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1‐(3)アイテール・シエル

 今回は少し長めに書きました。


 試験が近いため、今週からテスト勉強を始めるため、二週間から三週間ほど投稿できなくなります。


 この小説をご愛読の方には迷惑をおかけしますが、ご理解をお願いします。

 『アイテール・シエル』。

 荒波は右手を伸ばし、柄を手に取る。

 長さは80センチほどの銀色のつるぎ。肉厚の刃からは戸から差し込んだ光がその輝きを失わずに反射される。

 握っただけでかなりの代物だと分かった。

 刃の厚さに伴って重さも尋常じゃない。片手用にしては重量がある。普通の人間ならまず、持ち上げることは不可能だろう。

 長剣ロングソードというと洋風の剣を思わせるが、この剣は刃の下のダイヤ以外目立つ装飾が無く、まるで日本刀のような美しさを放つ。

「良い、剣だな……」

 荒波は簡潔に、しかし力を込めて感想を語った。

 松原も得意げになる。

 荒波の左手が、ゆっくりと刃を撫でた。

「!?」

 平らで磨かれたはずの刃から、ざらざらという感触が伝わってきたのだ。

 荒波が『アイテール・シエル』を裏返すと、刃の中間当たりに稲妻形の印が判子はんこを押したように付いていた。

 剣全体は銀色なのにその稲妻の周りだけが黒くなり、荒波には装飾としては合っていないように見える。

 体は――――――拒否しなかった。

「松原さん、この剣は?」

「この剣は半年前に『別次元ディメリクス』上でいう中東の村で見つかったんだ。村は火事かなんかで焼けていて人はいなかったそうだから、俺らの仲間が使える物だけ持ってきた。その中にその剣があったんだよ……」

 荒波は剣の刃を弾く。

 キーンと澄んだ音は耳の奥に響き、何か叫んでいるようにも感じる。

「その剣を俺が鍛え直したんだ。元々妖術が掛かってたみたいなんだがほとんど失われていてな、俺が自作の妖術を掛けて鍛えたんだ」

「松原さん……」

「ん?」

 荒波は『アイテール・シエル』から視線を上げ、松原の目を見ながら言った。

「ありがとう、松原さん。この剣、大切に使わせて貰うよ」

「ガハハハ、気にするな荒波。ちなみにお代は無料ただだ!」

「え!? ただで良いんですか?」

 さっきまでの感動に驚きと喜びが混ざって頭がいっぱいだった。

 このときにはもう稲妻のことなど気にもとめていなかった。

「そのかわりまた遊びに来いよ!」




 ◆◆



 7番地区は自然が豊かなところだった。

 山と森、そして川が流れる自然に溢れたこの区画は街とは違う空気だ。

 荒波は『アイテール・シエル』を振り下ろす。

 ズバン!

 目の前の岩が大きな音を立てて真っ二つになる。

 だが右手に握られた剣――――――『アイテール・シエル』には傷一つ付かなかった。

「……凄いな、どんな妖力を使ったんだか?」

 刃をまじまじと見つめ、やはり何度か撫でてみる。

 荒波たちや神が使う近接武器や弓矢にはたいていの場合妖術が掛かっていて、切れ味や耐久度、軽さなどを強化している。そうでもしないと刃が欠けたり、曲がったりして戦いにならないからだ。

