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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会活動の日々

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幕間 姉さんに『してみたい』こと

「護、美咲の下着の色を聞いて顔赤くしてたよね」

「…………」


 家に帰って今は夕飯時、今日の生徒会の話をしながら食事をしていた時に、そういえばと思い立って護にその質問をぶつけてみた。

 

「いや……それはだって……」

「わかるよ? 護も高校生だもんね。なんのかんの言っても結局は男の子ってことだよね」

「いや……あれは不意打ちみたいな形で急にくらったからで」

「じゃあ覚悟ができてたら無表情を貫けたってこと?」

「……それは、わかんないけど」


 ……まあ、本当のところがどうだったとしても、この質問はどう答えても角が立つ。『はい』と言っても美咲に悪いし、『いいえ』といっても美咲に悪い。

 ……私の方は、じゃあ別にいいかって気もしてくるけど、護にとってはそういうわけにはいかないか。真面目だし。


「護って……美咲の事どう思ってるの?」

「どうって……? 美咲さんは姉さんの大事な友人だし、僕にとってもよくしてくれる先輩だけど……」

「ふ~ん」


 美咲の護に対する感情は、本人は否定するけど私から見れば十中八九、恋愛感情のそれだ。対して護の方も美咲に対しては結構心を開いてるように見えるけど、恋愛感情があるかと言われれば正直そういう色は特にないと思う。

 今日は純粋に護の女性経験の無さと、持ち前の初心(うぶ)で純粋さ故に恥ずかしがったんだろう。

 

 う~ん……。それとなーく美咲の事どう思ってるか把握しておきたかったんだけど、結構難しいな……。変に警戒させるようなことはできないし。

 まあ、今のところは私の予想から外れるような気になる素振りもなかったんだから、無理に探る必要もないか。


 とりあえず、からかっておくか!

 今日は護にも散々恥かかされたしね!

 

「護は仲のいい先輩相手でも下着の色で顔を赤くするんだねぇ……」

「……! 姉さん……僕に邪な考えは無いってわかってるくせに……そういうのどうかと思うな」

「だって今日、護には恥ずかしい思いさせられたし……多少いじめてやらないと私の気が済まないんだよね……」

「だったらいじめ返すとかじゃなくても、もっといいやり方があると思うんだけど」


 護は納得いかないようで、私相手にそう提案する。

 そう言われても具体的な案が私にはなかったので、護に聞いてみることにした。


「いいやり方って?」

「……そうだね。なにか姉さんの食べたいものを用意する……とか」

「なるほどね、報復はやめて詫びを受けろと? でもそれは別にいつもやってくれることじゃん」

「じゃあ、洗濯変わっ……それはダメなんだった……掃除を……あれ?」


 護はぶつぶつとつぶやいてあれこれ考えるけど、いい案は浮かんでこない様子。

 というか、護は家事の事しか思いつかんのか。

 主夫かお前は。せめてもっと、学生らしく悩め。


「う~ん……なにか……してもらってうれしいこと……」

「別に無理になにかしなくても──」

「あ! そういえば、ちょうどいいのがあったじゃないか!」


 おや? 無理そうかとおもったけど、護はなにかピンと来たようだ。

 気になるね! 果たして、あの枯れた老人みたいに欲のない護が思う、されて嬉しいこととは!


「なになに? どんな冴えたアイデアなの? お姉ちゃんに聞かせてみなさいよ」

「うん! それは──」




 ──…………。


「どうかな? 僕、初めてするから、いまいち自信ないんだけど……上手にできてるかな?」

「うん……思ってたより、イイ……かも……。最初は何言ってんだって思ったけど……なんか、クセになっちゃいそう……」


 護の提案した案。

 食事が終わって二人ともお風呂に入ってから、さっそく試してみることにした。

 最初は抵抗があったけど、思い切って身体を預けてみれば、思いの外悪くない……というか、正直凄く気持ちがよかった。


「よかった……姉さんに満足してもらえるように頑張るから……」

「むう……護にいいようにされてるみたいでなんか気にくわない……」

「ふふ……いいんだよ姉さん、今だけは好きなだけ甘えてくれて」


 護の声が近くで聞こえる。

 普段はあまりない距離感には全然慣れないけど……なんか……ボーっとしてくるみたいで……。

 まずい……なにがまずいのかわかんないけど、とにかく何かマズイ!


「……ねえ、護」

「なに? 姉さん」

「あのね……なんで……」

「うん、なんで?」

「なんで……」

「…………」


 なんで……。


「──なんで、膝枕なの?」

「あれ〜? やっぱり駄目だった?」


 私は今、ソファで横になって護の膝に頭を預けていた。

 いわゆる、膝枕だ。

 しかも、私がされる側で……。


 どうしてこうなった?


