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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会活動の日々

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突撃! 橘さん家で晩御飯

「それでは! 後期生徒会のスタートを祝って! 乾杯!」

「乾杯~!」


 カランとグラスが音をたてる。

 ジュースの入ったグラスを傾け、生徒会役員の四人で乾杯をした。


「わぁ~~‼ 護君の出来立て手料理! 超美味しそうでもう我慢できないよ! いただきま~す‼」


 机に並べられた料理の数々、パスタやローストビーフなどのみんな大好きなメニューから、なんだっけ……これ? たしか……そう、カルパッチョ? ……みたいな食べ慣れてない料理まで並んでいる。

 え? あ、あっちは中華料理まで……。

 四人いても余裕でお腹一杯になっちゃいそう……。


「ふふ、用意はありますから、好きなだけ食べてくださいね」

「護君最高だよ! 大好き!」

「……いただきます」


 美咲さんに続いて、あたしもパスタを一口。

 ……⁉ めちゃくちゃ美味しい……!

 美咲先輩が橘君にご執心な理由の一端を理解できた。


 ……ということで、今日は美咲先輩の発案で、生徒会メンバーの交流を深めるために簡単なパーティーをすることになった。

 しかも‼ 何と‼ 橘家‼ で‼

 あの柊和先輩の生家に足を踏み入れるまたとない機会なのであった‼


「霧華? どうしたの?」

「えへへぇ…………はぅわ⁉ ひ、柊和先輩⁉」


 柊和先輩が後ろからぬるっとあたしの顔をのぞき込んでくる。

 恍惚とした思いに気を取られて、柊和先輩が近づいていることに気づけなかった。


「大丈夫? なんかボーっとしてない?」

「い、いえ! チョット考え事してて!」

「考え事?」

「はい! えっと、姉弟二人で住んでるって聞いて、ずっとどんな家に住んでるんだろうなって思ってたら、色々想像以上だったので……」


 家自体は普通の住宅街にある一軒家で、大きさも特別大きいわけでもないんだけど、家具を始めとした細々とした所まで、インテリアがあたしみたいな素人が見ても一目でおしゃれだって分かる。

 上手に言えないけど……どこで見つけてくるんだこんなデザインって感じの先鋭的(?)な家具まで用いて、その良さを引き出せるように部屋全体をみて洗練されたバランスで配置。

 尖ったセンスでも違和感を一切感じさせず、実用性まで備えているのは見事としか言いようがない。


「ね、すごいおしゃれでしょ? ここの家主って、私たちの叔母さん……前にも話した飛鳥さんなんだけど。実は飛鳥さんの仕事がそっち系の仕事でね? 世界中飛び回りながら家具とか雑貨を買い集めて、こっちでお店してるんだよね」


 柊和先輩から少し聞いたことがあった。両親がいなくなった二人を引き取って育ててくれた恩人の話。

 このまえ世間話で柊和先輩に聞いた話だと、その『飛鳥さん』と私達生徒会の顧問である陸山先生は水仙高校のOG、OBで当時はクラスメートだったらしい。

 それもあだ名で呼び合うくらいに親しい仲だったとか。

 柊和先輩と橘君の『ムネ先生』はそこから来ていると知ってようやく納得した。

 その縁もあって陸山先生は柊和先輩と橘君に目を掛けているみたいだ。


「家事とかはてんでダメだったんだけど、こういうセンスは抜群にいい人でね? 今もヨーロッパ巡ってるらしいんだけど、本人は店の事とか別の人にほぼ任せっきりにして、店で取り扱う品を買い集めてるみたい」