 19世紀頃から妖力の存在、利用方法を考え始めたころはまだ神と怪物は仲が良く、当時の開発目的も取り締まりや見せ物程度の目的でしかなかった。

 それが今は戦争に使われて、毎日たくさんの人を殺している。

 妖術が掛かった武器は自分の能力を上乗せしたりも出来るため、この世界のほとんどの人達が妖力武器を愛用していた。

 しかし、それは単純な構造のものに限られ、拳銃なんかは強化できないという欠点がある。

 そのため、人間の兵器はほとんど好まれなく、都倉のウインドホールに閑古鳥が鳴いているのもそのためだ。

 荒波は何度も『アイテール・シエル』の感触を確かめ、自分の体術と組み合わせる。

 突き、かがみ、切る。その一連の動作を繰り返し、体に覚えさせるのていた。

「いたいた、探したわよ」

 上から晴菜が現れた。

「ん? どうした?」

「はいその剣のさや! 松原さんが渡してくって」

 あのあと松原が見繕みつくろった物だった。

「鞘って、気持ちはうれしいけど体内にしまうんだから必要なくないか?」

「大会の時とかに意外に使うの! 持っておきな」

 早く面倒な役を終わらせたいようで、返事も聞かずに鞘を放ってきた。

「ありがと」

 『アイテール・シエル』の大きさにぴったりで、意外に重宝しそうだった。

「じゃあ、私はこれで……」

「ちょっと待て、聞きたいことがある」 

 そう言い、晴菜の袖を掴む。グッと引っ張られ転びそうになった。

「へ……!? いや、何で……?」

「晴菜もTSOなんだろ? どういう仕事してるんだか気になってさ」

「え!? あたしの仕事なんか気にしてどうするのよ?」

「まだ俺仕事したことないからさ、参考にしたいと思って」

 やって欲しい仕事が出来たら教える、と長老に言われたが給料だけ貰って何もしてないというのはさすがに気にしてしまう。

「あたしは基本的に何でもやるわよ。捜索や潜入、戦闘もちゃんとこなしてるわ――――――TSOの人達は基本的に自分に出来る範囲の仕事をしているの。ただ、何の仕事もできる人の方が当然給料は高いわよ」

「へえ……俺は何が得意なんだ?」

「たぶんあたしや火蓮、針沢とかと一緒に活動するんじゃない?」

「え? それって……」

「頼まれたことはすべてやるの! 分かった?」

「……ああ。」

「じゃあ、今度はこっちから質問するわ」

「良いけど……」

「荒波って女の子とふれ合ったことある?」

「……若干じゃっかん危ない質問をどうして真顔で聞けるんだ?」

 荒波は1歩ずつ後ろに下がる。

「ちょ、何引いてるのよ!」

「無いよ!! 学校ではほとんど話したこともない」

「そう、なら安心ね」

「頼むから質問の意味を教えてくれ」

「個人的な興味」

「おまえを若干どころか超危ない人だと認めるよ……」

「認めないで」

 お互い全く分かっていなかった。

「じゃあ、戦闘訓練を続けたら?」

「そうだな、晴菜も一緒にやるか?」

「まあ、良いけど……怒らない?」

「俺は良いって言ってるじゃん」

 頭を抱える晴菜。本当に鈍感だった。

(あんまり2人きりでいると燃やされそうなのに……)

 だが、長い髪に隠れた荒波の目元なんかを見ていると心が揺らぐ。女の子っぽいわけでもないが男らしい訳でもない。そんな絶妙なかっこよさに惹かれてしまう。

「ちょっとだけよ」

 両手に短刀を実体化させる。晴菜が使う『ダカエネシ・ベンテゥス』だ。

「少し下がってて」

 両脇に短剣を構えと、晴菜を中心に空気の渦が集まり回り出す。

 荒波の長い髪も大きく横になびいた。

「はあ!」

 ビュン!

 黄色い竜巻が空気を切り裂く。

 中心の晴菜が手を動かすたび、周りの草が削り取られた。

 晴菜は誰よりも鋭く、素早く敵を切ることが出来る。

 荒波が聞いた話では、敵はいつ切られたのか分からないほど素早いらしい。

 その話は、昔聞いたある妖怪と似ていた。

「さすが、鎌鼬かまいたちだな」

 素早い動きは関心するほど美しかった。決まった軌道を狂いなく動く剣先は大きく弧を描く。

 周りの草を刈り取っていく晴菜は次の目標を定めた。

 キン!

 二つの刃がぶつかり合う。

「……何だよ! 試したのか?」

 荒波が『アイテール・シエル』で晴菜の『ダカエネシ・ベンテゥス』を受け止めた音だった。

 晴菜は受け止めたことが分かると、すぐさま剣を下ろした。

「へえ、よく反応できたわね」

「油断してたわけじゃないからな」

 荒波は剣を下ろし、収納させる。

「それは、双鈎そうこうか?」

「まあ、近いわ。であたしの『ダカエネシ・ベンテゥス』は、形的に短刀かもね」

 晴菜に右の双鈎を渡される。

 左右対称の『ダカエネシ・ベンテゥス』は黄色を基調としていた。

 刃は控えめ程度に光を放ち、柄の部分が黄色の紐で装飾してあった。

「軽いな、威力あるのか?」

「あたしは早さ重視だから。威力は重さと使いやすさの次なの――――――じゃ、あなたの技も見せてよ!」

「オッケー、しっかり見とけよ!」



 ◆◆



「ねえ、綾ちゃ~ん。僕と一緒に――――――」

「・・・・・・」

 晴菜は頭を抱えていた。

 訓練を始めてから約15分。いきなりこの男が森の中から乱入してきたのだ。

「だからこんな男とじゃなくて僕と――――――」

 頭の上に?マーク満載の荒波はただ見てるしかなかった。

 晴菜に寄り添おうとする男と、避け続ける晴菜。

 誰なのか聞いてみたもの「萩元……変態のストーカー」としか答えてくれなかった。

(顔と口調からして変質者? いや、でも友達だからこんな馴れ馴れしいのかも?)

