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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会はあの日から始まっている

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綺麗な花だが棘がない 前編

「加賀美咲ですっ! 逍遥中学校出身で、三年間バスケ部でした! 高校でもバスケ部に入ろうと思ってます! 犬が大好きなので家で一匹飼ってて、趣味はバスケと犬の散歩です! 好物は中華と甘いもの! これから一年間出来るだけたくさんの人と仲良くなりたいって思ってます! よろしくお願いします!」


 クラスメイトから拍手で迎えられてようやく安心する。

 私はその場で席に着くと、一つ息を吐いた。


 なかなか緊張したけど、これで今日はもうそんな機会もない。

 そう思えば結構気は楽だった。


 先生が話は以上と言っていたので、あとほんの数人の自己紹介も終えてしまえば今日は解散も近いだろう。

 解散した後は各生徒が自由に動けるようになり、クラスメイトとの親睦を深めてみたり、人によっては早速帰宅したりと、人の数だけ様々な選択肢が用意されている。


 自己紹介でも言った通りたくさんの人と仲良くなりたい私は当然スタートダッシュを損ねるようなことはしない。

 何度も言うけど第一印象は大事。

 これからの生活に大きな影響を与える一手なんだ、間違えることは出来ない。


 そうしてこの後の事を考えていた私は、ちらっと隣の席を覗き見た。


「…………」

「…………」


 橘柊和さん。


 多種多様なクラスメイトがいたけれど、その中でも彼女の印象は抜群だった。

 橘さんの事を知りたいと思うには十分なインパクトだったけど、どう話しかけていいものかわからなかった。

 彼女の雰囲気が近寄りがたいという訳ではない……いや、見方によってはそうなんだけど、自己紹介での印象では、口調が丁寧な敬語にも関わらず、接しやすそうでなかなかフレンドリーな雰囲気を纏った笑顔の人だった。


 ただ……どうしても顔の火傷の事が気になってしまうのだ。


 火傷に対して悪感情があるわけではない。

 ただ、どうしても目立つから気になってしまうだけで、そして橘さんにその話はしてもいいものかと扱いに困っているのだ。

 扱いに困る、なんて言い方だと凄く上からに感じるけど、要は『橘さんが火傷について触れられて困ったり嫌だったりしないか気になる』ということだ。

 

 さっきの自己紹介で自分から『目立つ顔』って言ってたけど、それはどういう意図で言ったんだろう。

 疑問が浮かぶものの、十中八九『火傷』の事だと思う。

 けど、厄介なことに橘さんの顔は初めて見るレベルの美人だった。


 いくらなんでも自己紹介で『私、びっくりするほど美人ですけど、皆仲良くしてくれると嬉しいです』なんて言っていたわけではないはずだ。

 もし本当にそうだったとしてもそれはそれで逆に面白いけど、考えにくい。


 けど、間違いなく違うとも言えない。

 だって、私は橘さんの事をまだ何も知らなかったから。


 どうしよう……どう話しかけてみるのが正解なんだろう……。


 私がフル回転で頭を悩ませていると、いつのまにか自己紹介は終了し、無慈悲にも先生が解散を告げようとしているところだった。




 ──…………。


 その後は結局橘さんに話しかけることができず、私は話しかけてくれたクラスメイトと親睦を深めることとなる。

 一方、気になっていた橘さんの様子をちらっと伺ってみると、既にたくさんのクラスメイトに囲まれて楽しそうに談笑していた。当たり前だ、彼女に興味を持った人は私だけなはずがない。


 なんだ……あの様子なら深く考えないで、思い切って話しかけてみればよかったな……折角隣の席だったのに……。

 いや、隣の席ならこれからいくらでも仲良くなるチャンスはあるだろう。

 そんなに気にしないで気長にいこう、気長に。


 それに少し残念に思うことはあっても、さっそく友達が何人もできた。

 初日の滑り出しとしては大満足!

