末端
「あなたの症状は?」
「末端冷え性です。」
「冷え性。」
「末端、末端冷え性です。」
「末端冷え性、なるほど。この度、病気に志望された理由を述べてください。」
「はい、近年暴飲暴食や飲酒などに伴う肥満や糖尿病、歯周病までもが生活習慣病という、病気として認知されました。日々の小さな習慣による症状までも病気とする御社の新たな理念を受け、日本人の女性の半数以上が悩まされている私もまた、病気として御社に貢献できると考え、志望に至りました。」
「なるほど、確かに弊社は現在 門戸を開き、人々が悩む多くの症状を病気として迎え入れてきました。その点、末端冷え性さんは近年、女性問わず男性に対しも影響を及ぼしており、素晴らしい経歴をお持ちだと思います。ですがあなたの症状の原因は体質であったり、ストレスが多いと記載されています。この点をどうお考えですか。」
「はい。確かに私は1型糖尿病のように、決定的な深刻さをもたらす症状ではありません。しかし、先ほどおっしゃったように私の症状の主要な原因であるストレスは、現代社会に蔓延する深刻な問題の1つです。ストレスから来る飲酒等の不摂生を生活習慣病とするならば、私も同様に現代社会を背景とした深刻な問題であると考えます。」
「うーん、ストレスねえ。確かにストレスっていうのは深刻な社会問題と言えます。ただね、それはどの病気にも当てはまるし、それだけで病気とするのはちょっとねえ。」
「その点についてですが、末端冷え性は主に女性が悩むというイメージがついております。女性が持つ主要なストレスには、ルックズムに基づく過度なダイエットであったり、自律神経の乱れなどがあります。SNS等の普及に伴う女性たちの自己肯定感の低下が、そのような行動に走らせているとも言えます。女性の社会進出が著しい昨今でありますので、トレンドとしても私はそれに合致していると思われます。」
「そうですね。それは確かにあなたの魅力と言えます。尿路結石さんはどうでしょう。」
「はい。今の椎間板ヘルニアさんとのやり取りを通して、確かに末端冷え性さんは現代社会を反映しているし、多くの人を悩ましているという広範性もあります。ただ少しインパクトというか。病気たりえるほどの強さというのにかけていると思います。その点どうお考えですか。」
「はい。確かに私は尿路結石さんのように激痛等は伴いません。しかし、私は日々の生活において手先がかじかむなどの不便さを提供することでバリューを出していけると考えております。特に冬においては私は活躍できます。小さなストレスを私が積み重ねることで、他の病気の活躍の場を増やす、縁の下の力持ちのような役割もこなすことが出来ます。」
「確かに日々の生活に支障をきたすという部分においては、私、椎間板ヘルニアとしても重要視しておりますし、その部分では活躍できるかなと思います。最後になりますが、何か質問はありますか。
「はい。入社時に有利になるようなスキル等があれば教えていただきたいです。」
「...尿路結石さんからどうぞ。」
「私ですか、ええと。そうですね。合併症についての知識を持つと入社後に有利になると思います。私の場合ですと、尿路ということで腎臓系の病気達とはよくコミュニケーションを取っています。また少し専門的ですが、結石はシュウ酸が原因の一つです。シュウ酸はコーヒーに多く含まれていますので、カフェイン中毒についても私の場合は調べました。こんなふうに、自分に関係のある分野から少しずつアンテナを広げていくといいと思いますよ。」
「そうですね。私もほとんど同じです。自分の症状と似た病気を探してみたり、同じ部位の病気を調べてみるのもいいでしょう。変に専門的になろうとせずに、色々なことに興味を持つといいと思います。」
「ありがとうございました。」
「それでは、2,3日以内にまた連絡させていただきます。本日はありがとうございました。」
「ありがとうございます。失礼します。」
「どうでした。」
「向上心があっていい子だね。ただやはりインパクトには欠けるかな。」
「そうですよねえ。まあとりあえず、他の方も見ていきましょう。」
「そうだな。」
「次の方は、手掌多汗症さんですね。」
「また末端か。」
「偶然ですね。」
コンコン。
「どうぞ。」
「失礼します。」