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第十八章 星の海を越える誓い(最終章)

パリ、シャルル・ド・ゴール空港のガラス張りの壁の外では、雨粒が糸の切れた真珠のように降り落ちていた。


僕は到着ロビーに立ち、七海がジャン=リュックと熱心に公演の詳細について話し合っているのを見ていた。彼女のフランス語は僕が想像していたよりもずっと流暢で、時折身振りを交え、その目はキラキラと輝いていた。三ヶ月のヨーロッパ生活で彼女は少し日焼けし、髪の先は淡い亜麻色に染まり、全身から僕が今まで見たことのないような輝きを放っていた。


「健太!」七海が突然振り返って僕に手を振った。「タクシーが来たわ!」


僕はスーツケースを引いて後を追った。雨水が顔に当たり、骨身に染みるほど冷たかった。パリの冬は東京よりずっと寒く、僕の指はポケットの中で縮こまっていた。


「オランピア劇場の音響テスト、明日の朝に変更になったの」七海は車の中で興奮気味に言った。「今夜は先にモンマルトルへ行けるわ!ジャン=リュックがすごく素敵なジャズバーを推薦してくれたの!」


僕は頷き、彼女のスマートフォンの画面に映る、ぎっしりと詰まったスケジュール表に目をやった――インタビュー、リハーサル、オーディション、会議……ほとんど空白がなかった。


「あなたの方はどうだった?」七海は突然尋ねた。「出版社の会議は順調だった?」


「うん、フランス語版の契約はほぼ決まったよ」僕は簡潔に答えた。「編集者が、ヨーロッパを舞台にした番外編をいくつか追加してほしいって」


七海の目が輝いた。「最高じゃない!セーヌ川のほとりで取材できるわね!リュクサンブール公園も!」彼女は突然声を潜めた。「そうだ……今夜のバー、オープンマイクの時間があるんだけど、あなたも……」


「僕はやめておくよ」僕は笑って首を横に振った。「パリの人々に、僕のギター『デビュー』をもう一度経験させる必要はないからね」


七海はクスクスと笑い、その声は銀の鈴のようだった。前の席の運転手が、バックミラー越しに好奇心旺盛な視線を僕たちに向けていた。


アパートはジャン=リュックが手配してくれたもので、マレ地区の古い建物の四階にあった。狭い螺旋階段のせいで荷物を運ぶのは悪夢のようだったが、ドアを開けた瞬間、僕は息を呑んだ――パリの街並みが大きな窓いっぱいに広がり、雨上がりの陽の光が雲間を突き抜け、灰青色の屋根を金色の縁取りで照らしていた。


「気に入った?」七海が後ろから僕の腰に腕を回した。「わざわざこの部屋を選んだのよ。日当たりが良いから、あなたが絵を描くのにぴったりだと思って」


僕は振り返り、彼女を腕の中に抱きしめた。彼女の髪から漂う淡いバラの香りがした――新しいシャンプー、パリの香りだ。三ヶ月の別離、七十二通の国際メッセージ、五十三回のビデオ通話、数えきれないほどの寝返りを打った夜、その全てが今、この抱擁の中に溶けていった。


「会いたかった」僕は小声で言った。


七海は顔を上げ、その目にはいたずらっぽい光が揺らめいていた。「パリには綺麗な女の子がたくさんいるのに、田中先生がまだ私のことを考えてくれてたなんて?」


「彼女たちは、誰も『きらきら星』を弾き間違えたりしないからね」僕は彼女の鼻先にキスをした。


七海は大きな声で笑い、僕の腕の中から抜け出した。「さあ、行きましょう!まだ明るいうちに、モンマルトルへ!」


パリの通りは迷路のように曲がりくねっていた。七海は僕の手を引いて人混みを抜け、時折立ち止まっては特定の建物を指さした。「見て!『アメリ』のカフェよ!」また時には興奮して、ストリートパフォーマーの演技を見に僕を引っ張っていった。彼女の活力はまるで尽きることがないようで、東京の病院であれほど心配していた娘とはまるで別人だった。


夜の帳が下りる頃、僕たちはついにあの隠れ家のようなジャズバーを見つけた。薄暗い照明の下、ジャン=リュックと彼の音楽仲間たちがすでに待っていた。七海はすぐに熱烈なフランス語の会話の中に引き込まれ、僕は隅に座り、濃すぎる赤ワインをすすっていた。


