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彼女を見つけた、が、伊達男は何も話せなかった

「駄目だ。彼女だと思う」


 力が抜けたような声でロイドが言った。


「おいおい、今から駄目だなんて言うなよ。まだわからないだろう、何もかも。

とにかく、本当に彼女で合っているのか確かめよう。後で、ダンスに誘え」


「すぐに目を逸らされたんだ。もしかしたら、嫌われているのかもしれない。昨夜の俺が気に入らなかったのかも」


「これだけもてて、何人もの女と付き合ってきてもいるのに、お前は何を言っているんだ。昨夜のなんだって? お前にだけは言って欲しくないセリフだね」


 ちょっと怒りが入って、畳みかけてしまった。お前でそれなら、一般の男はどうすりゃいいんだ。しかも俺たちは、メアリーの講義をしっかり受けているんだ。俺まで不安になるようなことを言うな!


 気付け薬代わりに、もう一杯酒をもらい、ロイドにグラスを押し付けた。


「ストレートだ。ぐっと飲んで、落ち着け」


 ロイドは言われるままにグラスを傾け、口の中に酒を流し込んだ。


 こいつ、上の空だなと思い、急に友人の事が心配になった。これは、失恋したら、しばらくひどく荒れるぞ。あれ、失恋なんて、したことあったか?

 知り合ってからのことを順に思い出してみる。簡単に相手が落ち、うまく付き合い、うまく別れ、問題を起こしたことも、揉めたことも無い。


 まさか、これが初恋か? まさかな。


「おい、聞くけどさ、まさか、これが初恋だなんてこと、あるか?」


 驚いたようにロイドがこっちを振り向いた。


「そうかな?」


「……頑張ろう。全力で協力する」




 演奏会が始まった。さすがに人気が高いだけあって、素晴らしい。聞いている間は何も考えずに浸ることが出来た。


 演奏会が終わり、この後は彼らの演奏でダンスタイムが始まる。

 そこで、先ほど、イザベルにダンスを申し込んだのを思い出した。


 二人で、彼女達を誘いに行き、ロイドはイザベルと、ヘンリーはマイナを誘い、ダンスフロアに出た。


 手慣れたダンスだが、今日はどうにも音楽に乗れない。踊っていても、意識はずっとあの女性の方に向いているのだから仕方がない。

 

 彼女はアイザス侯爵子息と踊っている。時々何かを話しながら、楽しそうにしている。笑っている顔を見るたびに、胸がずきずきする。だったら見なければいいと思うのに、どうしても目がそちらに行ってしまうのだった。


「ロイド様、何を考えていらっしゃるの?」


「ああ、すみません。この演奏が気に入ってしまったようで、すぐ音楽に聞き入ってしまって。失礼しました」


「いいえ、私も気に入りました。人気が出るのも当たり前ですわね」


「ええ、本当に」


「最後の一曲は、新作だそうです。楽しみですわ」


 クルッと回りながら、軽く流し目をよこすイザベルに、ロイドはすでにうんざりしていた。そして、もし彼女と踊って、同じようにうんざりしたら、俺はどうしたらいいのだろうと、怖くなった。


「新曲を素敵な方と踊れたら、素晴らしい思い出になりますわね」


 またまた流し目で、意味ありげな言葉がかけられた。


「そうですか。どんな曲なんでしょうね」


「なんでも、切ない恋心、というテーマの曲らしいですわよ。うふふ、意味深ですね」


 やっと曲が終わり、ロイドは彼女をバーコーナーに案内し、カクテルを注文し、パートナーのお礼を言って離れた。一連の動作が礼儀正しく、スマートで、引き留める隙がなかった。イザベルは不満そうだったが、何も言えなかった。


 すぐにヘンリーも合流した。


「どうだったと聞くまでもなさそうだな。彼女は違うのだろ」


「うん。違う」


「あちらの金髪の彼女はサイルス伯爵家のマチルダ嬢だ。


 そこで、知人に聞いたんだ。ミシェル嬢がアイザス侯爵の親戚で、友人のマチルダ嬢と一緒に来ているそうだ。

 喜べ、まだ婚約者はいない。たぶん、恋人もいないようだ」


「そうか。最後の曲で彼女にダンスを申し込む。行ってくるよ」


 友人が彼女たちの方に歩いていくのを見守っていた。入れ違いで、彼女は他の男に誘われて、ダンスフロアに出ていた。ロイドはミシェルと談笑しながらマチルダを待っているようだ。

 次がラストダンスだった。


 どうか、うまくいってくれよ。見ているこっちが、気が気ではない。


 曲が終わり、彼女が戻ってきた。


 ロイドが彼女をエスコートしてフロアに出た。やった。


 これで、何とか前進だ。友よ、やったな。

 二人は見つめ合ったまま踊っている。いいムードだ。曲もいい。

 

 ダンスが終わり、ロイドがこちらに戻ってきた。


「おい、どうだった。彼女か」


「ああ、彼女だ。手が吸い付くようにぴったりと重なった。手だけで分かったよ」


「やったなあ。で、どうなった」


「何が?」


「何か言ったのだろう」


「何も話せなかった。胸がいっぱいで、踊り始めたと思ったら、すぐに終わってしまったんだ」


 ヘンリーはロイドの顔をまじまじと見つめた。長年の親友が、こんなにポンコツだとは思わなかった。


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