封じられた遺跡②
「見えてきたぞ」
「メイス島…かつては優しさに溢れた過ごしやすい島で
パレードなんかも開催され多くの観光船で賑わいを見せていた」
「うん、私の故郷だ」
「瘴気に侵されてから一時期
島は見えなくなっていたが
どうやらここ10年…広がった瘴気の影響で
包んであった物が一部露出したようだな」
グレイブはそういうと大きく舵を切り
島のそばまで近づいた
「上陸するぞ、気を引き締めろ」
ナギは深く頷き、真剣な顔つきで島を眺めたーーー
島に着くと二人は早速遺跡の元まで歩いた
黒く濁った草に腐った木々、辺りには紫の霧が充満していた
ナギ
「(酷いニオイだ、まるで腐った生肉のような…)」
グレイブ
「遺跡は奥だな」
グレイブの後ろを歩き、やがて
二人は港町だった場所へ辿り着く
「ここは…よくユウトやその友達と遊んでた場所だ…確かグレイブとも初めて会った…」
辺りには小物などが無造作に転がり衣服が散乱していた
衣服はまるで焦げたように黒く変色している
「ボロボロだ…」
ナギはその光景に思わずショックを受けていた
「行くぞ、遺跡はこの先だ」
ナギはコクっと頷くとグレイブの後を追うようについていったーーー
城下町を経由して森の中へと入る二人
道中、マモノの声が聞こえ立ち止まる
「ふん、やはりそう簡単にはいかんか」
「ッ……!!」
ナギは咄嗟に短剣を構えた
しばらくすると草葉の陰から
数体のゴブリンが飛び出した
現れたゴブリンは紫色の体表をしていて
目は赤く光り、時折舌を見せて
「ギゲヘヘ…」と不気味に笑っていた
「気をつけろ、こいつは今までのとは違うぞ」
「うん…!!」
グレイブ達は地面を強く踏み
戦闘体制を強化した
「ナギ、魔石を使え…!こいつらには元の力では通用せん」
「う、はい…!」
魔石を握り、ナギ達の体を赤い光が包み込んだ
更にナギは青い魔石も追加で握りしめた
ゴブリン達が一斉にナギ達に襲いかかる
「フンッ!!」
グレイブはゴブリンの攻撃を大剣で防いだ
わずかに押されるが気合を入れてなんとか押し返した
ナギ
「ハァッッ!!」
ゴブリン
「グビャアッッ」
ナギもゴブリンに回し蹴りを喰らわすが
反撃を喰らい、一歩後ろへ下がった
「(体術が効かない…!!)」
ナギはゴブリンの攻撃を短剣で防ぎながら
反撃の隙を伺う
「オラァッ!!」
グレイブの重い一撃が脳天をカチ割り、ゴブリンはそのまま崩れ落ちた
「くっ…!!」
苦戦するナギ、ゴブリンのパンチを短剣で防ぎ鍔迫り合いのような形になる、そこへグレイブが横に入りゴブリンを殴るように斬り倒した
「ぅオラッッッ!!!」
その後はナギとグレイブのコンビネーションでなんとか残りのゴブリンを倒し、その場は静かになったーーー
「チッ…」
グレイブは予想以上に体力を削られたことに苛立ち、癒しの魔石を使いナギと自分の傷を癒した
その後も休憩しながら森の中を歩き
なるべく戦闘を避けて進んだ
しばらく森の中を進んでいると
たくさんの笑い声のようなものが少し高い位置から聞こえてきた
「キィヒャハハ、、キィヒャハハハ」
甲高い声で笑うその小さな影はまるでハエのように
ナギ達にたかってきた
「い、いたっ…!!」
「くっ…なんだこいつらは!?」
邪悪な声で笑うその姿は
神話に出てくるピクシーを彷彿とさせるものだった
「耳が…!!」
「ナギッッ!!」
グレイブは咄嗟に大剣を構え、払うように
剣を振るった
何体かは逃げ、何体かは剣に当たり死んだが
数が多くて攻撃を休むと再び二人の方へとたかってきた
「キリがない、走るぞ…!!」
「はい…!!」
二人はピクシーを無視して遺跡の方まで全速力で走ったーーー
「ハァハァ…」
無事に逃げ切りナギが息を切らす中、グレイブは彼女の回復を待って遺跡の方へ再び歩き出した
ナギがグレイブの後を追うように歩いていると
直前に横切った岩がボコボコと動き始めた
「!?」
グレイブが異変に気づき後ろを振り返ると
地中からボコッと腕が生えてきて
やがて人型のような巨大な岩が姿を現した
「グオオオオ…」
「こいつは…」
岩だった部分には埴輪のような顔が浮かび上がり、長い胴体に小さな足、太い腕には棍棒が握られていた
ビクッビクッとまるで鼓動のような歪な動きをしながら
怪物は二人に襲いかかった
グレイブは咄嗟に剣を構え
怪物の攻撃を防ごうとした
しかし、怪物のあまりの怪力に押され
土を抉りながら後ろへと後退させられる
「ぐぐぐっ…!!」
ナギはその隙を見て背後から奇襲をかけ
その背中に短剣を突き刺す
「グオオオオン…!!」
怪物は咄嗟に攻撃を解除して
ナギの方へと振り向き棍棒を叩きつけた
ナギはすぐにその場から離れたが
棍棒が当たった地面は強い振動を起こし
衝撃波のようなものを周囲に発した
ナギ
「こいつ…パワーが段違いだ…!!」
「ナギ!!お前は後ろに回れ
俺は前から戦う」
「は、はい…!!」
グレイブの指示でナギは怪物の背後に再び回り込んだ
一方でグレイブも怪物の前に立ち、積極的に剣を振るった