 緊張と期待でいっぱいの入学式は、無事成功といえる結果で終えることが出来たのだった──。




 ──…………。


 ──と、思っていたのに……。

 

 先生の一言で解散して、新しくできた友達と親交を深めた後の話。

 先生にそろそろ帰るようにと促され、私たちは話もそこそこに帰宅することになった。


 友達から早速これから一緒に遊びに行かないかと提案されたのは嬉しかった。

 けど、今日は家族が入学祝をしてくれる予定があったので、寄り道はせずに一人帰路についた。


 ……私が教室に早速忘れ物をしたと気づいたのは幸い校門を出てすぐの事だった。

 いっそ清々しく諦めてもよかったんだけど、忘れたのは明日までに提出しなければいけない書類だったので、仕方なく一度教室に戻ることに。

 まだ学校も教室も施錠される前だったのは助かったけど、それからさらにまだ問題が発生した。


「ここ……どこぉ……?」

 

 途中、用を足したくなった私はトイレを探した。

 けど、まだ全然慣れない学校なので、校舎中を歩き回ることになり、結果として、トイレが見つかった代わりに、自分が今どこにいるのかわからなくなってしまった。


 つまり私は、入学初日から校舎で一人迷子になってしまったのだ。


 しかも追い打ちのように段々陽が落ち始めていく、今すぐという訳ではないけど、夕暮時もそう遠くない。

 そのまま脱出できないでいるといよいよ夜になって校舎も閉められてしまうかも。


「どうしよう……ここどこぉ……?」


 心細さを感じながらも、なんとか歩いて見つけた教室の室名札を見てみると、理科室に音楽室、移動教室ばかりでここからどう歩けば一年生の教室やゴールである玄関までたどり着けるのか全然わからなかった。

 校舎の構造はそこまで複雑ではないんだけど、これまで通っていた中学とは色々と勝手が違って戸惑ってしまったのだ。


 歩き続ければ目的地には少しづつ近づいていくだろうけど、このままでは帰りが遅くなってしまうかもしれない、そうなれば家で待つ家族に心配をかけてしまう。

 入学式でもちゃんと携帯持ってくればよかった……。


 怒られそうであまり頼りたくないけど、最悪職員室に行けばまだ人もいるだろう。

 それに、今私は三階にいるけど、階段を見つければ一気に教室や玄関のある一階まで下りられる。


 なんで私はトイレを探すだけで三階の隅っこまで移動しているんだ……。

 方向音痴のつもりはなかったんだけど……もしかしたら七不思議的ななにかに遭遇してしまって学校に閉じ込められたのでは?

 無限回廊的な、歩いても歩いても同じ道を巡り続ける感じのやつに……。


 そんなことを妄想をしながら更にうろうろ迷って十分は経った。


 こわぁぁぁあい! 誰か! 誰かいませんかぁぁぁ!


 本当に叫んで誰かに聞かれると恥ずかしかったので心の中で叫びながら、段々余裕のなくなってきた私は本気で神隠しにでもあったのではと心配になり始めていた。


「本当に誰もいないの……?」


 不安がついに声に出たその時だった。


 ──携帯の着信音が聞こえてきた。

 

 瞬間、ビクッとしてしまった。怖かった。

 もちろん私のではない、遠くの方から微かにだけど、リンゴのマークがついたあの携帯の着信音が聞こえてきたのだ。デフォルトのやつ。


 忘れ物……? いや、私以外にも残っている生徒がいるのかも!


 恐怖が希望に早変わりだ! 早速音が聞こえた方へと走った。

 すると、幸いにも階段が見つかった。

 もしやと思って周りを見ると『3-D』の文字が。


 三年生の教室だ! なら私の教室もこの下の階に!


 『ようやく帰れる!』


 そう思った私は階段を降り始めた。

 階下から、声が聞こえてきた。

 誰かと話している風だけど、一人の声しか聞こえてこない。

 ということは、おそらく電話だ。

 おそらく、さっきの電話の着信音はこの声の主のものだろう。


「うん、今から……よ」


 若い女の人の声だ! 学生かも! 

 階段を下りる足がだんだんと速くなる。


「心配性だなぁ、私の方は…………、むしろ……。……うん、そっちこそ、私が…………て大丈夫……」


 何の話をしてるんだろう?

 今はまだ遠くて聞き取れなかったけど、階段を下りるにつれて声の主との距離も近くなり、聞こえづらかった声が少しづつ明瞭になっていく。


「本当に? ふふっ、……は割と強がるから……」


 凄く仲良さげに話してるな……。


 さっきまで不安だったから人の声がありがたくて、不躾だとはわかっていても話に耳を傾けてしまう。

 言い訳じゃないけど、まだ距離があって、私には何の話をしているのかは分からなかったから、これくらいは許してほしい。


 ただ、雰囲気が良いことだけはわかる。

 声は楽しそうに弾んでいるから。

 あれ、そういえばこの声、どこかで聞いたことがあるような……?


 ようやく一階と二階の踊り場までやってくると、その声もはっきりと聞き取れるようになってきた。

 ……うん、やっぱりこの声って……。


「うん、すぐ帰るからそっちも──」

「橘さん?」

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