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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会活動の日々

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幕間 姉さんはブラコンじゃない

「あ」「あ」


 今日は珍しく、姉さんと下校の時間が被った。

 しかも、お互い一人の状態で。


「護、今帰り?」

「うん。姉さんも?」

「じゃ……一緒に、帰ろうか?」

「うん、わかった」


 なんでか分からないけど、よそよそしい態度の姉さんに僕は頷き、二人で並んで帰路についた。




 ──…………。


「姉さん、今日は一人なんだ」

 

 歩きながら、姉さんから美咲さんとはよく一緒に帰っていると聞いていたことを思い出したので、少し気になって聞いてみる。


「ああ、美咲ね。なんか今日は家の用事で早く帰るとかなんとか」

「そうなんだ?」

「うん……そうなの……」

「…………」

「…………」


 え? 何この空気?

 僕、なんかした?


「えっと……あの……」

「…………」


 あ、これはしてるわ。

 だって全然相手にしてくれないもん。

 まるで全く気付いてないみたいな素振りだし……。

 あれ? でも全然心当たりが……。

 いや……無くはないか。そういえば所信表明で姉さん姉さんうるさかったって指摘されたし……。


 え? もしかして怒ってる?

 例えば僕のせいで周りからからかわれたとか?

 まずい……。学校生活において平穏無事がモットーの姉さんだ。あれでも不機嫌になるのに十分すぎるほど面倒な案件かもしれない……。


「あ……あの……姉さん?」

「……何?」

「ご、ごめんなさい……」

「……は?」

「僕が姉さんに迷惑かけるようなミスしたから……」

「いやいやいや! 意味わかんない! 迷惑とか全然思ってないから! なんで謝ってるの⁉」


 けど、僕の予想はどうやら間違っていたみたいだ。

 姉さんは必死になって否定していた。


「だって……姉さんさっきから様子が変だし……それぐらいしか様子がおかしくなる理由も思いつかないし……」

「……! それは……別に護がミスしたからとかじゃなくて……」

「でも、僕のせいで周りにからかわれたりしなかったの?」

「多少はあったけど、その程度どうとでも対処できるし」


 姉さんにとってはその程度の事だったらしい。

 これは、僕が姉さんを見くびっていたことになるんだろうか。


「じゃあ、何を気にしてたの?」

「別に、大したことじゃないんだけど……」

「じゃあ教えてほしい……姉さんの様子がおかしいと僕まで変になる」

「…………」


 素直に尋ねてみれば、姉さんは少しだけ歩みを止めて沈黙し、再び歩き出しながら口を開いた。


「護がムネ先生にミスを指摘されたときさ……護は『シスコンと思われても別にいい』って言ってたでしょ?」

「うん、僕は別に。対して間違ってないし」

「そう言ってもらえるのはうれしいんだけど……それだとブラコンじゃないって言い張る私はまるで護の事が好きじゃないみたいじゃない……?」

「う~ん……」

「…………」

「…………?」

「…………」

「……え? 終わり……?」

「あっ! なにそれ酷い! 私には結構深刻な問題だったのに!」


 別に軽んじたわけではなかったけど……ああいや、確かにそれだけ? って思わなくもなかったか。それだけだとしても、姉さん本人からすれば心配になるようなことだったと……。


「……要するに、姉さんはブラコンじゃないって言い張ることが、僕の事を軽視してると取られるのが心配って、そういう事でしょ?」

「まあ、大体そんな感じ……」

「でも、姉さんがブラコンじゃないって言い張ってるのを真に受けてる人はあの場に一人もいなかったんだから、そもそもそんなこと心配するだけ無駄でしょ」


 自分で言うのもなんだけど、姉さんが僕を大切に想ってくれてるのは姉さんのことを知ってる人ならだれでもすぐに分かるようなことだ。

 だからこそ姉さんがブラコンを否定するたびに皆『また言ってるよ』としか受け取らないのだ。


「……! た、確かに……」

「姉さんだけだよ。あの場で姉さんがブラコンじゃないと本気で思ってたのは」

「それもそれで私的には気に食わないんだけど……」


 大体、あの東雲さんですら姉さんに懐疑的な様子だったんだ。他に誰が姉さんの言うことを信じるというのか。


 ……あ。 

 そういえば、僕の方にも一つ気になったことがあったのを思い出したので、タイミングもちょうどよかったので思い切って聞いてみた。


「……姉さんはさ。自分がブラコンって言われるのが嫌なんだよね?」

「別に嫌ってわけでは。違うから否定するの」

「嫌ではないの? ……適当にあしらうこともできるのに、毎回毎回わざわざ否定してるもんだから、てっきり嫌なのかと」

「嫌ってわけじゃないよ。それこそ、護が言ってるみたいに好きなのは違わないから」

「じゃあどうしてわざわざ?」

「誤解されたままなのはよくないから」

「誤解……姉さんがブラコンだって?」


 僕としては、あまり理解できない動機だった。僕はシスコンだなんだ言われても、特に気にならないから。言わせておけばいいと思うし、なんなら正面からそうだと認めてやってもいいぐらいだし。


