荒廃した街
"パパ、ママ、元気ですか。私は元気です。
船に乗って今日で7日目が経ちました
色々とありましたが慣れてきました。
もっと早く島に行きたかったのですが
今の私では力不足と言われ特訓をすることになりました。いつも寝床に使う部屋に
紙とペンが置いてあったので何かを残したいと思い、日記を書いてみることにしました。おじさんには秘密です。早く強くなってみんなに会いたいな…"
"この船に乗ってから半年が経ちました
まだわからないことがあるけど
必死に特訓をしています"
"今日も鉄球を持ち上げる特訓をしました
力をつけるトレーニングなんだそうです
持ち上げないと船を下ろされるので
重かったけど頑張って持ち上げました"
"最初の何日かは悲鳴をあげていましたが
最近は慣れてきたのか、簡単に持ち上げられる様になりました。始めて3日目の頃には体術や剣術を仕込まれました、初めは難しい動きばかりで戸惑いましたが今はだいぶ動ける様になれました"
"おじさんは最初は怖かったけど
意外と優しくていい人です、強いマモノは全部倒してくれるし、ナギが傷ついたりピンチになると助けてくれます。
今日もご飯を作ってくれました、おいしかった…"
"特訓の時は厳しいけど
それ以外は優しいおじさんです。
「瘴気」という呼び方はおじさんと二人で考えました
紫の煙のままでは呼びづらいからだそうです"
"瘴気は日を追うごとに大きくなっています、私が船に乗る頃はまだ島を包み込む程度だったのに…
また、瘴気が現れてから黒い雨が降る様になりました。おじさん曰く「ろ過」しても飲めないそうです…ろ過ってなんだろう?"
"最近、実技を学ぶ様になりました
最初はボロボロでしたが
力の魔石に頼りつつなんとか弱いマモノなら倒せる様になりました
おじさんには「ここぞという時にしか使っちゃダメだ」と言われましたが、つい反射的に使ってしまいます。これだけは慣れません…"
"あれから2年が経過しました
特訓はまだ終わっていません
マモノと戦っては食料を調達する日々が続いています、まだまだ強いマモノには勝てそうにないです"
"あれから4年が経過しました
ようやく強いマモノにも傷を負わせることができました、グレイブにはまだ特訓が必要だと言われましたが強くなってるのを実感します"
"あれから6年が経過しました
今日は嬉しい知らせです、ようやく強いマモノを倒せるようになりました
途中で黒い雨が降って大変だったけど
強くなってる事を実感しています、みんなのところに行くのもそう遠くはなさそうです"
"あれから7年が経過しました
今日は不思議なことが起きました
マモノを倒したら空が晴れたのです。
今までは無敵だと思っていたのですが
もしかしたら瘴気は消せるのかもしれません…"
"あれから8年が経ちました
特定のマモノを倒すと空が晴れることがわかりました。瘴気は消せる、無敵じゃないんだ…
私は大事な資料としてこの日記を保管することに決めました。活動に有益となるかもしれません…"
"浄化活動を始めてから半年が経ちました
だいぶ背も伸びてしまいましたが、代償だと思えば苦にはなりません、私は世界を救いたい…こうなってしまったのは私達の責任だ
必ず瘴気を浄化し、私たち姉妹の贖罪を果たしたい"
"あれから9年、瘴気はもはや
手のつけられないところまで広がってしまった
長すぎた…未だに他のマモノと瘴気由来のマモノとの見分けがつかない…私はみんなを助けたかった
もう無碍にはできない、少しでも早く瘴気をこの世から抹消したい"
"この船に乗ってから私は強くなることだけを考えた、厳しい特訓にも耐えた…全てはメイ達を助け出すために
あれから10年…私は特訓の最終段階へ入った"
ーーー
「はぁ…!!」
「グヴェアッ」
短剣を振り下ろし、マモノを倒すナギ
「行くぞ!!」
グレイブの叫びに頷き
ナギは荒廃した街を駆け抜けて行った
「パディーシェ…かつては人々が盛んに暮らす活気に満ちた街だったが
