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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
これからはじまる生徒会 

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名誉の傷は誇らしく 後編

 約束の生徒会室で待っている間、同じことを何度も回想する。何度も、何度も。

 一つも忘れていることが残らないように、何度も。

 

 それは今朝の夢の続き。

 

 あの日の記憶──。




 ──…………。


「いやぁ、うっかりしてたよ」


 私の言葉に、女の子は首を傾げてきょとんとしている。


「うっかり? 何がですか?」

「いやね? 君にこんな顔のまま、いきなり話しかけちゃったから、怖がらせちゃったかな? って」

「え?」

「君、最初緊張してるように見えたからさ。これのせいだったのかな?」


 私の指摘に、女の子はなぜか照れたような反応を見せる。


「い、いえ。確かに、それもちょっとは驚きましたけど、怖くはなかったです」

「あはは、お化け屋敷なのに怖くなかったらダメじゃない?」

「うーん……そうかもしれませんね。確かにまるで本物みたいに見えるクオリティはすごいと思いますけど、怖くないです」


 まあ、本物だからなぁ。


「お姉さんの顔、火傷があってもすっごく綺麗で、こういったら失礼かもですけど違和感なくって。かっこいいとか綺麗というか、クールな人に見えるから、かえって見栄えするっていうか、あの、あれです! 『ばえる』って! 最近流行りの!」

「…………へえ」


 かなり、意外な感想だった。


「本当にそう見える? 形はそんなに変質して(かわって)なくても、結構変色しちゃってるしさ? 見た目はそんなに良くないと思うんだけど」


 自分が口にしたことを一瞬遅れて理解して、困惑した。

 私はなんでわざわざ自分を貶めるようなことを言ってるんだ?


「そんなことないですよ! この前読んだ漫画にもいました! 火傷跡が残ってるカッコいい女軍人! あっ! 実はお姉さんのそれも何かのコスプレとか?」

「……いや、残念。私がオリジナルなんだ」


 女の子は私の恰好のクオリティが高いとはしゃいでいる。

 ……本当に、そんな風に見えているんだろうか。

 火傷がなければ……とか、少しでも思わないの?


「私が声を掛けられて緊張しちゃったのは、一人で不安だった時に知らない人に声を掛けられたのと、優しい声をかけてくれたカッコいいお姉さんが、顔に火傷とメイド服で意味分かんなくなっちゃって……」

「……はは。それは、そうだよね。すぐに飲み込めるわけないや、設定盛り込み過ぎてコンセプトが迷子だもんね」


 恰好だけ笑って見せたけど、内心はずっと違うことを考えてた。


 数年前、火傷はずっと残るってお医者さんに言われても、私はそこまで気にならなかった。


 護は考える間もなく一瞬で受け入れてくれたし。

 私にとって名誉の勲章みたいなものだし。

 悪意を向けられてもはねのけてやる自信があったから。


 でも……そっか、気にしたりはしなかったけど。

 心から自信を持てたときなんて……あったっけ?

 護の前でくらいは、そう感じられてるかもだけど。


 面白い。かっこいいと来たもんだ。今までこの火傷に対して、怯えとか、嫌悪とか、そういう視線を向けられてもあって、でもそれはあんまり気にならなかった……のに。かっこいいって言われると、なんでだろう?

 ちょっと、心に感じるものがある。


「これ、似合っちゃってる?」

「……? はい! 似合ってます! 怖いどころか、なんかかっこよく見えちゃって、お化け屋敷に向いてないと思います!」

「…………」

「あれ? お姉さん?」


 あんまりにもあけすけな女の子の言動に口元の筋肉が緩んでくる。そして口元の筋肉と同時に、考え込んでいた心も。


「ふふ。あっはははは! 全くオブラートに包まないね、君! 向いてないんだったらもっと遠慮して言いなよ!」

「あ! ごめんなさい! つい!」


 ごめんなさいなんて、いいんだよ。全部、素直に言ってくれてるんだもんね。

 

 あ……………………?


 胸に、なんだかよくわからない感情がたまりつつあるのが分かる。

 ……なんだ、これ?


