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神話を受け継ぐ者達 ~人間の価値観が創りだした世界の中で~  作者:
序章 人生の行き先~destination~ 
2/16

0‐(1)終わりと始まり

 

 夜の闇が深まり、月が顔を覗かしたときだった。

 城の前に腰を曲げた老人が立ち、1段低いところに数人の人影があった。

 しかしだからといって、人間とは限らない。肌の色や耳など人間には似つかわしくないようなものが多数見られた。

 そのうちの一人が前に出た。

「報告します。東の夜空で星達が不思議な形をつくっています。やはりあの前触れでしょうか?」

 隣の若い男も進み出た。

「月のかげりも妙です長老、普通じゃありません」

 長老と呼ばれた老人は空を見上げた。月明かりが長い鼻に反射する。

「時が来たか―――――――。迎えの者が必要じゃ。行ってくれる者はおるか?」

「私が行きましょう!」

 高い、女の声。

 声が聞こえたのは長老の目の前ではなく、隣の木々の間からだった。

「その役目、私が請け合いましょう」

 明るい月の下に進み出たその姿は、若い女性。

「彼女で良いのですか長老?」

「彼女ほどこの役目に適した者はいない……どこにいるにか分かっているのか?」

「もう調べはついています。明日中には接触出来るでしょう」

「そうか、気を付けるのじゃぞ」

「はい」

 夜の静けさが戻る。

 月が雲に隠れた。



 ◆◆



 ~4月15日~

 

 今日は下駄箱だった。

「おい秀才、待てよ。俺らは用があるんだ」

 いつも通り彼らは逃げ道をふさいで話しかけてきた。

 集団にならないと一人の人間に話しかけられなく、ケンカを売ることも出来ないという弱い者たちだ。少なくとも荒波あらなみはそう思っていた。

退いてくれない、通れないんだけど」

 いつも通り返す荒波。

「せっかく俺らが靴の中に入れ説いた画鋲がびょうを、どうして取っちゃうのかなぁ?」

 俺ら、か。やっぱり一人ではやってないのか。そう思い、荒波は微笑む。

「分からないのか、刺さると痛いからだよ」

「そんなことを聞いてるんじゃねぇよ!」

 金髪のピアス顔が荒波のすぐ近くまでくる。かすかに臭うのは煙草の臭いだ。もちろんこの学校の校則違反になる。もっとも荒波だってすべて守っているわけではないが。

「ボンドでしっかりくっつけて、気づかれないようにしたのになんで靴を履いてられるか聞いてんだよぉ」

 聞かなくても、ペラペラと手口を話してくれる。

「靴底を取替えたんだよ」

「はあ? おまえ靴底の代わりなんか持ってきてるのか?」

「偶然だよ」

 嘘だった。荒波は前々から予測していた。

 一昨日はただ砂や石が入っていた。昨日は画鋲がたっぷり。だから今日か明日には画鋲を取れないようにするはずだと予測して、わざわざスペアを持ってきていた。

 完全に戦略勝ちだった。

「チッ、帰るぞ」

 引き時と感じたのか、彼らは帰っていった。

「―――――――バカだな……」



 ◆◆



 下駄箱を出ると日がだいぶ西に傾き、空は赤く彩られていた。

「はあ、毎日毎日こりもせずに、ご苦労だねぇ」

 そう、毎日続いているのだ。中学校の頃から今、すなわち高校1年生の春までずっとだ。

 彼らはまず、頭が良くてむかつくという理由で寄ってきて、虐めを始めた。

 荒波の他にも友達が少なそうな生徒が何人もやられた。

 最初は荒波も、当然彼らを憎んでいた。本気で怒り、ののしったりしたこともある。

 だがある日無駄だと分かった。

 そのうち彼らの嫌がらせパターンも分かってきて、騒ぎにならないように解決するのが容易になってきたのが中学1年の冬のこと。もともと彼らはそれほど頭が良くなかったのに対しこちらは学校一の頭脳、勝敗は見えていた。

「良い天気だなぁ、どっか寄っていこうかな」

 靴に画鋲をいれられた後にこんな言葉が出るようになったのも、相手の手の内が見えているからだ。

 相手がチョキを出すと分かっているジャンケンに悩む奴もいない、それと同じだった。

「CDショップか、それとも家に帰るか、うーん……」

 学校一の頭脳だからといって、成績維持のために勉強三昧と言う訳じゃない。荒波は授業を聞いているだけで情報がすべて頭の中に入る。テストはそれを思い出して書く。それだけだった。

 だから家で勉強なんかしたことが無く、宿題なんかは学校でやっている。家にいる母親もとがめたりはしない。

 結局、家に帰ることにした。

 母も待っていることだろう、そう思い、帰路につく。

 これが荒波の日常。

 代わり映えのない平和な、つまらない生活。

 だがそんな生活は終末を迎える。

 すべてが終わり、始まる。

 見慣れた通学路が今日は夕日のせいか赤く染まり、荒波の目には何かの前触れのようにも見えた。



 ◆◆



 住宅街の間をを若い女が歩いていた。

 髪は赤く、手には1枚の写真。

「これが目標か。回収すればいいのね。」

 写真には若い青年が写ってる。 

 だが彼女はその男の名前を知らない。いや、知らされてなかった。

 歩いていた住宅街を抜けると大きな公園がある。

 彼女はそこで目標を見つけた。



 ◆◆



 荒波は公園の中を歩いていた。

 荒波の家はこの公園を抜けた先にあるため、公園の外側の道を通るより公園を抜けた方が早いのだ。

 今日も正面に見える出口を通って帰るつもりだった。しかし―――――――。

(これはどういうことかねぇ……)

