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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会はあの日から始まっている

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もう一度、懐かしいあの日々を 前編

 美咲より先に生徒会室に戻ってから数分。

 予想よりも早く美咲が戻ってきた。


「ただいま戻りました!」

「美咲……!」


 私に続いて、護と霧華も口々に美咲を迎える。

 美咲の様子は、思っていたよりも随分と平気そうな感じだった。

 本当に心配のし過ぎだったかな……。


「姉さんより遅かったですけど、なにかあったんですか?」

「え? あ~、ごめんね。ちょっとだけ寄り道しちゃって……」

「寄り道ですか?」


 護と霧華には事情を伝えてなかったから美咲が質問攻めにあってる……。

 二人に隠し事をする必要はない、でも美咲に確認をとらないで言っていいものかと迷ったんだけど……。

 私がどうしようかと思っていると、ちょうど美咲がこちらを見てヘルプを出していた。


「はいはい、二人とも。それよりもまずやることがあるでしょう」

「あ……そうだね」

「ごめんなさい……」


 美咲が助かったとアイコンタクト。


「それに、女の子が途中で寄り道したときはいろいろと察しなさい」

「え……?」

「ねぇ、その一言必要だったかなぁ⁉」

「私は護にモラルの教育を……」

「私で教育しないでもらっていい⁉」

「気をつけます」


 護と美咲が顔を赤く、そして霧華が気まずそうな顔をしているのを見て私は満足した。


 今のは、何も本当に護の教育を目的としていたわけじゃない。

 こうやってこの話を完璧に誤魔化すためだ。

 なにも『美咲と護を同時にからかえるぞ!』なんて思っていなかった。決して。

 ……本当だよ?


「じゃ、美咲も来たことだし話を進めようか」

「あ、柊和」


 切り替えて私が話を始めようとすれば、美咲がその前にと口を挟む。


「なに?」

「終わったら、話、いい?」

「ああ……分かった」


 私は逡巡することもなく、すぐに頷いてみせた。

 きっと話があるだろうと、事前に予想出来ていたから。




 ──…………。


「で? 相沢さんは何の話だったの?」

「うん、それがさ……」


 生徒会の仕事も終わり、私と美咲は二人だけで話したかったので例の穴場スポットである竹藪までやってきていた。


 昼と違って夕方に来るとこの竹藪も見せる顔を変えている。

 昼のような青々とした涼やかの光景が一転、夕日の影響で赤みが増して、紅葉でもないのに秋を感じてしまった。

 

 しかし静かだ。二人で話すのには本当にもってこいの場所。

 けど、今よりもう少し遅い時間になるとそうも言っていられなくなる、夜の竹藪はもうホラーの領域だから。


 やばい取引をしたいわけじゃない。

 危ないから遅くなる前に話さなければ。


 そして、同じことを考えていたわけではないだろうけど、美咲は早速相沢さんとの話を語って聞かせてくれた。




 ──…………。


『アンタに……バスケ部に戻ってきてほしい……!』

『……はぁっ?』


 相沢は美咲に頭を下げると、勢いのままに謝罪を始めた。


『あの時は悪かった……! 今更、あんなことした私の事を許してほしいとは言わない……っ!』 

『別に許すとか……』


 美咲は相沢のいきなりの行動とその必死な態度に驚いて、とにかく宥めようした。けど、それで相沢の勢いが止まることはなかった。

 むしろ、どんどん荒くなっていく。


『どの口が言ってるんだって自分でも思うよ! でも‼ バスケ部のためにどうしてもアンタには戻ってきてもらいたい……!』


 美咲は自分の目と耳と疑っていた。

 美咲の知っている相沢はこんな頼みも、謝罪も、頭を下げる動作だって、天地がひっくり返ってもするような人間じゃなかったから。

 それがいまはどうだ。あれだけプライドの高かったはずの相沢が、美咲に頭を下げ、自分の行いを悔い、美咲に戻れと懇願している。

 自分の目の前にいるのは一体誰なんだろうと、そんなことを考えてしまうほどに相沢は変わり果てていた。


 どうすればいいのかわからなくなった美咲は、とにかく思いついたことを口にするしかなかった。


『そんなこと言われたって……第一、もう二年生の二学期だよ? 今更私が戻ったってもう意味ないよ』

『そんなわけない! アンタなら、復帰さえすればすぐにでもレギュラーに匹敵するレベルになるに決まってる!』


 けど、相沢は確信をもって美咲の言葉を否定した。

 美咲は力なく言葉を続ける。


『そんなわけ……』

『じゃなかったら私は最初からアンタに嫉妬なんてしてないッ!』


 それもまた、一年前の相沢では考えられない言葉だった。

 美咲は自分の顔がだんだんと顰まっていくのを感じた。

 それは今更過ぎる謝罪を不快に思ったわけではない、それは分かるのに、自分の機嫌が悪くなっていく理由は言葉にならなかった。


『相沢……』

『本当に悪かった……、アンタの実力に嫉妬して、逆恨みして、アイツの甘言に乗ってアンタを陥れて……今更後悔なんてしても遅いのに……でも、思わずにはいられないんだ……』

