傷は膿み続ける
── ??? 橘柊和 ──
──…………。
お父さんが亡くなってすぐ、私と護は母との三人暮らしを始めた。
生命保険の保険金も、事故の賠償金も滞りなく支払われた。
しばらくは生活に苦労することはないだろうけど、それまで専業主婦だった母に子供が二人、先の事を考えれば不安の尽きない状況だった。
お父さんが亡くなった直後こそひどく落ち込んだ母だったけど、ひとしきり悲しんだ後、一度だけスイッチをパチッと入れたように立ち直り、それきり悲しみに暮れる様子は見せないで、残された私たちのためにと働いてくれるようになった。
そんな私達への想いが偽りだったとは、流石に思えない。思いたくない。
しかし、今にして思えば、働いている間は余計な思考を巡らせる余裕もないからと、必死に働いてお父さんを失った現実から目を逸らそうという思いはいくらかあったのかもしれない。
もちろんそんなことは当時の私には想像もできないことだったし、今となってはもう確認する術も残っていないが。
とにかく、その姿を見た私たちは安心してしまった。だから気づけなかった。
母に刻まれた傷は私たちの傷より遥かに深く、広くて、致命的だったという事に。
気づかなかった時点ですべてが手遅れだった。
母がそんな状態だというのに、気づくことが出来なくて、私と護は素直にお互いを支え合って生きてしまった。
──それがいずれ、母を決定的に壊してしまうにもかかわらず。
……母との生活は、それから一年も続かなかった。




