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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会活動の日々

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馬鹿じゃないから風邪を引く

 ── 10月9日 7時00分 橘護 ──


 いつものように姉さんを起こそうと部屋のドアを開いた。

 しかし、すぐに違和感に気付いた。


「はぁ……はぁ……」

「……っ! 姉さんっ?」


 違和感に気付いてすぐに枕元へ駆け寄る。

 呼吸が荒い。

 僕は姉さんの額に手を近づけた──。




 ──…………。


『なに? 橘が熱を出した?』

 

 電話越しのムネ先生が驚いたような声でそう言った。


『熱か……そんなに悪いのか?』

「それが、結構苦しそうで……なので今日はお休みさせてもらいます」

『ああ、しっかり治るまで休ませてやれ、病院には?』

「少し落ち着いてからタクシーで連れていきます、今は動くのもしんどそうなので」

『わかった、お大事にな』


 欠席連絡を伝えるために、学校に電話して繋いでもらったのだ。

 なぜ姉さんの担任ではなく、僕の担任であるムネ先生なのかというと、それにも理由があった。


「それから……今日は僕も姉さんの看病をするので休みたいんですが……」

『ああ、看病な』

「はい、うちには今姉さんと僕しかいないので、一人にしておくのは心配で……」

『ああ、わかった。しっかり面倒見てやれ』


 そして僕の希望はあっさりと通った。

 少し予想外だった、なぜなら、もう十月も半ば、早いところだと文化祭の準備を始めるクラスも出始める頃合いだからだ。

 そうなると僕たち生徒会は……。


「いいんですか? 生徒会、二人分も穴が空くことになりますし、最近は文化祭準備の仕事も始まってきて少し忙しくなり始めましたし……」

『気にすんなそんなこと。第一、お前は姉が熱出して家で寝てる時に仕事できるような奴だったか?』

「ああ……はは、いいえ、確かに無理ですね」


 指摘されて少し笑ってしまった。

 やはり僕は焦っていたんだろうか、少し考えればわかるような理屈だったのに。

 ムネ先生はやっぱり僕たちの事を見てくれているのだと実感して、少し緊張がほぐれた。


『それにしても本当に仲がいいことで……。ん……いやまさか……!』

「なんですか?」


 なんだか、しょうもないことを言われるような予感がした。

 なんというか、飛鳥さんが僕たちをからかうときによく似た前振りのような……。

 そしてその予感はすぐに確信に変わる。

 

『仲がいいとは思っていたが……姉弟でそんな……』

「……は?」

『ダメだぞ護……それにお前たちはまだ学生なんだ……せめてちゃんと避妊とかしてるか?』

「最低すぎませんか……人としても教師としても……」


 せっかくさっきまで良い人だって思ってたのに、こうも一瞬ですべてを台無しにするのは却って凄いことなのかもしれない。


『はっはは、冗談だ冗談』

「冗談にしてもタチが悪いでしょう……」

『こういう冗談、飛鳥とかはよくするだろ?』

「やっぱり……まあ、たまにそういうこと言ってきますけど……」

『だろ? 俺もたまにはああいう──え? ど、どうかされましたか? 教頭……』

「……? どうしました? ムネ先生?」


 急に話が途切れたかと思えば、僕の声に返答がなくなった……というか、今『教頭』がどうとか言ってなかったっけ?

 教頭ってたしか、厳格な性格の初老の女性教師で、ムネ先生が酒好きでだらしがないってよく叱られるとか愚痴ってた……。


『避妊、ですか? なにか聞き間違えじゃあ……ああ! もう教頭もお歳ですし難聴が……あ! いや……ハイ、申し訳ありません……ッ』

「まさか……」

『い、いやこれは違うんですよ……! 本当にただの冗談で……え? ア、アハハハ……教頭ともあろうお人がそんな脅しみたいなことを……教頭……教頭先生⁉』

「…………」

『いや……ちょっとまってくださ──あっ!』


 ──ツー……ツー……ツー……。


「……僕は何もしらないぞ」




 ──…………。


 姉さんの看病のためにいろいろと準備をして、二階にある姉さんの部屋へ向かう。

 途中、ムネ先生を思い出していた。


 たまたま品のないジョークを言ったら、一番聞かれてはまずい人に居合わせるなんて。本当にもってると思う。

 あの人、ほんの少しでも調子に乗るとすぐに何倍にもなって報いを受けるんだよね……不幸体質というか、そういう星の下に生まれたんだろうか。

 まあ、今は通話相手だった僕の方にまで累が及ばないことを願っておこう。

 グッドラック、ムネ先生。


 心の中でささやかな祈りを捧げ終わるより早く、姉さんの部屋に着いた。


 ──コン、コン、コン。


「姉さん、入るよ」

「…………」


 入って、ベッドに横たわる姉さんの様子をうかがう。

 寝ている。

 けど、さっきまでとは違って寝息も穏やかだ。

 薬も飲ませたし、水もよく飲ませた、身体も温まるようにした。

 考え得る処置は大体施したけど、どうやらちゃんと効いているらしい。


 布団から出ていた手をそっと取る、熱のせいか少し熱い。

 まだ少し寝苦しそうな姉さんに起こさない程度に静かに話しかけた。


「姉さん……今日は僕も休むことにしたから、ちゃんと側にいるよ」

「…………」

「一人にしないから……安心してね……」

「……スぅ……スぅ……」


 気のせいかもしれないけど、どこか穏やかな表情になったように見える。 

 姉さん、こう見えて案外寂しがり屋なところがあるから、本当に安心したのかもしれない。

 雑炊はいつでも作れるようにしてあるし、姉さんが起きてから食欲があるか確認してみよう。

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