表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

マチルダは愛犬と寝た…つもりだった

  マチルダは困っていた。


  朝、目が覚めると隣に男が寝ていた。


  服は着ていないし、体が痛いし、男の手が腰に巻き付いていて離れないし、脚も絡まっている。そおっと脚をどかし、腕に枕を抱かせて体を抜き出した。昨夜のことを思い出してみると、少しずつ記憶がはっきりしてきた。


 昨夜のパーティーで甘いお酒を勧められ、飲み口が良かったので二杯飲んだのだった。薄いピンクと黄緑色の二色になったきれいなカクテルで、ピンクは桃のジュース入りだったかしら。


 その後何回か踊ったら頭がふわふわしてきて、ミシェルに先に部屋に戻ると断ってからパーティー会場を後にしたのだった。


 部屋に戻りドレスを脱いでベッドに潜り込もうとしたのは覚えている。連れてきていた侍女がいなかったので、文句を言いながらボタンを外ずそうとし、それが無理だったので、肩からずらして脱いだのだった。その後、どうしたのかしら。


 それより、早くドレスを着てここから抜け出さないといけないわ。男が起きてしまったら、困ったことになる。


 素早くドレスを着こみ、背中のボタンは諦めてショールで隠した。そして、一応男の顔を確かめようとベッドの傍に近寄り覗き込んだ時に、男の髪の毛を見て、服を脱いだ後のことを思い出した。


 確かベッドに愛犬のルークがいたのだった。つやつやした赤っぽい茶色の毛が、ベッドの掛布団から少しだけ出ていた。

 よくベッドに潜り込んできて、侍女たちに見つかると叱られて追い出されるのだが、私は内緒でベッドに入れて抱いて寝ていた。


 ああ、ルークがまた潜り込んでいると思いながらベッドに入り、毛並みに指を入れて擦りながら眠ったのだった。


 まさか、それがこの男だったのかしら。ということは、彼の方が先にベッドで寝ていたことになる。


 え! でもこの部屋は私の部屋よね。見回してみると、様子が違うし、荷物も自分のものではない。明らかに男性用の帽子やらコートやらの品物がそこかしこに置かれている。


 私が部屋を間違えてたってこと? 知らない男の人が寝ているベッドに勝手に服を脱いで入り込んで、頭をさすっていたってこと?


 なんてはしたない事を。どうしましょう。早く逃げなければ。


 その時男が寝がえりを打った。髪で隠れていた顔が露になると、名前がすぐにわかった。スミス伯爵家子息のロイドだ。


 社交界では有名なプレイボーイで、山程浮名を流しているが、決まった相手をつくらないという噂だ。それなら私も、その他大勢の一人で昨日のことはすぐ忘れてくれるのじゃないかしら。


 それにしてもきれいな顔だわ。そう思ってまじまじと見つめていたら、急に手が伸びてきて頭を引き寄せられ、キスされていた。ゆっくりとぬくもりを伝え合うような優しいキスだった。


 手がパタッと落ちると、そのまま、また眠りに落ちたようだった。寝ぼけていたのだろう。そう思ったが、胸がどきどきしていた。先程までとは違う感情で胸が一杯になってしまい、もう早く逃げなければと部屋をそっと出て行った。


 廊下に出てみれば、ここは自分に与えられた部屋とは階が違っていた。やはり、間違えたのだ。急いでミシェルの部屋に向かいドアを叩いた。


「おはよう。何があったの。心配していたのよ」

 すぐに部屋に引っ張り込まれ、ミシェルに聞かれた。


「昨日、部屋を間違えてロイド・スミスの部屋で寝てしまったの」


「それはロイドに襲われたってこと?なんて奴」


「違うの、寝ているロイドのベッドに私がもぐりこんだの」


「え、夜這いしたってこと?」


「違うのだけど、違わないかも。ちょっと、色々とややこしいの」


 とにかく、思い出さなくっちゃ。溜息をつきながらマチルダはソファに座り込んで目を瞑った。


 すぐにミシェルが暖かくて甘いお茶を渡してくれた。ミシェル、大好きよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