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海賊姉妹  作者: 柳田健二
6/8

離れの沼地

『瘴気で覆われてから

この世界は暗闇になった』


茶屋で一人、休息を取るナギ


『黒い雨や雷…

ここ最近の異常気象、マモノの出現

どれも瘴気が原因だ』


『雨に打たれたものはドロドロに溶け、

雷に狙われたものは決して逃れられない』


『瘴気由来のマモノを倒せば雲は晴れ

一部分だが大地には光が戻る』


『私はこれを浄化と呼んでいる』


「(瘴気は消せる…!不死身じゃないんだ!)」


『浄化活動を始めてから数年もかかった

この世界は思ったよりも広い

全ての大陸を回るには気の遠くなるような旅路だ』


『でも私は諦めない…グレイブはああ言ってたけど、たとえ船を降ろされても私はこの活動を続けるつもりだ』


『元々私たちが蒔いた種だ

何を言われようと必ず全ての瘴気を浄化して世界を暗闇から解放する、それが私たちの贖罪だ』


ナギは密かな決意をその身に固めていたーーー


ーーー


「そこの君、君だよ」


「?」


「そんなしょげた顔して、せっかくの美人が台無しだよ!」


街を歩いていると怪しげな男に呼び止められるナギ


「ここは憩いのテーマパークだ、ほら、かわい子ちゃんがいっぱいだよ!さぁさぁ入った入った!」


「あ、ちょっと…、私は…」


ナギは強引に背中を押され怪しげな店へと押し込められた


「えっと…」


「うん!!よく似合ってる!!」


気がつけばナギは男に言われるがままに

バニーの衣装を着せられていた


「じゃあね、その可愛いバニーちゃんで

お客さんをたんまりと捕まえて頂戴!!

休んでる暇はないよほら行った行った!!」


シャッとカーテンを閉められ、ナギは全体ピンクな店内に放り出される


「……?」


ナギは戸惑い、とりあえず出口を探そうと

店内を歩いた


客席には同じバニー衣装を着た女性が男性に対し接客を行なってるのが見えた


「ラブラブラブリン♪ラブチュッチュッ♪」


しばらくすると遠くの席で男がナギを呼んでるのが見えた


「おーい、こっちだよ早く早く」


ナギは自分が呼ばれてる事に気づき

男の方まで歩いた


「な、なんでしょうか」


「なんでしょうかじゃないでしょ

早くこっち座って」


ナギは言われるがまま

男の隣にぎこちなく座った


「あの…」

「シャンパン飲める?お姉さん!シャンパン!」

「シャンパン入りまぁす」

「シャン…え?」


戸惑うナギをよそに男はシャンパンを注文した


「はじめて?緊張してる?

ダイジョーブ、すぐ慣れるよ」


男はそう言ってナギの足をなぞる様に触った


「ふふ、いい足だね柔らかい」

「あ、あの…」


「年はいくつ?」


男の問いに戸惑っていると

バニーがシャンパンを運んできた


「どうぞシャンパンです」


男はシャンパンを注ぎ、ナギに手渡すと

「乾杯!」と言って一気に飲み干した


「あのごめんなさい、ここって…」

「あーちょっと、もう時間ですよ」


ナギが尋ねていると

バニー服を着た女性がせかせかと

話しかけてくる


「あんた新人?悪いけど席移動してくれない?時間ないからほら早く」

「え、あ、はい…」


ナギは訳が分からず、とりあえず

言われた席へと向かった


「(どうしよう…グレイブ…)」


「新人ちゃん、隣の席お願い」

「早く!」

「あ、はいごめんなさい…」


その後もナギは他のバニーに睨まれながら

いそいそと席を移動し続けた


「ちょ、邪魔ッ」

「あ…う…」


途中でバニーに肩をぶつけられ

ナギは転倒してしまう


「痛つつ…」


「あの、大丈夫ですか…」


腰を抑え起きあがろうとするナギに黒髪のバニーが手を差し伸べてきた


「新人さん、大変ですね

僕も…最近入ったばかりで…」


かのんと名乗る黒髪のバニーと

控え室で話をするナギ


「過重労働で休む暇なし…慣れるまで時間がかかると思いますが…でもその分、給与はいいので

め、めげずにお互い頑張りましょう!」


微笑み励ます黒髪のバニーに

ナギはこれまでの経緯を話した


「瘴気…?浄化活動…?

