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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会活動の日々

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楽しみの前に 前編

 ── 9月25日 放課後 東雲霧華 ──


 生徒会が後期に代替わりしてから数日、ようやく意見箱の機能も正常に戻りつつある今日この頃。あたしはいつものように生徒会の仕事をこなしながら、柊和先輩の方を見て……というか、ほとんど観察していた。

 といっても、別に綺麗だからちらちら盗み見ているとかそういうことじゃなくて。いや、それも間違ってないんだけど、今日はそれと違って。

 今日、生徒会には珍しくお客さんがいて、柊和先輩はその対応をしていた。

 あたしにはその先輩がどうも気にかかったのだ。




 ──…………。


 三十分ほど前、生徒会室に役員が全員集まった。

 でも今日は仕事も少ししかなかったので、その少しを適当に片付けつつ、適当なお茶でも入れて、適当な話をして、実に穏やかで緩やかな時間を過ごしていた。


 その矢先だった。

 ドアが数回ノックされ手から開き、やってきたのは陸山先生だった。

 陸山先生は顧問だけど、平常時は基本的に先生が必要な作業もないし、そのうえあたし達も生徒会に慣れてきていたので、用がない時は丸一日顔を出さないことも増えていた。


「あれ、ムネ先生。今日はなにか?」


 だから、柊和先輩がまず疑問から入ったのはあまり不思議じゃなかった。それよりも、柊和先輩と橘君が陸山先生をムネ先生と親しく読んでいることの方があたしには気になってたんだけど、それは別の話。


「ああ、急で悪いんだが、仕事の話でな、今日お前ら暇だろ?」

「まあ、仕事は特に残ってませんでしたけど」

「私達今おしゃべりに忙しくて」


 美咲先輩は仕事と聞いて嫌そうな顔をしていた。


「そうか、暇そうで良かった」

「でも、あたしたち予定があるので、長くなりそうな仕事は……」


 先生に適当にあしらわれて頬が膨らむ美咲先輩に代わってあたしがそう告げる。


「それは大丈夫だ。長くなりそうな面倒な仕事ってわけでもない、ちょっと相談があってな」

「相談? ムネ先生が僕たちにですか?」

「違う、相談があるのは生徒なんだが、なんでも部費のことで話があるらしい」

「うぇぇ……文句とかですか? 会計の私に来ませんか、それ?」

「まあ、文句ではないと思うが、下げてくださいとは言われんだろうな。とにかく事情を聞いといてくれ。部費の配分は一応俺のチェックも入るが生徒会の仕事だしな」

「わかりました」


 美咲先輩がぶーたれるので柊和先輩が返事をする。

 先生は「じゃ、連れてくるから後は頼んだ」と一言残してすぐに去っていった。


「なら相談は会長の私と会計の美咲で受けるとして……護と霧華は適当に仕事してていいよ」

「ならあたしは今月分の会報、先んじてある程度完成させておきます」


 締め切りまでまだまだ余裕があったから放っておいたけど、これ以外に今できる仕事がない。


「じゃあ、僕は意見箱のほうを」


 そういって、今は量も落ち着いた意見箱の投書に橘君が向かう。


「うん、よろしく……っと、もう来たみたいだね。どうぞ!」


 丁度のタイミングでノックが来た。


「失礼します! バレー部の神崎です」

「お待ちしてました。そちらの席におかけください」


 入ってきたのはバレー部の部長さんだった。

 確か先日、世代交代で新しく部長になった人でまだ二年生だったはずの先輩だ。

 席に着いた神崎先輩に橘君がそっと近づいていく。


「どうぞ」

「え、あ、どうも」


 客席にお茶をそっと置く橘君。え、いつの間に?

