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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会活動の日々

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貴方の事を教えて欲しいの 前編

 ── 9月13日 15時50分 橘柊和 ──


「やあ皆! 昨日はお疲れ様!」


 昨日信任投票も終えて、正式に私が生徒会長に任命された日の放課後、役員が揃ってそろそろ仕事を始めようかという時に詩葉先輩がやってきた。


「八重樫、せめてノックしてから入ってこい……」

「詩葉先輩、早速遊びに来たんですか?」

「いやあ、あんまりしつこく尋ねても悪いとは思ってるんだけどね。昨日の発表が良かったからつい来ちゃったよ!」


 良いといっても、上手にできていたというよりは、面白かったという意味での良いなんだろう。

 特に、例の護のパートが。


 幸い、そこまで周りからの心象も損ねたわけではないようで、私の方は『姉弟仲がいいんだね』と、軽く触れられる程度だったけど、護の方も軽くからかわれた程度で済んだらしい。

 やはり、あの程度でシスコンだなんだと心配する方がおかしいのだ。

 私たちはいたって健全な姉弟なのはここに証明された!


「うん! やっぱり君たちは期待を裏切らないね! これからもこの調子でお願いするよ!」


 詩葉先輩は、おそらく一番先輩の期待に応えたであろう護の方を見てそう言った。


「あはは……」


 対する護は苦笑い。


「期待って、まさか面白そうってことじゃないですよね?」

「やだなぁ……そうに決まってるでしょ?」


 私、本当にこの人への恩返しとか必要なんだろうか?

 最近、なんだか心が揺らぎ始めている。


「あはは、ごめんね。またふざけちゃった。ちゃんとした期待もしてるから、気を悪くしないでね」

「分かってます」


 この人の冗談にももう慣れてきている。だいぶ。


「きっとちゃんとした感想なら陸山先生が言ってますよね?」

「ああ、お前が楽しそうな理由のことまで指摘してある」

「できれば私が言いたかったのに……まあいいです。ちゃんとした方の意味で、私も良かったと思うよ。特に柊和ちゃんは惹きつけられるスピーチだった」

「ふふん」


 まあ、当然ですよね。

 自分でもちょっと自信あったし!


