第十六章 交差する星の軌道
夜明けの光が病室のカーテンの隙間から差し込み、床に一本の金色の線を引いていた。僕はそっとドアを開けると、七海が付き添い用の椅子で丸くなって眠っているのが見えた。そのまつ毛には、まだ乾ききっていない涙の跡が残っている。玲子さんはもう目を覚ましていて、あまり自由の利かない左手で、七海のアルバムのページをめくろうとしていた。
僕が入ってきたのに気づくと、玲子さんは人差し指を唇の前に立て、それから眠っている娘を指さして、彼女を起こさないようにと合図した。僕は抜き足差し足でベッドのそばへ歩み寄り、買ってきたばかりの朝食――サンドイッチと温かいお茶を差し出した。
玲子さんはお茶を受け取り、震える手でメモ帳に文字を書いた。【彼女、行くことに決めたわ。】
僕は頷き、小声で答えた。「社長が先ほどメッセージをくれて、NHKは電話での出演に切り替えることに同意したそうです」
玲子さんの口元がかすかに綻び、書き続けた。【彼女のこと、頼んだわ。】
その言葉は、まるで石のように僕の胃の中に沈んだ。僕は七海の方を見た――彼女は安らかには眠れていないようだった。眉はきつく寄せられ、指は時折ぴくりと動き、まるで夢の中でももがいているかのようだった。
「はい」僕は小声で約束したが、その約束の重さを確信できずにいた。
七海のスマートフォンが突然震え、画面が光り、「高橋さん」からの着信が表示された。彼女ははっと目を覚まし、慌てて電話に出た。「は……はい……決めました……」
電話を切ると、七海は目をこすり、僕と母親の方を見た。「私……東京と大阪の公演は残して、他は延期することにしたわ」彼女の声は乾いていた。「NHKは電話での出演に切り替えて……お母さん、それでいい?」
玲子さんは微笑んで頷き、右手でそっと娘の頬を撫でた。
七海は僕の方を向いた。「健太……一緒に来てくれる?少なくとも、最初の公演だけでも……」
僕は彼女の手を握った。「もちろん」
その簡単な約束が、七海にいくらかの力を与えたようだった。彼女は背筋を伸ばし、スマートフォンを取り出して素早く文字を打ち始めた。「バンドに連絡して、リハーサルの計画を調整しなきゃ……あと、会場の方も……」
彼女が素早く仕事のモードに入る様子を見ながら、僕はふと気づいた――心の中がどれほど葛藤していようと、一度決断を下せば、七海は全力でそれに取り組むのだ。それは彼女がプロのアーティストとして持つ資質であり、彼女の骨の髄にある強靭さでもあった。
玲子さんがそっと僕の腕に触れ、別のメモを差し出した。【あの子は小さい頃からそうなの。決めたら振り返らない。】
七海は僕たちがメモをやり取りしているのを見て、目を細めた。「あなたたち、何をたくらんでるの?」
「お母さんが、君の意志が固いって褒めてたんだよ」僕は笑ってメモを彼女に渡した。
七海は唇を尖らせたが、その眼差しは和らいでいた。彼女は母親のベッドのそばに跪き、額を母親の手に押し当てた。「お母さん……私、毎日電話するからね。田中先生が、来週からリハビリを始められるって。もう最高の療法士さんに連絡したから……」
玲子さんはあまり自由の利かない指で娘の髪を梳き、小声で言った。「行……て……」
その簡単な言葉が、彼女の力を使い果たしたかのようだった。七海は母親にしっかりと抱きつき、肩をかすかに震わせた。
病院を出る頃には、もう昼に近かった。七海は階段の上に立ち、晴れ渡った空を見上げて深呼吸をした。「明日からリハーサルよ。最初の公演は来週の土曜日に決まった……」彼女は僕の方を向き、「あなた……本当に来れるの?『守護星』の締め切りが……」
「もう編集者と相談済みだよ」僕はバックパックの中のデジタルタブレットを軽く叩いた。「君のリハーサルに付き合いながら仕事できるよ」
七海の目が輝いた。「本当に?じゃあ……じゃあ、今から練習室に行きましょう!バンドのメンバーはもう着いてるはずだわ」
彼女の足取りは突然軽やかになり、まるで何か重荷を下ろしたかのようだった。僕は小走りで後を追い、彼女の跳ねる髪の先が陽の光の中でキラキラと輝いているのを見ていた――この瞬間の七海は、病室であれほど心配していた娘とはまるで別人だった。
渋谷のリハーサルスタジオは想像よりも簡素だったが、設備は整っていた。七海のバンドメンバーはすでに全員揃っていた――ベースの大輔、ドラムの健太郎、そして新しく加わったキーボードの美咲。僕たちが入っていくと、大輔が大げさに手を振った。「社長様、ついにご到着だ!」
七海は顔をしかめた。「うるさいわね!」彼女は美咲の方を向き、「楽譜はもう大体覚えた?」
美咲は頷いたが、その目は好奇心に満ちて僕と七海の間を行ったり来たりしていた。僕は自覚して隅へ行き、デジタルタブレットを取り出して仕事を始めたが、耳はしっかりとそばだてていた。
「『軌跡』から始めましょう」七海はヘッドフォンをつけた。「今回の編曲はもっとシンプルにして、ボーカルを際立たせたいの……」
