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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会はあの日から始まっている

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加賀美咲は……?

 ── 4月15日 16時00分 加賀美咲 ──


 入学式から一週間と少し経った、そんなある日の放課後。


 新しい校舎やクラスメイトに時間割、様々な変化に少しずつ慣れてきて、これから先の高校生活がより鮮明にイメージできるようになりつつあった、そんな一日。

 入学式当日は初日ながら予想の何倍も色々なことがあったけど、それっきり今日まで特に目立った何かが起こるわけでもなく、橘さんともっと仲良くなりたいと思っているけど、なかなか上手いこと接近することが出来ず、いまだ友達と呼べるような間柄にはなれていなかった。


 けれど、そんなタイミングで私の待ちわびていたそれは始まった。


 部活動の仮入部。


 私が高校で一番楽しみにしていた、バスケ部での活動が認められるようになったのだ。とはいえ、公的には今日からという事になってはいても、意識の高い人は先輩や先生に話を通して、もっと早い段階から部活に顔を出している事例もあるんだけど。


 水仙高校の部活動は総じてレベルが高い。もちろん例外もあるけど、少なくとも私が入部する予定の女子バスケットボール部は過去に全国大会進出の実績があるぐらいだ。ここ最近は県大会止まりではあるけど、毎年惜しいところまでは行けている。


 中学までのバスケ部も楽しかった。

 皆仲が良かったし、部員皆いい人たちだった。一緒にいて楽しい友達だ。

 卒業の日にはあのバスケ部で過ごした日々を後悔することは一つだってなかった。

 でも、高校生になってからはこれまでよりもっと、バスケに全力で挑んでみたいという気持ちもあって。


 もっと強い相手と、もっと高いレベルの試合を。

 この学校でならそんな私の希望も叶うのではないかと期待し、今日まで期待を膨らませてきた。


 学校で部活以外にもやりたいことは沢山あるし、まだ橘さんのこととか気にかかることも残っているけど、仮入部初日の今日は大事なスタートの日だ。


 一旦、他のことは置いておいて、私はこれから高校生活における青春のほとんどを捧げることになるであろう体育館へと足を向けた。

 



 ──…………。


「初日ということで、私を知らない一年生のために軽く挨拶させてもらおう。私は部長の松前祐美(まつまえゆみ)、チームのキャプテンだ、これからよろしく頼む」


 既存のバスケ部員と、入部希望者の一年生が着替えを済ませて体育館に集まると、部長の松前先輩が前にやってきて、無愛想なまま自分の紹介を済ませる。


「……早速だが、入部希望の君たちには本入部前に軽く自己紹介をしてもらう……君」


 すると、一番近かったからとでも言いたげな機械的な顔で、私の事を指さした。


「え? 私ですか?」

「ああ、君から適当に始めてくれ。内容は名前、出身中学、バスケの経験の有無、ある人間はどれくらい続けていて、ポジションがどこかも含めること」

「わ、分かりました」


 淡々と松前部長の指示で進められていく自己紹介に、少し期待してたイメージとのギャップを感じながらも、私は前に出た。


「加賀美咲です! 経験は、逍遥中学で三年間バスケ部やってて、ポジションはSFスモールフォワードです! よろしくお願いします!」


 軽めに自己紹介を済ませると、同じ新入生以外にも先輩たちからも温かい拍手で迎えてもらえた。

 部長の進行が淡々としすぎだったので、ちょっとこの反応は予想外だった。

 他の先輩たちも和気藹々より実力主義のギスギスなところがあるのかと……。

 でも、運動部だし挨拶とかこういう時はしっかりやるよう言われてるのかな?

 そう思って少し見回せば、ほとんどの人がちゃんと笑顔で雰囲気も悪くない。


 部長さんの目が怖かったので言われたことと、最低限の挨拶に留めておいたけど、ちょっと簡潔すぎたかな?

 まあ、仮入部で軽くって言ってたし、本入部になったらもっとちゃんとした機会があると思うし。

 

 私が元いた場所に戻ると、次の一年生が前に立つ。

 体格は私と同じくらいだけど、私と反対なキリっとした目が印象的な子だった。

 

「相沢果南です。因幡中出身。バスケは小学四年生の頃からやってました。ポジションはSFで──」




 ──…………。

 

