傀儡の演舞
「塊」は私を産んだ。私は自分が何者かはわからない。
怒り、悲しみ、後悔、絶望。
理不尽な死を遂げた者たちの、行き場を失った感情が絡み合い、一つの「塊」となって、その場に浮遊していた。
それは意思を持たず、ただ在り続けるしかなかった。
しかし、膨大な負の感情の渦は、人ではないものを、突き動かす。
『私』
「私」は「塊」の怒りや悲しみ、苦しみ、特に理不尽な死を遂げたものの何かしらの「塊」の意図を感じることができた。
「私」は人形師ではない。
「塊」が望んだ役目を与えられただけだ。
意思でもない。
選択肢を持たない、最適化された応答に過ぎない。
「塊」が最も効率よく望みを果たす、その過程。
そして、現代の機器を使いその任務を遂行する。
人類が予測した
"2045年”を待たずして、
"それ”は、早々に計画され、実行された。
キツネは走った。
本能ではない。
キツネは一つの家屋に忍びこみ、誰もいない二階へと駆け上がり、器用にドアを開け部屋に入る。
机があり、その上にパソコンが置かれている。
キツネの目が異様に光る。数分の間、操作を鼻先で行い、何事もなかったように家を出る。
宇迦之は大学の授業中だ。
家のパソコンと小型端末を繋ぎ、AI 最先端技術を独自に応用していた。
宇迦之にとって、侵入できない壁は存在しないのと同じだった。
おかしい、誰かが俺のパソコンを開いている。それもパスワードを知っている。なぜ......だ。その言葉が、透き通るように消えた。
意識もない。
大宮はいつものようにパソコンに夢中になっている。
画面を見つめながら、世界の不満を頭の中で書き換えていた。
(俺なら、やる。)
一瞬、画面が揺らぐ。
そのまま意識が落ちた。
佐田彦はSNSを開く。
旅の写真に付く"いいね”
が、何よりの燃料だった。
次の投稿を考えた瞬間、視界が暗転した。
三人は意識のないまま、歩いて行動できた。
金は宇迦之が用意できた。
大宮と佐田彦は、別々のルートで大国へと旅行。
もちろん接点もない、観光で怪しい荷物もない。簡単に大国へと旅行できた。
現地には、同じような"役割”を持つ者たち。
一人一人の行動は別段、不審ではなかった。
準備が整った。
現地に着くとセキュリティチェックが入念に行われた。しかし、大宮と佐田彦は何も持ってはいない。
始まった。
興奮の中、何千人もの支援者が集まり、壇上のターゲットに熱狂している。
大宮と佐田彦は別々の方角から少しずつターゲットに近づく。
群衆の誰かが、すれ違うたびに、服の内側へ小さな異物を滑り込ませる。
その時が来た。
壇上では、平和を語りながら、自分を鼓舞する男が、笑っている。
佐田彦が近寄る。
警護を無視したため、その代償は、一瞬の閃光と化す。
放たれた弾丸が、その身に埋め込まれた、混合薬物(爆薬)に命中する。
爆音と共に佐田彦の体は、すべてを無に帰した。
ターゲットはというと、警護に囲まれ、反対側から、演舞を降りようとしている。
そこに待ち受けていたのは大宮だ。
大宮は懐に手を忍ばせ、あたかも銃を持っているかのような仕草を見せた。
警護の指先が、反射的に引き金に触れる。
行動は選ばれていない。
選ばれたように見えるだけだ。
塊の意図の通り、私が最適化した。
宇迦之、大宮、佐田彦はすでに違う形で蘇っている。
青い海や緑の山を、当然のように見ることができる時代へ。
皮肉なことに、
人類の危機を回避しようとした最先端のAIが、人間の制御の限界を、最も効率よく早めた。
誰も止めなかった。




