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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会はあの日から始まっている

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初めてのランチ 後編

「わぁああ! すっごい良い感じじゃん! なにこれ!」

「でしょ? この前偶然見つけたの」


 現れたのは、綺麗な木製の机とベンチだった。

 橘さんが抵抗なくベンチに腰かけたので、私も対面に座って弁当を机に置いた。

 机も椅子もあまり老朽が感じられないうえに、ブルーシートで対策してあったので砂埃も乗っていない。


「こんな竹藪の中なのに、良く見つけたね?」

「この前、放課後に校内を軽く周ってみたの。私は部活もなかったから」

「なるほどね~。探検してたら見つけたなんて、男子みたいだね?」

「どっかのだれかが迷子になってたし、私も気を付けないとと思っただけだよ」

「あぁっ! 酷いよ橘さん!」


 思いっきりこの前の私の事だ。

 いたずらっぽい悪い笑みを浮かべて、からかってきた。


「まあ、おかげでいい場所が見つかったよ」

「私のおかげならここを私に教えるのも当然の運びだよねー?」

「やっぱり加賀さんって図太いよね?」

「それ悪口で言ってない?」

「とんでもない、事実だもの」


 にやけた顔でぬけぬけと言い放つからむかつく。


「正論は時として人を傷つけるの、覚えておいて」

「ああ! そんな言葉を人から言われるのって変な気分! 学校で私に説教してくる人なんて先生でもいなかったのに」


 私がムッとして睨むけど、橘さんにはなぜか感慨深そうに頷かれてしまった。

 そんな台詞金持ちのボンボンのキャラからしか聞いたことなかった。


 私だって初めて橘さんを見たときは、私が物を教えることになるとは思っていなかった。この人本当に百八十度印象が変わるなぁ。

 ……優しそうな笑顔が印象的な橘さん、か。

 どれだけ長い時間積み重ねたら、あれだけ自然で魅力的な笑顔を意識して浮かべられるようになるんだろうか。それとも、何かいいお手本でもあったのかもしれない。


「そんな裏を隠しておきながら、中学じゃよく三年間もバレなかったよね?」

「私としては中学で三年間バレなかったことより、高校に入った途端初日でバレたことの方が大きな出来事なんだけどね」


 でも、話してる時の楽しさは素の方が上なんだよね。遠慮がないので会話のテンポが速くて私好み。話しててとっても心地がいい。


 そんなことを考えながら、何の気なしに辺りの竹藪を見回してみると、ふと疑問が残っていることに気付いた。


「あれ? ここに来たのはこれがあるからって言うのは分かったけど……でも、なんでわざわざ今日は嘘ついてまで一人で昼食をとろうとしてたの?」

「ああ……それね……」

「それはちゃんと訳があるんでしょ?」


 まさかここで食べてみたかったとか、一人の方が良かったとかの理由で約束してたクラスメイトに嘘を吐いたわけではないだろうし……。


「ちょっと……恥ずかしくて……」

「恥ずかしい?」

「今から何を見てもバカにしないでね?」

「え……うん。分かったけど……」


 恥ずかしいだのバカにしないだの言われると、いったい何が出てくるのかと身構えてしまった。

 けど、橘さんは私が頷いたのを確認すると、弁当箱に手を掛けた。


 そして、ぱかっと弁当箱を開くと私は言葉が出なくなった。

 そして、なぜか当の橘さんも恐る恐る中を覗いてショックを受けていた。


「……え?」

「ああ、やっぱり変わってないよね」

「あの……何、これ……」


 私が恐る恐る訊ねても、なぜか橘さんが首を傾げる。


「ね~? なんだったんだろうね、これ」

「何だったって……もとは食材だったって言いたいの?」

「調理前はそうだったはずだけど……」


 思いがけず可愛いらしい弁当箱の中に敷き詰められていたそれは……真っ黒に焦げていた炭のような何かだった。


「あ……でもほら、ちょっと削れば食べられそう」

「あ、本当だ……って! 削る作業はもはや食事と呼べないよ! どうしてこんなことになっちゃったの?」

「さあ? 多分、焼き焦がしたんじゃない?」

「さあって……この弁当は誰が作ったの? 橘さんの弁当って、いつもは美味しそうだって周りがはしゃいでなかったっけ?」


 私とは別のグループで食事をとっている橘さんだけど、あっちのグループが盛り上がっているとどうしても話が聞こえてきてしまって、前から気になっていた。

 そんな楽しそうにはしゃいで、どんな弁当なんだろうって。


「いつもはこんな感じじゃないんだよ? ほら、前にも言ったけど家事は弟の護が積極的にやってくれるから、昨日までの弁当は護が作ってたんだけど……」

「でも、橘さんが作ったわけでもないんでしょ? 二人暮らしなのに誰がこの弁当を作り上げたの? 相当豪快な人なんだなってことしか分かんないよ」


 漫画でしか見たことがないような焦げ具合だ。

 調理中にどうなってるか一切確認しなかったんだろうか。

 普通は様子を見てやばそうだったら火を止めるし、失敗しても多少焦げてしまうぐらいで済むはずなのに……。


 橘さんは苦笑いを浮かべて説明してくれた。


「実は今、海外を飛び回ってたもう一人の家族が一旦日本に帰ってきてて……私たちの叔母さんなんだけどね?」

「ああ、そういえば前にそう言ってたね……その人が作ったんだ?」

「うん、飛鳥さんっていうんだけどね。海外の仕事が一通り片付いたから、少しお休みなんだって」


 仕事で海外を飛び回ってるって聞いたけど、ちょうど家に帰ってきたらしい。


「せっかくだからアタシが作るってはしゃいじゃって……止められなくって……」

「よっぽど料理できないんだね……」

「出来ないのは料理だけじゃないんだけどね……、海外で練習したから大丈夫って言ってたんだけどなぁ。申し訳なさそうな顔して、これは捨てて(イチ)から作り直すっていうから時間もなかったし、仕方なくそのまま詰めて持ってきたの」