「……いや、君といるのは飽きないね? ずっと驚かされてばっかりだ。驚愕の連続といってもいいね」

「そ、そんなにでしたか?」

「うん、そんなにだね」

「うぅ、ごめんなさい……」


 しょんぼりしてしまった女の子。

 少しうなだれたその頭に手をおいて撫でてみた。


「え……? ど、どうしたんですか? 急に……」


 少し照れているようだ。

 反応がちょっと護に似てるから、よくわかる。


「君、ここが第一志望なの?」

「え、あ、はい! そうですけど……?」

「じゃあ、絶対受かって、また会いに来てよ。面白い後輩ができるのは大歓迎なんだ、楽しみに待ってる」


 私に頭を撫でられたまま、それまでうなだれたまま私の目を伺っていた女の子は、私の方を見上げて目を見開く。ハッキリと、瞳がキラキラして見えた。


「……! はい! はい! わかりました! 絶対受かります! あたしもお姉さんに先輩っていうの楽しみにしてます!」

「ハイは一回でよろしい、なんて。……なんか興奮してない?」

「だってだって! おねえさんに楽しみにしてるって言われたら、誰だって感激しますよ! あたし、本当にうれしかったです!」


 さっきまでしおらしくしててわからなかったけど、なかなか元気な子らしい、なんとなく元気に振られたしっぽがみえてくるぐらい。

 本当に子犬みたいだ。


「そっか、そんなに嬉しく思ってくれると私もうれしくなってくるよ……おっと、いつの間にか到着したね」

「あ、もうですか……」

「何を残念そうにしてるかなぁ?」

「だって……」


 気づいたら室名札に生徒会室の文字。目的地だ。

 さっそくドアをノックした。

 詩葉先輩が出ないかな、と思ったけど、顔を見せたのは副会長さんだった。事情を説明して、女の子を保護してもらい、軽く挨拶だけしてその場を去ろうとする。

 けど、私の背中に声がかけられた。


「あ、あの! 最後にお姉さんの名前‼ 教えてくれませんか‼」


 私はその場で振り返って、少し考えてから返事をする。

 最後だなんて、ちょっと寂しいな。


「……来年、さ。ちゃんと入学できてたら教えてあげる。君の名前も、そのときに教えてよ。待ってるからさ」


 一瞬残念そう顔をしたようにも思えたけど、すぐに決意が感じられるまっすぐな瞳が向けられた。


「分かりました! 待っててくださいね! 私絶対合格しますから!」

「うん、またね」

「はい、またねです!」


 その後もありがとうございましたなんて叫んでる声に、背中を向けて手を振りながら、待ち合わせ場所まで向かった。

 道中、胸には温かな()()()が燻ぶったままで。

 

 ……少し遅刻しちゃったな。


「あ、おーい! ここだよここ!」


 待ち合わせ場所の校門前にはまだ人が三々五々散らばって見える。

 私を待っていたその声で姿を見つけ、駆け寄った。

 護だ。手を振っているのですぐに場所も分かった。


「ごめん、ちょっと遅れちゃった」

「全然いいけど、珍しいね? なにかあったの?」

「うん、ちょっといいことがね」

「へえ? いいこと、ね?」


 ……きょとんとした顔を見ていると、少し、聞きたいことができた。


「ねえ、私のこれ、どう思う?」


 顔の火傷を指して、軽い調子で訊いてみた。


「……どうしたの? 今更」

「いいから、素直に言っちゃってよ」

「めちゃくちゃ難しい質問……するね。でも、素直にいうなら、そうだね……」


 最初こそ怪訝な表情を浮かべたけど、すぐに考え始めた。


「……僕のせいで負った傷だし、申し訳なさとか、いろいろ考えることはあるけど。素直に言うなら、姉さんが僕を大事に思ってくれた証みたいなものだし。なんていうか、大切……嬉しい……も違わないけど……んんんん……」


