開かずの屋敷
「うーんやっぱりダメか…」
屋敷の前で何やらゴソゴソとするメイ
「もういいでしょ、入っちゃダメなんだよやっぱり」
後ろに立つナギが呆れながらメイを見下ろす
「人の家に勝手に入っちゃダメだってパパも言ってた」
屋敷のドアが開かず、メイは悪戦苦闘していた
「くそー、何か他に入れる場所とかないのかなぁ?」
「もういいよ、帰ろうよもう
冒険は終わり!お小遣いも無くなっちゃったし
パパ達のところに戻ろ?」
「ああもう、うっさいなぁ…
どっかにあるって絶対!秘密の抜け道みたいなのが…」
苛立ったメイを見てため息をつくナギ
屋敷の周辺を確認するが裏口のようなものはどこにもなく、メイは「仕方ない」とこの場所を教えてくれた子供達に再び会うことにした
しばらくして子供達と再会し
秘密の抜け道の場所を教えてもらい
そこまで向かった
「話によるとここが
屋敷へ通じる入り口らしい…
早速行こうぜ、ナギ!」
「うぅ…嫌な予感がする…」
メイ達は井戸に降り、屋敷へと続く道を歩いた
道中、特にマモノはおらずメイ達は簡単に屋敷に侵入することができた
ー
「おお〜…あちこちホコリだらけ
床もボロボロ…雰囲気出てるな〜」
「うぅ…くさい…」
古い屋敷独特のホコリやカビ臭さに思わず鼻をつまむナギ
「さぁて、早速探索だ!一体どんなお宝が眠ってるのか!」
「なんだろう…外側と比べてやけに広い気がする…」
不安に駆られるナギをよそに
メイは早速探索を開始する
屋敷内は広く、赤いマットが敷かれていて
部屋の中央には二階へと続く階段が設置されていた
「ちょっと迷いそうだな…ま、樹海よりはマシか!」
「どうしてそんなテンションでいられるの…?」
ナギは怯えながらメイの後ろをひっつくように歩く
「お、ここ怪しいぞ〜?番人が隠れているな?」
「番人って…」
メイはそう言いながら古びたドアに手を触れると、「ダメだよ」と後ろの方から声が響いた
思わず振り向く二人
「え、なに?何今の?あんたなんか言った?」
「わ、私じゃなぃ…」
二人が混乱していると
奥の方からユラリと何かが近づいてきた
「ま、まさか…ユ…」
青白く光るそれは
近くで見ると少女のような見た目をしていた
ピンクのワンピースに少し長めの髪をした少女だった
「ひっ…!」
「なーんだ、先客がいたんだ
私らだけかと思ってたのに…」
少女はコクっとうなずき
メイ達に軽く微笑んだ
「お前、どこの子だ?
ユウトの友達か?なんでここにきた?」
メイの質問攻めに対し
少女は訳のわからないと言う顔をして
静かに首を横に振った
「一緒に回ってみる?」
すると少女はこれまでと違い
パァッと笑顔を見せ嬉しそうに頷いた
「やった!仲間だ!これで探索が捗るぞ」
「まって!」
上機嫌になるメイをよそに
ナギは震えた声で拒絶する
「ほ、本当にその子、人…!?」
「はぁ?」
「だっておかしいよ、どう考えても…
だってここ開かずの屋敷だよ!?
井戸を通らないと入れなかったんだよ!?」
「こいつも井戸を通って来たんじゃないの?」
不思議がるメイに対しナギは納得のいかない顔をする
「こ、怖いよ…」
「お前は考えすぎなんだよいちいち
よく見ろこいつは足がある
どう見ても人間だろ?」
少女は不思議そうにナギを見つめている
「ほら行こうぜ、お宝が私たちを待ってる!」
終始陽気なメイに引っ張られ
ナギは釈然としないまま二人の後をついていった
廊下をしばらく進むと
奥の方で何やら蠢く白い物体があった
メイ達が首を傾げてそれを凝視していると
それは突然腕のようなものをガバッと広げ
猛スピードでメイ達の方へ迫ってきた
その姿は全身に布を被ったような見た目をしていて顔部分には目と口部分に丸い穴が開いていた
「で、でたあぁあぁあ!!