「あなたは参加しないの?」金髪の女性が突然英語で僕に尋ね、ステージを指さした。「オープンマイクの時間が始まったわよ」


僕は首を横に振った。「僕は彼女の付き添いで来ただけなんです」と言って、人々に囲まれている七海を指さした。


金髪の女性は理解したように微笑んだ。「ああ、あなたが例の日本の漫画家ね!七海がよくあなたのことを話してるわ」彼女は少し近づいた。「知ってる?彼女、あなたとのビザの問題が含まれていないからって、単独ツアーの契約をいくつか断ったのよ」


僕は呆然とし、喉の赤ワインが急に苦くなった。七海はそのようなことを一度も話してくれなかった。


ステージ上のパフォーマーは次々と入れ替わり、ついにジャン=リュックが突然アナウンスした。「それでは、日本からの新星、七海ちゃんをお迎えしましょう!」


七海は顔を赤らめてステージに押し出され、ギターを受け取った。「実は……準備してなくて……」彼女の視線が人垣を越え、僕に落ちた。突然、決心したかのように、「でも、ある特別な人のために書いた、新曲があります」


前奏が始まり、それは僕が今まで聴いたことのない旋律だった――シンプルで優しく、七海特有の透明感があった。彼女が「東京の雨の夜に/パリの朝の光の中で/私の羅針盤は永遠にあなたを指している」と歌った時、僕の目元は潤んだ。この歌は、距離と寄り添うことについての物語、異なる軌道を描きながらも互いを見守り続ける二つの星についての物語だった。


最後の音符が消えると、バーは熱烈な拍手に包まれた。七海は急いでお辞儀をし、逃げるように僕のそばへ戻ってきた。「どうだった?」


「いつ書いたんだ?」僕は小声で尋ねた。


「リヨン行きの電車の中よ」七海の指先がそっとワイングラスを叩いた。「あの日、老夫婦がイヤホンを片方ずつ分け合って歌を聴いているのを見て……急にインスピレーションが湧いたの」


僕は彼女の手を握った。万感の思いが喉に詰まって言葉にならなかった。七海は僕の沈黙を理解したのか、そっと僕の肩に寄りかかった。「来週はいよいよオランピア劇場での公演ね……緊張する?」


「それは僕が君に聞くべきセリフだよ」


七海は首を横に振った。「あなたが客席にいてくれれば……もう怖くないわ」


アパートへ帰る途中、七海は突然一軒のウェディングドレスショップの前で立ち止まった。ショーウィンドウの中、一着のシンプルな白いウェディングドレスがスポットライトを浴びてキラキラと輝いていた。


「綺麗……」彼女は小声で感嘆した。


僕の心臓が跳ねた。「七海……」


「緊張しないで!」彼女は大きな声で笑った。「ただデザインを鑑賞してるだけよ」彼女は僕の手を引いて歩き続けた。「でも……お母さんが完全に回復したら、東京に帰って小さな結婚式を挙げるのはどうかしら?親しい人だけを招いて……」


その突然の提案に、僕の足は止まった。七海は振り返って僕を見つめ、夜風が彼女の髪の先を揺らし、ネオンサインが彼女の顔に変化する光と影を落としていた。


「嫌?」彼女は首を傾げて尋ねた。


「いや……ただ……」僕は深呼吸をした。「君はもっと盛大な式を望んでいるのかと。元アイドルだったわけだし……」


「だからこそ、もっとシンプルにしなくちゃ」七海は瞬きをした。「月夜七海の結婚式は豪華でなくちゃいけないけど、姫野七海の結婚式は……一番大切な人がいてくれればそれでいいの」


彼女は先を歩き続け、先ほど歌った歌の旋律を口ずさんでいた。僕は後を追いながら、彼女の後ろ姿が五年前のあの駅のホームの少女と重なるのを見ていた――依然として華奢だが、もはや脆くはない。依然として輝いているが、もはや目を刺すほどではない。


オランピア劇場での公演は予定通り行われた。バックステージに立ち、僕は七海がギターを調整するのを、その真剣な表情を見ていた。この三ヶ月で、彼女のセットリストは絶えず進化し、フランスのシャンソン、ジャズ、さらにはほんの少しのエレクトロニカの要素まで取り入れられていたが、核となる部分は常に変わらなかった――愛と、喪失と、再生についての物語。