「柊和、自信がまた鼻から漏れてるし……」

「霧華ちゃんも加賀さんも言うまでもなく文句なしだったね。……それで、今日はもう一つ気になることがあってね」

「気になること……ってアレですか?」


 詩葉先輩の言葉を受けて、霧華が視線をある方向へ向ける。

 護も美咲も先生も、皆そちらへと向いた。


「ああ、やっぱりだね」

「東雲さんの言うとおりだ……本当にパンパンになるんだね……」

「ね? 言った通りでしょ!」

「うええ……本当にこれ今日中に片付けないとダメ?」

「加賀、そんな露骨にイヤそうにするな」


 皆に続いて、私もいやいや皆の注目しているそれを見る。


「本当、ナニコレ……なんでこんなことになるの?」


   回収してきた意見箱が、中身一杯になって生徒会室に現れた。


「う~ん……これ前期より中身多いんじゃないですか?」

「うん、多いと思うよ。私達も最初は六人いたんだから二人分減らないと計算あわないのにね!」

「そんなこといって、前期はほとんど会長に対する質問ばっかりだったじゃないですか!」

「そうだっけ? なら今回は、会長以外のメンバーにも質問がきてるってことなんじゃないかな?」


 詩葉先輩がそういうと美咲がうんざりした顔をする。


「ええ……いいですよ、ほとんど柊和宛で」

「めんどくさがって全部私に押し付けようとしないで」

「あはは。とにかく中身開けてみなよ」

「う~ん……それもそうですね」


 正直気乗りしないんだけど、必ず開けることになるのだから素直に言うことを聞いておく。

 よいしょ……っと。


「うわあっ⁉︎」


 意見箱を傾けて机にぶちまけると、思ったより量があって、雪崩のような勢いを持った投書の山が机からあふれてしまった。


「あ~あ~、落ちちゃった。気をつけな~」

「ごめ~ん……」


 落ちた投書の一番近くにいた美咲が拾うのを手伝ってくれる。


「あ、僕も手伝いますよ……ん」


 護が投書を一つ手に取って読み始めた。


「護、どうかした?」

「いや……質問ってこういう感じなんだなって……」

「どーいうこと?」

「いや、あとで答えてるうちに分かると思う」


 もったいぶるね、と思わなくもなかったけど、確かに後で嫌というほど質問の処理に追われるのだから特にこだわることもないだろう。


「そっか……ん、美咲?」


 それまで投書を拾うのを手伝ってくれていた美咲だったけど、何故か動きが固まっている。


「……! なに?」

「いや……そっちはもう拾えた?」

「ああ、うん。大丈夫」

「……ふ~ん? そっか、ありがとう」


 なんとかひとつ残らず拾い集めて机の上にまとめることができた。

 その中から試しに一つ、今度は落ちないよう気をつけて手に取ってみる。


『Q:生徒会長の男性のタイプを教えてください』


 ゴミだった。


「こらこら、何捨てようとしてるの? 生徒からの投書は基本全部返答しないとダメなんだから」


 ゴミ箱にそっと入れようとしていたら、詩葉先輩にたしなめられた。


「ええ……? こんな内容でもですか?」

「こんな内容でもだよ、『特にありません』で済むんだから」

「あ、そんな簡潔にでいいんですね」

「当たり前だよ。こんなの適当にあしらってればいいの」


 どうやら詩葉先輩も経験があるらしい。


「まあ柊和の場合はまもるく──」


 美咲の喧しい口を手で塞いでやる。


「だからそういうのは違うって言ってるでしょ!」

「んん! んんん!」


 美咲が腕をタップする、しまった、鼻までふさいでいた。


「あ、ごめん」

「ぷはっ……死ぬかと思った……」

「ごっめ~ん! てへっ?」


 かわい子ぶって謝罪してみる。


「それやめて、ホントに殺意湧きそう」

「だよね」


 自分でもこれはないと思った。


「うわっほとんどくだらない質問ばっかり……」


 護が投書を探って驚いている。


「どれどれ? わぁ……本当だね、あたしもまだまともなの見つかってないや」


 護が手にした投書を見て呆れた声を出す霧華。

 ええ……これが仕事なの……。


「やっぱり最初は偏るよね、まあ段々まともな内容になってくるから大丈夫大丈夫」


 今は全然大丈夫じゃないんだけど……。

 ほかにも数枚手に取ってみる。


『Q:会計の加賀さんって彼氏いますか? いなかったら~』

『Q:会長と副会長って姉弟なんですか?』

『Q:書記の子が可愛かった』


 意見箱なのに質問ばっかりだな。……最後のは意見かな?


「あ、護君宛てのもあるよ?」

「あ、ありがとうございます」


 美咲から投書を受け取る護。私も覗いてみる。


『Q:橘君の好きな食べ物は何ですか? 気になります♡ 一年D組○○○○より』


 やっぱりゴミだった。


「あ、姉さん! 捨てようとしちゃダメだって!」

「だっていらないでしょ、こんなもの」


 まったく、ナメた真似してくれちゃいやがって。 

 なんだぁ? この♡はぁ? ああん⁉︎


 怒り心頭の私を置いて、他のみんなも興味津々に投書をのぞき込む。

 中でも、美咲はその当初の送り主に呆れつつもどこか感心しているようだった。


「すごいね~この子。匿名なのにわざわざ記名してるや」

「何も感心することじゃないでしょ」

「も~ブラコンじゃないならこれくらいの事でムスッとしないでよ」

「してない‼」

「護君はなんて答えるのかな?」


 私達をよそに詩葉先輩が護に語り掛ける。


「好きな食べ物ですよね? う~ん、そうですね……」

『A:オムライスが好きです』


 簡単な返答を書く護。


 オムライス……っ!

 ……ふ、ふ~ん?

 へえ、まずそれなんだ……。

 悪くないじゃん……。


「へえ? 護君ならやっぱりレシピに凝ってみたりするのかな?」

「ああ、いえ。オムライスは姉さんの得意料理なんです」


 あ。うれしいけど面倒な予感……。


「へえ! それは気になる話だね!」

「昔、僕がまだ家事とかできなかった頃は、姉さんがご飯を作ってくれたんです。中でもオムライスは姉さんが作ってくれた初めての料理で、おいしいよって伝えたら、それからもよく作ってくれるようになったんですよ」


 いや、まあそれは、確かに当時は護が喜ぶからちょっと調子に乗ってみたりはしたかもしれないけど……。


「いいねいいね、そういうのがもっと聞きたいんだよ」

「僕が好物だって知ってから、姉さんは段々凝るようになっていって……」

「ふんふん」

「最初はケチャップだけのシンプルなレシピだったのに、デミグラスソースとかチーズ入れたりとか、レシピ以外にもお皿の上でオムレツを包丁でパかッと開いてみせたりしてくれて、それがまた子供心に嬉しくて……僕が『あれやって』とせがむと仕方ないなあなんて言いはするんですけど優しい姉さんは結局用意してくれて……」

「うん……そっか……えっと、護君?」


 なんだか既に暴走しかけているように見えるけど、なおも護の熱弁が止まらない。

 加速する勢いには、あの詩葉先輩すら戸惑っているように見える。


 ──っていうか……あの、そんな語られると……。


「今はもう料理も僕の仕事だからそういう機会も滅多になくなっちゃって、でも先週姉さんが久しぶりにオムライスを作ってくれたんですけど、いつも僕が再現してみようとしていつも失敗してたあの思い出の味から変わってなくて! やっぱり姉さんには敵わないなぁって──」


 ああっ! ああああぁ! やばい! 皆に聞かれてるのヤバい! すっごい恥ずかしくって顔があっつい! 顔赤い! ケチャップより赤い!


