チートスキルを手に入れた
『おめでとうございます!抽選の結果、貴方にチートスキルを授ける事になりました!』
空からそんな声が聞こえたのは、俺が受験勉強に追われていた高3の夏頃だった。
それ以来、俺には何か不思議な力がある実感だけがしていた。
自販機でジュースを買えば体感3割くらいの確率で当たりが出るようになったし、急いでる時は目の前で赤信号が青に変わるようになったし、電車やバスでは必ず可愛い女の子が隣の席に座るようになったし…
そういえばソシャゲのピックアップも20連くらいで引けるようになった。
「これは…あれだな、幸運の状態が掛かる能力だな?」
何となく能力に辺りをつけられるようになると試してみたくなってきた。
まずランダム性の高い事を考える。
自販機やアイスの当たり外れ、ソシャゲのガチャ…そうだ!
もっと単純に、サイコロだ!
あれは穴の分だけ面の重さが違って、確率的に5が出やすいって何かで見た事があった。
なら逆に2は最も出にくい目って事だ…これを連続で出してみよう!
家捜ししてみると双六やボードゲームに付属してるサイコロが幾つか出てきた。
だけど、それらは自分が求めていたデザインの物とは違い、穴が彫られていなかった。
「仕方ない…買うか。これも検証の為だ…」
ん?検証…?そうだ!
俺はもっと凄まじいランダム性に挑む事にした。
そう、懸賞だ。
よく雑誌の後ろの方にあるアレだ。
俺は毎週買ってる幾つかの雑誌を捲り、懸賞コーナーを探す。
限定グッズ…映画や遊園地のチケット…ゲーム機…どれも狙い目だ。
「…まずはポスターだな。」
俺は手始めに抽選100名の限定ポスターを狙う事にした。応募ハガキは5枚。これでどれくらい運が強いのか確かめる。
抽選100名のポスター、当選4。
抽選50名の缶バッジ、当選3。
余裕だな。ダブってるのは友達にあげよう。
次、抽選30名の試写会チケット、当選2。
これは誰かを誘えって事か。誰も居ないし両親にやるか。
試しに抽選1名のゲーム機やフィギュアにも応募してみたけど、どれも当たらなかった。
とりあえず、自分が割と幸運に恵まれる事はわかった。
この感じなら受験も合格点さえ取れればある程度の倍率でも突破できる気がする。一気に悩みが減ったな。
「…勉強するか。」
人事を尽くして天命を待つって云うし、この能力は0を100にするものじゃない。1を80くらいにするものだ。
それからも俺は特に明確な使い道が思い付かない能力を抱えたまま、いつもの日常を送っていた。
──少し困った事になった。
塾でやった模擬テストで、わからない部分を当てずっぽうで書いたら軒並み正解になっていた。
「うーん…やってるか。」
試しに何の知識もない運転免許試験の問題集を全問勘で解いてみる事にした。
採点の結果は余裕で合格ライン、漸くこの能力のヤバさが見えた。
勘で答えるとほぼ何でも当たる。
夏休みが終わり、2学期になった。
同級生は受験対策も大詰めで、早い奴は来週にでも面接やらが控えているらしい。
けど俺にとっては完全に他人事で…それもあって寝坊してしまった。
「ヤバいヤバい…流石に遅刻は言い訳が…!」
急いで靴を履き替えて教室へ向かう。
「きゃっ…!」
ベタな話だが、昇降口を抜けた曲がり角で誰かとぶつかった。
「いたた…ごめん。大丈夫?」
幸運な事に学校で一番美人だと言われてる綾瀬さんとぶつかった。いいニオイがした。
「私こそ、ぼーっとしてて…」
綾瀬さんの方へ手を差す出すと、自然な形で握ってくれた。
「あ、ありがとう…優しいんだね。」
以前なら確実に気持ち悪がられたであろう行動も好印象に取られる。チョロ…いや、幸運だ。
「そ、それじゃ…!」
「うん。じゃあね。」
急げ急げ!
ガラガラガラ…
「遅い。」
遅刻は能力じゃどうにもならなかった。
──放課後、塾だ何だでクラスの皆がさっさと居なくなった教室から出ると、綾瀬さんが居た。
「あれ?どうしたの?」
「あっ。今朝の…」
「探し物?」
「あの時、ハンカチを落としちゃったみたいで…昼休みも探したんだけど見付からなくて…」
「手伝うよ。暇だし。」
俺の能力に掛かれば探し物なんて速攻で…あれか?