 私の後に続いて十数人の自己紹介が終わると、練習も開始。

 レベルが高いと聞いて初日からハードな練習をするかもと身構えたけど、大してキツイ練習があるわけでもなかった。

 初日から精一杯頑張ろうと思っても、それなりのメニューじゃ本気を出しても空回りする。それなりの本気でこなしていると、休憩に入った。


「どうした加賀〜! 拍子抜けって顔してるね?」

「あ、三木(みき)先輩」


 男勝りな口調で私の心の内をあっさり見透かしてくるのは、三木結奈(みきゆいな)先輩、副部長でレギュラーをやっている三年の先輩だった。

 少しお堅そうな部長と反対で気さくな人で、さっそく一年生の私にもフランクに接してくれるいい人だ。

 初日のイメージだと、松前部長と二人で飴と鞭って感じだから、部活としては丁度いいのかもしれない。


「すみません、別に舐めてるわけじゃないんですけど、最初から走り込みとかするのかと思ってました」

「あっはは、しないよ〜そんなめんどいこと」

「めんどいからしないんですか?」

「ん~にゃ、そうじゃないんだけどね。まあ、今日は嫌なやつもいないから、そういう時は出来るだけ楽しようってね」

「嫌なやつ?」


 気軽な世間話のつもりだったけど、不穏当な言葉が出たものだから咄嗟に聞き返してしまう。

 三木先輩の顔も少し渋かった。


「うちの顧問だよ。今日はどこにもいないでしょ?」

「そういえば見かけませんね……」


 今日の練習もずっと部長の指示で行われている。

 メニューはあらかじめその顧問の先生が用意していたモノみたいだけど……。


「仮入部の時点でまだ顔出す必要ないってふんぞり返ってるんじゃない?」

「なんでそんな人が顧問やってるんですか?」


 素直にそう思ったので聞いてみたけど、もう少し言い方ってものがあったかもしれない。まあ、三木先輩自身ぞんざいな言い方だから問題ないと思うけど。

 そして、三木先輩はやっぱりうんざりした様子で顧問の事を教えてくれた。


「それなりにちゃんとした練習メニューが組めるし、それなりにちゃんとしたチームの采配ができるからね」

「なるほど……」

「でも随分と自分勝手なやつだから、松前も部長として苦労してんだよね……。だし、加賀も目を付けられないように気を付けた方がいいよ?」

「なんか初日から心配になってきました……」


 そう私が嘆くと、先輩は苦笑して私に謝り始めた。


「確かに初日からする話じゃなかったね、ごめんごめん! まあ、一応知っといた方がいいと思っただけなんだ」

「謝られるほどじゃないです、忠告ありがとうございます」

「そっか……まあ、腕が立つなら重宝されるよ。加賀は自信ある?」


 三木先輩は元通りの気さくな態度に切り替えて、私にそう尋ねる。

 

「どうでしょう? 中学ではあんまり大会で実績は残せませんでしたけど」

「逍遥だったっけ? ……確かにそんな目立ってはいないけど……」

「……?」


 三木先輩は私の方をじっと見るとニヤリと笑ってみせた。


「自信ない奴は、今の加賀みたいな顔出来ないんだよねぇ?」

「顔……ですか?」


 ピンとこない私に三木先輩は私の顔をツンツンとつついて見せた。


「そう、顔だよ。表情。加賀さぁ、これから部でバスケやってくのが楽しみで仕方ないって顔してるよ? まるで心配事はありませんって感じ」

「……そうですか?」


 そう指摘された私は、苦笑せずにいられなかった。

 これからのことを期待してワクワクしていたのは言うまでもなく、周りを侮っているわけではないけど、心配事があるわけでもなかったのは本当だから。


「自信があるのか、それともよっぽど能天気なのかはわからないけど、週末が楽しみだね」

「週末……ですか?」

「仮入部は約一週間でしょ? その最終日に新入生で紅白戦をやるんだよ」

「紅白戦って……新入生同士で試合ですか?」

「そ、ポジションとか鑑みて、バランスよくチーム分けして……で、その試合で新入部員の実力のほどを測ってやろうってわけ」

「へえ……!」


 そんな説明をしながらも、三木先輩は私のほうを見て試すような視線を送り続けていた。


「どう加賀? それを聞いて少しは……」

「そんな試合、絶対面白いじゃないですか! 楽しみですね! 三木先輩!」

「ふふ、全然揺らいでないし」

「?」

「いや、うん……いいね、段々期待してきちゃったな」


 なにが先輩のお眼鏡にかなったのかはわからないけど、一人でそう呟きながら頷いている。

 やがて、私の中ですっかり印象付けられたさっきと同じニヤリとした笑みを再び浮かべて私の方をまっすぐ向いた。


「楽しみにしてるよ加賀。そこまで言うからにはしっかり活躍してみせてよ!」

「もちろんですよ! 見ててください!」


 入部初日は、思っていたよりも楽しい一日となって終わった。

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