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海賊姉妹  作者: 柳田健二
1/8

禁じられた洞穴

かつてこの海には海賊がいた

海を渡り、島を渡り、財宝を奪う

数千人の部下を引き連れて

男達は自由とロマンを求めて大海原へと漕ぎ出したーーー


「そうさ、我こそがキャプテン!!」


「ユウト〜!!」


少年の下には不機嫌そうに見上げる少女の顔があった


「そろそろ代わってよ、あんたずっとキャプテンじゃん!」


「そりゃそうさ!俺様はずっとキャプテンだ

男だからな!女はキャプテンにはなれない!」


「そんなことないし、女のキャプテンだっていたし!」


海賊ハットを被った少年は

子供一人分くらいの岩の上から

誇らしそうに少女達を見下ろしていた


「ねぇねぇ…」


腹を立たせる少女の後ろから袖を引っ張るのは気弱な少女だった


「もういいよ海賊ごっこなんて…

こんなの女の子の遊びじゃないよ

もっと可愛い遊びがしたいな…」


「はっ!どーせ魔法使いごっこだろ?

そんなダサい遊びができるか!弱虫は引っ込んでな!」


「うぅ…」


少女は縮こまり、寂しそうな顔でうつむいた


ユウト

「早く甲板に戻れ!女は雑用係だ!」


「ふん、あんたこそ雑用がお似合いだよ

私たちは将来立派な海賊になって

この海を支配する船長になるんだ!」


ユウト

「なにぃ?生意気な!!」


「メイ…!私は…」


ユウト

「ならばこの帽子を奪ってみるが良い

この海賊の証である帽子を見事奪うことができたらそいつが新しいキャプテンだ」


ユウトはそう言うと岩から飛び降り

森の奥へと走り去ってしまった


「な…!!くそ、追いかけるよナギ!」


「えぇ!?ちょっと…!!」


二人はユウトを追いかけて森の方へと走っていった


森を抜けた先には地面いっぱいに広がる花畑が咲いており、三人は花を散らせながらその場を駆け抜けていく


メイはユウトを、ナギはメイを追いかけながら

再び森の中へと消えていった


ユウト

「ここは禁じられた洞穴

ここには怪物が出ると言う」


ナギ

「怪物…!?ね、ねぇ!危ないよ!

帰ろうよ!メイ!」


メイ

「あぁもう、ひっつくなよナギ!」


追いかけっこに飽きた三人は

海賊ごっこもやめ、いつの間にか別の話題へと話を切り替えていた


ナギ

「ここ入っちゃダメなんだよ

パパやママも言ってたんだよ!」


ユウト

「この奥には宝物が眠っている…!」


洞穴近くにて、しばらく(たむろ)したのち

三人は別れ、それぞれの家へとまっすぐ帰宅していった


森を歩く二人の少女


メイ

「くそー、ユウトのやつー!」


悔しそうにするメイを見て

ナギが不思議そうに尋ねる


ナギ

「どうしてメイは海賊になりたいの?」


するとメイは怪訝な顔をしながら

こう答えた


メイ

「そんなの決まってるじゃん、かっこいいからだ!デカい帽子かぶって、部下を引き連れて世界中の海を渡って財宝を手に入れる!かっこいいだろ?」


ナギ

「えぇ…そんなの全然女の子らしくないよ…

男の子のやつじゃん…もっとかわいい遊びがしたいな…」


メイ

「うっさいなぁさっきから

男とか女とか、そんなの関係ない!

