封じられた遺跡
「これでよし、飾り物もある、服もある
あとはパレードを待つだけだ」
「ふふ、楽しみね」
買ってきたものを机に並べる父と母
メイ達はそれらを物色しながらウキウキとしていた
朝になり、メイ達は港町を訪れていた
パレード前日とあってか
港にはたくさんの船が停泊していた
両親は城下町に用事があり
その間、メイ達はユウトやその友達と一緒に
かけっこなどをして遊んでいたーーー
「ほう…」
「あらあら」
両親は街の展覧会で
壁に飾られた一枚の絵を眺めていた
「素敵な絵でしょう」
ふと二人に話しかけたのは
豪華なドレスに身を包んだ少し年配の女性だった
「おぉ…これは女王陛下」
深々とお辞儀をするメイの父に対して
女王は「ふふふ」と笑いながら応える
「そんなにかしこまらなくても良いのですよ
昔は我々一族も同じ人間であることを忘れ
民を道具のように扱う愚かな歴史がありましたが、しかし先代様のお叱りによりそれまでの体制は崩壊
今では民も城も関係なく、みな対等なのです」
「私の存在などもはや偶像のようなもの」
女王は微笑みをかけながら続ける
「あの愚かな時代が過ぎ去り、平和となった今
我々にできることは何か、何を残せるか」
「パレードには民達の喜び、希望、願い
全てが込められています、これからの時代、私たちが残すものは過去のつぐないや懺悔ではない
民達への貢献、献上、平和の維持
それが私たち王族に課せられた責務なのです」
「ーーー時々思います、私はどうしてこの家系に生まれてきたのだろうと…血塗られた歴史は一生消えはしないし、人々の悲しみ、そして怒りを拭うことはできない」
「いえ、あなたは立派な方です
我々などまだまだ半人前」
「ふふ、ありがとう」
「将来私たちのような存在が完全にいなくなり
みんなが仲良くなれるそんな時代が来ればいいと毎晩のように思います、人間である以上それは難しいのかもしれませんが…」
俯く女王に
両親は優しい顔を向けたーーー
「はいお前鬼!」
「ああ…!!もう、ユウトー!!」
ユウト達のあとを追いかけるメイ
その後ろをナギもついていく
「あっ!」
「でっ…!?」
メイは走るのに夢中で前を見ておらず
誰かとぶつかり転倒してしまった
見上げるとそれは冷たい顔をした大きな男だった
「ひえっ…」
赤いバンダナに青白い肌の男は凍てついた目でジッと姉妹を見下ろしていた
「ご、ごめんなさい…」
メイはその気迫に押され、無意識に謝ってしまったーーー
メイ
「ーーーあんたが参加しないから
私ずっと鬼じゃん」
ナギ
「男の子みんな足速いから…」
ユウト達と別れ、街中を歩く二人
「にしてもさっきの男…怖かったなぁ、なんだあの顔…」
ふと男の顔を思い出し身震いするメイ
ナギ
「ま、また、ちびりそうだった…」
メイ
「この世のものじゃない…絶対何人か亡き者にしてる顔だよあれ」
そうした話をしながら盛り上がっていると
遠くの方で両親が歩いてくるのが見えた
「あ、パパ!ママ!」
姉妹達は嬉しそうに両親の元へ駆けて行った
「パレードが始まるまで宿を取ることにしたんだ」
「夜には催しとして花火大会が開かれるそうよ」
「すごいよ!お泊まりだ!」
ウキウキとするメイとは対照的に
「えぇ…」と嫌そうな顔をするナギ
そして夜になり、街ではパレード開催前の催しとして花火大会が開かれていた
街の大人や子供達は浴衣を着て
大きな賑わいをみせていた
花火が上がり、灯りが灯った橋の上でユウト達と話すメイ
「なんだお前、浴衣なんか着て」
「うるせぇ、別に着たくて着てるんじゃねぇ」
「母さんがうるさいんだよ、祭りの日は浴衣を着るのが常識だって」
黒い浴衣にうちわをそよぐユウト
「(私も着たかった…)」
ナギは羨ましそうにユウトを眺めている
「あんたまだ親の言いなりなのか
そんなんで海賊が務まるのかねぇ?