怪物はグレイブの攻撃を棍棒で抑えながら
背後にいるナギの気配も感じとり、ナギが攻撃をしかけた瞬間、上へと飛んだ
ナギ
「!?」
攻撃をからぶったナギの頭上から
怪物の尻が降ってくる
「ナギッッ!!」
グレイブは咄嗟にナギの方へ飛び込み
怪物ののし掛かり攻撃を回避した
怪物が地面に着くと、さっきと同じように
振動が森を襲い、衝撃波が周囲に広がった
「くっ、、」
「いいか、ナギ!俺が合図をするまで
絶対に攻撃をするな!」
「…!?」
グレイブはそう言って怪物の元まで走り
その大きな図体に大剣を叩き込んだ
怪物は再びグレイブに棍棒を叩きつけようとした
しかしグレイブはその瞬間に攻撃を止め、怪物の後ろへと回り込みその背中に大剣を振り下ろす
「グオッッ…!?」
「今だッッ!!」
直後に合図を送られ
ナギは一瞬遅れるも反射的に怪物の元まで走り
短剣を刺しに行った
怪物は咄嗟にグレイブの方を向いたため
またしても背中を刺されることになった
「グアアアアアアッッ」
怪物は雄叫びを上げて
体を振るわせてナギを払ったあと
怪物は二人を薙ぎ払うかのように棍棒を振るった
「苦しんでるぞ、今だ」
グレイブは走り怪物の方へと迫ると
突然ナギの方を向いて叫んだ
「来いッッ!!」
走るナギはグレイブの意図を読み取り
咄嗟にジャンプ
グレイブの手の平を土台に
高く飛び上がり、怪物の頭部に短剣を突き刺した
唸る怪物を見逃さず
グレイブも地上で剣を振り、怪物の腹から足元部分を切り刻む
「グオオオオッッ」
ナギはある程度切りつけたあと
その脳天目掛けて力強く短剣を突き刺した
短剣は深く突き刺さり
衝撃で怪物の頭に亀裂が入った
やがて亀裂は全体まで広がり
とうとう怪物の体は粉々に散らばった
怪物の残骸が辺りに転がる中
グレイブ達は一息ついた後、遺跡を目指し再び歩き出したーーー
やがて遺跡へと辿り着いた二人は
その外観を眺めながら妙な達成感を覚えていた
「ようやくここまで来れたな」
「大変だった…」
ナギはヘトヘトになりつつも気合いを入れ直して二人は遺跡内部へと侵入した
「メイはこの奥にいるんだな
あの時は霧が濃くてよく確認できなかったが」
「はい…私たちはここの最深部で
石の棺桶を見つけて…」
「そこから煙が湧いて出たって訳か」
ナギはぎこちなく頷き、二人は遺跡の奥へと進んだ
「いいか、俺の言ったことは覚えているな?
メイを助けたら」
「船から降りるんでしょ、わかってる…」
「(もう何度も聞いた話だ、小さい頃から)」
ナギは悲しそうな顔をした
「(でもメイを助けても二人で浄化活動を続けるんだ
たとえ船を降りても、それだけは譲れない…これは私たちの贖罪、私たちの責務なんだ…!)」
ナギは改めて心に決意を固め、やがて二人は最深部へと到着した
最深部は昔と変わらず広い空間になっていた
中央の棺桶があった場所には
マユのように膨らみ切った瘴気の塊があった
「こいつは…」
ナギはそっとマユの方へと近づくと
微かに懐かしい匂いがすることに気づいた
「メイだ…!!」
「!?」
ナギは爪でマユの表面を剥がそうとするも上手くいかず、短剣を押し当てノコギリのようにギコギコと動かした
「どけ」
ナギをどかすとグレイブは大剣を上から真っ直ぐ振り落とし、マユの表面をビリッと破いた
すると中からは紫の煙がブワッと吹き
やがて大気に消えた
暗闇でよく見えなかったが
奥には何やら小さな影があるのが見えた
「メイ!!…ッッ!?」
しかしそこにあったのは
かつてのメイの姿ではなかった
目はくすみ、歯は黄色くなり
全身は痩せ細ったミイラのような
干からびた小さな体がそこにはあった
ナギはあまりにも言葉では言い表せない感情に包まれ、口に手を当てながらズルズルと崩れるようにその場に座り込んだ
グレイブは視線を外し苦渋に満ちた顔をした
しばらくするとナギは震えた声でそっと
メイに問いかけた
「メイ…」
"ナギ!!遺跡だって!!"
"ナギ!!行ってみようぜ!!"
"ナギ!!"
「アッ…クッ……」
ナギはしばらく黙り込んだあと
唸るような声で静かに喋り始めた
「わかってたんだ…ずっと…
見えないふりをしてた…」
「10年だよ…?そりゃそうじゃん…」
ナギは悲しくも乾いた笑いを発しながら
静かに喋った
「それでも私は…そう思い込みたかった…
そうしないと、早く心が壊れるから…」
ナギは地面に頭をつけ歯を食いしばりながら
声を震わせた
「もうやだ…もう…やだよぉ…」
ナギは悔しそうな顔で
唸るように泣いた
「……」
グレイブはかける言葉も見つからず
ただ跪き唸る少女を見ては頭の中が真っ白になり脳がざわつくのを実感していた
しばらくしてグレイブは
静かにナギの方を見て口を開いた
「ナギ」
名前を呼ばれるナギだったが
しかしグレイブの言葉は
彼女の耳には届かなかった
それでもグレイブはナギへの問いかけを続けた
「ナギ、メイを…」
言葉を渋るようにそう問いかけるグレイブに
ナギは目を大きく見開いたーーー
封じられた遺跡②(完)