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神話を受け継ぐ者達 ~人間の価値観が創りだした世界の中で~  作者:
序章 人生の行き先~destination~ 
6/16

0‐(5)長老捜しと待ち時間

「おはよう」

 七瀬の声がして、海を見ていた荒波は振り返った。

「あ、おはよう」

「誰か来た?」

「誰どころか、生き物も来なかったぜ」

「この辺は結界のせいで生き物も寄りつかないのよ」

「なるほど。で、これからどうする?」

「結界のすぐ近くまで行くわよ荒波君」

「分かった、バイクは持って行っても良いかな?」

「大丈夫よ」

 七瀬も荷物をしまい始めた。どういう仕掛けになってるのか、ポーチにはランプやらシートなどがスイスイ入っていく。

 荒波はすぐ近くに包帯が落ちていることに気づき、手を伸ばした。

「あ、……」

 取ろうとした包帯を七瀬が先に取り、ポーチに入れようとする。だが急いでいたのか手のすきまから又落ちてしまった。

「ほら、落としたぞ」

「あ、ありがと……」

 居心地悪そうに受け取った七瀬はそのまま顔をそむけてしまった。

「こっちこそ、ありがとな」

 荒波はそれだけ言う。他に言ってもたぶん聞いてくれない。それだけで気持ちが伝わるなら、感謝の言葉は一言で良かった。

「……い、行くわよ!」



 ◆◆



「ここから先は荒波君じゃ無理よ」

「えっ!?」

「この木から先は結界になっていて長老が認めないと入れないんの、だから無理」

 七瀬が指した木から先も別に歩いてきた道と変わらなかった。

「ホントに結界なんかあるのか?」

「結界が目に見えたら、ここに入り口がありますと言ってる様なものよ。目に見えなくて当然」

 でも荒波にはここが特別には見えなかった。

「俺はてっきりレンガを叩いたらその奥に道が出来るとかそういうものだとばかり……」

「映画の見過ぎ、じゃあ私長老呼んでくるからその辺にいて」

 そう言い残し、七瀬は歩き出した。そして問題の木に差し掛かったとたん……。

「あれ? ……」

 消えた。残像を残したり足からだんだん消えたのでもなく、本当にパッと消えてしまった。

 奥に見える道には誰もいない。

 そして、荒波はあそこには入れない。

「俺……どうすれば良いんだ?」

 最大の悩みだった。



 ◆◆



 七瀬もすぐ帰ってくるなら良かった。又は30分で戻る、と言われればその辺を探検でもしながら30分後にここに居ればいい。

 しかしいつ帰ってくるのかも分からない相手を待つにはここにいるしかない。時間だけが過ぎていく。

 荒波は道の真ん中に座り込んで、七瀬が消えたあたりをずっと睨んでいた。

 にらみ続けてから1時間が経とうとしたそのとき、突然目の前に人が現れた。

 一瞬、七瀬かと思ったが違った。同い年くらいの男だった。

 最初に目に付くのはトゲトゲの髪の毛だ。

 ワックスで固めているとしてもこんなトゲトゲになるだろうかと疑問に思う。

(こいつが長老か? でもそんな雰囲気じゃないよな)

