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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
これからはじまる生徒会 

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お姉ちゃんだって暇じゃない

 生徒会室から出た後、部活にも委員会にも所属していない私に学校に残る理由はなかったので、そのまま家に帰ることにした。


 いつもの下校路を歩いている最中、頭の中では考え事をしていた。

 護は昨日買い物に向かったので、今家には数日分の食材は用意がある。その場合の護は、学校から直帰してから他の家事なり勉強なりして、家にいることがほとんどだ。

 このまま帰れば、護は「おかえり」と言って私を迎えてくれるだろう。


 それなら、一度家に着く前に考えをまとめておこう!

 これから護と話す必要もあることだし、ね。


 ──まず最初は、私が詩葉先輩の後を継ぎ、生徒会長になるかどうかの答え。


 結論から言って私は『引き受けたい』と考えている。


 理由は単純。

 何よりも、詩葉先輩からの依頼である、ということ。

 実は私には、詩葉先輩に返せていない借りが一つある。

 もう一年以上前のことだし、他人から見ても、というか詩葉先輩自体、大した貸しだと思わないものだろうけど、私にとって大きな借りが。


 いつかは返したいと思っていたけど、あの完璧人間のこと、恩返しの機会なんてそうそうある訳もなく。今回はそんな借りを返すにはもってこいの、滅多にない機会なのだ。


 いや、まあそこを置いておいても、詩葉先輩は友人だし、よくお世話になっている。

 あの人からというだけで、私にとって頼みを聞く理由には十分だった。


 ──そして、第二に考えるのは、生徒会長になった際に生じるデメリットのこと。


 私の懸念するデメリットは、スケジュールの圧迫だ。


 ここ最近の私の生活を一部だけ切り取ってみれば、あたかも護に家事を全て押し付け、自分は寝転んで世話される立場に甘んじる、そんな怠惰極める生活を送っているように見えたかもしれない。

 そんな私に『忙しくなって困る理由なんかあるのか?』と不思議に思うかもしれない。


 けど、あるかどうか聞かれれば答えはもちろん『YES』なのです。

 そこは私、意外とちゃんとしてるんです。


 私たち二人の生活にはそれぞれ役割分担があって、護が家事全般を担う一方で──私は金銭の管理と、ちょっとした仕事をして、お金を稼ぐ役割を担っている。 

 仕事がどんなものかと言うと、例の叔母の飛鳥さんが自営業な上、顔が広く伝手もあるので、家でもパソコンさえあればできるような事務や簡単なプログラムの仕事があれば、委託という形で回してもらっているのだ。そのための勉強も学生の傍らで行ったりして、資格もいくつか取った。


 元々、私たちの手元には、両親が遺した貯金や保険金が殆ど手つかずで残っているし、飛鳥さんも生活費として毎月仕送りをしてくれている。

 今の生活のままなら、私たちが二人とも大学にすすんでもお金に苦労することはないだろう。

 特に、私の学費に関しては特待生を維持できればもっと楽できそうなくらいだし。

 ……けど、それでも飛鳥さんが居なければ私たちの生活は成り立たない訳で、でいつまでも飛鳥さんの負担に甘んじたくはなかった。


 あの人は私たちが大人になるまで、養ってくれる。

 そんな負担をさも当たり前のように、笑って背負ってしまうから。

 飛鳥さんへの感謝を軽視しないためにも、自力で少しでもお金を稼ぎ、負担を軽くしたかったのだ。


 ……それに、あまり触れたくはないけど、私たちには病院で入院し眠り続けている母が──


 いや──しまったな、話が逸れ過ぎてしまった。


 私の仕事に関してはもう十分だろう。

 とにかく、私たち姉弟には他所よりもお金のいる事情がある……ので、家事と同じくらい私の役割もおろそかには出来ないのだ。


 ──それと、最後に三つ目の問題だけど……。


 一緒に生活している護に対して、私が忙しくなることで悪影響があるかもしれないのだ。

 例えば……。


 なんか、『私と一緒にいられる時間が少なくなって寂しい!』とか……! 


