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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
生徒会活動の日々

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シスコン表明

「はい、皆お疲れさん」


 全校集会はつつがなく終了。生徒達は全員教室へ帰っていく中、僕たち生徒会役員だけ体育館に残っていた。


「何とか悲惨なことには……まあ、ギリギリならずに済んだみたいだな」


 生徒会顧問のムネ先生が僕たちにそう告げる。


「橘と東雲に関しては始めから心配してなかったが、加賀と護もとりあえず目立った所は……いや、まあ、加賀の方はまずい失敗は、なかったな」

「……? ありがとうございます……?」


 自覚はなかったけど、僕には失敗があったとでも? 

 そう問いてみたくはあったけど、無事に終了した今、僕はすっかり気力を使い果たして、その場で力なく壁にもたれるのが精一杯だった。


 そんな僕をよそに、ムネ先生は姉さんから順に感想を挙げていた。


「にしても橘、お前は流石だったな」

「そうですか?」

「ああ、普段は集会中もこそこそ近くのやつらと駄弁ってるような生徒まで、全員お前の話に聞き入ってたぞ」

「ふふん。まあ、私に掛かればこんなもんですよ!」


 得意そうにしている姉さん。

 姉さんは自分の見せ方を完成させている。

 外向きの姉さんは、基本的に誰にでも礼儀正しく、優しく、堂々としていて、それで嫌味なところが一つもない。誰が相手でもにこやかに接するけど、どこか一線を引いている。

 だから人から嫌われるのはごく稀にしかない。その代わりに美咲さんのような友人ができるのも同じくらい稀だけど。


 昔から何でも人一倍の結果を出した姉さんは、人からやっかまれることも少なくなかったけど、そういう環境にすら適応して見せた結果だとか。

 しかし、いつもは敵を作らないようにしているだけなので、気づかなかったけど、自分を良く魅せる方法も理解しているらしい。


 さっきの演説はそれが嫌というほど理解できた。

 家にいるときのいつもの姉さんからは考えられないような、理知的で、リーダーシップに富んだ生徒会長にふさわしい姿だった。


「結局本番も原稿のまま行ったが、本当にあんな宣言して大丈夫だったのか?」

「詩葉先輩からは期待してもらってますし、せっかくいいメンバーも揃ったんですから、生徒会もセーブしないで全力でやってみますよ」


 姉さんは所信表明で前期生徒会の活躍について取り上げたうえで、後期生徒会は文化祭や体育祭などのイベントがあってさらに忙しくなる中でも、『平常時の対応も前期からレベルを下げることなく頑張ります』と宣言した。


 つまり、『詩葉先輩がやってみせたように、お前らの爆上げされてる期待にもバッチリ応えてやるよ』と、全校生徒の前で宣言して見せたのだ。

 これによって後に続いて所信表明をする僕たちのハードルがまた上がったのは言うまでもない。美咲さんは姉さんに恨めし気な顔をしていたぐらいだ。


「八重樫の前までは生徒からの依頼とか普通に受け付けてなかったからな、意見箱もほとんど形骸化してたしみたいだし。俺が顧問になったのは今年からだから良く知らんが、八重樫が会長になってから生徒会の仕事量が倍になったとか聞いたぞ?」


 そうなのか。中学の時の生徒会活動からすれば、水仙高校の生徒会は比べ物にならないくらいちゃんとしてると思ったのに、そういう訳があったんだ。詩葉先輩って思ってるよりすごい人なのかもしれない。


