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海賊姉妹  作者: 柳田健二
5/8

奪われた楽園

船の中、ナギはある夢を見ていた


『お願いします…ひぐっ』

『ふざけるな、お前の様なガキを連れていって俺に何の徳がある?』

「お願い…」


ナギの頬には一滴の涙がこぼれていたーーー


"瘴気、それは遺跡から漏れ出た不気味な煙

初めの頃は小さかったそれも

日が経つに連れだんだんと大きくなり

やがて世界を飲み込むほどにまでなっていた"


カチャカチャと音を鳴らし

箱の中から何かを取り出す少女


"重い〜、、"

"もう限界か?やはり船から降りるか?"

"…!?、、い、嫌だ!!"

「(強くなってみんなを助けるんだ!!)」


ナギは甲板に飛び出し、ある人物の名を呼んだ


「グレイブ!!」


海賊ハットを被った少女の

目線の先には壁にもたれかけ腰を下ろす男の姿があった


「似合う?」


男はナギに気がつくと

「フッ…」と冷たく鼻で笑った


"この船に乗ってから私は強くなることだけを考えた、厳しい特訓にも耐えた…全てはメイ達を助け出すために


あれから10年…私は特訓の最終段階へ入った"


海を渡る船はやがて一つの島へと差し掛かった


「あれだ」


島を見つめるナギ


「いよいよだね」

「抜かるなよ」

「うん、わかってる(メイ、みんな、待っててね

必ず助けに行くから…)」


ナギは決意を胸に

船はゆっくりと島へ近づいたーーー


船を降りた二人は早速島を散策し

町で情報を集め、ある場所へと向かっていた


「どうやらこの三つのエリアに

強力なマモノが徘徊してるらしい

そいつらの内のどれかが瘴気由来のマモノだ」


地図上に三つのエリアを指でなぞる男


「まずはここに向かうぞ」という男の問いに対しナギはコクっと頷き、そっと後ろを歩いた


やがて二人は静かな森の中にひっそりと佇むアーチの前に辿り着く


「こいつの先に目標がいる

気を引き締めていけ」


ナギは真剣な顔つきになり

アーチを睨むように眺めた


「ーーーそれから念押しするが、ナギ

メイを無事に助け出したら

お前もう船から降りろ」


ナギは男の言葉に驚いた顔をする


「金輪際、この件にはかかわるな

そのなんとかって言う活動も俺が引き継ぐ」


ナギは徐々に目線を下にうつす


「行くぞ」


「……」


ナギは少し悲しそうな顔をしながら

男の後を歩いたーーー


たくさんの花で飾られたアーチ、それを潜ると

目の前には大きな花園が広がっていた


「ここはかつて島の楽園だったらしい

美しい緑や花々に囲まれて

人々は活気に溢れ栄えていたそうだ

今では見る影もないがな」


付近には四角い草で囲われた花々や木々など

が生い茂っている


「紫の雲が現れてから魔物が徘徊するようになったらしい

おそらくここが瘴気のマモノの苗床(なえどこ)だ」


グレイブの話を聞いてナギは複雑そうな顔をした


まばらに敷かれたタイルを歩き、奥へと進む二人

階段を登ると噴水があり、その先にはまっすぐの道と左右に並んだ花壇が見えた


花壇の周りには大きな羽虫が飛んでおり

時折、蜜を吸っている


道中、ゴブリンと出くわした二人は

慌てず剣を取り出し、冷静に対処した


「グルァァァ」


「ハァッッ!!」


ナギは襲いくるゴブリンに二発の蹴りをお見舞いしたあと持っていた短剣で心臓部分を深く突き刺した


ゴブリンは白目を向いて悲鳴を上げながら仰向けでその場に倒れ込み、息をしなくなった


しばらくするとガゼボのある広いエリアに到着し、二人はそこで休憩を取ることにした


レンガの石積みにナギはそっと腰掛け、男の方を眺めながら先ほどの言葉を思い出しては、ぐむっと口を紡いでいた


グレイブ

「この辺りにはいなさそうだ」


ナギ

「……」


ナギが何かを言いかけた時、突然地鳴りが響き、彼女の腰掛けていた石積みが競り上がると

巨大な石の怪物が姿を現した


ゴーレム

「グオオオン…!!」


グレイブ

「油断するな」


ナギ

「はい…!!」


二人が構えるとゴーレムの拳が勢いよく地面に叩き込まれ、その周辺には大きな土煙が舞い上がった


後退した二人が着地すると

グレイブが素早くその拳を切りつけにかかる


「ふん、はっ」


「グゥゥ…」


しかしあまり効いてる様子はなく

ゴーレムのアッパーがグレイブに襲いかかった


危機を察知したグレイブがすぐさま後ろへ下がると戦略を変え再び走り出した


今度は足の方へ向かい、力強く大剣で何度も叩いた


ゴーレムは鬱陶しそうな様子で

グレイブ目掛けて拳を振り下ろしてくる


するとグレイブは待ってたとばかりに

拳を避け、ハンマーのように振るった大剣を

ゴーレムの腕に叩き込んだ


攻撃自体は表面に少し傷をつけた程度だったが

ゴーレムが腕を上げようとすると

