帰らずの樹海
メイ
「おぉーーー」
ナギ
「ーーー!!」
建物が建ち並ぶ広間に石の道を歩く城下の人々
奥には立派な城が聳え立つ
「す、すごい…建物がいっぱい…」
「あ、あれ…お城…!?」
「ふふ、この子達と来るのは初めてね」
「どうだ、賑やかだろう?」
二人は興奮のあまり、食い入るように街を眺めていた
「これから父さん達は買い物に行くけど、どうだ?その間街を回るというのは」
「え!?いいの!?」
メイはニカッと大きく口を開けた
「その代わりあまり遠くにいっちゃダメよ」
「ほら、お小遣い、ショップにでも立ち寄って好きなものを買うといい」
「ポーチに入れとくわね」
目をキラキラと輝かせる二人
「や、やた!買い物だよ!買い物!」
「わぁ…」
「どこ行こっか!街を探索だ!探索!」
「でもあまり遠くにいっちゃいけないって言われてるよ…?」
キャッキャッとはしゃぐメイに対して
興奮を抑えて平常を保とうとするナギ
二人は興奮冷めやまぬうちに街を探索して回ったーーー
「いらっしゃいませ、こちら魔石ショップになりまぁす!」
「うぉ、すごい!魔石がいっぱいだ!」
「ねぇねぇ、どうして魔石なの?
私、服屋さんがいいのに…」
「バカだなぁ、冒険に行くのに魔石がなかったら意味ないだろ?」
「冒険って…」
「ねぇねぇ、これなんの魔石?」
「それは癒しの魔石ですよ
癒しのパフの効果を石に配合して作られました
使用するとどんな傷もたちまちに回復してしまう、冒険者だけでなく子供の怪我にも役立ちます」
「冒険者…!…おぉ〜、これください!」
「ち、ちょっと!魔石って高いんだよ
お小遣いでも買えるかどうか…」
「お前のと出し合えば解決じゃんか」
「えぇ!?や、やだよそんなの!!」
魔石をめぐってしばらく言い合いになる二人
「うぅ…(結局買わされた…)」
癒しの魔石を持って項垂れるナギ
「よし、次はどこ行こっか、武器?防具屋?」
「うぅ…もうお小遣いすっからかんだよ…」
落ち込むナギをよそにメイはウキウキで街を回った
「帰らずの樹海、あそこに入った者は
二度と出られない」
街の子供達から帰らずの樹海の話を聞き
メイは目を輝かせていた
「へぇー…おもしろそう!」
「おもしろくない!!」
子供達に場所を聞いたメイ達は早速そこまで向かった
「話によると確かこのあたりだな」
「ねぇ…もうやめようよ
パパ達心配するよ…」
「お、あった!おーい、ここからなら入れそうだぞ!見張りもいない!」
ナギの話を無視してメイはサッサ、サッサと森の中へ入ろうとする
「ちょ、ちょっと…遠くにいっちゃダメだって…」
「ヘーキヘーキ、バレなきゃいいの」
うししと笑うメイはそのまま森の中に入ってしまった
慌ててナギも後を追いかけるーーー
青白い霧の中、メイにくっつきながら
震えた声で引き返すことを促すナギ
「ねぇ、もう帰ろうよ…」
「わぁ…なんだろあれホタルかな?
