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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
これからはじまる生徒会 

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いちゃいちゃランチ ── 再び ──

 ……さて、時間は十二時過ぎ、昼休み。


 昨日の時点で詩葉先輩には生徒会長の件を了承してある。なので今は先輩から続報を待つばかり……ではなく、やらなければいけないことがある。


 そう、役員を集めることである。


 うちの学校は生徒会長による指名制で役員を決める。つまり、私が募集するなりスカウトするなりしなければ勝手に役員が決まることはない。

 なので、今するべき行動は信頼できる人間のスカウトだ。


 今回は役員の募集はしないことにした。というのも、詩葉先輩が募集で適当に頭数揃えて結局東雲さんしか残らなかった前例があったから。


 詩葉先輩の場合、生徒会へのやる気はぜんぜん無いくせに、ただあの人に近づきたくて役員になったような輩ばかり集まったのが原因なんだけど、悲しいかな私でもそれがあり得そうなのだ。……自意識過剰とは言わないで欲しい。


 なので、信頼に足る人材を一人一人スカウトすることに決めた。

 ということで、まず信頼できる人間の候補なんだけど……。


「あんまりいないんだよねぇ、これが……」


 前に詩葉先輩は私が周りから信頼されて認めてくれているとありがたくも評価してもらったけど、それが友達の多さには直結しないのが悲しいところでして。


 ──私、友達って全然いないんですよね……。


 周りの学生に興味がないわけでもないから、名前や人となりを記憶して、人間関係などにも結構気を配ってるんだけど、友人程深い関係になれる人は……。


 いや、二人くらいならいるにはいるんだよ? けどその内一人は詩葉先輩だし。

 残る一人は、幸い一声かけるだけで乗ってくると思うけど、それでもまだ私と護合わせて三人じゃ心許ない。


 そうなると、最後の候補になる人物は明白だ。


「東雲さん……か」


 生徒会経験者で詩葉先輩からの信頼も篤い。そしてなにより私との面識がある。……けど、今回はそれが裏目に出ている。昨日なんて話をする前に逃げられてしまった。


 原因は私が忘れていたあの日の出来事と、忘れてしまっていたこと自体にある。

 失われた記憶は取り戻すことができた。しかし、それでも東雲さんが生徒会に入ってくれるかは分からない。

 そして、私は勧誘など関係なく謝らないといけないことがある。だから、一度東雲さんと話をすることにした。


 話し合いの約束は詩葉先輩を通じて取り付けた。私がそう動くのが、まるで分かっていたような態度であっさりと引き受けてくれた。


 準備は万端、いざ参る。


 ──と行きたい所なんだけど、約束は放課後だ。さっきも言った通り今は昼休み。

 東雲さんとの約束にはまだ早いので、私は先に一声かけることにした。


 教室を出て、弁当をもって移動する。

 向かうは校舎の裏側の竹が生い茂った裏山にひっそりとある林の中へと続く石の階段、その先。

 一昨日も訪れた、私たちの秘密スポットだ。


「…………」


 風が一陣吹く、サァァッと竹の葉のこすれるような音が聞こえる。

 ここの竹林は空気の流れがすがすがしい、自然を感じる青々とした匂いも、風で林がざわめく音も、すべてがさわやかだ。


 なので、ここの雰囲気が気に入ってるからわざわざここで食べてるだけで、別に一人で教室はキツイとかじゃない。ホント。決して。


 私や私の関係者以外にここを知っている人もいないみたいで、冬は寒くて向かないけど、夏は涼しくて結構有用な穴場なのだ。

 そんな半ばプライベートルーム(屋外だけど)と化しているこの空間で、我慢できなくなった弁当をつまみつつ人を待っていた。


「いや、一緒に食べようって人を誘ったくせして、私が来る前に食べだすのはどうなの?」


 この開けた空間でもよく通る声が聞こえる。

 ……って、不満そうな色が滲むその声は、我が友美咲ではないか。


ごふぇん(ごめん)からあふぇは(からあげは)がまん(がまん)できなふぁっふぁ(できなかった)

「頬っぺた膨らませて()()()()()()言われてもわかんないって」


 やっぱり護の料理は弁当でも美味しい。ついつい口いっぱい詰め込んでしまった。あ、やばいちょっと苦しい。


「あ~あ~、何やってんの。ほらお茶」

「あいあふぉ」


 机に置いてある私の水筒を取って渡してくれる。

 この前は少し怒らせてしまったけど、美咲もすっかり許してくれていた。

 やっぱりコンビニスイーツの力って偉大だよね?