「お前らの代でいい感じに元通り緩くしてくれれば、来年からは候補者探しに苦労しないで済むと思ったんだがなあ」

「詩葉先輩には生徒会長として色々助けられてましたから。それなのに見習わないで最初から見切りをつけるのは違うじゃないですか」

「まあ、もう宣言しちまったもんは仕方ねーか……。パンクしないよう上手くやってくれ、特に橘姉弟はな」

「はい、気を付けます」


 他人よりも複雑な環境で生活している僕たちを()()と挙げて、そう言い置いた。

 僕も頷いて返す。


「橘はそれでいいとして、東雲も前より成長が見られたし、それから不安要素だった加賀も言うほど悪くなかったぞ」

「ありがとうございます! 柊和先輩! あたしの発表はどうでしたか⁉」


 東雲さんは姉さんの評価がどうしても気になるようだ。


「うん、前回は緊張でガチガチな印象だったけど、半年でちゃんと生徒会役員らしくなったね」

「あ、柊和先輩はちゃんと覚えちゃってました……?」

「ふふ、私もアクシデントさえなければ本当は記憶力いいんだからね」

「なんで覚えててほしいことと忘れてほしいことが逆なんですか!」

「あはは……ホントごめんね、今後は全部覚えておくから」


 興奮気味の東雲さんとなだめる姉さんを傍で見ているとなんだか仲のいい後輩というより飼い犬と飼い主にみえてきた。


「加賀、お前大げさに嘆いてた割には本番じゃ全然普通にできてたじゃねえか」

「僕も後ろで聞いてて全然上手にできてたから驚きました」


 美咲さんは直前まであんなに騒いでいたとは思えないほど練習どおりの出来で、噛むどころか緊張さえあまり感じられなかった。

 おそらく、姉さんが上手く美咲さんの心配をやわらげたおかげだろう。


「そうかな? でも大げさにしてたつもりはないですよ~。上手くいったのは私が昔から本番に強いタイプだったのと……まあ今回は柊和に助けられたんで」

「へえ? まあ、仲良くやってくれてるならそれでいいんだがね……で、護」

「はい」

「お前もガチガチになってたりはしてないし、特に噛んでるとこはなかったんだがな……やっぱり緊張が抜けきってなかったな」

「……? なんでですか?」


 僕も発表は練習通りできてたと思ったんだけど……。


「お前、原稿だと『会長』になってたとこ、全部『姉さん』に置き換わってたぞ。『姉さんのサポートに回り生徒会に貢献できるよう~』とか、『姉さんの右腕として~』とか」

「あ! やっぱりそうですよね! 途中から『あれ?』って思ってたけど、橘君、自覚なしで言ってたんだ!」


 そう言われて初めて自分のミスを自覚した。

 しまった……余裕が無かったのが災いしてつい言いやすい方で……。


「ただでさえ原稿の内容が会長会長の連発だったからな……ちょっとヤバめのシスコンぽかったぞ」

「……全然気づかなかった」

「ま、まあ護は『姉さん』がスタンダードだもんね、集中してたらつい慣れた呼び方に変わってるぐらい仕方ない……よね?」


 姉さんはフォローしてくれる……。

 けど……。


「仕方なかったとしても、聴いてる側の印象は変わらんがな」

「ムネ先生! 余計なこと言わないでください!」

「私、舞台上から見えたんだけど、聞いてる詩葉先輩がすっごいニコニコしてた」

「確かに会長が凄く喜びそうな失敗ですね……」

「護、気にしなくても大丈夫だよ? それ以外は失敗なんてしてないし、むしろすっごく上手だったから」


 そっか……失敗したな……。

 でも…………。


「まあ、別に周りにシスコンっぽく見られるくらい別にいいかな」

「え」

「姉さんは好きだから、大して間違ってないし」

「…………」


 ん? なんだ、この微妙な静寂は。


「橘君……大胆……」

「護君って、柊和と違って潔いよね」


 東雲さんはあっけにとられたように呆然と、美咲さんは感心するようにうなずいて、様々なリアクションを見せる。

 家族を好きという事の何が大胆なんだろうか……?

 あ、思春期らしくないとか?

 僕ぐらいの歳の男子は母親に『くそばばあ』とか言っちゃうらしいし。

 