あのキノコ光ってる!」
ナギの話を聞かず、はしゃぐメイは森の中をずんずん歩いた
そんな二人を遠くから覗く沢山の目は
ジュルリとよだれを垂らし息をフゥフゥと荒げながら
グルルルゥ…と獣のような唸り声を密かに上げた
「ここは大人たちも近づかない危険なエリアだ
きっとすんごいお宝が眠っているぞ」
「ねぇ…なんか見られてるような…」
周りを伺い、腰を低くするナギに反して
メイはウキウキとしながら歩いた
周囲にはカイコガのようなものや
赤い触角を2本生やした狐のようなもの
空中を泳ぐ青い魚のようなものや
黒い幼虫を捕食するアメーバのようなものなど
多岐にわたる異形な生物が目に飛び込み
ナギは徐々に不安にかられていく
しばらく進むとメイが遠くに何かを見つける
「ん、なんか落ちてる」
「あっ!」
メイがそこまで走り寄ると
後ろに隠れていたナギも驚いて足早にメイの元まで近づく
「りんごだ」
落ちてるリンゴを手に取り不思議そうに眺めているとすぐ近くで唸り声が鳴る
「ひっ…!」
「ん?」
ふと顔を上げるとそこには
ゴブリンがいた
ゴブリンは涎を垂らしながら
「ぐへへ」と下品な笑い声をあげている
メイは「出たなー!」とポケットの中にある力の魔石を握り
剣をおもいっきりゴブリンの脇腹に当てた
「ぐへっ」
「うっ…!?」
しかしゴブリンは余裕そうな表情を浮かべ
腹をボヨボヨと揺らしながら笑い
メイ達を見下ろしていた
「ありゃっ…」
「ぐへへ」
「こ、これやばいやつだよ…!!」
危険を感じたナギはメイを引っ張りゴブリンから急いで離れた
「うっ!?危ないっ!!」
逃げてる途中でふと叫び、足をストップさせるメイ
そのすぐ後に岩が足元に落ちてきた
遠くを見ると体内に岩を詰めた透明なタコのような丸いマモノがいた
「あいつ、石を吐いてくるぞ!」
「うそっ!!後ろからはあいつが来てるかもしれないのに!?」
「石に当たらないように行くしかない!!」
「うぅ…おうち帰りたいよぅ…」
岩を吹くマモノは口の中から岩を出し
ふぅーっと浮かせたあと、姉妹達目掛けて吐き出してきた
姉妹は咄嗟に端へ飛び込み、難を逃れ、急いでそこから離れた
「びっくりしたなぁ…」
「いまごろ…?」
メイが休憩しようと石に腰掛けると
突然石が動き出し、すっ転ぶメイ
よく見ると石には足のようなものが生えており
赤い目がギロリと光っていた
「ここは変なのばっかいるなぁ…」
休憩した後、二人は再び森の中を探索した
しばらく進んでいると
ボウッと光る青い火の玉に遭遇する
「ひっ」
「うっ!?」
火の玉は複数飛んでいて
メラメラと燃えていた
「な、なんだよこいつら…」
流石のメイも変な汗を流し始めた
「おばけ…じゃないよな?」
「ひうう…」
「い、行こうナギ!そ、そーっと歩けば問題ないさ」
ナギはギュウッと強くメイの服を摘みながら
歩いた
「ふぅ…なんだったんだろうねアレ」
「怖かった…」
メイ達は恐れながらも、森の中を再び歩き出し
道中、植物のようなマモノを見つけて立ち止まる
「大きい花…」
「アレはきっと人喰い花だ!デカいし」
黄色いツボミのような植物が上を向いて
生えていた
近くには木に絡まった小さな花びらが牙を向けてケタケタと笑っていた
「こいつが本体か!よーし!」
メイは木製の剣を握りしめると
その花の方まで走った
「さっきから逃げてばっかりだからな、たまには良いカッコみせないと!」
メイは構えると、花に向かって剣を大きく振るった
剣が当たった花は潰れ、シオシオとしぼんだ
そしてあの大きな植物も悲鳴をあげて
ダラリと花が咲くように口が開き、その場に崩れて動かなくなった
「やた!」
メイはガッツポーズをとり、遠くにいるナギに手を振った
その後も森の中を歩き続ける二人
「完全に迷ったねぇ〜」
「もう、どうするの…」
平然としたメイに対し不満を漏らすナギ
「どこを見渡しても森だらけ
帰らずの樹海というのは伊達じゃないな」
「感心してないでさぁ…」