「……ぷっふぁ。あはは、ついつい手が止まんなくて」

「護君の料理ホントに美味しいもんね、わかるよ。まあ、もう少し我慢してほしかったけど。あ、今日は唐揚げなんだ? おいしそ~……」


 美咲は自分の弁当を広げながらそう言って、私の対面に座る。

 護の料理を譲るなんて普段だったら考えられないんだけど……。


「あげないよ……って言いたいところだけど、今日は特別。食べてもいいよ?」

「え……ホントに? あの柊和が自分から分けようっていうの?」


 なぜかいつもなら食いつく癖に今日に限って躊躇する美咲。感が鋭いやつだ。


「……え~、もらえなくても勝手に拝借してやろうと思ってたのに、逆に凄い怖い……」


 美咲と昼食を食べるときは頻繁におかずを泥棒される。この前のハンバーグみたいに。

 ……思えばこいつ、昨日は私の弁当なのに半分以上食べたんだよね? 


 とんでもない暴君じゃないか。なんで私が謝ったんだろう。後悔してきた。


「ふふふ……。いいの? 揚げて時間が経ってもなお、めちゃくちゃサクサクで美味しいんだよ? 超ジューシーなんだよ? 我慢できるの?」


 箸で唐揚げを一つ摘まみ上げ、美咲が食べやすい位置まで運んであげる。


「ぐああっ、顔が勝手に動いてッ……。止まって……! あの顔は絶対なんか企んで──あ、ダメ、我慢できない……護君のから揚げとか絶対美味しいやつじゃん!」


 けど護の唐揚げの効力は絶大。

 警戒してたけどあっさり堕ちてしまった。


「ぐぅっ、いただきます!」


 美咲があさましくも欲望に負け飛びついてきたので、食べられる前に引っ込めて、私の口に納めてしまう。


「あげまふぇ~ん」


 ハンバーグの恨みだ! ば~か!


「──油断したね」


 そう言って美咲は、私の弁当箱に残っていた最後の一個を箸でつまんで、パクっと一口で食べてしまった。


「なっ……あああああああああ‼ 最後の楽しみにとっておいた一番おっきかったやつ‼」

「うわ! 美味しい‼ 冷めてるのにめっちゃじゅーしー‼」


 護のからあげでご飯をかきこむ手が止まらない様子の美咲。


「か~え~し~て~‼」

「素直に渡せばいいのに意地悪するからだもんね~。自業自得で~す」


 頬を膨らませながら憎たらしくそう告げる美咲。

 ハンバーグに続いて最後のから揚げまでぇ……許せない!

 が、食べられてしまったものは仕方がない……! 正直全然切り替えられないけど、歯を食いしばって利用してみせる!


「か、からあげ……いつもなら絶対に許せない……けど‼ まんまと食べてしまったね! 美咲ぃ‼」

「なっ⁉ なにか仕掛けがあったとでも⁉」

「からあげを食べたからには、私の言うことを一つ聞いてもらう!」

「いくら美味しいとはいえ、から揚げ一個でなんでも⁉ なんて厚かましい!」

「やかましい‼ からあげが返せないなら体で返してもらうからね!」

「体で⁉ いやらしいことする気なの⁉ 柊和は護君しか興味ないと思ってたのに!」


 はいストップ。


「ちょちょちょ、ちょっとまってよ」

「えーっ、せっかく面白くなってきたのに、なにぃ?」


 不満そうな反応を返されたけど流石に聞き逃せない一言があったぞ。

 っていうか、なんだそのにやけた面は。

 美咲め……この前の意趣返しのつもりか?


「いや、なによ? 護にしか興味ないって。いやらしい要求云々の流れで護に興味ってなったら変な感じになるでしょうが」

「変も何もそういう意味で言ったんだけど?」

「はあ⁉ 弟に変なこと考えるわけないでしょうが! さも当たり前のように私を肉親に欲情しちゃう人にしないでよ!」


 そりゃ大好きは大好きだけどえっちな目ではみたことないし……!