 神崎先輩もおもてなしを予想してなかったのかびっくりしてた。

 どうやら橘君は来客と聞いてから、自分の判断で来客用のお茶を用意していたらしい。

 ポットのお湯は既に沸いていたとはいえ、手早過ぎる。めちゃくちゃ慣れた対応だ……。


「姉さんと美咲さんも」


 そう言って二人にも渡した後、二人から離れたあたしにもそっと渡してくれる。


「東雲さんも、どうぞ」

「……あ、ありがとう」


 前期はここまでの対応はしてなかったから、感心してしまった。


 始まった話は特に珍しくない話だった。部の練習に使う用具を新調したいから~と部費を上げてもらえないかというもの。

 柊和先輩も美咲先輩も、初めての来客に対してごく自然な対応をしてみせていた。


 けど、あたしは対応中の柊和先輩に違和感を覚えた。

 なんだか、纏った雰囲気が変わったというか。さっきまでの気軽なものから、真面目で、それでいて柔らかい対応。橘君みたいな笑い方になって、声の抑揚も明らかに違っていた。

 思えば、所信表明の演説の時もそうだったけど、親しくない人の前だとすごく丁寧な物腰に感じる……ただ、あたしたち生徒会役員と接する時と比べてより温和なイメージが増してるはずなのに、何故か見えない壁があるようにも感じられたりもして、不思議な変化だった。


「そうですね……ネットが破れてしまったとしても、それは学校の備品ですから、部費からじゃなくても新しい替えを申請できるかもしれません──」


 柊和先輩は二年の先輩だから神崎先輩と学年は変わらないはずなのに、敬語を使っている。ちなみに一緒に対応してる美咲先輩はいつものフランクな対応だ。

 同じ敬語でも会長や陸山先生と話してる時よりも丁寧で、やはり壁があるような。と言っても比較してようやくわかる程度だけど。

 まあ、友人とそうでない人では空気が違うのも当たり前ではあるんだけど……う~ん?


「ありがとう! おかげで凄く助かったよ!」

「いえ、力になれたみたいで良かったです」


 違和感に気をとられていたら、いつの間にか解決したらしい。


「生徒会って予想よりもしっかりしたところなんだね。相談に乗ってくれたこともそうだけど、最初お茶が渡されたりして、ドラマで見る会社みたいだなって思ってびっくりしちゃった」

「あはは。見慣れてたからついスルーしちゃったけど、さすがのホスピタリティだったね、護君。私たちはお茶の用意なんて何も言ってないのに」


 神崎先輩は二人の対応にすっかり満足して、生徒会に対する印象を語る。

 美咲先輩は指摘されてそういえばとうなずいていた。


「あれ? 来客用にあるんじゃなかったんですか? このお茶」


 橘君がそう首を傾げると、柊和先輩が首肯で返した。


「一応そういう名目で置いてはあるね。実際のところ私たちが飲む用だけど」

「あれ、余計だった?」

「そんなわけないでしょう? さすが護、よく対応してくれたね」

「そうかな? なら良かったけど」


 柊和先輩はかしこまった雰囲気は少し残しつつ、でも橘君に対してだからか先ほどよりは緩んだ口調に見えた。

 橘君の方は褒められたけど、さも当然のことなのにといいたげなとぼけた顔をしている。


「副会長さん……だよね。一年生なのに凄いね! お茶も美味しかったし!」

「……! ええ、まも……彼、凄く気の利く自慢の副会長なんです!」


 あ、柊和先輩の違和感がなくなった。

 橘君がほめられてうれしかったのかな……。


「君、バレー部のマネージャーとか興味ない? 生徒会の任期が終わってからでも全然大丈夫なんだけど!」


 いきなりスカウトされてる。

 美咲先輩とのやりとりを思い出した。


「え?」

「えっと、それは……」


 柊和先輩があっけにとられ、橘君がどこか困った顔をしていると、美咲先輩が首を横に振って断りを入れた。


「あ~だめだめ。護君は私のだもん」

「美咲のでもない!」

「じゃあ柊和の?」

「そぅ……れ……は……」


 そうだと断言しかけてギリギリアウトなのに踏みとどまる柊和先輩。

 神崎先輩が目をキラキラさせていた。


「え! 橘さんと副会長君って……!」

「違う! ます!」


 慌てて敬語を付け足す。丁寧な物腰なんてかけらも残ってなかった。

 そんな柊和先輩を見て神崎先輩がからからと笑った。


「あはは、うそうそ。知ってるよ、姉弟なんだよね。この前の演説で副会長君が姉さんって言ってたし」


 この人凄い! あの柊和先輩をからかってる!


「橘さんが取り乱してるの初めて見たかも」

「いつも結構取り乱してるけどね」

「美咲は余計なこと言わなくていいから……」

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