私たちはもう一端の大人だって認められて
買い物だってできるようになったんだぜ?」
「なぁ?ナギ」
「う、うん…」
「うるせぇなぁ、こっちは親が厳しいんだよ
お前達と違ってな」
いがみ合う二人
そんな二人を放って
ナギは一人森の方へと歩いて行った
「仲がいいですね〜」
「まるで夫婦ですな」
「もしやお二人とも付き合っているのでは?」
ユウト
「バッ、、そんなんじゃねーし!」
メイ
「誰がこんなやつと!気持ち悪い!」
友達に茶化され頬を染めるユウトと
全力で拒否するメイ
「そんなあなたに耳寄りな情報」
ユウト
「ちょ、お前言うなよ」
耳元で話を聞いたメイの顔は徐々にキラキラと輝いていく
「ナギー!」
「?」
森の中を歩くナギにメイが大きな声を上げながら近寄ってくる
「すごいぞ遺跡だ!絶対なんかある!」
興奮するメイをよそに呆れた顔をするナギ
「この先を真っ直ぐ進めば遺跡に辿り着けるらしい!ユウト達より先に遺跡に行って
あいつらを出し抜いてやろうぜ!」
「えー、またぁ?懲りないなぁ」
毎度のことで慣れもあったか
ナギは仕方なくメイのあとをついて行くことにした
森の中を歩く二人
「ユウトくん、雰囲気変わったよね…
浴衣のせいかな…?」
「そうか?」
ピンとこないメイの後ろで
ナギは頬が熱くなるのを感じて
しばらく俯きながら歩いた
やがて二人は森の奥で
静かに聳え立つ遺跡を発見する
石でできたそれはずいぶんと年季が入っており
あちこちヒビだらけでポロポロと破片がこぼれている
今にも崩れそうな外観をしていた
「うーん…今までの経験から察すると見るからにヤバそう…」
「大丈夫だって!なんだかんだで結局無事に生還してるじゃん、今回もなんだかんだで無事に生還できるよ!」
「不安だ…」
メイは乗り気のないナギの背中を押して
姉妹は遺跡の中へと入って行った
「この遺跡の中には一体何が待ち受けているのだろうか…」
「マモノでしょどうせ
いつもそうだったし」
「なんだよしらけるなー」
乗り気ではないナギに対して
メイは若干のイラつきを覚えながらも
先へと進んだーーー
遺跡内には先端がイカみたいなヒルのような変なマモノが地面や壁を張っていたり
藻みたいな植物がワサワサとうごめいていたりしていた
天井からはネバネバした液状の物体が垂れ下がってきてメイ達の進路を妨害してきた
「うげっっ」
「ひっ、、」
メイは慌ててその場から下がると
上からゼリーのような青い塊が降ってきた
「なんだこいつ…きもっ」
ゼリーのようなものは
体を震わせて鋭い牙で吠えた
スライム
「ガルルルル…!!」
「よーっし…!!」
メイは持っていた剣でスライムに攻撃を当てるも、ぬるりとすべってバランスを崩した
「くっ、こいつぅ…!!」
すると後ろの方からもどんどんとスライムが押し寄せてきて
メイ達は囲まれそうになる
「や、やばいよ…」
「くっ、逃げるよナギ!!」
ナギはコクっと頷き
二人は全速力でその場から離れた
「ハァハァ」
「?」
壁にもたれて休憩してるところに
ふとナギが目線を映すとそこには
逆立ちをした筋骨隆々のマモノがいた
マモノはギョロっとした目玉で二人を見つめると
太い腕を前後に伸ばして追いかけてきた
「へぁっ!?」
「うわわっ」
メイ達は慌ててその場から逃げて
凹みのある部分へ滑り込んだ
マモノはメイ達を素通りしどこかへと消えた
ホッとした二人が立ち上がると
パラパラと後ろから小石が降ってきてふと見上げると
ガーゴイルを模った彫刻が
二人めがけて鎌を振り下ろそうとしていた
「ナギ!」
「えっ…!?」
咄嗟にメイはナギの頭を押さえて
その場にしゃがみ込んだ
鎌は二人の頭上を通り、周辺には残り風が吹き荒れた
「あ、あぶなっ…」
息を飲むメイと驚いた顔で辺りを見渡すナギ