少し探すと消火器と壁の隙間でボロボロに汚れたハンカチを見付けた。
「もしかしてこれ?」
「そう、です…」
綾瀬さんはとても悲しそうな顔をしていた。
そりゃあそうだ。俺にとっては学校イチの美人と一緒に居られる幸運だったけど、彼女にとってはハンカチを失くすと云うハプニングだ。
しかも、何度も探していた辺り、とても大切なハンカチだったはずだ。
こんなの、幸運でもなんでも無い。
「ありがとう。今度、お礼するね。それじゃ…っ!」
綾瀬さんは走り去っていった。
俺は何も言葉を掛けられなかった。
──数日後、昼休み。
「ねぇ、あんた何したの?」
「え?何が?」
「ほら、あそこ。」
入り口の方を見ると綾瀬さんが会釈した。
俺はクラスのざわつきを躱しながら向かう。
「場所、変える?」
「…はい。」
ざわざわ…ざわざわ…
ふたりで並んで歩くと、それも軽い騒ぎになっていた。
「ごめんなさい…放課後にすればよかったかも。」
「別に、俺は気にしないよ。」
廊下の喧騒から逃れるように階段を上り、屋上へ続く扉の前に来た。
流石にここまではついてくるようなアホは居ない。
まぁ、下の方でざわざわしてるけど。
「あの、この前は本当にありがとう。ハンカチ見付けてくれて…嬉しかった。」
「そう?喜んでくれてよかった。あの時ちょっと悲しそうだったから気になったんだよね。」
「え?あぁ…あれは、その…」
「大丈夫。大切なハンカチだったんでしょ?」
「うん…!そ、そうなの!けど、ボロボロだった事を悲しむより見付かった事を喜べばよかったって後で気付いて…」
「あははっ…あるあるだね!」
よかった。綾瀬さんは笑顔だった。やっぱり可愛い。ドキドキする。しかも、これってイイ感じの雰囲気じゃないか!?
これはワンチャン…いや、これも能力のお陰か。俺が笑顔にしてる訳じゃない。
「それで、これ…よかったら貰ってくださいッ!」
綺麗なリボンと、包装紙に包まれた…プレゼントだった。
「ありがとう。開けてもいい?」
「えっ、ここで…ですか?」
「うん。あっ、もしかしてダメだった?」
「いやっ、そういう訳じゃ、無いんだけど…」
「わかった。じゃあ、帰ったら開けるよ。」
「うん…!」
教室に戻ってからは同級生からの追及が止まらなかった。
付き合ってるのかだとか、出会いはいつだとか、キスはしたのかだとか、若干カップル前提での質問だったのが気になった。
──家に帰って早速プレゼントを開けた。
そこには、あの時拾ったハンカチと同じデザインの、白群色のハンカチがあった。
「こ、これって…お揃い…?マジで?って事は…!」
綾瀬さんにかなり気に入られ…と云うか、ほぼ告白みたいなプレゼントを貰ってしまった。
「ん?なんだ…?」
ハンカチの隙間から紙切れが落ちてきた。
「えっと…『あやせ XXX-XXX@~』って、これは…!」
アドレスだ…!たぶん、綾瀬さんの連絡先…!ラッ…
嬉しいはずなのに、こう…湧き上がるものが無い。
発売延期で何年も待った大好きなシリーズの最新作を最初からMod使って遊んでる気分…
そっか…これも、結局は能力の結果だ…俺の実力じゃない。
今わかった。俺は自分の力で何かを成功させたいんだ。その努力をしたいんだ。
それなのに、これからの俺の人生は能力によって自動的に上手くいってしまう。
確かに楽だ。親ガチャなんて目じゃないくらいに…シード権で決勝進出してオウンゴールで優勝してるような…そんな感覚。
その日から、俺は眠れなくなった。
──相変わらず幸運は舞い込んだ。
店で10万人目の客として粗品を貰ったり、商店街の福引きで2等の米俵を当てたりした。
ストレスで眠れない日々は増していた。
「ねぇ、大丈夫?最近ツラそうだよ?」
「あはは…だ、大丈夫。大丈夫だよ…」
綾瀬さんに心配されてしまった。そりゃあ、これだけ目の隈が酷くなれば誰だって気付く。デーゲームのプロ選手か!ってくらい目元が黒い。
すると綾瀬さんは俺をぐっと引き寄せた。
こ、これは…!この感触は…!