 呆れたように笑う柊和先輩だったけど、話してる様子を見ていたら『飛鳥さん』のことを大切に想っているのがよく分かった。

 この前も、自分たちが厳しい時には仕事に痛手を食らうとわかっていて助けてくれたと当時の話を聞かせてくれた。


 あたしはもう一度部屋を見渡して、素直な感想を伝えることにした。


「掃除も凄い行き届いてるし、すっごく素敵なお家だと思います!」

「霧華は見る目があるね! 飛鳥さんの家具もそうだし、それを護が清潔に保ってくれてるから今のこの家があるんだよ!」


 凄く誇らしげにして、『理解(わか)ってるね』とあたしをほめてくれる柊和先輩。

 ここまで自慢に思われている橘君が少し羨ましかった。

 いつかはあたしも、自慢の後輩だと柊和先輩に誇ってもらいたい。


 ところで、柊和先輩の話を聞いていたら、少し気になることがあった。

 叔母さんが家具を調達して、橘君が家を清潔に保つ。

 なら……。


「じゃあ、柊和先輩はなにをするんですか?」

「………………」

「……柊和先輩?」


 それまで饒舌に話をしていた口を途端に一文字に結んで、視線だけ横にソーっとずれていく。


「してない……」

「え?」

「私は……家事は、ほとんどしてない……」

「え? あれ? でも前に生徒会で忙しくなるから分担するようになったって……」


 生徒会で仕事をするようになって柊和先輩と話す時間ができるようになってから、あたしは色々柊和先輩の話を聞けるようになった。

 この前橘君の話をしてくれた時、そんな事を言ってたような……。


「うん……掃除とかは私に一部の部屋の掃除を任せてくれたんだけど……なんか、どこもきれいで掃除する必要がないなって思ってたら……護が勝手に掃除してたみたいで……」

「ん?」

「ひどいよね! 私がしないといけない掃除を、何も言わないで勝手にやっちゃうんだよ! せめて一言言ってくれてもいいのに!」

「それの何が悪いんですか?」

「悪いよ! 護の仕事が増えすぎるからって分担するようにしてたのに……! これじゃまたついつい甘える癖が……! 護離れできないよ!」

「護、離れ? ……えっと、そう、ですか」


 柊和先輩の言うことなのに全然共感できなくて悔しい!