しばらくして足を止めるメイ達の背後に大きな影が忍び寄る
「ゲコッ」
「…げこっ?」
「ひっ…!?」
振り返るとそこには大きなカエルのような透明なマモノがいた
「おお、カエル…?!スケスケだ!!」
「あわわわ…」
怯えるナギをよそに
メイは剣を握りしめて戦闘体制に入ったーーー
メイは手始めにとカエルに近づき剣を振るった
「え!?」
しかし剣は液体を切ったかのようにすり抜けてしまった
「なんだこいつ!?攻撃が効かないのか!!」
カエルは突如飛び跳ね、背中から勢いよく地面に落ちてきた
メイ達は慌ててその場から避難して
押しつぶされるのを回避した
そしてカエルはゴロゴロと前方に転がったかと思うと
口を大きく開けて長い舌を二人めがけて伸ばしてきた
「や、やばいっ!!」
メイは咄嗟に避けたが
ナギは少し遅れてしまい、舌の射程内に収まってしまった
「ナギ!避けろ!」
メイの叫びは届かずナギは舌に巻かれ
カエルの中に取り込まれてしまう
「むぐぐぐ…」
ナギは喉を抑え、苦しそうにもがいた
「ナギを離せ!」
カエルの中でもがくナギを見て
メイは慌てながら剣で何度もカエルの足付近を叩く
しかし、いくら叩いてもカエルには通じず
メイの焦りはさらに積もっていった
「むぐ…?」
その時ナギは足元に
緑に光る球体上のものを見つけ
咄嗟にそこを杖でつついた
「グゥッッ?!」
するとカエルは突然もがきだし
たまらずナギを吐き出した
「ナギ!!」
メイがナギの元へ走る
「ごほっごほっ」
「ナギ、しっかり!」
「メイ…あいつの中に…」
ナギが耳元で緑色の玉のことを話す
「ーーーッ!」
メイはナギをそっと地べたに置いたあと
カエルの周りを走り、注意を逸らした
そしてカエルが再び舌を伸ばした瞬間
「今だ!!」と
メイは舌の元まで走ってわざと捕まり体内に取り込まれた
「緑に光る玉…、あった、これか…!!」
メイは息を止めつつ緑に光る玉を目掛けて剣を振り下ろした
「グボォッ」
カエルはまたも苦しみだし
メイを吐き出した
「ぐあっ…!!くっ、どうだ…!?」
カエルはしばらくもがいたあと
段々と力が弱まり、その場に崩れ落ちるようにベタっと沈んだ
メイが安全のために剣でつつくが
反応がなく完全に機能を停止したことを確認した
「ふぅ…た、倒した、なんとか…」
メイは冷や汗を流しつつ
ホッと一息ついた
マモノは倒した、しかし森の出口がわからず
二人は路頭に迷うことになった
「もう戻れないよ…」
「う〜ん…」
そこへメイ達の前に明るい光が差し込んだ
光の奥には霧のない緑の景色が広がっていた
二人は顔を見合わせ頷き返すと、間髪入れずにそこに飛び込んだーーー
ーーー無事外に出られた二人は出口を目指し森の中を歩いていた
先頭を歩くメイに対してナギは不満そうな顔をしていた
「だから帰ろうって言ったじゃん!
遠くにいっちゃダメだって!!」
「……」
ナギの声を聞き流すメイ
ナギ
「パパ言ってたよ!?
無闇に危険に飛び込むのは勇気とは言わない ただの無謀だって!!」
メイ
「うっさいなぁ!!じゃあお前だけ一人で家にいればいいだろ!!魔法使いごっこでもしてさ!」
ナギ
「うっ…ひっ…ぐ…」
「あぁもう、鬱陶しいなあ!」
イライラするメイ
「わかったよ、私が悪かった!これでいい!?」
怒りながら謝るメイに
指で涙を拭きながら静かにコクっと頷くナギ
森を抜け街に出るとナギはある違和感を覚える
「森に入ってからどれくらい経ったっけ…?」
街に設置された時計を見ると
メイ達が森に入る前と同じ時刻だった
段々と冷や汗をかくナギに反して
メイは不思議そうな顔をしていた
すると、メイは唐突に「あっ!」と声を上げ
ナギの方を振り向いた
「せっかくまだ時間があるならさ
次は開かずの屋敷ってところに行ってみない?
さっき子供達から聞いてさー…」
「えぇ…(全然反省してないじゃん…)」
呆れるナギをよそに
メイは先々と開かずの屋敷の方へと歩いていったーーー
帰らずの樹海(完)