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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会はあの日から始まっている

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神輿は勝手に担がれる

 ── ??? 相沢果南 ──


 ──私は加賀美咲が好きではない。むしろ、嫌いと言ってもいいかもしれない。


 最近、加賀を除く一年全体が中村に目を付けられるようになった。


 この前の練習試合。中村が、自分の想定と違い加賀が活躍したために、前に加賀と一悶着起こした時の鬱憤を晴らせずにいて機嫌が悪いからだ。

 本当なら、足を引っ張った加賀を(なじ)るつもりだったろうし、悪い流れを産み出し、加賀を追い詰めてやろうとでも画策してたんだろう。

 けど、その目論見も加賀の活躍によって全て逆を行った。

 

 中村が腹を立てているのは加賀に対してだ。

 なら何故目を付けたのが私達一年生なのかといえば、実に下らない理由だった。


 加賀が活躍してるのに比べて、他の一年はだらしないだの、やる気がないだの、実に好き勝手言ってくれたので、私たちはほとほと呆れか返っていた。

 私達一年だって、加賀に比べれば日の目は浴びていないけど、でもこれが正常だ。

 加賀や先輩たちに比べたらまだまだでも、これからの成長に期待できる奴もいるし、やる気に関しては全員持ち合わせている。

 誰一人として、不真面目なやつなんかいないと胸を張って言えるけど、そう訴えても結局中村にとっては火に油だった。


 言い分なんて端からどうでもよくて、鬱憤を晴らすためだけに私たちに当たり散らす中村は、私たちが言い返すこと自体気に入らない様子で。

 大抵の場合は間に松前部長か三木先輩が間に入ってくれたものの、頻度も高く、いつまでも終わらないので、庇いきれないものも多数あった。


 厄介なのは、中村の異常なまでの粘着質な性格だった。

 今まで二宮先輩が一人で背負ってくれていたモノが、一斉に周りに降り注ぐ。

 運動部である以上、なじられるのにはある程度の耐性はあったものの、それでもアイツのそれは顧問としての叱咤や激励とはとても呼べないものだった。

 悪辣なただの暴言に晒される毎日。

 もちろん、日々ストレスはたまるばかり。

 

 そんな中、高校一年生という幼稚さも持ち合わせた年頃の部員たちは、振り上げた拳の行き場を見つけてしまった。


 事の発端となり、更に中村を苛立たせた存在は誰か?

 それは誰が見ても明らかだったから。


 ──誰あろう、加賀美咲を置いて他にいない。


 もちろん、加賀は悪くない。

 私達と一緒で降りかかった火の粉を払っただけ。

 けど、一年の部員たちにとって、その火の粉が自分達に向かってきてはたまらないのだ。

 加賀に、自分たちの代わりにその火に焼かれていて欲しかったのだ。何とも勝手で、醜い話だけれども。


 まず、Aチームという括りが良くなかった。

 加賀に対して一年生全体が劣等感を憶えてしまうとともに、一人だけ一年の輪から外れる形となり、他の一年の中で身内という感覚が薄れる要因になったから。

 次第に加賀に対する嫉妬や、元々こうなる前から心の内に沈めてあった僻みが噴き出るようになった。 

 それは意外にも多くの部員に共通するもので、周りと共有し合ううちに、まるで転がる雪玉のように大きくなっていく。 

 中には加賀に対して悪感情を抱いていなくても、同調圧力に流されてしまうものもいた。

 

 段々、加賀と私たちの間にある隔たりは大きくなっていった。

 元々一人だけAチームで上級生たちとしか練習しておらず、問題が発生する前から隔たりはあったけど、それが加賀のあずかり知らぬところで、私たちの劣等感や、中村によって受けたストレスをエサに、どんどんと大きくなっていった。


 そんな流れの中で、一人の生徒が注目されるようになった。

 

 ──私だ。


 加賀の次にバスケが上手く、加賀の対抗馬としての印象があって、そして周りから逸脱していない。

 ……つまり、加賀のように悪目立ちすることがないような、悪く言ってしまえば凡な才能しか持ち合わせない。

 そんな皆と近い存在だったから。


 Bチーム以下、一年生のリーダーとして、私は注目されるようになった。


 もしかしたら、自主練に明け暮れていて、努力家と思われていたのも選ばれた原因かもしれない。

 なぜならこの部活の生徒のほとんどが、圧倒的な才能に努力で打ち勝つ凡人のサクセスストーリーを好んだろうから。


 私は、加賀以外の一年生から、いつのまにか神輿として担ぎ上げられてしまった。

 声を上げる間もなく……いや、この表現は適切じゃない。

 上げなくて良いと言う自分の中の悪魔に従ってしまった。

 小宮先輩に共感した自分にだ。


 一連の流れの中で、私の中でも劣等感が膨らみ、ゆっくりと輪郭を帯び始めていた。

 でも、憧れと理性が、膨らみ続けようとするそれに強烈なストップをかけてもいる。

 

 私は知ってしまった。

 加賀美咲という人間を、ほんの少しだけでも。


 サクセスストーリーが好きなんていったけど、加賀は嫌味な天才なんかじゃない。

 自分が背負ったものの重みを理解して、逆境に打ち勝つために努力が出来て、ただバスケが好きで、その想いに応えるように才能をもち合わせていただけ。

 そんな、私よりも純粋にバスケに向き合っている奴なんだって。

 知ってしまった。


 板挟みだ……。


 一方は、加賀の事を知らずにただ暗い感情を持ち合わせるグループと、そいつらが生み出した同調圧力に負けたグループ、それらから受ける期待の眼差しと、そして私自身も持ち合わせる嫉妬のような負の感情。

 もう一方は、一緒に練習を重ねていくうちに理解してきた加賀という人間への好感や、圧倒的なまでの才能に魅せられた憧れ。


 自分の中の複雑な心模様が、現実でも、そのままの形で現れてしまったようだった。

 

 ある日、メッセージアプリのグループに招待された。

 女子バスケ部の一年生数十名だけのグループ。 

 入って、それからだった。

 異変に気が付いたのは。

 

 ……加賀だけは、このグループに招待すらされていない。


 私は言うべきだった。

 「もうやめよう」と、ただ一声。

 

 けど、最後までその想いを伝えることは出来ないで。


 これから先、私がどんな後悔をすることになっても、それはきっと、この時声を上げなかったことが原因になるんじゃないか。

 最近、そんな思いが頭の中にこびりついて離れなくなっている。


 私は加賀美咲が好きではない。

 私の持ちえなかった才能を持っていて、私の欲していた地位をいともあっさりと手にして、私と違ってひたすらに好きなものを楽しめる純粋な心と、バスケだけを見つめ続けるひたむきさがあったから。


 けど……今は。

 そんな加賀よりも、自分の方が嫌いになってきている。

 少しだけ、冷静に自分を見つめられるようになってきてしまったのかもしれない。 


 私が自分の立ち位置に苦悩し続けていたある日のこと。

 私は中村に最初の呼び出しを受けた。


 そしてその際、私は中村からある誘いを受けた。

 その誘いを受けて、私は心が悪の方に傾いてしまった。

 

 でもそれはしょうがないことだ。

 私はメッセージですら声を上げられなかったあの瞬間に、正しく進むべき道を諦めてしまったのだから。

 これくらい大丈夫なんて、そう自分を納得させて、私はそれから、考えることをやめてしまった。

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