 その出口の前に女性が立ちふさがっていた。

(高校生? 大学生? それくらいの年だよな。うちの高校の生徒か? でもあんな赤い髪の生徒、気づかない訳ないしなぁ)

 自分の中で質問ばかりを繰り返す。

 しかもこちらを見てきている。

(なに、俺に用があるのか? あんなところに陣取られると通れないじゃないか! 用がないならどけてくれよ)

 歩いているためどんどん距離が縮まる。

 だが途中で止まると気を悪くするかも、という考えが捨てられない荒波は歩き続けるしかなかった。

「ねえ、君―――――――」

 話しかけてきた。やはり荒波に用事があったようだ。

 しかしそれと同時に疑問も浮かんでくる。

 すなわち、なぜ用事があるということだ。

 荒波は彼女に会ったことはない。別に目の前でゴミを捨てた訳でも、踊り出した訳でもない。

 荒波も思春期の青年だ。美人でスタイルも良い外国人っぽい(髪が赤いから)女性に声を掛けられるのは嫌じゃなかった。

 だが、次の言葉でその考えたちは虚空の彼方へ消え去ることになる。


「―――――――が、八岐大蛇やまたのおろちの子孫なの?」


「……はあ?」

 その言葉にどう反応すればいいか分からなかった。

(ヤマ、タノ、オロチ?)

 八岐大蛇の子孫。もちろんそんなことは聞いたこと無かったし、そんなあだ名も存在しない。

 荒波は必死に脳内辞書のページをめくる。

 真っ先に思い浮かんだのは8本の首がある伝説の生物だが、それではないと思った。きっと違う意味だ。

(もしかして店の名前なのか、それならあり得る)

 『子孫』という部分をキレイにぶっ飛ばして、納得できる答えを導き出した荒波は質問してみた。

「八岐大蛇ってなんですか?」

「知らないの!? いや知らされてないのか……」

 知っていて当然、みたいな答えが帰ってきた。

「八岐大蛇って知らない? はちに大きいにへびで八岐大蛇よ」

「い、いや知ってますけど、それの子孫って……」

「君が八岐大蛇の子孫なの!」

 パチン!

 そのとき、何かが変わった。

 今の言葉は暗示を解くキーワードだったのだろうか。頭の中を駆けめぐる血流の勢いが川の用に流れる。

 意識の中で組み立てられていく映像ビジョン

「そう、なんですか?」

「信じない?」

「いや……信じますよ」

 この場を乗り切るために無理矢理納得したわけではない。荒波の中のもう一人の荒波がそう言っていた。俺は八岐大蛇の子孫だと。

 さきほど、もう一人の荒波は目覚めていた。そして荒波は納得した。

 人生の分岐点では立ち止まっていられない。

「そう。納得してくれて良かったわ。じゃあ一緒に来てくれる?」

 はい。そう言おうとして思いとどまった。彼女はまだ信用出来ない。

 なによりもう一つの自分がそう言っている。まだ目覚めて5分も経っていないが自分なら目の前の女の人より信用は出来る。

「どこに行くんですか? というかなんで行かなきゃならないんですか」

 相手を刺激しないようにするつもりだったが、本心が出てしまう。

「ある人に君を迎えにくるよう頼まれたの。だから一緒に来て」

「悪いけど……あなたと一緒には行けません」

「……そう、残念だわ……」

 彼女は道を開けた。

 行けという意味だろう。

「じゃあ、ありがとうございました」

 そう言って、荒波は公園を後にした。

 だが疑問は続いていた。

(何で俺はこんなに冷静でいられる? それになんだこの感じ、誰に話しかけられてるんだ?)

「ホントに残念よ……。君がいなくなるなんてねぇ!」

 ボンッと言う音が荒波の背後から聞こえた。

(避けろ!!)

 唐突に頭に声が響く。

 荒波はとっさに右に転がった。今までいた場所を、赤い何かが通過する。

「なんだ!?」

 それは炎だった。炎がボールのように丸くなりながら、荒波を襲おうとしたのだった。

 炎は電柱に当たり、火花を散らせながら消える。

「おまえか!」

 荒波は怒りむき出しで振り返る。、

「あら、避けたの。残念ねぇ……」

 そこには予想どうり、彼女が右の手のひらを向けて立っていた。4月だというのに蜃気楼をまとって。

「おまえは俺を迎えに来たんじゃないのか!」

「そうよ。だけどこちら側に来ないと言った場合、あちら側に付く前に消さなきゃならないの。ごめんね」

「こちら側とかあちら側って、何の話をしてるんだよ!」

「君が知る必要は無くなったのよ」

 ボンッと言う音と共に炎使い女の右手の上に火がともり、夕闇になった住宅街を照らした。

(さあて、どうする俺)

「はあ!」

 かけ声と同時に火の玉が荒波を捕らえた。スピードを上げ、どんどん近づいてくる。

(おいさっきよりデカいぞ、どうすんだよ俺!)

「避けて!」

 左の方から声がした。

 声のする方に跳躍する。火の玉はすれ違うようにYシャツの袖を焦がすも、直撃は避けられた。

(誰だ?)

 その人は立ち上がろうとしている荒波の前にかばうように立った。

「用済みなら私たちがもらうわ、危害は加えないで。」

 突然の現状を理解できない荒波は取りあえず立とうとするが、

「少し下がってて」

 逆に押し戻された

「君も迎え……なのか?」

「よく偽物に騙されなかったわね、八岐大蛇の子孫さん!」

 振り向いた一瞬の横顔からは爽やかな笑みが読み取れた。

 

 


 

 


 

 

 


 

 


 



 

 

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