「いや、悪いわけじゃないの……さっきも言った通りむしろ良いくらい。私が気になってるのは、なんで急に膝枕をチョイスしたのかってことで」

「ああ、別に思いつきだし、大した理由はないんだけど……この前、東雲さんから姉さんに膝枕をしてもらったって聞いて」


 膝枕……? 


 ああ、そういえば泣きつかれた霧華に膝を貸してあげたんだった。

 ……それがどうして今こんなことに?


「昔、僕も姉さんによく膝枕してもらってたなって思い出して、最近はめっきりそういう機会もなかったなって……」

「……うん」

「でも、さすがにもう高校生だし、姉弟で膝枕されるのはダメなのかなって思ったから……」

「思ったから?」

「する方なら大丈夫かなって」

「…………」


 ……ん~???


 駄目だ……膝枕でボーっとしてきてるせいか護の言ってることが全然わかんない……。なんでされるのは駄目でする方は良いんだ? 全然わからん……。

 それに私もどっちかといえばしてあげたい気持ちの方が強いんだけど……まあ、たまにはされるのもわるくないか……。


 あ~……段々駄目にされてしまう~~。

 っていうか……風呂であったまった後だからだんだん眠く……。


「そっか……よくわかんないけど、なんでもいいや……気持ちいいし」

「そっか……! そうだ、ついでに耳掃除もしようか? 膝枕といえば耳掃除がセットだもんね」

「みみそうじ……」

 

 それはつまりどういうことだ?

 護に耳の穴の奥まで見られるってこと?

 な〜んか……やばくね? それ。


「護のえっち……」

「ええ……!? 昔はよくやってたのに?」

「きょうだいでそーいうのは……だめぇ……な……の……」


 ゆっくりと、瞼が重くなってくる。

 護の声も、暖かさも。こんなに近くで感じることは久しくなくて。

 それに全身を預けるのは、こんなにも落ち着くことだったと思いだして。

 私はそのまま、身体の全てを護に預けて、静かに眠りに落ちるのだった。


 ── 9月13日 22時30分 橘護 ──


「……姉さん? 寝ちゃった?」


 膝枕をしていたら、姉さんはそのまま目を閉じて寝息をたて始めた。

 どうやら眠ってしまったらしい。


「……ふふ。結構よかったみたいだね、膝枕」


 されたことはあってもしたことは一度もなかったから、姉さんにこういうのはどうかと提案した後でちょっと後悔してたけど、結果成功といっていいようだ、よかった。


 ……こういうのって、する側も結構満たされるものなんだな。

 初めて知った。でも、そういえば姉さんも、昔は自分から膝枕やりたがってたっけ。

 こんな秘密があったとは。自分一人だけ楽しんでたなんてずるいなぁ……。


 ……ずるい……か。

 姉さんに恥をかかせたお詫びのはずだったのに、結局僕がしたいことをする機会になってしまっていたような気がする。


 ごめんなさい……姉さん。


 そう心の中で謝って、僕の膝の上で眠っている姉さんの頭を少し撫でる。

 姉さんを撫でるのは、なんだか少しだけ、悪いことをしてるみたいで落ち着かなかった。……姉さんが寝てる間だからだろうか。


「でも東雲さんにはしてあげたんだもんね……これくらいは許してほしいな」

 

 されるのは駄目で、するのは良いなんて、冷静に考えれば意味不明な理屈だ。結局やってることは膝枕なんだから。

 ……でも、いいよね。膝枕くらいなら。

 普通はしないみたいだけど、僕達は普通より仲良しだから。これはセーフだ。

 うん、ノーカン……ではないけど。問題はない。


「じゃあ……今度はされる方も……いや……さすがに欲張りか」


 姉さんの寝顔を見て考えを改める。

 無防備な顔だ。これを見るのを許されてるだけで十分じゃないか。

 満足しろ、僕。


「東雲さんだけずるいとか……そんな事もう考えるな……」


 今回はちょっとだけ、ちょっとだけ羨ましかったけど……もう大丈夫だ。

 なんか、チャージできた気がする。言い方はあれだけど。


「まもる……」

「っ……、姉さん……?」

「ありが……とう……」

「…………」

「寝言……?」


 一言だけつぶやいて、またすーすーと寝息を立て始める姉さん。

 またあどけない表情に戻った姉さんをみて、先ほどの寝言を頭で再生する。


『護、ありがとう』、か……ふっふふ。


 まずいなぁ……。

 クセになっちゃいそうだ……これ……。


 そのあと姉さんを自室に起こさないように運んで、僕も自分の部屋で眠った。

 いつもより少しだけ、幸せな気分で。

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