「護! 護~っ! 止まってっ! もう十分だから! もう私これ以上続けられたら恥ずかしくって死んじゃいそうだからぁ!」


 護の肩を揺さぶって正気に戻るように必死でお願いする。


「え? はは、大げさだなぁ……。あ、まあそんな感じで、僕の好きな食べ物はオムライスです。好き嫌いはないので、大体何でもおいしく食べれますけどね」


 アハハと一人で笑う護。

 その様子を見たことは先輩と美咲がこそこそと話し合っていた。


「やっぱり私、護君の方が拗らせてると思うんですよ……」

「そうだね……でも時々柊和ちゃんの方もあんな感じになるよね?」

「それは確かに……この前『護が良い子過ぎて~』って小一時間ぐらい電話で語られました……」

「親バカか?」


 一方、ニコニコした霧華は唯一ドン引きしていたムネ先生と話している。


「いいなぁ……あたしも柊和先輩のオムライス食べてみたい!」

「東雲は今の護にはノータッチなのか……?」

「あたしも好きなものならあれくらい語れますよっ!」

「何で張り合ってるんだお前?」


 ムネ先生は『最近の若者がわからなさすぎる……』と頭を抱えていた。


 くそう、かなり恥ずかしい思いをさせられた。でも引かれてないだけ……いや、引かれてはいるか。あ、もっと恥ずかしくなってきた……。


「ねえ護! 皆の前でそんな滔々《とうとう》と語られちゃうと語られる本人としては恥ずかしくてしょうがないの! 勘弁して!」

「あはは……ごめんね? 少し思い出したら関係する記憶を続々と思い出してきて、ついつい止まらなくなっちゃった」


 オタクだ……姉オタクってやばいのでは?

 護は頬を掻きながら苦笑い。

 私の方は限界まで恥ずかしくって、うつむきながら護に言葉を伝えるのが精いっぱいだった。


「……そんなに好きだったなら……また、いつでも作ってあげるから……その、話すならせめて私のいないところでして……。今みたいな時、私どんな顔して聞いてればいいのかわかんないじゃん……」


 声もすこしづつしぼんでしまうのを自覚しつつ、それでもどうすることもできなくて、心細かったから護の制服をちょこっとだけつまんだ。


「え? え? ねえ美咲先輩? 今の柊和先輩最高じゃないですか? 恥ずかしくて、顔赤くなりながらのあのセリフはたまらないものがないですか? そんな状態で橘君の服の袖を指でちょこんとつまんじゃうのとか最高に愛らしくないですか!? 反則じゃないですかぁ⁉︎」

「ええっ、(のめ)ちゃん⁉︎ 急にどうしちゃったの⁉︎」

「いいなぁ、橘君! あたしも恥ずかしそうにちょこんと袖摘まんでもらいたいなぁ~⁉︎」

「はいはい~霧華ちゃんもちょ~っと落ち着こうね~」


 パンパン。

 手を叩く音が聞こえてはっとする。


「おいお前ら、一個の質問片付けんのにどんだけ時間かける気だ。その調子じゃこの量は一生終わんねえぞ」

「……ふうぅ」


 そういってムネ先生は未だ山盛りの投書に指をさす。

 私も一つため息を吐き、無理やりにでも何とか切り替えて皆に指示を下す。

 というか、今は何かに集中して恥ずかしさを少しでもなんとかしたかった。


「質問はまず均等に山分けにして、指名のある質問や、要件によっては会計とか私とか答えるべき人間が異なるものも出てくると思うから、そういうのは各自の判断で適当な人に回して。なんとか帰宅が遅くならないように頑張ろう!」

「はい!」「うん!」「分かった!」


 皆の返事を受けてから時計を見ると、意見箱を開けてからもう十分以上経っている。まだ振り分けすら終わってないのに……。


 仕事の事に意識が切り替わると、恥ずかしさも波が引いていく。


 返事をしてからも、護は申し訳なさそうな表情をしていた。

 私より高い頭に手を這わせてわしわしとかき混ぜてやる。

 少しだけ仕返しのつもりで。


「次から気をつけてくれれば、それでいいの。……恥ずかしかっただけで、嫌な思いはしてないし……私の料理が好物って言ってくれたのは……うれしかったから」

「……! うん!」


 まあ、好きだから暴走しちゃうのはよくあることだしね。




 ──…………。


「美咲先輩、こういう部費に関する陳情の対処って会計の仕事なんですけど、今どれくらいできるようになりました?」

「もう基本的なことは大体教わったから大丈夫。それ私が対処するよ」

「お願いします」

「ムネ先生、これなんですけど、申請書がなきゃダメですよね?」

「どれ……合宿をしたい? ああ、これは意見箱じゃ通せないから申請書を提出させてくれ」

「分かりました」

「東雲さん、僕の方片付いたから手伝うよ」

「質問結構あったのに、もう片付いたの?」

「質問だけだったからね、意見の方は副会長案件ってあんまりないし」

「あは、サポートが仕事だもんね! じゃあね~……これ、お願いします!」

「了解!」


 みんなスイッチが切り替われば協力して仕事に取り掛かる。

 初めてにしてはなかなかのコンビネーションを見せた私たちは、作業開始から一時間ほどで一通りの作業を終えたのだった。

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