「え~? そうだったんだ……私ってばついつい、柊和たちはもう……」

「……『もう』なんだっての! 『もう』まで言ったらあとに続く言葉はもう……でしょうが!」


 大事なところを恥ずかしくってごにょごにょしてしまう私。

 だってだって! そんなこと口にできないし‼

 美咲が両手を頭の上に上げて降参のポーズをとりだす。


「あ~ごめんごめん、柊和、護君で興奮しすぎてるから、落ち着いてって」

「し~て~な~い~か~ら~‼」


 降参しながらなお煽る美咲。


「ふふふふっ。本当にもうやめるから、久しぶりに柊和をからかえて楽しかった! 満足!」

「そうですか……今日のことはちゃんとお礼するから覚えてなよ……」

「あちゃあ、やりすぎた?」

「大体、私と護がそういう関係だったら美咲も困るくせに……」

「…………」


 露骨に目を逸らす美咲。そうだ、お礼は護の目の前でやってやろう。 


「そりゃ美咲はこの前の仕返しのつもりだろうけど、私は昨日十二分にからかわれたばっかりなんだから……」

「へえ、柊和が? なんか愉快なことになってるんだ?」


 都合の悪い話が終わったと見ると、美咲の様子は元に戻る。


「随分とね。今までの高校生活で今が一番忙しいと思う」

「それで私をから揚げで釣ってこき使ってやろうと思ったって?」


 美咲相手もいい加減私の考えてることがわかるようになってきたじゃない。

 ただ、最後のからあげをエサにするつもりはなかったんだけど。


「そういうこと」

「いいよ~? 外ならぬ柊和の頼みなら。今はもうやることなくって、ずっと暇だしね~」


 からあげも美味しかったし、なんて言って美咲は頼みの内容も聞かないで了承してくる。信頼してくれてはいるんだろうけど、護ほど私を盲信してるわけではない。


 ここ最近は日がな一日、口を開けばヒマヒマ言いつづける妖怪になっていた美咲は現在絶賛帰宅部生活を謳歌している。

 二年生のこの時期に新しく部活に入るのも微妙だし、かといって一緒に遊ぶ友達は部活に委員会に忙しく、極めつけには高校生の分際で『仕事がある』とかわけのわからない事を言う奴もいるらしくて、一緒に遊ぶ相手もなかなかいないらしい。


「で、私は何のお願いをされるの? 冗談だったけどまさかホントにいやらしいことじゃないよね? 私、柊和にそういう目で見られてないよね?」

「見てないっての。けど多分予想外のお願いだと思う」

「へえ、面白いじゃん! なになに?」

「えっとね………………」


 興味津々の美咲に対して、私が生徒会長になる話をして、美咲にもその役員になってほしい旨を伝える。

 普通は簡単に決められる問題じゃないし、お願いの内容を理解してめんどくさそうだからとすぐに手のひらを返すなんて可能性もあるけど、美咲相手にはあまり心配してない可能性だった。


「柊和に護君もいんの⁉ いいじゃん、面白そう! 私もやるやる!」


 案の定あっさりと私の提案は受け入れられた。

 想定と寸分違わぬ……いや、それよりも明るい笑顔を見せてくれる。


「いやぁ、これでやっと放課後に勉強かペットと散歩しかやることのない私の高校生活が活気づくね!」


 色恋の話を抜きにしても美咲は護を気に入っている、とても。私達の家に遊びに来るたびに、護を弟にすべく自分の家に持ち帰ろうと試みている。

 この前、美咲宅の最新の家電をエサにされて、護の心がグラグラ揺れているのを見たときには心から焦った。


「一応、遊ぶんじゃなくて仕事をするんだけどね」

「仕事はちゃんとするけどさあ、柊和が一緒なら安心できるじゃん? それに絶対楽しいと思うんだよね~!」


 まあ、楽しくなりそうなのは私も同感だけど。

 やる気を見せてはしゃいでいる美咲につられて、私もなんだか楽しみになってくる。


「でも、そういえば柊和って仕事とか家事とかだいじょぶなの?」

「うん、問題なし。全部なんとかする」

「流石に頼もしいね。ま、少しでも無理があったらこんな話私にくるはずないかぁ」

「そういうこと。それに、スカウトが成功すれば役員も私含めて四人になるし、フォローはきくと思うから」


 最後のからあげをとられ、寂しく残った白米を一粒残さず口に詰め込んでしまう。


「スカウト? 誰か目星でも?」

「むぐ。んっく……そうそう、一年生で現役の生徒会役員」

「へえ、即戦力じゃん、もう決まってるの?」

「決まった……らいいなあ」


 付け足した弱音は蚊の鳴くような声量だったのに、美咲はなかなか耳聡い。


「つまり全然決まってないんだ……?」

「呆れたような目で見るな! ちゃんと放課後には決着つけるから!」

「決着ねえ。そっかそっか、ならまあ頼みましたよ! 生徒会長!」

「まあ大船に乗ったつもりで待ってなさいな」


 話が終わって、美咲も自分の弁当を片付けていたことに気づく。

 二人弁当箱をまとめて立ち上がる。

 教室に戻ろう。


「美咲が役員になったことは私から報告しておくから、これからよろしくね」

「わかった~! こちらこそよろしくね! あ、今度久しぶりに帰りにどっか遊びに行こーよ! 暇な日ある?」


 予定もとくにないし、久しぶりにいいかな。


「いいけど、晩御飯には間に合うように帰るからね」

「そっか。いいなぁ、私も久しぶりに護君の出来立てご飯食べたい~」

「なら家に来る? 護に確認してみるけど?」

「いいの⁉ お願い!」


 よし、今日のお返しはその時にしてやろう。

 予想よりも遥かにスムーズに三人目の生徒会役員が決まった。隣ではしゃいでいる美咲につられたのか、教室に向かう足は少し弾んでいるような気がした。

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