 とりあえず尋ねてみる。

「おまえ、誰?」

「えっ!? いかにも怪しさ満点のおまえから問いかけられるとは思わなかったぜ」

「あ、すいません」

 考えてみれば荒波は道の真ん中に座り込んで男を睨んでいたのだ。どう見たって怪しいのは荒波の方だった。

「あの、あっち側からきたんですよね、長老って知ってますか?」

「長老? あ、おまえもしかして七瀬が連れてきたっていう八岐大蛇の子孫か?」

「そうなんですけどそこの結界を通れないんですよ」

「へ!? ……だからそこでずっと待ってたのか? 大変だったな」

 そう言い、隣りに座り込んできた。

「俺は針沢はりざわ、針沢上彦かみひこだ。年は15」

「荒波よろず、よろしく。俺も15歳」

「同い年かあ……。分からないことがあったら何でも聞けよ、俺が力になるぜ。」

 荒波には心強い言葉だった。学校ではこんなこと言われたことがない。

 集団に入らず、ほとんど友達なんかいなかった荒波。

 そんな荒波には同い年の友達ができたのはうれしかった。

「針沢も違う血が混じってるのか?」

 まずは自分と同じ話題から語りかける

「そう、俺はヤマアラシの血。2世代前に混じったらしい。」

「だからそんなに髪尖らしてるのか?」

「当たり、ヤマアラシの血が原因なのかこうなっちゃうんだよ」

 ハハハと軽く笑う。あまり気にしてないのだ。

「へえ、俺まだ人間じゃないやつと血縁関係にある人、二人しか会ってないんだ」

「ああ、ガルーダの女だろ。襲われたんだって? 大変だったな。怪我無かったのか?」

 初対面の人にこれだけ心配してくれる人も珍しい。人が良いのだ。

「大丈夫だったよ、七瀬も来てくれたしね」

「しかし、『神の血縁ゴッドブラッド』だけじゃなく人間も襲ってきたんだろ?いつもはこんなに苦戦しないんだぞ」

「俺ってそんな重要なのか、水を出せるだけでたいした能力も持ってないよ」

「まあ、血縁関係があの八岐大蛇だからな。記録をみても八岐大蛇の子孫は見たこと無いんだぞ、大切なのはその水を使ってどんな技が繰り出せるかということだ」

「俺、水を指先から出す以外やったこと無いぞ」

「荒波なら訓練でいくらでも伸びる、大丈夫だ。俺も訓練で伸びたからな」

「針沢はどんな能力を持ってるんだ?」

「俺の力は実践したほうがわかりやすい」

 針沢が前に向かって手首を振る。

 ビシッと音を立て目の前の木に針が刺さる。

「すごいな!」

「へへっ」

 鼻の下を擦るという、実に分かりやすい喜び方だった。

 針沢の指の間にはまた針が挟まる。

 大きさは5センチほど。白と黒が床屋の看板のように合わさっていた。

「長さは任意で変えられる、出し入れも自由自在だ」

 荒波の目の前で針が消えたり現れたりする。

「どこに隠してるんだ?」

「うーん……荒波も出来ると思うけど、だいたい俺らは自分に合った武器を体内に収納できる。七瀬も短槍を閉まってたんじゃないか?」

「そういえば……本当に俺らは普通の人間じゃないんだな……」

 自分に合わない学校からも抜けられた。つまらない日々からも解放され、自分の知識も役に立てるところに来れた。

 だが荒波は未練を残さずきっぱり捨てることなんて出来なかった。

「……そんな顔するな。こう生まれたからには必ず理由がある、やるべきことも。それをこの結界の奥で見つければいい」

「……ああ、がんばるよ」

「俺はさ、人間が嫌いなんだよ。七瀬から俺らの歴史は聞いたか?」

「昨日話してくれた」

「俺はこう考えてる……。人間がこの世界の創造者だとな」

「人間が? なんで?」

「これは俺の考えだから正解とは限らない、一人の意見として聞いてくれ……人間が俺らの先祖を差別したから神や俺らの先祖が争うことになった。逆に言えば人間が俺らの価値を認めてくれれば今は絶対変わっていたと思う。」

 荒波も同感できた。この間まで人間側にいたが、いざこちら側からものを見ると考えが変わるものだった。


「この世界は人間の価値観のせいで創られたんだ」

 

「人間、の……価値観か。なるほどな」

「そんな深く考え込むな、おまえが悪いわけでもないんだから。」

「でも考え方には深く共感できると思う。」

「そうか? そんなこと言われたの荒波が初めてだよ!」

 自分の考えを理解して貰えたからか、喜びの度合いは大きかった。

 そろそろ日差しが上から差し込んでくる時刻になった。

「にしても七瀬の奴遅いなあ、荒波をいつまで待たせるんだか?」

「この中って広いのか?」

「この中には『ティリスミナリア』っていう街があるんだ。中心にお城があって周りには街が栄えている。大きさは東京都の4分の1くらいかな」

「広いなあ。そんな中で見つかるのか?」

「たいていの場合は城の中にいるんだぞ。でも今日はお出かけ中かも……」

「待つしかないか、ふあーあ」

 荒波はあくびをして大の字に寝ころぶ。

 頬に当たる草が少し痛かった。

「俺も暇だからつきあうぜ荒波」

 針沢も寝る。

「これでも食べながら俺の話でも聞いてればいいんだ」

 どこから出したのか笹の葉がくるまれた物を取り出す。笹の葉にはうっすらと文字が書いてあった。

「『ランマーマ』?」

「卵の白身に砂糖と果物をを入れて焼いたお菓子だ」

 針沢が包みを開けると一口サイズの球形のものが湯気を上げていた。

「おいしそうだなあ」

 荒波は朝から何も口にしていなかったことを思い出す。

「食べて良いぞ、たぶん今日は何も食べてないだろ?」

 何から何まで気が利いていた針沢に感動しながらも『ランマーマ』を口に運ぶ。

「……おいしい!」

「だろ? いろんなお店があるがこの店の『ランマーマ』が『ティリスミナリア』の中で1番うまいんだ」

 針沢もその中から一つ取り口に放り込む。

「それでな、『ティリスミナリア』の中には他にもいろんな店があってな……」

 