 それより、『姉さんと違って』というのが気にかかった。


「姉さんと?」

「柊和は自分がブラコンだって頑なに認めないもん」


 姉さんは即座に異を唱える。


「そうは言うけど、だってブラコンってあれでしょ? 兄か弟を異常なくらい好きだったり、いっそ恋愛対象みたいに見ちゃうあれでしょ? 私の好きは正常値だから!」

「だから柊和の好きは正常じゃないって……」

「正常です~‼ 正常の限度の中で大好きなの!」

「じゃあ私にお姉ちゃんの座を譲れ! 私が護君のお姉ちゃんならブラコンになって柊和より大好きになれる自信があるね‼」

「やるわけないでしょ‼ ぽっと出の一人っ子がお姉ちゃんを語るな!」


 なんであの二人はさっきもやったようなやり取りで……。

 こちらもこちらで年下組二人はさっきと同じように二人を眺めていたけど。そうしていたら、ムネ先生が話しかけてきた。


「まあ色々言いはしたが、間違えて姉さん呼び連呼しただけだしな。まだ可愛いもんだろ……ヤバめには聞こえたが」


 さっきからヤバめって言うのはやめて欲しい。


「そうだよ! それに橘君と柊和先輩が仲がいいのは登下校一緒にしてる時点で、大体周りも気づいてたしね」

「やっぱり一緒に登下校する姉弟って目立つかな?」

「珍しくはあるだろ、まあ、お前らだから特別目立ってるのもあるが」

「やっぱり姉さんは特別注目されてるんですね」

「注目されてるのは橘君もだと思うけどな……」


 東雲さんは相変わらずの年上組を眺めながら小声で何事か呟いた。


「護はなあ。橘と比べればだが、自分たち姉弟の異常性を少しは自覚できてるくせして、自分一人のことになった途端自覚が足りなくなるんだよなぁ」

「ですね」

「……?」


 姉さんはまだわかるけど、僕のどこが目立つというのだろうか。


「っと、そろそろ戻らねえと駄目な時間だ」


 ムネ先生は時計を見ると話をまとめにかかる。


「お前ら今日はお疲れさん。少し気になるところはあったが、とりあえずそれ以外は言うこと無しだ。平常業務も最初は忙しいと思うが、明日からまたよろしく頼む。それじゃ解散」


 ムネ先生はそう続けて、手をパンと叩いた。

 のに、姉さんと美咲さんの言い争いはしばらく続くのだった。




 ──…………。


 周りの生徒に遅れてそれぞれの教室へ戻る途中。

 姉さんと美咲さんは二年生なので先に別れ、教室までの道を東雲さんと二人で歩いていた。


「ムネ先生が『最初は忙しい』って言ってたけど、どうして『最初は』なのかな? 東雲さんはわかる?」


 この生徒会唯一の経験者である東雲さんは、少し考えてから答えてくれた。


「多分だけど、意見箱のせいじゃないかな」

「意見箱が?」


 引継ぎの間に意見がたまったりするんだろうか?


「あの箱は質問箱としての役割があるんだよね」

「質問箱だから忙しいの?」

「うん! 最初のうちは新生徒会に興味を持った人たちから、役員の人たちへ質問が集中しちゃうんだよね」

「ああ、だから最初のうちはなんだね」

「そうだよ、あとになればなるほど、段々と質問することもなくなっていくだろうからね」


 意見箱の処理は平常業務の一つだ。

 なるほど、最初なら一度もされてない質問を考えるまでもないし、どしどし聞いてくるわけだ。


「でも、だからってパンパンになるほど来るものなの? そんなに生徒会って注目の的なのかな?」

「去年まではそこまでの規模じゃなかったらしいけどね、前期は一年の頃から有名だった会長が生徒会長になったから、今まで以上に話題になったんだ。私たちの場合、柊和先輩はもちろん、美咲先輩と橘君も有名だから前期より多いかもね」

「美咲さんはともかく、僕はそんなに有名じゃないと思うけど……?」

「よく言うよ、橘君が複数人の女子から告白されてるの、あたし知ってるんだから!」


 そういえばこの前、姉さんから同じことを詰められた時、あれも情報源は東雲さんからだって言ってたんだった。


「なんでそれを……」

「女子の間じゃそこそこ有名だけど……あたしも橘君のことでよく相談されてたりしたから」

「相談って? なんで東雲さんが?」

「告白してもいいかなとか……そういう相談。何でか知らないけど、あたしって昔から恋愛相談とかよくされるんだよね……ほんとになんでだろ?」

「頼りになりそうだからじゃないの?」


 東雲さん、交友関係は広くて友達もたくさんいるみたいだし、姉さんとは種類の異なる人気がある。

 性別とかあまり関係なく誰とでも仲良くできるイメージだったし、恋愛経験もそれなりにあるんだろうなと僕は思ってたんだけど……。


「おかげで恋人なんて一度もできたことないのに、段々と的確なアドバイスができるようになっちゃった」

「すごいね……というか恋人いたことなかったんだね」


 意外というか……まあ、意外か。


「ないよ、好きになったこと……すら……えっと……」


 急に歯切れが悪くなる。


「東雲さん? どうしたの?」

「って、あたしのことはいいの! 橘君こそ告白全部断っちゃったんでしょ? そっちの方が驚きだよ」


 強引に話を変えたのはわかるけど、なにかまずかったんだろうか? 見当がつかない。そして、その話は僕にはまずい。


「僕が誰かと付き合っても、一緒に遊ぶ時間もとれなくて申し訳ないからね」

「ふ~ん? まあ、橘君は家事とかしないといけないんだもんね」

「そういうこと」


 それっぽい理由で誤魔化したけど、東雲さんは納得してくれたらしい。本当の理由はあまり人に言いたくないんだ。ごめんね。


「とにかく、明日からは橘君への質問もたくさん来ると思うから、覚悟しておくといいよ!」


 そう言ってニヤニヤ笑っている東雲さんこそ、かなり質問が来そうなものだけど、まあ、明日になればわかる話か。


「そうだね、東雲さんも明日から一緒に頑張ろうね」

「うん! 頑張ろう!」

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