お、お化けだぁぁぁ!!」
「ひ、ひやぁああ!!」
怯える二人を尻目に呆れた表情をするメイ
「よく見ろ布団だ、中に誰か入ってるんだ」
メイはポンポンと頭の上を軽く叩きながらそう語る
「おーい誰だこんなイタズラして、面白くないぞ?」
そう言ってポフッと頭の上を剣で叩くと
バサっと布が広がり下に落ちる
それを見て徐々に青ざめていく三人
「で、で、で、でたーーーー!!!」
三人は一目散にその廊下から離れ
近くの部屋に入った
「ふぅ…なんだったんだ今の…」
「お、お化けだよ…私たちを脅かしに来たんだ!」
「お、お化け…?」
お化けという言葉を聞いて
徐々に不安を覚えるメイ
「ね、もう帰ろうよぉ…!の、呪われちゃうよ…!」
「ハッ、別にお化けなんて怖くないし
海賊がお化けにビビってたまるかい!」
メイは意地を張り、そっと立ち上がった
その時、本棚の方から何かをカチカチと鳴らす音が聞こえ、直後、本棚がガチャガチャと震えはじめ
一枚の本が飛び出すように地面にボトっと落ちた
「な、なんだ…?」
よく見るとその本には牙のようなものがついていた
本は突然浮き上がるとバサバサと暴れ
牙をカチカチと鳴らし始めた
「う、うわぁああ!人喰い本お化けだ!!」
「は、はやく!早く出よう!!」
メイ達は怯えながら部屋を後にし
その場から逃げるように離れた
「な、何なんだこの屋敷は…ッッ!?」
「も、もう帰りたいよ〜…」
少女と一緒に怯えるナギ
「くそー舐めやがって!私らをバカにしてるんだ!!」
腰が抜けてへたり込んだ二人をよそに
メイは拳を握りしめ、怒りに震えていた
「上等だよ!やってやろうじゃないか
お化けだろうとなんだろうと
私は折れないぞ!」
「えぇ…」
ズンズンと奥へと進んでいくメイを追いかけるナギ達
その後、甲冑の並ぶ廊下に出た三人はゆっくりとその場を歩いていき
「おぉ…」と、ナギは甲冑を物珍しく見上げていた
しばらく進み、突き当たりに来たところで
ガタガタと甲冑が揺れ始めた
蜘蛛の巣がかかった剣がメイ達をめがけて
勢いよく振り下ろされる
「あぶなっ!!」
「きゃっ」
「…!」
咄嗟にメイはナギを突き飛ばし、自分も尻餅をつき、剣の直撃を回避した
はずみでポロリと力の魔石がズボンからころげ落ち、鉄仮面の中に光る赤い目を見て怯えるメイ
「ひ、ひやあああ…っっ!!」
「まっ…っ!…っ!?」
ナギが逃げるメイの後を追おうとしたとき
落ちてる魔石に気づき、慌ててそれを拾いあげてメイの後を追った
「まってよぉ〜…っ!!」
甲冑はギギギと元の位置に戻ろうとしていた
「はぁはぁ…」
「ね、ねぇ…これ落としたよ」
息を切らすメイに
力の魔石を渡そうとするナギ
するとどこからか女の子の啜り泣く声が聞こえてきた
「ヒグッ…ヒッ…」
「な、なに…?」
「まだ先客がいたのか…」
メイは落ち着きを取り戻し、泣き声がする部屋に入った
泣き声は近づけば近づくほど大きくなっていき
やがて泣き声は止み、メイ達の前には一体の人形が机の上にポツンっと置かれていた
人形は後ろを向いていて
メイがそっとそれを手に取ろうとする
「ごくっ…」
人形に手をかけたその時、ガタガタと周囲の物が揺れ始め人形もカタカタと揺れたかと思うと
首だけがゆっくりとメイ達の方へ振り向いた
「ひっ…!」
「うっ…!」
「ホシイナ…カラダ…」
人形は突然浮き始め、ギラっと目を光らせると周囲にあるものをメイ達めがけて投げ飛ばしてきた
「うわっ…!!」
「ひっ…!?」
驚きつつも必死に避けて
メイ達はその部屋から何とか抜け出し
そのまま遠くへ走って逃げた
「はぁはぁ…」
ホールへ戻ると
黒いモフモフとしたものが
床や壁を張っていた
「く、黒いお化けだ…!」
「ま、まてこいつ…洞穴にもいたぞ
色違うけど…」
「え、マ、…マモノ!?」
「もしかしたら、今までの奴らも
マモノだったのかも…」
二人は顔を見合わせる
「な、なんだよ…脅かしやがって
別にビビってないけどさ!」
少女と一緒に座るナギの横で
メイは大きく胸を張る
「マモノどもめ!このメイ様をコケにするとはいい度胸だ!
