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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会はあの日から始まっている

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風前の灯火

 ── ??? 加賀美咲 ──


 最近、バスケ部内の空気が変だ。

 特に、私以外の一年生全体の雰囲気がおかしい。


 私は一年の中で一人だけAチームで、練習も基本別メニューだし、他の一年生たちと距離があるから、今皆が置かれている状況を詳しくは知らない。

 けど、中村がだんだんと荒れている様子は度々練習中に見かけていた。

 それも、何故か一年生をターゲットにしている姿を。


 そのせいか分からないけど、この前一年の一人が退部した。

 最初は、この時期だと入部前の理想と現実のギャップに耐えられなくなる人が辞めていくことが多々あるから、今回の事もその一つだと楽観していた。


 けど、それからだ。

 その辞めていった子と仲の良かった一年生から露骨に嫌な態度を取られるようになった。

 いや、露骨ではなくても一年全体から私に対する態度が少しずつおかしくなり始めていた。

 

 遠い。

 元から遠かった距離なのに、遠ざかっているのがはっきりと分かるほど、急速に離れていっている。


 だから、その時になってようやく気づいた。

 一年生全体にストレスがかかってる原因には私が関与していて、この前辞めていった子もそれのせいなんだろうなって。

 私はなにもしていないけど、私が原因となった何かが周り周って一年生に牙を剥き始めていた。 


 そして、その何かというのも、心当たりは一つしかなくて。 

 私が中村に目を付けられた影響は、そんなところまで及んでいるのだとすぐに分かった。


 楽観しすぎていた。

 私が上手くなって、周りに納得させるだけの実力を付ければ、中村は私に手を出せなくなるって、そんな単純な考えしか出来ていなかった。

 私に手を出せなくなった結果、そのせいで新しく生まれた鬱憤が、本当は私で晴らす予定だったストレスが、自分以外のどこに行くのかなんて全く考えていなかった。何があっても、庇えばいいとか、そんな力も無いくせに。


 私は、そのツケを今まさに払わされている。


 具体的な影響は例の退部があってすぐだった。

 私が他の一年生と部活で接触するのは、チームごとに分かれて練習が始まるまでの更衣や移動、アップなどの準備の時間。それから、練習が終わってからの片付けの時間がほとんどだ。

 

 そんな短い時間の中でも感じられるほどに、私は避けられるようになっていった。

 視線が合わない、話しかけても生返事しか返ってこない等々、最初の方は軽めのものだった。

 違和感はあったけど、私は基本部活だと接するのはAチームの先輩ばかりだから、多少おかしいと気づいても、影響は軽微だったからあまり気に留めていなかった。


 けど、それも無視できないほどあからさまになっていった。

 生返事は無視へと変わり、物を隠されたり暴力はなかったけど、陰口を叩かれたり一人だけハブられたりって言うのは結構傷ついた。


 松前部長や三木先輩も心配してくれたけど、一年全体をどうすることも出来なくて、二人の申し訳なさそうな、また何も出来ないという悔しそうな顔を見るたびに、むしろ私の心が締め付けられるようだった。


 結局私には、耐えることしかできなかった。

 一刻も早くふさわしい実力を、認められるためにもっと上手くならなきゃって、今の私にはそれ以外の事を気にする余裕はないって。

 朝も夜は相沢と一緒に自主練して、昼は先輩たちに実力で差がある分は根性で食らいついて、そういう日々を送ってれば、嫌なことも考える時間は最小限で済んだし、無心で取り組んでた。

 

 そんな日々を送り続けていたら、いつのまにかバスケをしてても楽しいと思えなくなってしまっていた。

 勝ちと、成長と、そんなものばかりに執着する日々は、私を少しづつ変えていった。

 今思えば、上手くなればなるほど、周囲との距離が離れていったんだろうけど、この時の私にはそれ以外に何も見えていなかった。


 バスケを続ける意味を悩むなんてこと、初めての経験だった。


 そんな折、ある噂を耳にした。

 一年をまとめて私に嫌がらせをしているのは相沢だって噂。

 根も葉もない話ではあったけど、少なくとも一年の間でまとめ役というべき、簡単なリーダー格になっているのは私も知っていた。


 私の相沢へのイメージは、難儀な性格をしてるけど、誰にも負けないくらい上手くなってやろうという執念は私よりも強くて、私が決意するよりずっと前からひたむきに努力し続けてきた凄い人。

 私に対して理不尽な態度をとるから苦手だったし、そこだけ見るなら確かに嫌がらせをしてきそうではあったけど。

 でも、自主練で二人の時間を重ねるうち、そんなくだらないことするくらいなら練習に時間を費やすだろうって確信できるくらいには相沢の事を理解していたつもりだった。


 心のどこかで、私は相沢を信頼していた。

 そして、その信頼は私にとって少しだけ支えになっていた。

 私と同じだけ上手くなりたいと願う存在がいて、相沢に負けたくないという動機で練習してる間は、今の私でもバスケの楽しさを感じれる貴重な時間だったから。


 周りからの心無い態度と上手くならなければという自分自身からのプレッシャー。

 細り続けていく精神は、しかしバスケをしても癒されることは無くなった。

 日に日に弱り続けていく決心と、バスケへの執着。


 だから、相沢にまで裏切られたと知ったその時に私は、誕生日ケーキの蝋燭くらいにあっけなく、バスケへの情熱を失ってしまった。

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