 ……まあ、冗談にしても、護は自分より私を軸にして生活のあれこれを考えている節がある。

 無論、姉としては私より自分を優先してほしいとは思うけど、普段は何しても許してくれそうな態度してるくせして、あれで一度決めたら絶対に譲らない頑固なところもあって。家事はその筆頭だ。


 私の生活が変わるということは、護にも何かしらの変化を強いるということ。

 それに、さっき言った一緒の時間が減るのが寂しいというのも、あながち冗談ではない。


 私たちにとって、お互いが一緒にいられる時間が、何よりも大事なものだから。


 少なくとも私にとってはそう。

 護もそうだと断言するのは、自信過剰な気がしてちょっぴり気が引けるけど。それでも、きっと護も。

 なので無断で決めるのは忍びないし、今朝も護に仕事の心配をされたところだ。これ以上心配をかけたくない。


 ……んー。

 でも護のことだし、最終的に私の意志を優先するために自分は我慢して「いいよ」って言ってくれちゃうんだよなあ。


 詩葉先輩のことを思うと生徒会長の件は受けたいけれど、受ければ生活が変わり護に負担を強いてしまう。

 今回の件、私はちょうどいい折り合いのつけどころを見つけないといけない。


 しかし……やっぱ駄目だ~。

 これが全然思い浮かばない。


 詩葉先輩の話だと、生徒会の仕事は平常時の場合そんなに忙しくもなく、特に経理や広報の仕事をする際は時間や場所に融通も利くらしくて、そんなに不便はしないとか。


 けど、時には問題になりうるケースもあるにはあるらしい。

 たとえば、イベントがあるときのこと。

 文化祭と体育祭が迫ると、平常時の何倍も仕事量があって、家に帰るのが遅くなることもざらだとか。


 ……大切な人が大変な時、自分がその人の力になれないことほど苦しいことはない。だからこそ、いつだって護が大変な時はあの子のために頑張ってきたし、護も私のためにたくさん支えてくれた。

 護は、私の仕事を直接手伝えないことを気にしてた。

 そこに私が生徒会長まで抱え込めば、ストレスは溜め込んでしまうタイプの護の事、後々に響くかもしれない。


 ──ならいっそ、護も生徒会に入れて、力になってもらえばいいのでは?


 いやいや、でも忙しいし。そんな余裕は……。

 ん~?

 あー、いや。

 …………………………。


 それ……意外とありかも?


 色々と障害はありそうだけど、でも護は私の役に立つことを望んでるし、家事以外に生徒会にもやる気をみせるかもしれない。


 あぁ……うん。

 思い浮かぶなぁ……その時の護の姿。


『護……私のために生徒会で頑張ってほしいな?』

『姉さんの役に立つなら、もちろんなんでもしてみせるよ! だって僕は姉さんが大好きだから!』


 ……流石に最後の一言は私の願望だけど、でも勢いとかは全然誇張してないと思う。護はそういう可愛い子なのだ。


 それに、もし本当にやる気を見せたとして、護に生徒会の役員になってもらうために必要と言えば、家事の分担も交渉できる可能性まで出てくる。


 ただ、護はそれで私の負担が増えてしまう点が気になるだろう。

 そこは委託を受ける仕事は前より少なくしてもらえるようにお願いして、無理のない程度に調整しよう。

 今まで、可能な限り仕事をもらって、飛鳥さんから働きすぎとも言われていたので、丁度いい。


 それに、生徒会長という立場で見ても、護という役員の存在は大きい。護は私や詩葉先輩のように特別器用なわけじゃないけど、真面目で熱心だし気も利くから、役員としても優秀だ。


 つまりこれなら、護に心配を掛けることなく生徒会長も引き受けられる上に、生活における家事のバランスも改善できて、生徒会としても信頼が置ける優秀な人材を確保できるという訳だ。一石で鳥を何鳥も落とす会心の策といえるだろう。……まあ、上手くいけばの話だけど。


 ひとまずは護と話す前に、一つだけでも話の落としどころが見つかったのは間違いない。

 それもまさか、こんなきれいな形で見つかるとは。 


 もしかすると私──天才なのでは?


 ……なんてね?

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