私はかっこいいのが好きなんだ!かわいいものなんてダサいしおもんない!」


ナギ

「そんなぁ…(メイも昔は魔法使いになりたいって言ってたのに…)」


ナギは(うつむ)きながら

やがて二人は森に囲まれた小さな家へと到着した


「ただいまー」


「あらおかえりなさい

もう遊びは済んだの?」


「聞いてよママ、ユウトの奴がさぁ!」


メイは母親を見上げて地団駄を踏みながら文句を言う


「はっはっは、二人とも

泥だらけだぞ話は後で聞くから

お風呂に入ってきなさい」


「お湯沸いてるからね」


メイはほっぺを膨らませて

不機嫌そうにお風呂場へと向かった


黄色いパーマから鬱陶しそうにオレンジのバンダナを外して

青いオーバーオールとそれから赤と白の縞模様のシャツを脱いでお風呂に入る姉のメイと


続けて黒いローブを脱いで

後ろに結んだ茶髪の髪をほどいて

お風呂に入る妹のナギ


「良かったわね、あの子達あんなに楽しそうに」


「あぁ、こっちに移ってから

ずっと塞ぎ込んでいたからな

あの子と出会ってから明るくなった」


「隣町の子…確か名前は」


「ユウトくん?」


「そうだ、その子には感謝しないとな

やっぱり子供は子供同士で遊ばせるのが一番だ」


「ふふ、ほんとね」

「今度ユウトくんもお家に誘ってみましょうよ

二人と遊んでくれたお礼に…たくさんご馳走したいわ」


姉妹の両親は賑やかな声を部屋に響かせたーーー


次の朝、メイはナギを連れて

洞穴の場所に来ていた


「ほ、本当に行くの…?」


「お宝があるかもしれないからな」


「でも…怪物が出るって…」


「じゃあ、あんたはそこで待ってたらいいよ

私一人で行くから」


「え…!?ちょっと待ってよ…」


木造の剣を持って

先々と洞穴に入るメイを見て

ナギも慌てて洞穴の中に入った


メイ

「ここは昔海賊の縄張りとして使われていたんだ、今は古くなってマモノが住み着くようになったけど、あちこちにあるタルや木箱がその名残さ」


ナギ

「それってユウトから聞いた話…?」


姉妹は土でできた階段を降りて

洞窟内を散策した


ナギ

「ねぇ…明らかにヤバいところだよ

もし強力なマモノが現れたら…」


メイ

「ヘーキだって、私たちにはこれがあるじゃん」


メイはおもむろにズボンの中から青く光る丸い石を取り出した


ナギ

「ま、守りの魔石…でもそれって

防御だけしか効果ないし…」


メイ

「じゃあ行こっか」


ナギ

「あ、ちょっと…!」


ナギはメイの後を追いかけた


洞穴内はジメジメとしていて

水の滴る音が寂しく響いていた


少し進んだところで

「おっと」とメイは足を止め

木箱の影までナギの腕を引っ張った


「な、なに…??」


「見てみろ」


小声でボソッと囁くメイの目線の先を見ると

そこには少し大きめの強そうなマモノがいた


「ひ…!」


それはオレンジの毛むくじゃらで

緑の縞模様をした二足歩行のゴリラのようなマモノだった


「ど、どうするの…!これじゃ進めない…」


「なーに、任せなって」


メイは自信満々にそう返し

足元に転がった石をマモノの方へ投げた


「フゴッ?」


石は遠くの方へ落ち、マモノは落ちた音に気を取られた


「よし、今だ!行くよナギ」


「あ、えっ!?ちょ、ちょっと待って…!」


メイはしゃがみながら

足早にマモノの横を通り

ナギも慌てながらメイの後を追った


その後、モフモフした白いカビみたいなマモノやデカい()みたいなマモノなどを避けながら

やがて最深部へと到着した姉妹


「ふぅ、ここで行き止まりみたいだ

意外とあっさり来れたなぁ」


平然と辺りを見渡すメイとは裏腹に

ナギはヘトヘトになりながらボヤく


「も、もういいでしょ?帰ろうよ

パパ達心配するよ…」


「ダメだ、宝がまだ見つかってない

ここまで来て手ぶらで帰れるか」


「た、宝なんてもういいよそんなの…

やっぱり危ないよここ…さっきのマモノとか見たでしょ…?守りの魔石だけじゃダメだよ

もうおうち帰りたい…」


「うっさいなぁ…ん?」


その時、メイの足元が静かに揺れ始める


ナギ

「な、なに…!?」


揺れは段々と大きくなっていき

やがて奥の方に見える水たまりから

何か大きな影が這い出てくる


「グジュルアアッッ」


「!?」


それは大きな殻をかぶったヤドカリの姿をしたマモノだった


ナギは咄嗟にメイの後ろに隠れ

メイはその大きさに思わず圧倒されていた