 『護のせいではない』と否定したい気持ちもあったけど、それを護が認めないことも分かっていたから、あえて言わなかった。

 そして真剣に考えこんだ護からは、結局答えは出なかった。

 聞いてるうちに思ったけど、そりゃ簡単には答え出ないよね。

 

 そう思った私は新しく質問をしなおす。

 なんでそんなに矢継ぎ早に質問をしてるのか、自分でもよくわかってない。

 言葉で説明できない勢いにのせられている、自覚してなお抗えない。


「じゃあ、ちょっと質問変えるね? これ、カッコいい?」

「かっこいい……?」


 少しあっけにとられて、私の顔をじっと見た護は断言する。


「そうだね……。うん、カッコいい。そうだ、カッコいいか……! すごくしっくりくるよ。ずっと良い表現がわからなくて言葉にできなかったけど、あの時からずっと、『カッコいいよ』って言えばよかったんだね、僕は」

「…………っ」


 ──あの子も、護も、恥ずかしげもなく綺麗だとか、かっこいいとか……。

 

 そんな言葉をもらって、女の子と話してた時から感じて違和感が、胸いっぱいに込み上げてきて、なんでか、わかんない、のに……。


「カッコいい、か……ふふ、いつもは結構だらしないのにね……ん? え⁉ 姉さん⁉」


 ──ぽたぽたと、涙になってあふれてでてしまう。


「え、どうして……⁉ 僕がだらしないとか言ったせい……」


 慌てて駆け寄る護に、上手く声を返せなくて、首を振って大丈夫って言おうとするけど、涙が横に飛んでくだけで全然治まらなくて。


 ああ、本当に気にしてなかったんだけどな。

 でも、なんか、そうやって認められちゃったら。

 すごく真っすぐな表情で疑う余地もないぐらい素直な気持ちをぶつけられたら。

 護と二人になってから、ずっと張りつめてた糸みたいなものが、少しだけ、ほんの少しだけ、緩んじゃ、って……っ。


「ふっ……うぅ……」

「ご、ごめんっ⁉︎ そんな僕、泣かせるつもりは……!」


 護の胸に顔を押し付けて、声を殺して、それでも涙は止まらない。

 嗚咽して、護の服をシワが残るほど強く握って。


 そうだよね、私の傷、カッコいいよね。

 似合ってるでしょって、本当に自信をもって胸を張れるものなんだよね……!

 

 せっかくの文化祭、ぐしゃぐしゃに泣いてしまって、治まっても目はすっかり赤くなってて、結局休憩が終わってもクラスの方には戻れなくって。護とも遊べなかったし、結果だけ見れば、二日目は散々だったともいえる形だった。


 


 ──…………。

 

 今思い出しても、ひどく顔の赤くなる話だ。

 護に泣いてるところなんて見られたのがどうしても耐えられなくて、忘れようとしちゃってた、というか実際今の今まで忘れてたんだけど。


 でも、忘れてて無意識だったけど、私が胸を張って傷を人前で誇ることができるようになったのは、この日があったからだと思うから。

 まあ……護には恥ずかしい所見せちゃうし、折角の文化祭もクラスのみんなに迷惑かけることになっちゃったけど、でもやっぱり後悔することはない。


 それにしても、私の方から約束持ちかけてたのになあ……昨日ショック受けてたし、私と再会できるのを期待してくれてたのかもなあ。

 もしそうだったなら、約束も自分のことも忘れられてた上に『火傷が気になる?』なんて畳みかけられて……相当キツいよね……。


 罪悪感で胸がチクチクする。そうやって一人約束を待ち続ける。


 二人で話せる場所として、詩葉先輩は生徒会室を提供してくれた。本人は生徒会顧問の先生と話すことがあるので元々留守にするつもりだったらしい。


『あとは若いお二人に任せよう』なんて言いながら私の肩をポンと叩いて生徒会室のカギを渡してくれた。

 なので、私は約束の時間より早く生徒会にやってきて、東雲さんを待ちながら昨日と同じ席で思い出を反芻していた。

 何度も。何度も。

 

 ──静かな部屋でただ一人、もう二度と、あの日の約束を忘れないために。

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