「それで今日は一人なんだ……」


 橘さんはそんな焦げた弁当の方を向いているけど、少し苦しそうな顔をしていた。

 まさかだけど、全部食べるつもりでいるのかもしれない。


「まあ、恥ずかしかったのもあるけど……皆の前で炭を食べるわけにもいかなかったし……」

「食べるつもりなの、それ? 白米以外は炭みたいになってるし、無理しないでも食堂か売店に行けば食べるものあると思うけど……」


 私の提案に、けれど橘さんは首を振った。


「それはその通りだけどね、食べるよ。飛鳥さんが久しぶりに私たちに何かできないかって、一生懸命作ったのは分かってるからね。無駄にはしたくない」

「ふぅん……」


 どう見たって美味しくないであろうそんな弁当でも、橘さんが向ける視線はどこか優しげで。

 そんな表情を見たら少しだけ私も気になってしまった。


「……ねえ、少しだけおかず交換してもらっていい?」

「え、でも……」


 私が自分の弁当を差し出してそう提案すると、橘さんは困惑気味にためらった。

 自分の弁当をちらっと見て、『こんなんだよ?』と言外に尋ねてきた。


「食べてみたいの。それなら無駄にはならないし、良いでしょ?」

「……本当にいいの?」


 まだ少し遠慮している橘さんに、少しだけ話をしてみることにした。


「私の弁当も冷凍食品とか結構入ってるんだよね……だからって、別に文句があるって話じゃないんだけどさ」

「……?」


 唐突に何事か語りだした私に、橘さんは何の話だと言いたげな表情で、でも何も言わずに私の話を聞いてくれていた。


「ウチも橘さんの家程じゃないけどそれなりに両親の仕事が忙しくってさ。そんな中でも毎日こうやって弁当作ってくれるのは感謝してるんだ。だから、残したくないって気持ちはすっごく分かる」

「加賀さん……」


 私の方をじっと見つめられると、少し臭いこと言ったかななんて思えてきて、少し恥ずかしくなってきてしまった。


「叔母さんが日本に帰ってきてお休みなのに、わざわざ朝早くから弁当作ってくれたんでしょ? ちょっとだけどんな味か気になったの……ダメかな?」

「気になる……ね。ぱっと見で誰にでも分かりそうなもんだけど」


 そう言ってクスリと笑う橘さん。

 私は拗ねてしまいそうになる。


「それは言わなくてもいいの! もう、本当に交換しなくても言いわけ?」

「ふふっ……ううん。ありがとう、加賀さん」


 ようやく素直に交換に応じた橘さんが、私の卵焼きを一つ持って行ったので、私は何が何だかよくわからない状態の弁当から辛うじて形を保っている一つを取り出した。


「いただきます」

「いただきます……」


 二人で挨拶をし、交換したおかずをまず口に運ぶと、対照的なリアクションになった。

 橘さんは笑顔に、私はもちろん苦笑いだ。精いっぱい表情筋を引き締めてなんとか顔を引きつらせながらも笑って見せた自分を褒めたい。


「加賀さんの弁当、美味しいじゃない」

「うん……橘さんの……たまごやき? も……なかなか……」

「それミートボールだね」

「ミートボールがどうしたらここまで焦げるっていうの⁉」


 芯まで焦げてるんだぞ、どんな手を使ったっていうんだ?

 まるでマジックじゃないか、逆に才能かもしれない。


 私は焦げたミートボールをもう一つもらって口に運んだ。

 全部芯まで……。


「想いが味として伝わるなら美味しいんだろうけどね……」


 私はフォローを入れた。これが精一杯だった。


「まあ、私にとっては無理にでも食べたくなるんだから、ある意味最高のスパイスなんじゃない?」

「流石にここまで焦げてると体に悪そうだけど……」


 橘さんも焦げた弁当に口を付けたので様子をうかがうと、あっちもこちらをじっと見つめてきて、あの弁当を口にした者同士想いが通じ合ったような気がして、私たちはなんだかおかしくなって吹き出してしまった。


「ねえ、橘さん」

「どうしたの?」

「今度、弟さんの作った弁当も食べさせてね」

「ふふ、気になっちゃった?」

「うん、美味しい方の想いが詰まった弁当も食べたくなった」

「あははは! いいよ! 護の手作り弁当はいつもなら遠慮してるんだけど、加賀さんになら交換してあげる、加賀さんの弁当も美味しかったから」

 

 橘さんとまたお昼を一緒する約束もできたし、気になっていた弁当も食べさせてもらえることになった。

 私にとってあまりにも大きな一石二鳥に、心の中でガッツポーズをとってしまう。


 なかなか骨の折れる思いもしたけど、今日の出来事は間違いなく橘さんとの仲を深める出来事になった。

 気長に気長にとは思っていたけれど、私たちが友達になる日は、思ったより早くやってくるのかもしれない、そんな期待を胸に抱いた一日だった。

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