マモノを倒して回ってるんですか!?」


かのんは驚いた顔をしている


「そうなんですか

ここのオーナーは強引なので…すみません迷惑をかけて…」


「実は僕もオーナーにそそのかされてと言うか

半ば強引に…いえ、僕も悪いのですが

貧乏ゆえ…」


「?」


「店の方は問題ないのですが…あ、いえ、こちらの話です!それより…大丈夫なんでしょうか

待たせてる人がいるのでしょう…?」


ナギは深く頷いた


「オーナーに詳しい事情を話して

なんとか解放してもらうしかないですね」


2人がうーんと唸っていると

他バニーが控え室に入ってきた


「あんた達何サボってんの?

お客さん待たせてるから早く行って!」


ナギは強引に手を引っ張られ

部屋の外へと連れ出された


「とりあえず、オーナーには僕から言っておきます、ナギさん、もうしばらく辛抱してください」


ナギはバニーに連れられて

客席へと座らされた


「えへへ、可愛いね!」

「……」


「名前は?へぇ、ナギちゃん…

ナギちゃんって言うのかい?素敵な名前だね…!」

「緊張してるのかい…?ナギちゃんは可愛いね…!」


ハァハァと吐息を吐きながら

ナギの胸を凝視する中年男性


「ナギちゃん…!ナギちゃんはオッパイがプルンプルなんだね…!」


中年の男性は手をワシワシとしながらナギの胸を触ろうとする


「(なんだかイケない事をしてるような気がする…)」


ナギは内心、不安に感じながらも

されるがままにされた


「オーナーには話してみたのですが

ダメでした…忙しいみたいで

僕みたいな下っ端では話すら聞いてもらえなかったです…」


かのんは申し訳なさそうな顔をしていた


「ごめんなさい…お役に立てなくて…」


落ち込んだ顔を見せるかのんを前に

居た堪れなくなったナギは首を横に振り、「君も大変だね」と返した


「いえ、僕はこの仕事には特に不満はないんです

お金も多く支払われるので、辛くても多少は我慢できる…」


「ある事を除いては…」


ナギは「ある事?」と返す


「こんな話、ナギさんにしてもしょうがないと思うのですが…」


「最近あるお客様に目をつけられてるみたいで

断れなかった僕も悪いのですが」


かのんはとある客について

詳しく話した


「機嫌を損ねないよう接客をするうちにその人、本気になってしまったみたいで…」


ナギは「はぁ…」と頷く


「好意を持たれてることに関しては

別にどうだっていいんです、問題はもっと他にあって…」


するとかのんはもじもじと言いにくそうに口を開いた


「…こんな格好をしてますが

実は僕、男なんです」


それを聞いてナギは驚いた顔をする


「オーナーに君なら似合うよとそそのかされて…

初めは悩んだんですが、ついお金欲しさに…」


かのんは後ろ暗い顔をした


「今まではなんとかやり過ごしてきましたが

もう誤魔化しきれないところまで行ってしまって

事実がバレてしまったら僕は店にはいられなくなる…」


かのんはギュッと拳を握りしめて

悲しそうな顔をした


「すみません、こんな話ナギさんに言っても…

オーナーには何とか説得してみます!ナギさんそれまで…」


しかしナギはその話を聞いてある事を考えていた


「え!?協力してくれる!?」


ナギは店を抜けるチャンスだと思い

かのんに協力する事を提案する


「い、いや!いいんです!