「さぁ行こう、もうすぐお宝は目の前だ」
「う、うん…」
メイとナギは遺跡の奥へと進んだ
やがて最深部に到着すると
そこは薄暗く、広い空間になっており
中心には大きな棺が置かれていた
メイは棺を開けて中の様子を確かめた
「ナギ、灯り持ってる?」
ナギは後ろの方で心配そうに事が済むのを見守っていた
「なんだよー…ここまで来て何もなし!?」
何もないことを確認すると
ハァとため息をついて一人項垂れる
そんなメイをよそに
ナギは深く安堵しながらメイの方まで歩いた
「もういいでしょ?宝はない、パパ達の元まで戻ろ?」
「うぅ…」
ナギはメイを引っ張り遺跡から出ようとした
すると突然、後ろの方で棺がガタガタと揺れ出し
唸り声のようなものが辺り一面に響いた
「な、なに…!?」
メイ達が驚いていると
棺の蓋が「バーン」っと勢いよく開き、中から天井に向かって強い風が吹き上がった
しばらくして揺れはおさまり
棺は静かになった
二人が固唾を飲んで見守っていると
棺の中から紫色の煙が這い出るかのように出てきてそれは徐々に大きくなっていき
やがて二人を包み込んだーーー
煙は遺跡の外まで放出され
範囲は街の方から島の全体にまで及んだ
「ゲホッゲホッ」
煙を吸い込んだ二人はむせ苦しんでいた
「ゲホッ、、ナギ、、!!」
メイは咄嗟にナギを突き飛ばし
煙の外へと追いやった
「ぐっ…!!」
咳き込むメイの姿は煙に包まれて見えなくなった
「ゲホッ、、メイ…!!」
ナギは急いで立ち上がり、煙の方へと走るが
強い突風に飛ばされ、後ろの壁に頭をぶつけて
そのまま気絶してしまった
煙は天井まで登り、傷の隙間から外へと勢いよく噴射され空に紫色の雲を作り出したーーー
ーーー
しばらくすると
海の音が聞こえてきて
ナギはゆっくりと目を開けた
ゆらゆらと揺れる中、ぼーっとしていたナギは
しばらくするとハッと目を見開き、慌てて立ち上がる
「こ、ここは…!?め、メイ…っ!?」
そこは船のような場所で空はいつのまにか朝になっていた
しばらく周囲を見渡していると
後ろの方からギィギィと木造を踏む大きな足音が近づいてきた
「起きたか」
「へあっ…!?」
振り向くとそれは街でメイがぶつかった冷たい目をした男だった
「あ…あ…」
ナギは怯えるように男を見上げていた
「ーーー遺跡で倒れてるところを偶然な」
「遺跡で…そうだ、メイは!?島は…!?」
ナギはハッとなり急いで船を駆け上がり
島の方角を見るが、そこには何もない
「無駄だ島はもう無い、厳密にはそこにはあるが
帰ることは叶わなくなった」
「えぇ…?どういうこと…?
なんで私が船に…?…ねぇおじさんは誰?!
私を島に帰して!!」
「無駄だと言ってるだろう
妙な霧が島を襲った、もうあそこには戻れない」
「妙な霧って…まさかあの…紫の…」
「どうした?」
胸騒ぎを覚えるナギ
「パパは…、ママは…どうなったんだろう…」
「無事とは言えんかもしれんな」
「そ、そんな…どうしよう…私達のせいだ…」
ナギは混乱し、静かに俯いた
「とりあえずまずは安全なところを確保するのが先だ、お前をそこまで送ってやる」
「ひぐっ…えっぐっ…」
ポロポロと涙をこぼし始めるナギ
そこへ男がやってきて目の前に短剣を突き刺してきた
「涙を見せるのは全てを失ってからにしろ
お前にはまだ希望がある」
「そいつはお前にくれてやる、武器屋にでも売ればいい金になる、しばらくは食に困ることはないだろう」
「あの島のことは俺に任せろ」
ナギはグシュッと鼻を摘み、短剣をそっと抜くと男に言った
「わた、私も…私も島に行きたいです
おじさん…私も連れて行ってください…!!」
涙を必死に堪えながら叫ぶナギを前に男はしばらく黙り込んだーーー
封じられた遺跡(完)