 やっぱりお姉ちゃんにはお姉ちゃんのプライドみたいなものがあるんだろうか。

 弟である橘君に家事では敵わないのがとても悔しそうだ。

 柊和先輩って何でもできるイメージだけど、橘君は家事の分野においてそれ以上に優秀ってことなんだろうか。

 少なくとも料理が凄く美味しくて掃除も上手なのは今日分かったけど……。


「せっかく生徒会も仲良くできそうで安心してたところなのに、護が過労で倒れたら洒落にならないよ……」

「まあ、まだ忙しい時期は先ですし、これからなんとかしていけば……」

「大丈夫かなぁ……これじゃ私、結局洗濯しか出来てないよ……」


 あ、洗濯……? あたしは何か忘れてるような気がする……。

 …………まあいいか。


「霧華も、護の事気にかけてあげてね。あの子、なんでも自分一人で背負い込む癖があるから、同じ年下組として……あと、普通に仲良くしてくれたら」

「あは! 分かりました!」


 いいなあ、橘君。あたしもこんなお姉ちゃんが欲しかったなあ。


「でも、霧華と護は意外と最初から仲良かったよね、生徒会でも二人で話してることが多いし」

「そうですか? 確かにいい同士だとは思いますけど……」

「同士?」

「間違えました、友達です。二人でっていうか、柊和先輩と美咲先輩がよく二人でやりあってるから、必然残ったあたしたちが……て感じですけどね」

「あはは……あれぇ? そうだっけ?」

「そうです、あのやりとり、あたしだけ蚊帳の外な感じがしてさみしいんですよ?」


 橘君は台風の目だけど、あたしはあのやりとりのどこにもいない。

 眺めるばかりで、混ざることもできていない。


「あ~そうだよね……ごめんね? 霧華の事無視してるつもりはないんだけど……」

「……な~んて、あたしもあのやりとり好きだから、そんなに気にしてませんよ」

「あ~っ! ついに霧華まで私を謀る様に! 年下組だけは私をいじめない癒しの存在って信じてたのに!」


 柊和先輩はそういってあたしに泣きついてくる。

 そういってくれるのは凄く嬉しいんだけど……。


「あは、ごめんなさい。会長や美咲先輩が柊和先輩と楽しそうにしてるのを見てたら羨ましくて、ついあたしもって」

「そんなことで、やきもち焼いてくれてたの⁉ 霧華は可愛いねぇ……。護はあんまり嫉妬とかしないタイプだから新鮮だよ」


 橘君が君が嫉妬しない? そうだったっけ?

 この前膝枕の話したときなんか随分羨ましそうな顔してたけど。


「だけど、これ以上からかわれると私も疲れちゃうよ」

「でも、美咲先輩とのやりとり、本気で橘君を取り合ってるというより、柊和先輩と美咲先輩がじゃれ合うための口実みたいに見えます」

「お……へえ、鋭いね」


 本人も自覚あったんだ……。


「いやぁ、そりゃ本気であんな取り乱すわけがないって話ですよ。うん。ばれちゃったか~。当たり前だけどね、私はブラコンじゃないんだから」


 あ、そんなことなかったかも。コレ、本当は結構本気だったけど、あたしが柊和先輩に都合のいい見当違いをしてるから、乗っかってブラコンは演技ですって言おうとしてる感じだ!


「ごめんなさい。やっぱりじゃれあってるのが当たりでも、取り合ってるのも本気でやってたみたいですね!」

「むーっ」


 思い通りに誤魔化せなくて拗ねてしまった。

 悔しそうな先輩かわいい……。

 この前までは年上の先輩なかっこいい柊和先輩しかしらなかったけど、あれは表向きの先輩だったらしい。普段の、仕事中じゃない柊和先輩はこう、なんというか……悪く言ってるわけじゃないんだけど、ふにゃふにゃしてる事が多い。

 気を許してくれてる証なら嬉しいんだけど。


 困ったなぁ、会長が柊和先輩をからかっちゃう理由があたしにもわかってきちゃった……。こんなのがクセになったらまずいのに……。


 ──私が頭を悩ませていたその時、それまで子供っぽいリアクションしかとっていなかった柊和先輩が急に、寂しそうな、一気に歳をとったように大人びて見える表情を浮かべた。


「まぁでも、ああいうのもそろそろ控えるようにしないとね」

「え?」


 今何か──。


「あ!」


 小さい声で何か呟いたような気がしたけど、聞き返す前に柊和先輩が声をあげた。その視線は私の皿に向けられていた。


「そのローストビーフ、美味しかった? それだけ私が作ったんだよね」

「え! そうなんですか?」

「そうだよ? 流石にこれだけの準備を護に全部おしつけるなんてできないからね。……まぁ、護はそういう扱いをされてもなんとも思わない子だけどね、護の手際が良すぎて結局あんまり手伝えなかったし……」


 しょんぼりしちゃった。やっぱり柊和先輩をもってして橘君にはついていけなかったらしい、いや、柊和先輩の料理の腕はどれほどのものかは知らないんだけど、聞く限りでは人一倍できそうな感じだったのに……。


「確かに橘君の料理は絶品ですけど、このローストビーフも負けてないですよ! 言われるまでは橘君の料理と違う人が作ったって全然気づきませんでした!」

「へへ、そう? せめてと思ってちょっと手間をかけたから、そう言ってもらえるとうれしいね」


 そういえば、柊和先輩の手料理ははじめて食べたかも……! その事実を聞いた後だと、もっと美味しく感じられるようになってきた。


「うん。ホント、凄く美味しいです! おかわりしていいですか⁉」

「……! うん。まだ残ってたと思うから、好きなだけ食べなよ」


 よ~し、全部食べちゃおう!

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