 荒波が人のことをよく心配するようになったのもティリスミナリアに来てからのことだ。

「なあ、晴菜。そ、」

 晴菜に話すのを強制的に禁止された――――――というか晴菜に手で口を塞がれた。

「あたしはこれから荒波と仕事に行くの! 付いてこないでね!」

「んん――――――っ」

 はあああああ? と言うつもりだったが当然、口は動かない。

 いきなり晴菜の茶番には付き合えない荒波。

「そんな男より、僕と行きましょうよ~」

「気持ち悪い、来ないで!」

 それは荒波も同感できた。

「そんな! このルックスのどこが気に入らないんですか?」

 荒波としては藤本のルックスは悪くはないが、変に格好つけて髪型や服装を工夫しているところがなんだかキザに見える。

「全部!」

(全面否定ですか!?)

 手厳しいというか、全く接する気がない晴菜。必要以上に荒波を引き寄せる。 

「じゃあ、僕がエスコートしますよ!」

「どこで〝じゃあ〟に繋がってるの? あたしは荒波と仕事に行くって行ったでしょ」

 一応荒波も頷く。ここで帰って貰いたかった。だが……

「こんな奴に頼るより、僕の優秀な頭脳と鍛え上げられた体のほうが役に立ちますよ。僕は貴方が好きなんです。さあ、行きましょう!」

 帰れば良かったものの、りずに手を差し出す。

 気持ちをアピールしているつもりだろうが、聞き慣れた晴菜には届かなかった。

 晴菜も拳を握りしめて怒りをこらえている。相当頭にきたようだった。

「じゃあ、私の命に関わるから言うけどね――――――」

 今までの鬱憤うっぷんをすべて込めるように一言。


「あなたは自分の乗るスペースシャトルの操縦を、ゴキブリに任せられるの?」


「・・・・・・」

 時が止まった。

 荒波は口を塞がれたまま、時を止めた張本人は勝ち誇ったように。そして藤本は――――――白くなっていた。

「あ、が、がが、ぐう……」

 首をかくかくしながら理解不能の言語を漏らす萩元。

 よっぽどショックだったのだろう。口から何かが出ていった。

「おい、言い過ぎじゃないか?」 

 やっと変な時間軸から解放された荒波は萩元に助け船を出そうとする。

「ふっ、すばらしい殺菌効果ね! あははは!」

「……何? 雑菌だったの?」

 よっぽど今までが嫌だったのか感激&気分爽快の顔をしている。

「……哀れだ」

 もう萩元はしゃがみ込んで丸くなってひくひくしている。

「なんかしゃくり上げてるけど……」

「良いきっかけで早く立ち直って欲しいわね」

「誰が原因だよ……ん?」

 荒波はズボンから携帯が着信していることに気づく。

「もしもし?」

 相手は針沢上彦だった。

 電話口からは前置き無しのたった一言。

『仕事だ荒波……』

「ああ、分かった……」

『場所は荒波と俺が初めてあった場所。10分後だ』

「いや、5分で行く」

 通話終了ボタンを押して携帯を素早く仕舞い、『ガバメント9㎜カスタム』の弾丸を確認する。

「おまえも凄い勘だな。本当に仕事が来たぞ」

「山勘よ、ホントは荒波とが良かったんだけどね」

「え?」

「冗談よ。がんばってね初陣ういじん

 首を少し傾け、ニコッと笑って荒波を送り出す姿は女の子が見えた。

「ありがと。じゃ、行ってくるよ」

 荒波は瞬間移動門テレポートゲートの方に走っていった。

 その姿は二週間で勇ましく成長を遂げている。

「何でかなあ? 構いたくなっちゃうんだよな」

 荒波の笑顔を思い出し少し笑う。

 晴菜はその場に雑菌1匹を残して、立ち去った。

 

 

 

 


 

 


 

 

 




 


 

 

 

 

 


 

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