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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
再会

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約束したアレ 後編

 かくして、護君の優しくも巧みな弁舌により、巴の心を縛り付ける闇はすっかりと払われたのでした。

 めでたしめでたし……なんて。

 

 確かに巴の心が救われたのならそれはもちろんいいことなんだけど。それと同時にまた一人、護君の被害者が増えたような気がしないでもない……なむ。

 まぁそんなの数えたらキリがないし、今更だと思うので気にしないことにするべきか。巴に関してはどうせ手遅れだったので、トドメを刺しただけのことだ。なら、楽にしてあげたと捉えることも難しいけど無理ではない!

 うん、やっぱめでたしめでたし!


 護君に魅入られた以上、柊和以外は皆等しく被害者なのだ。

 巴、ようこそこちら側へ。

 私は優しく歓迎しようじゃないか。

 ……おそらく、この場においては私と相沢だけ違う見方で巴のことを受け入れようとしていた。


「うぇるかむ!」

「なんだコイツ……」


 キラキラした目で手を差し伸べると、巴はこちらを胡散臭そうに訝しんでいた。悲しい。


「……会長、護君はああして落とすんですね?」

「あぁ……実際に目にするのは初めてだったねぇ」

「勉強になります……!」

「アレが私たちに向けられていたらと思うと……いやぁ怖いなぁ」

「あたしには効きませんけどね!」


 (のめ)ちゃんと詩葉先輩は一歩引いたところでコソコソとそんな話をしていた。護君を危険物扱いは可哀想だけど、実は間違ってない気もする。

 雲ちゃんは無敵どころか何か吸収してる。強い。

 

「うんうん~! 護君のお陰で皆いい顔になったよね~」


 一件落着となりそうなそのタイミングで、急に杏奈が張り切った様子で声を上げた。

 いきなりどうしたのかと、その場の皆の視線が杏奈の方に集中する。


「柊和ちゃんも護君も目を覚ましたし、巴ちゃんとも仲良くなれそうなことだし~……」

「杏奈、何か言いたいことでもあるの?」

「うん! 二人が退院できたら、そのお祝いと巴ちゃんの歓迎も兼ねて、例のアレをやるしかないよね〜!」

「例のアレ?」


 杏奈のことを一番理解している千歳ですらピンとこないようで、病室の中は一同『?』で埋め尽くされる。

 そんな私たちの様子を見て杏奈は不服そうにすると、『しょうがないなぁ』とヒントを出してくれた。


「文化祭で約束したでしょ~? ほら~……」

「文化祭……あぁ、打ち上げね!」

「あぁ~!」


 千歳が答えを出すと、巴以外の皆はようやく納得がいく。

 護君が目を覚ましてのアレコレでど忘れしていたけど、そういえば退院したらちゃんとしようと話していたんだった。

 ふむ、確かに丁度いい。巴も参加するのなら、改めてこのタイミングで打ち上げをすることになったのも悪いことばかりじゃなかったように思える。


「う、打ち上げって……私は文化祭には特に何も……」

「細かいことは良いよ~! ここまで来て一人除け者とかそっちのほうがありえないもん~」

「歓迎も兼ねるって言ってるんだから、理由なら気にしなくていいのよ」

「そうそう! 会費はミスコンで雲ちゃんが稼いでくれたし無問題(モーマンタイ)!」

「後輩の金で飯を食うタイプの先輩だ……」


 もちろん頼り切りは冗談だけど。

 

「それに会場はなんと橘家だよ……!」

「柊和と護の……?」

「この機会に護君の部屋を探るチャンスだね……!」

「……アンタらは私を何だと思ってるわけ?」


 強い誘い文句になるかと思ったのに、巴にはあまり効果がなかったようだ。


「というか、二人の家ってその……大丈夫なの? 第三者が入れるのかっていうか、その……アレでしょ? 巣的(ステキ)なナニカというか……」

「ステキな……?」

「と、巴は何を心配してるの⁉ 全然普通に普通の家だから‼ 全然来てもらって大丈夫だからっ‼」


 あぁ、そういえば巴は知ってるのか……。

 そりゃ柊和と護君の関係を知っていれば、『二人が暮らす家=愛の巣』的な想像をしてもおかしくない。というか、私も行ったことがなければ疑ってる。

 実際の橘家は決してピンクなことになっていないし、むしろ飛鳥さんのセンスが光るステキ空間だ。この人数が一斉に入れるだけの十分な広さのリビングもあるし。

 一方、事情を知らない千歳は一人キョトンとした顔で何を言ってるのかわからない様子で、杏奈の方は薄々察しているのか存在感を薄めていた。

 

「大丈夫だよ巴。柊和はヘタレだから妙なことにはなってないって」

「ヘタレじゃない!」

「つまり……まだ、巴にもチャンスはある! ……かも(小声)」

「はっ⁉ わ、私は別にそんなんじゃないって!」


 この期に及んで認めようとしない巴の脇腹を肘で小突いてやる。


「遠慮すんなって~流石にアレで違うはもう無理があるでしょ? でしょ~?」

「~~~っ、み、美咲こそ未だに未練たらたらのクセに!」

「た、たらたら違うし! 潔いし!」


 まさかの反撃に焦った私はその矛先を私以外の誰かに擦り付けることにする。

 どっかにちょうどいいヤツは……あ、いた!


「万一アレだとして、私も巴のソレと遜色ないどころかちょっと上回るレベルの激熱エピソードあるから仕方ないの! ちょびっと再会しただけでその日のうちにコロッといったどこぞの相沢なんかとは格が違うんだから!」

「おい⁉ 勝手に不名誉な争いに私を巻き込むな‼」


 上手く擦り付けたと思ったんだけど……結果として、火のついた相沢によってやいのやいのと言い合いは白熱し始めてしまう。

 唯一救いなのは当の護君が何の話をしてるのか全く理解していない『?』顔なことだけど……。


 ただもう、ここまで来るとなんか逆に怖くなってきた。

 なんでここまで言って何も理解してないの!? 

 その顔は一体どういう感情なの!?

 いや助かるけど!

 たぶんわかんないだろうなっていう信頼の上でぶっちゃけた話してるけど!


「……は~、相変わらず護君は人気ですね~」

「そうだねぇ。打ち上げでもああして引っ張りだこになる様子が目に浮かぶよ」

「ふむ……もういっそ、護君を等分して皆で分ければよいのでは?」

「……体を? 猟奇的な発想にも程がないかな、霧華ちゃん?」

「それで未亡人になった柊和先輩は私が貰い受けて皆ハッピーですね!」

「あぁ、そのためにもう始末するつもりなんだね……?」


 ──そうして、見舞客で一杯になった病室は、病院らしからぬ賑やかさで満たされていく。

 その光景は、柊和と護君が退院できるようになるまで、代わる代わるのメンバーで途切れることなく、毎日のように続くことになったのだった。

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