 ◆◆



 七瀬は『ティリスミナリア』の城下町12番区を歩いていた。

 『ティリスミナリア』の形は一言で言うと円形だった。

 しかし街があまりに広いため、城を中心に外側を8つ、そのさらに外側を8つに分け、合計16もの場所に区分けされていた。

「ここにもいない……全くどこ行ったのかしら?」

 七瀬はまだ長老を捜し『ティリスミナリア』を歩き回っていた。

 既に荒波と分かれて1時間が過ぎ、城の中だけでなく6つもの区画を探した。

 それでもこの短時間で済んだのはひとえに『瞬間移動門テレポートゲート』のおかげだった。

 各区の中心に1つずつ設置されている門は、くぐる時に行きたい区画を言えばその区画の門に転送してくれるという優れものだ。

 ただし転送は登録された人しかできない。

 城下町で働いてる人や城勤めでもただの兵隊などは登録されておらず、登録されるということは城に認められたということになる。

 登録されている人は『ティリスミナリア』の人口の分のほんの一握りだ。

 又、城の中にも3つの『瞬間移動門テレポートゲート』が設置されており、それを使用できる人の数はもっと少ない。

 七瀬も『瞬間移動門テレポートゲート』 の使用が可能で、それを最大限に活用しながら長老を捜索していたが一向に見つからない。

 事前の約束だと15日の夜に崖のすぐ近くで待っている、というものだったが昨日は予定が大幅に遅れ、会えなかった。

 しかし今日もどこにも見あたらないなんて不自然だった。

 出かけるなら誰かが知ってるはずだが、城の中に行方が分かる人はいなかった。

「今日に限ってどうしていないのよ!」

 さすがに荒波を待たせすぎている。

(こうなったら1度荒波君のところに戻って、別の入り口から入るかしかなさそうね)

 『瞬間移動門テレポートゲート』に向かおうとすると七瀬の携帯が震える。

 出るときに持ってきたNEW携帯を開く。

 SDカードは破損していなかったため予備の携帯に入れ替えたのだ。

 表示された電話番号から相手を確認すると電話に出る。

「なに?」

『長老がお帰りになりました、用があるんじゃないですか?』

 予想をひるがえす返答が返ってきた。仲間が長老を捜してると知ってわざわざ連絡してくれたのだ。

「……ナイス!」

 携帯を閉じ、『瞬間移動門テレポートゲート』をくぐる。

「転送! 城内三番目サード!」

 次の瞬間、七瀬は城の大広間にいた。

 『ティリスミナリア』の城に通じる『瞬間移動門テレポートゲート』には番号が振ってあり、1つ目は玄関近く、2つ目は訓練場、3つ目がこの最上階の大広間だった。

 石畳の上を歩き、長老室を目指す。

 城の最上階に位置する長老室に行くにはこの『瞬間移動門テレポートゲート』が1番近く、そのほかにも書物庫や中に何があるのか謎の部屋まである。

 七瀬は廊下の曲がり角を曲がろうとしたとき知ってる顔に話しかけられた。

「あれ? 今帰ってきたの火蓮? 長老なら部屋にいたよ」

あやこそ仕事は終わったの?」

「あんなの朝飯前よ、火蓮こそ早く新人君連れてきなさいよ」

「はいはい」

 いつもどうりの会話をあまり気にせず終わらせる。

 長老室の扉は城の最上階の奥にある

 七瀬は扉を叩いた。

「七瀬か、悪かったな。入ってくれ」

 老人の声は名乗る前に扉越しに誰かを当てた。

 重い扉を開いて部屋に入ると、いつも通り長老が奥のいすに座っていた。

「長老、探しました。どこに行っていらしたのですか?」

「それは―――――――」

 一時いっときの沈黙。

「―――――――すまんかった。例のつるぎの件ですぐ行かねばならなかったのだ。」

 『例のつるぎ』。その言葉が意味することを七瀬は知っていた。

「あのつるぎの所在が掴めたのですか?―――――――いえ、急用なら仕方がありません。それよりお急ぎ下さい。八岐大蛇の子孫が待っています」

「場所は分かっておる。七瀬、わしに掴まれ」

 七瀬が長老の袖を掴む。

 長老室が無人になった。

 

 


 

 


 

 

 


 

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