その性根を叩き直してやる!」
メイは強く意気込み、再び屋敷内を回ることに
「ほら、ボサッとするな!私の後ろについてきな!」
「ま、待って…!」
少女とナギは立ち上がり、メイの後を追うようについていった
しばらく探索を続けていると
ある部屋が目に入り、三人は意を決してそこへ入った
その部屋は広く、しかし何もない
中央に人形がポツンっと置かれてるだけだった
「なんだここ…?」
「うぅ…」
不思議がる二人をよそに
少女がゆっくりと人形の方へ歩き出した
「可哀想に…こんな狭い場所で…
ずっと欲しかったんだよね…」
人形を持ち上げると
少女の首がカタカタと揺れ出す
「私も、欲しかったんだ…」
少女の首はゆっくりとメイ達の方へ振り向いた
その形相は紫に変色し、恐ろしく歪んだ表情をしていた
「アタラシイ…カラダ…」
「ひっ!?」
「なに!?」
直後周囲が揺れだし、少女の体はみるみると大きくなっていき、2体の人形が少女を守るように左右についた
部屋全体が変形していき
メイ達は次元の狭間に飛ばされた
気がつくとメイ達は大きな本棚の上に立っていた
四角い部屋の中央には大きな空洞が空いており
巨大化した少女と人形2体が宙に浮かんでいた
少女は人形のような姿となりメイ達の前に立ちはだかった
「ヤット…ミツケタノ…」
「だ、だから言ったじゃん!!」
「くそっ、こうなったらやるしかないな!」
メイは剣を構え戦闘体制に入った
「やぁ!!」
メイは少女を叩きにいった
しかし距離が遠くて近づけない
「くっ…」
メイがもたついていると
少女の左右にいた人形達が襲いかかってきた
「メイ!」
「ナギ!…ッッ!?」
ナギがメイの元まで走ると
二人の間に本棚の壁がせり上がり
二人は分断されてしまった
「メイ!メイッッ!」
叫ぶナギの背後から
1体の人形が襲いかかる
「ひっ…!」
襲いかかる人形にナギは怯え
がむしゃらに杖を振り回す
「ひやぁ〜…!!」
「ナギィ!力の魔石を使え!使うんだ!」
必死に呼びかけるメイの声を聞いて
ナギはハッとなり、ポケットから力の魔石を取り出しそれを強く握りしめた
するとナギの体が赤い光に包まれていく
一方少女は巨大な手をメイの頭上に召喚し
思いっきり叩きつけてきた
「うぉっ!!」
メイは咄嗟に隣へ回避しペシャンコになるのを避けた
ナギは襲いくる人形を杖で人刺しして
撃退していた
もう1体の人形はメイの方へ向かっていた
「メイ!これを!」
ナギは魔石をメイの元へ返すため
まだ壁で隔たれてない場所に向かって石を投げた
しばらくしてそちらも
壁がせり上がり、メイとナギは完全に分断された
メイは魔石を取りに棚から棚へと移動して走った
「よし!」
力の魔石を手に取るとメイの体が赤い光に包まれた
メイは振り向きざまに剣を振り
襲いくる人形を撃退した
人形を倒すとメイ達は次元から解放され
元の部屋に戻り、中央には少女がもがき苦しんでいた
メイは「今だ」と剣を握りしめて
少女の元まで走り、思いっきり剣を振り下ろした
「ギャッ」
攻撃を受けた少女は
高い音と低い音が重なった声で叫んだ
「オノレェ…」
少女は憎しみの湧いた声で
メイ達に反撃を繰り出す
「……!!」
メイ達の頭上からさっきと同じ手のひらが降ってくる
「くっ!!」
メイはそれを避けて剣を強く握り反撃に出た
「グゥッ!ガァッ!!」
メイは少女の隙をみつけては
その体に剣を叩き込み
少しづつダメージを与えていった
傷が入ったその隙間から光が漏れ始める
「グアアアアア……ッッ」
苦しみ出す少女
「ワ、ワタシノ…カラダガッ…!!
オノレ…オノレェ…ッッ!!」
「メイ!!」
「わかってる!!」
メイは急いで少女の元へ近づくと
胸目掛けて勢いよく剣を突き刺した
「ギャアアアア……ッッ!!」
少女が断末魔を上げたあと
周辺が白く光りかがやき
メイ達はそれに飲まれて行ったーーー
気がつくとメイ達は石の床に寝そべるように倒れていた
「ん…んん…?…ハッ!!」
起き上がり辺りを見渡すとそこは
屋敷の外だった
周囲には何事もなかったかのように
賑わう人だかりと冷たい風がメイの頬をさした
「な、ナギ!起きろ!」
「ん、んん…?」
「どうなってるんだ…?今まで屋敷の中に…屋敷は!?」
メイが振り返るとそこには屋敷などどこにもなく、なにもない空き地が広がっていた
空き地内は雑草が生え、手前には看板がポツンと立てられてるだけだった
その後、メイ達は大人達に屋敷について尋ねたが「そんなものはない」「知らない」と言われ
子供達にも「もともとあそこは空き地だったよ」と返されてしまい、メイ達は困惑する
「ま、まさか…じゃあやっぱり
アレってホンモノの…」
ナギは徐々に青ざめて怯え始める
「うーん、不思議なこともあるもんだ…
て、うわ!お前漏らすなよ!」
「うぅ…だって…」
ナギは恐怖のあまり漏らしてしまい
石の道が水浸しになったーーー
開かずの屋敷(完)