「あ、綾瀬さん…!?」
「これなら眠れるかな?って。」
膝枕…本来ならめちゃくちゃ嬉しいけど、これも能力で幸運な想いをしてるだけな気がして素直に喜べない…
「これは、寝言だと思って聞いてほしいんだけど…」
俺は自分に降り掛かった出来事を話す事にした。
「………」
綾瀬さんは何も言わなかった。
きっと嘘だと思ったんだろう。『私には本当の事を話してくれないんだ。』そう思ったに違いない。
「私も、話さなきゃいけない事があって…」
「綾瀬さん…?」
「私にもね、不思議な能力があるんだよ?」
「そうなの?」
「うん。」
「どんな能力?」
「私ね、小さい時から少女漫画みたいな体験ばっかりしてるんだよね。幼馴染みが凄いお金持ちだったり、クラスにイケメンが転校してきたり、曲がり角でぶつかった人と再会したり…」
「それって…」
俺の事か。じゃあ、ハンカチがボロボロだったのも…その後の展開が続くように、って事なのか…?
「家も、両親は海外で殆ど居ないし…」
「そこまでなのか…」
「ベタすぎるよね。小学校の頃からずっとそうなんだ。だから…」
「俺の"寝言"も信じられる?」
「うん。それでね、きっとこれからも私の周りでそういうベタな展開が起きるから、その…!」
「じゃあ丁度いいじゃん。俺と居れば幸運が続くよ。」
今のテンションじゃ絶対言わないような事が口から出た。これか…綾瀬さんの能力。
「ほら…」
綾瀬さんも自覚してるようだった。
「あはは…なるほどね。よくわかったよ。でもなんか、楽になった。変な能力に振り回されてるのは俺だけじゃなかったんだね。」
「あっ…確かに、そうだね。」
心做しか綾瀬さんが嬉しそうに見えた。
──冬になり、受験シーズン真っ只中。
俺と綾瀬さんは志望校が違う事もあって段々と疎遠になっていた。
それでもメールなどでやり取りは続けていて、能力で起きたハプニングなどの愚痴を言い合う仲になっていた。
1月。センター試験も終わり、同級生の進路は大方決まり、殆どがモラトリアムを楽しんでいた。
2月。バレンタインは幸運な事にかなりのチョコレートを貰った。綾瀬さんからも貰ったけど、騒ぎになっちゃって話せる雰囲気じゃなかった。
3月になると、それぞれが想い出作りをしていた。
告白したり付き合う奴、学校の壁に落書きして怒られる奴、卒業製作を勝手にやって勝手に展示してる奴など、そのどれもが想い出になりそうだった。
「お待たせ。待ったかな?」
「いや、全然っ!」
俺は久々に綾瀬さんに会っていた。
「ホントに久しぶりだよね?」
「だねー…何だかんだ受験大変だったし。」
「そうなんだ?」
「俺の幸運は0を100にする訳じゃないからさ。」
「そうだったね。」
「綾瀬さんは?受験どうだった?」
「合格したよ。」
「おめでとう!メールで訊くのもなーなんて思ってたから、ずっと気になってたんだよ!」
「フフッ…普通に訊いてくれてよかったのに。」
あれから、俺はちゃんと眠れるようになっていた。
愚痴を言い合う関係になれた事でこんなにも楽になるとは思わなかった。
「そう云えば、綾瀬さんって志望校どこだっけ?」
「…当ててみて?たぶん、キミならわかるよ。」
どういう意味だろう?俺ならわかる…?
あっ…
「もしかして…!」
登場人物の紹介
俺…俺。高3の夏に『幸運になる能力』を手に入れた。
綾瀬さん…高校で一番美人の女の子。『少女漫画みたいな展開になる能力』を持っていて、曲がり角でぶつかったり、疎遠になった好きな人と大学で再会したりする。