いくらなんでもそんな…今日初めて会った人に

しかも新人さんにそんな…」


しかしナギは折れず

「任せてほしい」と強く胸を叩いた


その後、ナギは試着室に忍び込み

自身の服を手に取った


タンクトップに黒色の羽織

黒いズボンにサンダルを履いて店を後にする


かのんから聞き出した場所へと向かい

そこで男を見つけ声をかけるナギ


「なんだね君は、突然話しかけてきて」


ナギはこれまでの事を男に話した


「なに、君はかのんの知り合いかね

ほう…私たちの恋路を邪魔するつもりか」


メガネをきらりと光らせながら

男は反発する精神を見せた


「悪いけどね私とかのんは

すでに深い愛へと進んでいるのだよ

邪魔立てする気なら容赦はしないぞ」


ナギは話が通じないと判断すると

あらかじめ「かのん」から貰ったメモを取り出し男に説得を試みた


「なに?それは客と店の立場だから

仕方なく接しているのだと?貴様、知った様な事をぬかしおって…」


「そんな出まかせには私は屈しないぞ

何が目的かは知らんがな、私にはわかるのだ彼女の瞳、あの笑顔全て本物だ」


「私はこれまで色んな女の子と接してきたが

あの子が一番私を見てくれていた

本心で私の愛を受け入れてくれたのだ」


「ラブラブラブリン!ラブチュッチュッ!」


「……」


ナギは呆然と立ち尽くし、なんとかして

男にかのんが迷惑していると伝えた


「なに?もう店には近づかないでほしいだと?

それは誰が言ったのかね?ん、かのん?

なぁにをバカなことを…はっはっは

さては君は私と彼女の関係を見て嫉妬しているのだな?」


「わかるぞ私には…確かに君はスタイルがいいし

胸も大きい、女としては申し分ない体だ、だがそのオスのような筋肉がそれらメリットを無に返している」


「はっきり言ってやろう、君はモテないだろう?」


「私たちに嫉妬する気持ちになるのは理解できるが、もっと他を見てみたまえ、そんなことでは

一生男には相手にされないぞ?」


話はどんどん拗れていき、やがてメモに限界を感じたナギはとうとう万策がつき

メモには書かれていないことを言ってしまった


「なに、実はかのんは男で

貧乏に目をつけたオーナーの強引な斡旋で

仕方なくバニーの格好をして

バレずに働いているのだと…!?」


「……」


「ふっ、何をバカなことを…」


男は飽きれる様にナギの話を否定した


「もっとマシな嘘をつけんかね?

