべく早期の脱却を図る、相当の度胸を要する作戦を。

 政光はすぐさまその含意を察したらしく、笑みを漏らした。

「……即時復帰、か」

「そういうことね」

「そんなのできるの? 心理的にも身体的にも、かなりの深手を負ってるのに、すぐに復帰なんて」 

 月葉が鋭く指摘する。翔也も、その辺りは苦しいところだった。だが、全く無理な話だとは思っていない。なのですぐに反論した。

「幣原は、一応、入学式だけ学校に来ていたのでその時会長の顔を見ていたんですけど、かなり憧れているようなことを言っていました。だから、会長の属する生徒会から後押しをしてやれば、きっと幣原も具体的に行動する気が起こるはずです。それで……、生徒会の権限を最大限に使って、幣原の自信を取り戻してやれば、きっと登校してくれるようになります」



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