時代と共にみな新しいものへと流れ
今では誰も近寄らなくなりマモノの住処となった」
「(沼地の時は失敗したけど
今度こそ…!!)」
ナギは息を切らせることなく
街中を走り続ける
道中ゴブリンやヒトのような鳥と遭遇し
倒しながら進んだ
しばらくすると建物の上から
二体の巨大な影が降りてきた
それは翼を生やした大きな彫刻、ガーゴイルだった
「くっ……!!」
「ふんっ…!!」
二人は構え、ガーゴイルと対峙した
大きな腕を振り下ろすガーゴイルをかわし
その体に短剣を深く突き刺すナギ
グレイブは大剣を豪快に振り下ろし
ガーゴイルの体半分を砕いた
しかしガーゴイル達はそれでも攻撃の手を休めずナギ達へとしぶとく迫った
ナギはガーゴイルの体を登るように走り
その顎に蹴りをお見舞いした
ガーゴイルは衝撃で地面に倒れそのまま粉々になった
グレイブもガーゴイルの足を破壊し、動きを封じて腕、それから頭を順に砕き胴体だけを残して戦闘を終えた
ナギはグレイブの方を見ると
二人は頷き合い次のエリアへと進んだ
街を走っていると
変な機械が徘徊してるのが見えた
「妙なマモノだ…」
グレイブが呟くと
直後地中がボコボコと膨らみだし
やがて巨大なワームのようなものが地面から這い出てきた
「…!?」
ワームはナギ達の方を見ると間髪入れずに
その重そうな体を叩きつけてきた
二人は咄嗟に二手に分かれるように回避し
剣を構えた
ワームは静かに体を起こし
小さな足をうねらせながら
今度は体を縮こませ勢いをつけながらジグザグに突進してきた
攻撃をかわしたグレイブはその体に大剣をぶつけた
しかし割と弾力があり、傷をつけることができなかった
ナギは地中から生えた根本部分まで走り
その部位を短剣で何度も切りつけた
グレイブは
ナギが切りつけたその部位に
大剣を斧のように叩きつけ
引いたり押したりしながら素早く根元と体を切り離した
ワームはしばらく叫び、暴れながら
徐々に勢いを弱らせ
やがて完全に動かなくなった
「ふぅ…」と一息こぼすナギ
グレイブは「行くぞ」と言って先に進み
ナギもその後をついていった
街の中心に出ると
中央に何やらうごめく物体が見えた
それは赤く大きなツボミのような形をしていて
上部には女性の上半身が、下部には4匹のワームがそれぞれ生えた異形の姿をしたマモノだった
「こいつが親玉だな」
ナギはコクっと頷くと
二人はそれぞれ剣を構え戦闘体制に入った
ナギはワームの攻撃をかわしながら
マモノへ近づくと、ツボミを足蹴に
女の部位まで飛び、その体を短剣で切り裂いた
しかしあまり効いてる様子はなく
裂かれた部位も瞬時に再生した
グレイブ
「フンッ!!」
グレイブがワームを破壊すると
マモノは嫌がる反応を見せた
グレイブ
「ナギ、本体はワームだ!」
ナギはグレイブの声を聞くと
すぐにその場から離れワームの方へと攻撃の矛先を向けた
「ふん!!」
「はぁ!!」
襲いくるワーム達の攻撃を冷静に避けながら
確実に倒していき
やがて全てのワームを破壊すると
女の部位は天を向き雄叫びを発した
「「 ホオオオオオオッッ!! 」」
「くっ…!!」
「ぐっ…」
辺りに強い衝撃波が鳴り響き
怯む二人をよそに
マモノは再びツボミからワームを生やし
二人に襲いかかった
その後も二人はワームを倒し続け
残る1匹も息のあった連携プレイで撃破した
「ふんっ!!」
「ハァ!!」
「ホアアアアァァァァ…!!」
マモノが断末魔を上げると
ツボミの部分は枯れ
女の部位もぐったりとし
やがて動かなくなった
マモノを倒すと空は晴れ
大地に光が差し込んだ
「これで特訓は終わった…グレイブ」
グレイブはナギの方を見ると深く頷いた
「ようやくこれで島へ行けるんだね…
メイ…みんな…やったよ」
ナギは空を見上げ、涙を浮かべた
"ようやくみんなのところに行ける
パパ、ママ、そしてメイ
長い間待たせてごめんなさい
必ず助けに行きます"
ナギは喜びを噛み締め静かに拳を握りしめたーーー
荒廃した街(完)