メイ

「デカッ!?」


ナギ

「ひぅぅ…」


ヤドカリは巨大なハサミをちらつかせて

姉妹の方へとにじり寄っていた


ナギ

「だだだ、だから言ったじゃん!ヤバいって!!どどど、どうするの…!?」


メイ

「ヘーキだって、こういう事もあろうかと…」


ナギ

「…!?」


メイはズボンから赤く光る石を取り出した


ナギ

「え、それって…」


メイ

「パパの部屋からくすねてきたんだ!」


ナギ

「えぇ!?怒られちゃうよ!!」


メイはギュッと石を握りしめると

赤い光がメイの体を包み込んだ


メイ

「よぉし、ぶっ倒してやるぞ!!」


メイは石をポケットにしまい

木造の剣をギュッと握りしめると

マモノの元まで勢いよく走った


マモノは大きなハサミをメイの方へ振り下ろすも

メイは前方へ飛び込み、その殻に大きく剣を振るった


「ビシッ」と剣がぶつかった衝撃で殻は一部が大きく砕け、縦横全体にヒビが入った


マモノは少し後退して全身に力を込めながら

自身の体を激しく揺らすと、殻が勢いよく割れて中身が露出した


その見た目は尻尾の長いザリガニのような姿をしていた


マモノは口からシャボン玉のような泡を周囲に飛ばし、そのままメイへと接近した


泡に気を取られてるメイにマモノは尻尾を振り下ろした


ナギ

「あぶなっ…!!」


叫ぶナギの声も虚しく

洞窟内には何かがぶつかる激しい音が響き

辺りには砂ボコリが大きく舞った


砂の中でメイはマモノを睨みながら

カタカタと揺れる剣で

その尻尾を抑えていた


メイ

「ふふん♪」


メイは剣を大きく振ってマモノの尻尾を弾いた

その衝撃で砂ボコリが消え、ナギにその姿が見えた


ナギ

「メイ…!?」


反動でのけぞり動きが鈍くなったマモノに

メイはトドメの一撃を与えた


メイ

「やあっ!!」


マモノ

「グヴェッッ!?」


剣を大きく振り下ろしその衝撃による斬撃で

マモノの体全体を切り裂いた


マモノは崩れ落ちるようにその場に倒れ

やがて呼吸が止まり、動かなくなった


メイ

「ふぅ…へへーん!どんなもんだ!」


辺りが静寂に包まれる中

メイはニカッと笑みを浮かべながら剣を肩に担いだ


「見てたか?私の勇姿!!」


ナギは驚いた顔をしながら

周囲を見渡してメイの方へ歩いた


メイ

「にしてもデカいだけで

全然大した事なかったなぁ」


「やっぱりママの言うとおり

見た目と中身は比例しないってことか」


ナギ

「ほ、本当に倒しちゃった…」


メイ

「な、言っただろ?ヘーキだって」


しばらくマモノの死骸を見つめた後

ナギはハッとなりメイに対し声を荒げた


ナギ

「ヘーキじゃない…!死ぬところだったんだよ…!?」


メイ

「うっさいなぁ、大声出すなよ

生きてるじゃんか…」


二人は洞窟の天井を眺め、しばらくして

その場を後にしたーーー


メイ

「結局宝は見つからなかったなぁ

まさかあんなマモノがいたとは…

大した事なかったけど」


ナギ

「うぐっ…ひぐっ…」


メイ

「もう…いつまで泣いてるんだよ」


メイは呆れたように言う


ナギ

「こわがったぁ…めちゃめちゃ、こわがったぁ…!」


メイ

「はいはい」


姉妹は家に帰宅し、ナギは母親に泣きついた


「あらあらどうしたの?」

「メイが…メイがぁ…」


その後ご飯を食べ、消灯になり

姉妹はベッドに寝転び布団をかけた


「今日も楽しく遊べた?」


「うっ…うっ…」


「ぜーんぜん!宝物は見つからなかったし

こいつは泣き虫だし」


「ふふ」


二人を見て幸せそうな顔をする母


「そうだ明日父さん達な、買い出しに行くことにしたからな」


「…え?」


「城下に行くのよ」


「この島では毎年、庶民参加型のパレードが開催されてるそうなんだ、だから父さん達もおめかしのために色々と準備しようと思ってな」


「パレード!?城下!?」


姉妹は飛び起き、目をキラキラと輝かせた


「ふふ、興味持った?」


「ねぇ、私たちも行っていい!?」


「あぁ、もちろんだとも

だから早く寝なさい明日朝は早いぞ」


二人は顔を見合わせて

心を弾ませた


「ふふ、楽しみね」


「パレード…!城下…!」


二人は胸を躍らせながら

すやすやと眠りにつき

そして世が明けたーーー



禁じられた洞穴(完)

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