どうみたらあの可憐な美少女を男だと見間違えるのかね」


男は腰に手を置き、鼻息を荒くさせた


「そんなに私たちの仲を引き裂きたいのか貴様は

そんなに私と付き合いたいのか?」


ナギは驚いて必死に首を横に振る


「いいだろう、ならば私が直接行って確かめてきてやろう!あの可憐な美少女が本当に男であるかどうかを、フッ!結果は見えているがね!」


「どきたまえ、かのんちゃん!今迎えにゆきます!」


ナギは去っていく男を見て

呆然と佇んだが、すぐにまずい事になったと

理解して一旦店まで戻り「かのん」と合流を図った


「え!?男だとバラしてしまったんですか…!?」


ナギは「かのん」を連れ出し、飯屋で事の顛末を話した


「そうですか…いや、でも、いいんです…

元々…僕がいけないんです、もっと強く断っていれば…お金欲しさに目が眩んだんです

バチが当たったのでしょう…

すみません…変な事に巻き込んでしまって…」


かのんは顔を下に向けて悲しそうな顔をしていた


「もっと真っ当な道を探してみます…」


かのんはぎこちない笑顔を見せ

ナギは心から申し訳ない気持ちになった


「ナギさんは、これからも冒険を続けるんですよね…短い間だったけど、人と話せてよかった

…オーナーとはこれから話をつけてくる予定です、色々とありがとうございました」


ナギはかのんと別れ、店を後にしたーーー


目的地に着くと遠くで

大剣を背負ったグレイブの後ろ姿が見えた

「グレイブ!ごめん!」


赤いバンダナから覗く青い目が

ナギを睨んだ


「遅かったな、随分とお楽しみだった様だが」

「あ、いや…ちが…」


ナギはグレイブと合流し、誤魔化しながら次のエリアへと進んだ


「ここは離れの沼地、

島でも随一の湿地帯だそうだ」


ジメジメとした空気に

ナギは汗を流していた


「沼には気をつけろ、足を取られると

肩まで引き摺り込まれるぞ

何人も命を落としてるらしいからな」


「マモノはこの奥にいるはずだ

行くぞ」


ナギはグレイブの後に続く様に歩いた


道中、奥まで進んでいると

遠くにある枯れ木が突然ボコッと歩き出し

根っこの部分をうねうねと動かしながら

ナギ達の方へと向かってきた


ナギ達は慌てずに剣を構え

枯れ木の方へと走った


初めは攻撃を弾かれて少し手間取ったが

すぐに戦略を変え

グレイブとナギはそれぞれ逆方向から剣を叩き込んだ


ナギとグレイブが互いに合図を送ると

そのまま剣を押し込んでそれぞれへと着地した


枯れ木はその反動で真っ二つに切れて奥の沼に突っ込みそのまま沈んでいった


ナギ達が次のエリアへ進もうとすると


泥の形をしたマモノが現れて

泥の塊を投げてきた


ナギ達がそれをかわすと

こんどは背後から飛び出た魚が

泥を投げてきた


それぞれ蹴散らすと今度は赤い体色をした図体のデカい怪物、オーガが出現し、ナギ達の行手を阻んだ


オーガは仲間を呼び寄せてナギ達に襲いかかった


ナギ達は冷静にオーガ達を迎え撃ち

振り下ろされる棍棒をかわしながらそれぞれ蹴散らしていった


グレイブは赤い胸当てを守る様に

オーガの攻撃を受け流し、反動で泥を踏み

黒い靴と膝当てのついた小麦色のズボンを汚した


左肩につけたパッドの汚れを拭き取り

冷静に体制を整える


ナギは向かってくるオーガの首に足を引っ掛け横にバキッとへし折り、後ろへと叩き込んだ


そしてすぐさま跳ね起きして

次に向かってくるオーガの胸に短剣を刺し

回し蹴りで吹き飛ばした


オーガをあらかた片付けると

ナギ達はマモノを倒しに沼地を進んだ


途中でまたしてもマモノに行手を阻まれるが

慌てず蹴散らしながら進んだ


やがて大きなカエルに行手を阻まれてしまうナギ達


カエルはボヨボヨと揺れながらナギ達に攻撃を仕掛けてきた


「あのカエル…私たちが昔戦ったのと同じだ…」


ナギはカエルを見てふと昔樹海で戦ったカエルのことを思い出していた


グレイブはキリがないと言って

ナギに合図を送り、マモノ達を駆け抜けた


やがてナギ達は沼地の最深部へと到着していた


湿地の気温で浮かんだ水蒸気から

雨が降り注ぎナギ達の服を濡らした


「大丈夫だ、こいつは瘴気の雨とは別物だ」


思わず手で払うナギを見てグレイブは冷静にそう諭した


「にしても霧が深い、奥が全く見えんな」


「……」


ナギはここのどこかに瘴気由来のマモノが潜んでると警戒して辺りを注意深く見渡した


すると遠くの方で不気味に佇む影があった


黄色く逆立てた毛に稲妻を走らせる

それはまるで神獣、麒麟(キリン)のような姿をしたマモノだった


マモノは周囲に放電を浴びせ

2人に襲いかかった


グレイブは突進を避け、その太い足に剣を叩き込んだ


しかしその足はまるで金属のように固く

グレイブの剣は弾かれてしまった


「くっ…」


後ろに下がり、体勢を立て直すグレイブ


マモノは全身に雷を浴びながら突進してきて

遠くに行った後、すぐに戻ってきて走った跡に雷を落としながら2人の方までまっすぐ向かってきた


グレイブ達は二手に分かれるように避けて

マモノに近づきすぎないように距離を置いた


グレイブはナギに相槌を送ると

マモノの方まで走り、剣を何度も叩き込んだ


グレイブが囮になってる間にナギは

別の方からマモノの背中に乗り首筋を何度も切りつけた


マモノは暴れ狂い、グレイブを蹴り飛ばすと

ナギも振るい落とし、グレイブの方へとまっすぐ向かってきた


グレイブは蹴られる直前に剣でガードして致命傷を避けており

マモノが近づいてくるのを今かと待ち堪えた


「ヒヒーン」


マモノはグレイブの元まで来ると

その重い足で踏みつけようとした


その瞬間、グレイブは剣を突き出し

マモノの胸に深く突き刺した


「ヒギュッ…」


「(ナギッッ)」


グレイブが目で合図を送ると

ナギが再びマモノの背中に飛び乗り

その分厚い首筋に短剣を何度も刺したあと

トドメとばかりに深く突き刺した


ナギが飛び降りると

マモノは苦しみに悶えたのち

崩れるように倒れ込み、やがて息をしなくなったーーー


「空が…」


マモノは倒したが

ナギは不安な顔をしている


「どうやら違ったようだな

残るはこのエリアだけか」


グレイブは地図を取り出し

ナギに合図を送る


「行くぞ」

「う、うん…」


ナギはグレイブについていき、沼地を後にしたーーー



離れの沼地(完)

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