叩かれた部分がバックリと真っ二つに割れてしまった


よろつくゴーレムをグレイブは見逃さず

無防備となったその足に再び切り掛かりに行った


何度も同じ部位、同じ場所へ剣を叩きこみ

だんだんと脆くなっていく軸の部分


破片も飛び、嫌がるゴーレムは

グレイブを踏み潰そうと

その切られた足を持ち上げようとする


しかしゴーレムの足はさっきの腕と同様に

ボコッと割れてしまい、完全にバランスを崩し

膝をつくように倒れた


グレイブは後ろにいるナギに合図を送ると

ナギはコクっと頷き、ゴーレムの方へ走り勢いよくジャンプ


ゴーレムの瞳に短剣を深く突き刺した


ゴーレムは崩れるように倒れて

やがて息をしなくなったーーー


「ふぅ…」

「行くぞ」


グレイブは剣を納め、二人は再び歩き出す


道中ナギはずっと喉に引っかかりを感じており

グレイブの背中を見つめながらふと声をかけた


「あの…」


「どうしてもダメですか…?」


するとグレイブは足を止め静かに口を開いた


「ダメだ」


「瘴気…こいつはガキが背負うにはあまりにも重い、今は平気でも必ずどこかでガタがくる」


空を見上げながらそう語るグレイブ


「私はもう、子供じゃありません…

あなたの元で何度も特訓を重ねました

挫折もありましたが…10年戦ってきた」


「ガキは口だけだ

少し齧った程度で全てを知った気でいる

世の中はそんなに甘くはない」


「ならこれから学んでいきます…、私は

果たしたいんです…瘴気をばら撒いてしまった贖罪として…」


「贖罪だの浄化がなんだの

安く使ってる内はまだまだガキだ

お前は何も分っちゃいない」


「でも…」


「お前の目標はあくまでメイを救出することだ

それ以外は何も考えなくていい、わかったな?」


「ぐっ……」


ナギは手で顔を覆い隠し

ふるふると体を震わせながら

必死に歯を食いしばった


「行くぞ」


ナギはコクっと頷き、静かにグレイブの後ろを歩いたーーー


その後もナギ達は花園の中を歩き続けた

道中、花に擬態したモグラのようなマモノや

歌って踊る奇妙な植物を蹴散らしながら

やがて川の音が流れる広間へと到着した


そこは水が貯められた四つの凹みとその中央に

ポツンと置かれた女神像以外何もない場所だった


二人が女神像の前を通り過ぎると

女神像の目が突然光り出し、二人の背中を捉えた


「!!」


危険を察知した二人が二手に分かれるようにその場から離れると直後に赤い光線が二人のいた地面を抉った


「こいつは…」


二人はすぐさま剣を構え後ろを振り返った

そこには眉間にシワを寄せて鬼のような形相を浮かべた女神像の姿があった


「行くぞ!!」


「はい…!!」


グレイブは早速ナギに合図を送ると

二人は女神像へと走り、その硬そうな体に

剣を振り下ろした


しかし、女神像には通じず

目から放たれた赤い光線が二人を襲った


二人が離れると

女神像はどこからともなく二体の天使像を召喚した


「ウフフ、アハハ」と不気味な笑顔を向ける天使達にグレイブは剣を持ち変え襲撃に備えた


弓を持った天使はグレイブ目掛けて矢を放ち

何も持たない天使は地上に手をつけて

赤子のようにハイハイとナギの方へとまっすぐ向かってきた


首をブンブンと振りながら迫ってくる天使を前にナギは慌てず冷静に避けて、攻撃の隙を伺う


「(魔石はここぞと言う時に使え

特に力の魔石は元ある力を倍にする代物だ)」

「(マモノを倒し、力をつければその効果は何倍にもなる)」


ナギは魔石を取り出すと強く握りしめた

すると赤い光がナギを包み込んだ


天使は方向を変えて

ズンズンと振動を鳴らしながら

ナギの方へと向かってくる


ナギは構え、地面を強く踏み締め

向かってくる天使を回し蹴りで粉砕

頭部を粉々に破壊した


破片が飛び散り、残された天使の体がズズゥンと無造作に地面に倒れた


驚いた女神像は次々に天使を召喚し守備を強化した


ナギは天使達の攻撃を避けながら

女神像の方へとまっすぐ走り、その体に蹴りを放った


つま先をその体にめり込ませると、ナギは駆け上がるかのように何度も足をめり込ませて

女神像の頭付近まで登り切ると

その顔目掛けて回し蹴りを放った


衝撃で女神像の頭はバキッと吹き飛び、地面に激しく転がった


女神像の頭は暴走して目からたくさんのビームを右往左往に放ち、自身が召喚した天使や木々などを破壊した


「フンッッ!!」


グレイブは

ハンマーのように振り下ろした大剣で

女神像の頭を粉々に破壊した


女神像の体は光を放ち、やがて砂のように崩れ落ちて行った


女神像が破壊されると

空の曇りが渦状に動き、やがてゆっくりと晴れ

戦闘を終えた二人を明るい光が静かに照らしたーーー



奪われた楽園(完)

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