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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会活動の日々

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勉強会

 ── 10月4日 16時03分 橘柊和 ──


 その日私たちはいつものように意見箱の中身を改めていた。


『Q:今回のテストも橘会長の勉強会は開かれませんか?』


 「ふむ……」


 私が一人考え込んでいると美咲と霧華が投書をのぞき込んできた。


「勉強会……また懐かしい言葉が出たねー。テストとか、気づけばもうそんな時期なんだね」

「あの、勉強会ってなんですか?」

「あ~、一年生は知らないのか。……聞いたことない? 橘柊和伝説」

「「橘柊和伝説?」」


 奇しくも、霧華のその声は護と重なった。

 素っ頓狂なネーミングに自分の仕事に集中していた護が食いついてしまった。


「なんなんですか? 姉さんの伝説って」

「美咲が適当に盛って話してるだけだから真に受けなくていい」

「そんなことないよ~、前に聞いたんだもん。柊和の熱心なファンの子から」

「ファンって……?」

「二年の女の子だよ」

「同級生の女子……」


 美咲に嘘をついている様子はない。

 もしかしたらあの人かな……時折熱のある視線でこっちを見てくる同級生はいくつか心当たりが……。


「この学校には七不思議とかはないけど、柊和とか詩葉先輩に関する逸話集みたいなものならあるからね」

「絶対嘘でしょ」

「まあ、私もその子に聞いただけだから信憑性は知らないけどね」

「その子が言ってるだけでしょ?」

「でも百八つもあるらしいよ?」

「なんで煩悩の数と一緒なのよ!」

「あ……あの……」


 美咲といつもの癖で漫才まがいの会話を繰り広げていると、霧華がおずおずと割り込んできた。


「結局、勉強会ってなんなんですか?」

「あ、そういえばその話だったね」

「話が逸れすぎでしょ……」

「柊和もノリノリだったんだから同罪だよ」


 っと、このままではまた話が逸れてしまう。いつまでも話が終わらない。


「一年前のテストの時期にね? 成績優秀な柊和にクラスメートの数人から依頼があったの。『勉強を教えて欲しい』って」

「ああ……! それ会長から聞いたことあります!」


 ようやく美咲が説明しだすと、霧華はポンと手を打った。


「柊和先輩がクラスメートに勉強を教えてたら希望者が集い始めて最終的に教室一つ化しきって授業してたって話!」

「ええ⁉ そんなことがあったの?」


 護が驚いている。

 私も初耳なのでびっくりだった。


「あ~……(のめ)ちゃん、それは流石に盛りすぎかも」

「あ……やっぱりそうなんですね……伝説って言われててっきり……」

「教室埋まるほど人が集まったのは本当だけどね」

「そっ……え? 姉さん? 本当なの?」

「うん、それは本当」

「ホント、なにをやってるの……?」

「勉強会」

「そういうことじゃない」


 授業はしてないから、霧華の話は盛られてる。

 最初は四~五人程度だったのが、噂が噂を読んで他クラスの同級生まで集まりだして最終的には数十人規模での勉強会になった。

 おかげで先生みたいにクラス中歩き回って勉強を教える羽目になった。

 というか、そこまでの規模ならもう先生に頼んでほしい。


「勉強会っていうか、ほとんど先生付きの補習みたいになってたよね」

「私は補習したことないから知らないけど……」

「えっ、美咲先輩赤点とったんですか?」

「あはは……その時は色々忙しくて……今はもう大丈夫だよ?」

「美咲は歴史が苦手すぎ」

「どうしても歴史の先生の声って眠くなるんだよねぇ……」


 私と美咲は一年から同じクラスだけど、歴史の担当教師も一年の時から変わっていない。初老の男性教師で、ささやくような声量で授業を行うので五、六時間目に歴史があるともうクラスの半分は眠っている。


 とはいえ、美咲ももう生徒会役員だ、そんな調子で大丈夫かと言いたくなる気持ちもあるけど、こう見えて美咲は意外と成績がいい。

 特に理数系は私よりテストの成績がいい時もあるくらいだ。

 苦手な歴史もちゃんと暗記できていれば特に問題はないし。


「護は知ってるけど、霧華の方はテストはどうなの?」

「私ですか? 私はまあ、そこそこですよ」


 霧華はそう謙遜するけど、それを聞いた護が首を傾げた。


「あれ? でも、霧華って古典と英語でクラス一番の成績だったよね? 先生に名指しで褒められてた憶えがあるんだけど」

「えへへ……まあね……」

「え? のめちゃんって勉強できたっけ?」


 『中学の時はそんな印象なかったのに』と、今度は当時から先輩だった美咲が首を傾げた。


「ここの受験のために結構勉強頑張ったので……それのおかげです……」

「え……!」

「あぁ……そういえば柊和の事追っかけてきたんだっけ、それのせい?」

「えへへ……」


 照れる柊和が可愛かったので、思いっきり頭をなでることにした。


「護君もできるんだよね、特に文系科目が」

「そういえば、中間も期末も現代文の最高得点があたしじゃなかった……」

「ああ、それは僕だね」

「へえ〜……姉弟揃って凄い頭いいんだね」

「そうじゃないんだよね」


 感心しきりな霧華だったけど、護は首を振った。

 そして、なにか言いたげに私の方を向いた。


「ほら、うちには優秀な家庭教師がいるから」

「あっそっか……いいなぁ! 護君。私も柊和先輩に勉強教えてもらいたい!」

「別にそれくらい構わないけど?」

「本当ですか?」


 可愛い後輩の頼みだ、それくらいいくらでも聞いてあげるに決まっている。

 霧華がはしゃぐのを横目に、美咲は仕方がないなという顔をしていた。


「ところで、投書の話が忘れられそうになってるわけだけど」

「あ、そういえば」

「ふむ……まあ、大丈夫でしょ」

「えぇ? 柊和、また勉強会開くつもり? 今度はもっと集まると思うけど……」

「大丈夫でしょ? だって、優秀な先生が四人もいるんだから」

「「「……え?」」」


 私の言葉に三人そろって振り返った。

 美咲が固まっている横で、霧華は異論があるのか手を挙げて発言権を求めていた。


「どうしたの霧華?」

「あ、あの……でもあたしたちは一年生だから、先輩たちに勉強は教えられないと思うんですけど……」

「ああ、それは大丈夫、ほら」


 私は霧華と護に問題の投書を見せてあげる。


『Q:今回のテストも橘会長の勉強会は開かれませんか? ──一年C組 佐伯琴子』


「一年生にも希望者はいるみたいだから」

「「…………」」

「この話、一年生の間でも知られてたんだねぇ~」


 部活かなにかで二年生から教えてもらったんだろうか、私は知らない名前だけど。いやあ、熱心な生徒もいるもんだね。




 ──…………。


 後日、生徒会の企画として正式に勉強会を開くことになった。


 予想通り、前回よりさらに希望者も増え、その数は教室二部屋分にまで至る結果となった。

 教える人数は去年の倍でも、人手が四倍になったので、去年に比べれば私の負担は単純計算で約半分、正直あまり苦ではなかった。


  ……一年生の希望者は女子が多かったのが気になったけど。まあ、護の周囲で何かトラブルがあったわけではないので、問題はない。……護への下心が垣間見えた時も、私が傍に控えてるし。


 ただ、生徒たちからは好評を博した勉強会だけれど、教師役を務める生徒会役員からの評判はあまりよくなかった。

 今後も行うかどうかは、今現在未定である。

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