リハーサルは順調には進まなかった。七海の声の状態は明らかに良くなく、高音部分で何度か声が裏返った。三度目にサビを試みた時、彼女は突然ストップをかけ、ヘッドフォンを外して床に叩きつけた。
「ごめんなさい……」彼女はしゃがみ込み、両手で頭を抱えた。「私……集中できない……」
大輔と健太郎は顔を見合わせた。美咲は少し躊躇った後、七海のそばへ行ってしゃがみ込んだ。「お母さんのことが心配だからですよね?」
七海ははっと顔を上げ、その目には驚きの色が浮かんでいた――明らかに、新メンバーがこれほどストレートに切り込んでくるとは思っていなかったのだろう。
「その気持ち、分かります」美咲の声はとても軽やかだった。「私の父が去年、心臓の手術をした時、私は地方でツアー中だったんです……毎分毎分が、針のむしろでした」
七海の肩の力が少し抜けた。「じゃあ……あなたはどうやって……」
「私は、どの歌も全部父に捧げました」美咲は微笑んだ。「父が客席の一番前に座っていると想像して。不思議なことに……それが私のベストパフォーマンスになったんです」
七海は何かを考えているように頷いた。大輔がここぞとばかりに割り込んだ。「今日はこの辺にしておきますか?七海先輩、休養が必要ですよ……」
「ううん」七海は突然立ち上がった。「もう一度。『明けの星』から始めましょう」
今回、七海が「一番暗い時にもなお輝く」と歌った時、その声はもはや震えておらず、代わりに奇妙な力強さに満ちていた。僕は手の中のペンを止め、完全に彼女のパフォーマンスに引き込まれていた――これは技術的に完璧な歌唱ではなかったが、人の心をまっすぐに打つ力があった。
リハーサルが終わった後、七海は一人残って追加練習をした。僕は隅に座り、彼女が何度も同じ旋律を繰り返し、汗がシャツの背中をびっしょりと濡らすのを見ていた。窓の外の空は次第に暗くなり、街の灯りが次々と点灯し、彼女の体にまだらな影を落としていた。
「そろそろいいんじゃないか?」僕はついに我慢できずに割り込んだ。「これ以上歌うと、喉を潰すぞ」
七海は首を横に振り、その声はもう少し掠れていた。「最後にもう一回だけ……」
彼女は目を閉じ、そっと指で拍子を取った。前奏が始まり、それは僕が聴いたことのない歌だった――ゆっくりとして悲しげだが、希望に満ちた旋律。
「これは何?」僕は好奇心にかられて尋ねた。
「新曲よ」七海は小声で言った。「『リハビリ日記』……お母さんのために書いたの」
彼女の声は羽のように軽やかで、歌詞は待つことと希望についての物語を語っていた――病室での朝と夕、リハビリの辛さ、そして、些細に見えるが大きな意味を持つ進歩。彼女が「今日、あなたはついに再び私の名前を呼んでくれた」と歌った時、七海の声音は詰まったが、それでも最後まで歌いきった。
最後の音符が消えると、リハーサルスタジオは沈黙に包まれた。七海はギターを置き、長く息を吐き出した。「ずっと楽になった……」
僕は彼女のそばへ行き、水筒を渡した。「驚くほど綺麗だったよ」
七海は小口で水を飲み、喉仏がごくりと上下した。「お母さんに……届くといいな」
「届くよ」僕は小声で言った。「必ずね」
リハーサルスタジオを出る頃には、もう深夜だった。渋谷の街は依然として賑やかで、ネオンサインが僕たちの影を長く伸ばしていた。七海は突然立ち止まり、空を指さした。「見て、金星がすごく明るいわ」
僕は彼女の指さす方を見上げた。その明るい星は、都会の光害の中でもはっきりと見えた。
「知ってる?」七海は小声で言った。「金星は明けの明星でもあり、宵の明星でもあるの。見る時間と場所によって違うのよ」彼女は僕の肩に寄りかかった。「私たちみたい……時には私があなたを追いかけ、時にはあなたが私を待っていて……でも、いつも同じ空の下にいる」
その例えに、僕の胸は熱くなった。僕は彼女の肩を抱き、薄いシャツ越しに彼女の体温を感じた。「土曜日の公演、準備はいいか?」
七海はしばらく黙り込んでいた。「正直に言うと……まだ。でも、全力を尽くすわ」彼女は僕を見上げ、「一番前の席に座ってくれる?」
「もちろん」僕は約束した。「一番大きな応援ボードを持っていくよ」
七海は微笑み、その笑顔はネオンサインの光を浴びてひときわ輝いていた。「それなら、もう怖くない」
帰りの電車の中で、七海は僕の肩に寄りかかって眠っていた。僕はそっと体勢を整え、彼女がもっと心地よく眠れるようにした。スマートフォンが震え、玲子さんの介護士からメッセージが届いた。【本日、15分間の歩行訓練を終えられました。『土曜日のライブ中継のために体力を温存する』とおっしゃっています。】
僕は微笑んでスマートフォンを閉じ、窓の外に流れる街の灯りを見た。三日後の公演は、七海の人生にとって重要な転換点となるだろう――歌手としてだけでなく、娘として、恋人として、そして、困難の中でも前へ進むことを選んだ一人の人間として。
そして僕は、その全てを見届けるだろう。僕のこの目で、僕のこのペンで、そして僕の全ての心で。