「姉さんには、自分がブラコンじゃないってわざわざ否定する理由があるの?」

「…………」


 僕が認めてやってもいいといったのは、そう捉えられてもおかしくないくらいには大切に想っているの自負があるのと……。それから、なんていえばいいのか、ほとんどシスコンに片足突っ込んでる状態と自覚があるからというか。

 そういう理由で別にそう思われてもいいと思っている。


 けど、いつも否定している姉さんも、僕と同じような自覚は持っているらしい。

 ならそうではないと断ずる理由があるはず。

 そう思って尋ねてみれば、姉さんはまたもや少し考えた。


「……私さ、昔は結構大っぴらに護が好きだって言ってたんだよね。小学生の時とか」

「そうだったっけ?」

「そうだったよ? 小学生っていえば、そういうのは格好の標的にしたがるお年頃だからね。良くからかわれたのを憶えてるもん。男子には騒がれるし女子には変だよって指摘されたし」

「それはそうだろうね」


 いたずらの定型文にもある。

『ねえ、ちゃんと風呂入ってる?』『入ってるよ』『お前、姉ちゃんと風呂入ってんのかよ!』みたいなやつ。

 懐かしいなぁ、僕も言われたっけ。

 僕が引っ掛かったと思って喜んでた相手に


『うん、入ってるよ』


 って言った時のあの顔は印象的だった。

 そもそも僕の方は最初から引っかかってすらいなくて、『お姉ちゃんと一緒に風呂入ってるか?』って聞かれてるつもりだったんだよね。

 今では確かに小学校高学年にもなって姉と一緒にお風呂なんて変なんだろうなって分かるけど、当時の僕はまだまだ世間知らずだったのだ。


「最初は、そういうのも真正面から『そうだよ』って認めてたし、からかわれても堂々としてられたんだけど。大人になるにつれてやっぱり思い直したんだよね。いつまでも弟好き好き言い続けるのはダメなんだろうなって」

「どうして?」

「……色々あったから」

「ん……」


 その一言は、僕を黙らせるには十分な一言で、姉さんもおそらく僕が静かになるのを分かっていて口にしたんだと思う。


「だからさ、まあ、一応言っておくだけね? 私はちゃんと護の事大好きだよ? 大切に想ってる」

「うん」

「でも、ちゃんと家族としてだから。私は絶対に護にあらぬ感情を抱いたりなんかしないから」

「うん」

「だから、私はブラコンじゃないの。ブラコンは駄目だから」


 姉さんの中では、『ブラコン=兄弟に恋愛感情』という数式が成り立っているらしい。率直に言って、随分と偏っている考えだ。僕でもそう思う。

 別に恋愛に限らずとも、他の形で兄弟に強すぎる愛があればそれはほとんどブラコンといえるだろう。そういう意味で、僕はシスコンといえるし、姉さんだってブラコンといえなくもない。

 というか、他の皆はそういう意味で姉さんをブラコンと呼んでいるんだろう。恋愛感情を持ってると、疑ってる人なんて……おそらくはいないはずだ。


 でも、姉さんの中では独自の公式があって、それが成り立つ状況は姉さんにとって許されないこととして定義されている。


 『色々あったから』なんて、随分とテキトーに片づけたものだと思わなくもないけど、姉さんと一緒に苦楽を共にしてきた僕には、その一言だけであまりにも多くのものを察することができた。


 ──姉さんがブラコンを否定するのは、僕でいうところの家事への執着と一緒なんだろうなって、すぐに理解できた。


 原因があって、執着し続けることでしか自分を保てないし、許せない。

 姉さんの執着がどんな原因と動機を持っているのかまでは、分からないけど。


 姉さんも僕の事を言えないくらいには歪んでるし拗らせてる。

 それを上手に隠してるだけで、僕らは本質的に似たもの姉弟だ。


「でも姉さん、ブラコンじゃない人はあんまり弟と一緒に登下校したりしないらしいよ」

「……護は遠回しに一人で登下校しろって言ってるの?」

「そんなつもりはないよ。姉さんはブラコンを否定するためなら一緒に登下校もやめちゃうのかなって、少し思っただけ」


 試すような質問は趣味が悪いと自分でも思う。

 でも、姉さんがどんな選択をするのか気になってしまった。


「…………」

「姉さん?」

「……登校は別々で通う理由がないだけだし、下校は今日みたいに偶然会った時だけで、示し合わせて帰ってるわけでもないから。ブラコンとは関係ない」

「……ふふ」

「なに笑ってるの?」

「いいや、なんでも。くだらないこと聞いたなって」

「そうだよ。あんまりいじわるな質問しないで」

「ごめんなさい」


姉さんは縛りの上でも、できるだけ僕との時間を大切にしてくれる。それが分かっただけで僕には十分だ。


「姉さんはちゃんと僕の事大切に想ってくれてるよ」

「あたりまえでしょ。そんなの今更だよ」

「うん、全然疑ってない。姉さんは心配してたけど、もし少しでも疑ってたら僕はこんなに平気でいられなかったし」

「それも心配の種だったんだけど……まあいいか」


 姉さんの最初の心配がいつの間にやら彼方遠くへと飛んで行ったように思えたけど、まあ、とりあえず悩みが解決したってことでいいんだろう。

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