水上ダッシュ
プシュー
列車の扉が開いた。
乗客らしき人(?) が数人降車し、何やら会話をしながら湖の上を歩きそのまま左側の森へ入っていった。
「……は?なんだありゃ」
私はさも当たり前かのように起きている目の前の不可解な状況に、混乱を隠せずにいた。
「アレってここのことだったんだ」
隣で口を開いてぽかんとしていたみっちゃんが呟いた。
「え?アレってなんの……」
新たに浮かび上がった疑問を口にしようとした時、みっちゃんが列車に向かって駆け出して行った。
「花!カモン!」
「え?嘘マジ?ちょ、ちょっと待って」
何故英語?などと、どうでもいい疑問も浮かべながら追いかけると、前を走っていたみっちゃんがさっきの乗客同様水の上を走って行った。
「おー、マジか」
色々起きて混乱にも慣れてきた私は、湖に差し掛かるも減速せずに突っ走った。
「うげー。やっぱり、なんだこれ」
水は、少々厚めに張られただけの膜の上を走っている様な感覚で、バランスが取りづらい。
「すいませーん!乗りまーす!」
みっちゃんが列車に向かって叫んでいる。
「やっぱり乗るのか……仕方ない」
先に乗ったみっちゃんが出した手を取り、私も列車に入った。
プシュー
列車の扉が閉ざされた。
「いやー。危ない危ない。なんとか乗れたね」
「危ない危ないじゃないよ、乗っちゃったよどうしよう」
大した距離を走ったわけでもないのに、すごく息が切れている。
おそらくこの息切れは疲れだけのものでは無いのだろう。
「どうしようったって、今更降りられないよ」
窓の外を見ると、列車はもう湖を離れ空へ昇り始めていた。
さっきまで座っていたイスが下に見える。
「まあ、そっか」
ようやく少し冷静になった頭を働かせ、今の状況を整理した。
湖で流星群を見ていたら、宙から列車が下りてきて、今それに乗ってる。
簡潔にしても意味がよく分からない。
「そういや、走り出す前に言ってた「アレ」って何だったの?」
色々聞きたいことはあるが、とりあえずみっちゃんが確実に答えられそうな質問を投げ掛けてみた。
「あぁ、あれ?別に大したことじゃないよ。ネットで見たんだ、列車のこと」
「これの存在知ってたの?なんで教えてくれなかったんだよ」
「いや、存在を知ってたわけじゃない。オカルト板で見たんだ。みずがめ座Ψ流星群が来る日、それに紛れてどこかの湖に宙から列車が下りてくるって」
「あぁ、8chの」
あそこはユーザーが楽しむために嘘が蔓延っている。そんな場所の話じゃわざわざしないのも無理はない。
「それが事実だったと」
「そういうことになるよね」
みっちゃんが憧れてたオカルトの世界。それを目の当たりにした興奮で乗っちゃったのか。
「というか、わざわざあの湖まで流星群を見に行ったのって、もしかして景色が目的とかじゃなくて?」
「……はい。その記事を見たからです」
やっぱり。その記事を書いた人は誰なんだ。
「まあ、いいや。他にこの列車について知ってること無い?」
「他に……あ」
「何?」
「もう一つだけ知ってることは、この列車が33年周期で地球に来てるらしいってことくらいかな」