「健太」七海は突然顔を上げた。「一つ、手伝ってくれる?」


彼女はバッグから小さな箱を取り出した。「公演が終わったら……これをお母さんに渡してほしいの」


箱の中には、精巧な銀のネックレスが入っていた。ペンダントは小さな五線譜で、そこには『星のかけら』の最初の三つの音符が刻まれていた。


「ビデオ通話で?」僕は尋ねた。


七海は頷いた。「先生が、お母さんの言語機能はすごく良く回復してるって……公演全体を見られるはずよ」彼女は深呼吸をし、「私、約束したの……初めての国際舞台は、彼女に直接見せるって」


僕は慎重にネックレスをしまった。「お母さん、君を誇りに思うよ」


七海の目が舞台照明の光を浴びてキラキラと輝いた。「私だけじゃなくて……」彼女は小声で言った。「私たちのこともね」


公演は空前の成功を収めた。七海が最後の歌を歌い終え、深くお辞儀をした時、会場中の観客が立ち上がって拍手をした。フランス語、英語、日本語の歓声が入り混じり、僕の視線は終始彼女から離れることができなかった――国際的な舞台の中央に立つ七海と、かつて学園祭で緊張のあまり声が震えていた少女が、不思議なほどに重なって見えた。


打ち上げの席で、ジャン=リュックは興奮気味にヨーロッパツアーの計画を発表した。七海は礼儀正しく耳を傾けていたが、テーブルの下では僕の手を強く握っていた。僕には彼女が何を考えているのか分かっていた――母親の回復、東京での約束、そして、渡されるのを待っているあのネックレス。


アパートに戻ったのはもう真夜中だった。七海は疲れ果てて、公演の衣装も着替えないままソファに倒れ込んだ。僕はそっと彼女の靴を脱がせ、毛布をかけてあげた。


「健太……」彼女はぼんやりと僕の手首を掴んだ。「パリまで来てくれて……ありがとう……」


僕はしゃがみ込み、彼女の額にキスをした。「おやすみ、スターさん」


七海は満足そうに目を閉じ、すぐに呼吸が均一になった。僕はそっと窓際に歩み寄り、パリの灯りは依然としてきらびやかだった。スマートフォンの画面が光り、玲子さんからのメッセージが表示された。【公演、最高でした。彼女は私が想像していた以上に輝いていました。】


僕は返信した。【お母さんの強さを受け継いでいるんですね。】


玲子さんからの返信は早かった。【いいえ、あの子は自分の光を見つけたのです。それは、どんな才能よりも貴重なものです。】


スマートフォンを置き、僕は眠っている七海の方を振り返った。月明かりが窓から差し込み、彼女の顔に柔らかな光の輪を落としていた。五年前の駅のホームで、僕たちは誰も今日のような日を想像していなかった――彼女はもはやアイドルの肩書きに縛られた少女ではなく、僕ももはやただ仰ぎ見るだけのファンではない。僕たちはそれぞれ異なる軌道を歩みながらも、どこか見えない遠くで、固く結びついていたのだ。


机の上には、僕の新しい漫画の草稿が開かれていた――『平行線の交点』。最初のページには、献辞が書かれていた。「七海へ、僕の明けの明星、そして宵の明星へ」


窓の外では、パリの最初の朝の光が静かに現れ始めていた。新しい一日が始まろうとしており、新しい物語が書かれるのを待っていた。そして僕は知っていた。未来が僕たちをどこへ連れて行こうとも、僕たちは必ず、互いのそばへ戻る道を見つけ出すだろう。


まるで二本の平行線が、どこかより高い次元で、とっくに固く絡み合い、永遠に離れることがないように。

父が他界し、一銭も残さず、残ったのは返済しきれない借金だけでした。


銀行からの督促の電話はまるで死神の呼び声のようで、裁判所からの召喚状は次から次へと届きます。


私は食事もまともにできないほど貧しいのに、数十万元の借金を背負わなければなりません。


声を出して泣くことさえできません。借金取りに聞かれたら、最後の尊厳さえ守れないのではないかと恐れているからです。


必死に論文を書いて、学問で人生を立て直したいと願っていますが、銀行はそんなことには構わず、ただお金だけを要求してきます。


母も年老いていますが、借金取りは母さえも容赦せず、電話をかけるたびに母は震えています。


自分が無力で、家族にまで迷惑をかけていることが憎い。でも、本当に返済できないのです……


弁護士は言いました。「貧しいことは罪ではないが、借金から逃げることは罪だ。」と。


私はただ歯を食いしばって、少しずつ返していくしかありません。たとえこの人生で返済しきれなくても……


これが現実です。


人が死んでも、借金は残り、人が生きていれば、借金がその人を押し潰すのです。

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