親友の幸せ
ダンスフロアから戻ると、イザベラの友人たちが歓声で迎えてくれた。
「素敵だったわ。すごくお似合いで、見つめ合って踊るのが、熱い雰囲気」
「見ていてうっとりしたわあ」
聞いてロイドはぐったりした。見つめ合っていたわけじゃなく、視線を顔の辺りに固定していただけなんだけどな。本人以外にはわからないか。
ところがイザベラも気付いていなかった。彼女は熱いまなざしで見つめられていると思っていた。
「ロイド様。ベランダに出て風に当たりませんか。少し涼みたいのです」
周囲に集まっていた女性たちが、ずうずうしいわ、とか恋人気どりね、とひそひそ文句を言うのが聞こえるが、やっかみとしか思えず、全く気にしていなかった。
その中から、でも特別扱いじゃないわよ、という声が聞こえてきた。
彼は女性にとても礼儀正しく接し、気持ちの良いエスコートしてくれるの。だから自分が特別な女性なんじゃないかと期待するけど、全くそうではないのよ。
でも、エスコートしてもらっている間は、お姫様気分にさせてもらえるので、誘われたら絶対に! 断らないわ。
周囲から、はぁ~ッという熱いため息が漏れる。
エスコートしてもらったことのある女性の言葉なのだろう。皆、一度でいいから、そんな体験をしてみたいと願うのだった。
周りにいる男性の大半は、勘違いしているか、気が利かないか、何も考えていないかだ。それが、本物のお姫様でさえ、彼のお姫様扱いには、やられたのだ。
イザベラは内心、憤慨した。私はあなた達とは違うの。私は彼の特別な女なの。
見ていらっしゃい、証明して見せるから。
「ロイド様、さあ、行きましょう。昨夜の続きのお話しをしたいわ」
まあっ。なんですって! と女達が、どよめくのが分かった。
ふふ~ん、一緒にしないでよね。昨日、彼から直接誘われて一緒に踊って、今日は二回目のダンスよ。
ヘンリーとミシェルが駆け付けたのは、ちょうどその時だった。
「なあに、あれ。女性の集団と、それに囲まれたロイド。しかも、なんだか雰囲気が険悪」
「ああ、今のあいつは、いつもと違うんだ。いつもなら、もめ事なんか起きないよ。救出に行ってくる」
ヘンリーが女の集団に飛び込んだ。
「皆さん、すみません。ロイドは今、体調が整わなくて、何かの薬の影響かもしれません。ちょっと外で休みますので、失礼します」
ロイドはマチルダに気を取られているので、自分の周囲で起こっている鞘当てにはほとんど注意を払っていなかった。
マチルダが男達に囲まれている。従兄が、そいつらを追い払うのは嬉しいが、全く側を離れずにいるのが気に入らない。
彼が向かうと、マチルダもこちらに歩いてきた。従兄が止めるのを、お花とカードのお礼を言わなくてはと断り、彼の手を取った。
二人はダンスを始めた。
くるくる回り、笑い、話して、ダンスが終わった。
そしてまた、ダンスが始まり、またくるくる回り、笑い、話して、がずっと続いた。
周囲の人達は、いぶかし気に見ていたが、そのうち、これはあれね。がっかりだけど、お似合いだわ、と言い合った。
ラストダンスが終わるとヘンリーとミシェルが合流し、二人を連れて去った。
そこにいた女性達は、なんだかとてもロマンティックなものを見た気がして、うっとりしていた。
イザベラ達を除いて。
男達は、見つけたと思った途端に、取り上げられた宝石に涙した。
二人の恋人たちはお互いしか見えていなかった。
そして、その親友たちは、疲れ果てていた。人の恋に巻き込まれるのは二度と御免だ、そう言い合い、祝杯を挙げた。
その二人を見かけた侯爵が、声を掛けた。
「ミシェル、探していたのは彼なのかな? 紹介してくれるかい」
ミシェルはヘンリーを紹介した。この先、親しくお付き合いすることになるだろうと。
ヘンリーは、ミシェルを非常に得難い女性だと言った。
侯爵は、これはいい縁を結んであげることが出来たと満足した。しかし、その後の二人の様子と会話に混乱した。まるで、長年連れ添った夫婦のような倦怠感が滲んでいる。
とても、知り合ったばかり、恋に落ちたばかりの若者たちには思えない。
「もうなにも問題なく、末永い幸せを願うね。夫婦喧嘩は受け付けない」
「それがあったわね。協定を結びましょう。私も絶対御免だわ」
「頼りにしているよ。君は素晴らしい女性だ」
「ヘンリー、あなたもね。裏切らないでよ」
侯爵は、深く考えるのをやめた。なぜか、今日は妻をねぎらおうと思った。




