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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会はあの日から始まっている

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眩しいから眩暈する

 ── 5月18日 13時20分 相沢果南 ──

 

 色々あって平日の朝と部活の後、加賀と二人で自主練をするようになった。


 正直複雑な思いではあったけど、加賀の実力は疑いようもなく、練習相手としては不足ない。むしろ、というかやはり、私の方が不足してるのをひしひしと感じさせられる程の逸材だ。

 私の実力の向上のために逃す手はない。


 でもやっぱり、近くで加賀のプレーを見ていると、心が折れかけるような、でもやっぱり目を奪われるような、とにかく色々な感情が入り混じってしまう。

 一緒に練習をするといっても、仲良しという訳にはいかないのが現状だった。

 なんか、凄く張り合ってしまうというか、同調できない。

 鼻は既に折られたはずなのに、素直に仲良く出来なかった。


 でも、練習相手としては期待以上で、対戦相手としてのレベルはもちろん、私の改善点をしっかり見つけて対応策まで用意してくれるので正直助かっている。

 加賀に助けられているというのもまた複雑ではあるけど。

 

 そうして凸凹な関係ではあるものの、とりあえず一週間やってみて、私的にはプラスの方が大きいと判断して、向こうもそれは同じだったのでこれからも続けていくことになった。

 

 そして今日はそんな平日を経ての土曜日。

 例の練習試合当日だ。


 私はBチームで試合に出ないものの、チームの応援という名目で観戦しに行くことになった。

 しかし、加賀はAチームなので選抜メンバー入り。

 それもまさかのスタメンで、だ。


 私達、加賀以外の一年の目から見ても、中村の指示は異常だった。

 なぜなら、加賀と入れ替わりになった小宮先輩の腕は伊達じゃないから。

 例え天才の加賀であっても、小宮先輩が費やしてきた三年間にはまだ追いつけていないのは私達にも理解できていた。


 だというのに、もう世代交代。

 色々と噂はされたものの、加賀と顧問が部員全員の前で揉め事を起こしていたのが記憶に新しく、取り入ったとかそういう噂が一切立たなかったのは不幸中の幸い。

 しかし、その代わりに少しだけ理解不能な流れに恐れを感じる生徒たちも出ていた。

 なんでもいいから穏当に終わってほしいと、そう口にする部員がほとんどだ。


 私個人としても、この世代交代には納得がいってない。

 私の目標であるスタメンの地位を気に入らないやつが手にしたからというよりも、実力が認められてという正当な流れでない、何か厄介事が絡んでいるのが明らかな今回の流れに、自分の目標に泥を塗られたような気分でいるのだ。

 だからこそ、自主練中に加賀が叫んだ相応の実力を身に着けたいという目標に、不本意ながらも少し応援してしまった。


 私と同じBチーム以下の部員はベンチではなく観客席での応援。

 そこから早くもユニフォームに身を包んだ加賀を見つけたけど、もう間もなく試合も始まるというのに、緊張した様子はあまり見受けられなかった。

 小宮先輩に対する負い目を憶えていたのは自主練中に感じてはいたけど、それでもやっぱり試合に出れる喜びがないわけではないのだろう。

 まあ、それはしょうがないかと思ってしまう私もいる。

 だって同じ立場だったら、高揚する気持ちを抑える自信がない。


 でも、今回の相手はいずれ県大会でぶつかる可能性が十分にある強豪校。

 実力もまだ小宮先輩に劣るし、スタメン同士のチームワークも付け焼刃レベル。

 負けたら、その要因は間違いなく加賀の未熟さだ。

 それは中村の采配だけど、あいつは棚上げが得意な小悪党だ、どこまでも厚い面の皮をしているから、恥ずかしげもなく加賀を責めたてるのは想像できる。

 もしそうなれば、加賀のやつは大丈夫だろうかと、柄にもなく心配してしまった。


 そして、もう一人目に入った。

 小宮先輩だ。

 先輩は今スタメンから降ろされ、交代要員としてベンチに移動した。

 私には加賀の気持ち以上に、小宮先輩の気持ちが理解できたような気がする。

 その大きすぎるショックの全てをとは言えないけど、スタメンを勝ち得るためにこれまでしてきた努力と、そこに至るまでに積み上がった自信。

 それら全てを踏みつけにされるような経験を前にして、当然以前より遥かに暗い面持ちをしている。


 目の前で加賀が自分と入れ替わりプレーしている現実に、果たして彼女は耐えられるのだろうか。

 悔しい思いは私以上だろうと、この時ばかりは認めざるを得なかった。


 そんな心配をよそに時間は無慈悲にも進んでしまう。

 純粋なバスケ以外の思惑が入り混じった気味の悪い練習試合が、始まりを迎える。




 ──…………。


 結果から先に言おう。

 練習試合はなんと、危なげなく勝利を収めた。

 

 それも、この前の紅白戦のような大差をつけて勝ったわけではないものの、僅差というには少し離れすぎている程度には差をつけて。

 つまり、実力で言えば相手校よりも明確にこちらの方が上と言える程度に差を見せつけた。


 その要因だけど、まさかというべきか、やはりというべきか──加賀の存在だった。


 先に言っておくと、小宮先輩の方が腕は優るのは間違いない。

 チームワークが罰君になるので試合も滑らかに進むし、作戦の通りの動きができる分やはり小宮先輩にまだ分がある。

 けど、今回の試合ではそれよりも加賀の光る部分が強烈に相手チームに刺さった。

 それは圧倒的な個の突破力だ。


 一人でボールをゴールまで運ぶ力でなら、おそらく加賀は既に小宮先輩を凌駕している。

 これまで松前部長が試合の流れを作り、三木先輩の突破力で得点を稼ぐという試合の運びが多く、それ以外の選手も全体的にバランスがいいチームではあった。

 しかし、三木先輩以外に加賀という攻めに特化した脅威が生まれたことで、相手チームもこちらへの対策がより複雑化し、対処しきれなくなった。

 それが今回の勝因だと思う。


 もちろん新入りの一年生がここまで活躍するとは相手も予想しきれなかっただろうから、不意打ち的な側面もあっての結果だろうけど、敵味方含めて大方の予想を裏切り、加賀はまさかの活躍をしてみせた。


 うちの部員のほとんどが歓喜に湧き加賀に注目を集める中……私は一人、小宮先輩の様子を見ていた。

 加賀は言っていた。

 私がレギュラーにふさわしい実力を一刻も早く示すことで、悪意ある中村の采配でも、強引に正解にしてみせると。

 その言葉通り、今日の加賀は完璧とは言わないまでも、周りを納得させる結果を一つ示してみせた。

  

 ──ああ、本当に圧倒的だ。そして加賀の考えは間違っていない……でも。


 加賀は圧倒的すぎた。

 凡人がそんな存在を前にしてしまうと、積み上げてきた自信が壊れてしまうことを私は知っている。

 自信が崩れて粉々になるときの音を、私は知っている。


 私は一人だけ小宮先輩を見つめていた。


 一人俯いたあの顔が下から見た時どんな形に見えるのか、私も当時自分の顔を鏡で確認したわけではない。

 だから、それだけは私も知らなかった。

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