『何を?』


 その一言に、美咲はとても嫌な予感を感じながら聞いてみることにした。

 この時、美咲は願っていた。

 これ以上私の知る相沢を裏切るような姿は見せないでほしいと、切に。

 しかし──


『『加賀さえいれば』って……夏の大会で全国に手が届かなかった時も! 私が部長になってからは毎日練習してる時も! アンタさえいればって、日に日にそう思わずにはいられなくなって……!』

『…………』

『そう思うたびに、私がしでかしたことを後悔して……。それでも何とか頑張ろうって思ってたけど……今日アンタと顔を合わせたら……声を掛けずにはいられなかった……』


 そんな願いは、あっさりと破れることとなる。


『……今すぐには、答えられない』

『いつまで待てばいい?』

『せめて……今週いっぱいは考えたい』

『なら、壮行会の日に答えを出してほしい』

『……分かった』


 美咲には考える時間が必要だった。

 バスケは好きだけど、もう未練があったわけではないし、それになにより今いる生徒会という環境が大好きで、大切だと思えるようになっていた。

 なら、もう考える必要はなく、答えだって出ているようにも思える……けど。


 今は目の前の相沢のせいで感情が落ち着かなくて……自分が何をしたいのかなんて、とても考えられる状態ではなかったから。




 ──…………。


 美咲が話を終えると、私達の間に風が一陣吹いた。

 なんだか私には、その風が今はとても気持ちよく感じられた。

 すこしでもこの重たい空気が、風に乗って流れていったような感じがして。


「思ったより……色々とあったみたいで……」

「ね~……ちょっと疲れた……」


 護と霧華の前だったからか、先ほどまで努めて内心が表情に出ないようにしていた美咲は、たまらずといった感じにため息をついて机に突っ伏した。


「本当に……急すぎる……」

「バスケ部、ね……」


 一年前の事を思い出した。


 美咲がバスケ部で面倒なことになっていると知って、当時は私も色々と動いたのをよく覚えている。

 結果として、美咲は部を離れ、それで一件落着……とまでは思っていなかったけど、まさかそれ以上何かがあるとも思っていなかった。

 まさか一年越しにこんなことが起きるとは。

 

「少し冷静になってみるとさ……私、バスケ部に戻る気はやっぱりないんだよね……。バスケは好きだし、またやれたら嬉しいと思うけど。でも、部活でってことは、本気で打ち込む必要があるでしょ? 私には、まだそこまでの熱量は戻ってないと思うんだ」


 案外あっさりと、美咲はそう言ってのけた。

 私は内心、美咲がバスケがしたいと思い始めてるのではないかと考えていたから、少し拍子抜けだった。

 まあ、美咲が本当にバスケ部に復帰したいと思っていたとして、それを多少寂しく思う事はあっても、それ以外に悪い感情を抱くことはないけれど。

 

 美咲は答えを出したと思ったけれど、そこからまだ言葉は続いた。


「でもさ……相沢の様子を見てると、どうしてもバスケ部と相沢の事が気になっちゃうんだよね……」

「そっか……」

「私さ、当時もあの子の事苦手だったけど……嫌いではなかったんだ。だって、私にいつも噛みついてきたのも、目の敵にされてたのだって、バスケへの熱が人一倍凄いからこそだって私には分かってたから。相沢にされたことは……正直今でも複雑で割り切れないとこも多いけど、恨む気持ちは全然ないしね」


 そう言う美咲の顔は段々寂しそうなものになっていく。

 寂しそうで、どこか辛いのを我慢してる感じに。


「なのに、さっきの相沢は……」

「…………」


 私はそこまで相沢さんの事を知ってるわけではない。だからこそこの前も美咲の心配をしてしまったし、美咲が二人で話すことを了承したときは不安にもなった。

 美咲はそんな私の知らない相沢さんを思い出して、それからどうにもやるせなさそうな顔をする。


「さっきの話さ、まだ続きがあるんだよね」

「さっき?」

「そ、さっきの相沢との話。話も一通り終わったから、私は生徒会室に戻ろうと先に教室を出たんだけど……」




 ──…………。


 美咲がドアに手を掛けたその時、相沢から声を掛けられた。


『加賀……』

『なに?』


 美咲はまだあるのかと思いながら、ゆっくりとその場で振り返った。

 すると、相沢の顔には疲れと後悔の色が滲んでいた。


『頼むから……戻ってきてほしい……』

『だからそれは考えるって……』

『バスケ部に必要なのは……私じゃなくてアンタだった……』

『~~っ‼』


 美咲は訳も分からない激情に駆られ、何か叫びたい気持ちになった。でも、この気持ちをなんと言葉にすればいいのかわからず、声にならなかった。


 だから美咲は、やり場のなくなった勢いでドアを強く閉めて、足早にその場を去ることしか出来なかった。

 

 一度ドアが『バンッ‼』と音を立てたけど、人気のない廊下には美咲の荒い足音しか響いていない。

 それだけのことが美咲には、どこか物悲しく感じられた。

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