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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
これからはじまる生徒会 

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名誉の傷は誇らしく 前編

 ──飛鳥さんとの話の後。

 色々あって疲れた私は早々に床について、その日は珍しくある夢を見た。




 ──…………。


 去年の水仙高校文化祭二日目。


 うちの文化祭は二日間かけて開催され、初日は在学生のみでの開催、二日目は在学生の家族や友人など、一般の人たちも招いて行われるという、今時かなり力の入った催しだ。


 その日は二日目、制服や各々の出し物で必要な仮装しか見られなかった昨日と違い、老若男女、バリエーションに富んだ来客が見られた。

 そんな中、私は自分のクラスの出し物であるカフェ(といってもインスタントの飲み物や簡単な軽食を出す程度だけど)の休憩時間となったので、事前にしていた護と一緒に文化祭を回る約束のために、待ち合わせ場所に向かっていた。


 普段なら考えられない量の人が狭い廊下で行き交っている。

 友達と楽しそうに笑いあう人。なにやら慌てた様子で駆け回っている幽霊みたいな死装束をした人。大きな声で集客をしている人。首を傾げながらパンフレットに集中している人。

 実に様々な人々がいた。

 そしてその誰しもに文化祭を楽しもうと挑む気概を感じられた。

 

 しかし、視力が両目ともに二・〇の私は沢山の人の中でもそれを捉えた。


「ねえ君、どうかしました?」


 おそらく護とそう年齢の変わらないぐらいの可愛らしい女の子が、廊下の端で泣きそうな顔をしてオロオロしていたのだ。

 急に声をかけられたことに驚いたのか、女の子は若干怯えていた。


 ──なんか、雨に打たれて寒さに震える子犬みたいかも……。

 そう思えば、なんだかかしこまった態度をとるのもバカらしく思えてきた。まあいいか、多少砕けてても、どうせ私のこと知らないんだし。


「安心して? クラスの出し物でちょっと変な格好してるけど、私ここの学生だから。たぶん力になれると思うよ?」


 優しい声を意識して声をかけると、女の子はこちらに伺う様な視線をむけて、少し緊張を緩めてくれた。


 ちなみに、変な恰好とはメイド服である。

 カフェと言ってもメイドカフェだからね、うちのクラス。

 企画決めでも最初はベタなんじゃないか? なんて意見もあったけど、普段はお堅い委員長の――


『ベタな文化祭こそが僕の憧れた文化祭なんだ!』


 という秘められた熱い想いに皆乗せられて、気づいたらメイドカフェをすることが既定路線となっていた。女子の方はそんなに後悔もしてない、結構楽しいし。護に見せるのが楽しみなくらいだ。


「え、えっと……、あたし、友達と一緒に遊びに来たんですけど、人がたくさんいたから、あたしだけ途中ではぐれちゃって……」


 なるほど、迷子というわけだ。しかも複数人で行動していたところをはぐれたらしい。


「そっか、大変だったね。……はぐれたのがついさっきなら、一緒にお友達探そうか?」


 はぐれたばかりなら、そんなに探している友達もすぐ近くにいるはずだ。目の前の少女はまだ成長期も途中の女の子だし、幸い小柄な方だ。肩車でもすればすぐ見つかるだろう。

 しかし、女の子は悲しそうに俯いて首を振る。


「さっきじゃ……ないです。皆とはぐれちゃって、あたし、まだ携帯買ってもらってないし、皆とはぐれたっめ気づいて慌てて探そうとして、考えなしに動き回っちゃって……どこではぐれたかも、もう、覚えて、なくて……っ」

「あ~あ~、そんな泣かないで? せっかくの文化祭なんだからもっと楽しまなきゃ!」

「ごめんなさい……でも……あたし……っ」

「ん~……どうしたもんかな……」


 だんだん泣きそうな声になる女の子を慰めながら、頭の中で考え込んでいた。

 はぐれてから時間がたっているなら、友達を探す範囲が大幅に広がってしまった。私も待ち合わせの時間があるから心当たりをしらみつぶしにという訳にもいかないし、手あたり次第に友達を探すというのは考え直した方が良いだろう。


 そこで、私の頭に一つのアイデアが浮かんできた。


「わかった! じゃあ今から運営の本部まで連れて行ってあげるから、校内放送で友達呼んじゃおっか! それで大丈夫?」


 生徒会と実行委員は生徒会室に詰めてるはずだし、ここからなら職員室よりも近い。まあ校内放送で迷子として案内されるのは思春期の子には恥ずかしいかもしれないけど……。


「はい……! ありがとうございます……!」


 杞憂だったらしい。

 女の子は安心を声に滲ませて、勢いよく頭を下げていた。

 本人のOKももらえたということで、早速生徒会室まで移動する。


「君、中学生? 家族の出し物でも見に来たの?」


 道中、無言というのも寂しいので当たり障りないことを尋ねてみた。


「はい……三年生です。けど、家族がいるわけじゃなくって……あの、私、ここに進学しようと思ってるので……友達の伝手でお願いして、見学しにきたんです」


 文化祭の参加は在学生からの招待が必要だ。あらかじめ招待する一般客は申し込まないといけない。

 来年進学してくるならいつも通りもっと丁寧に……いや、どの道手遅れか。


「……へえ、そうなんだね! ということは、来年は私の後輩になるかもなんだ……どう? なかなか派手で楽しそうな文化祭でしょ?」

「は、はい! あたしの中学の文化祭は出し物とかあんまりなくて、文科系の部活の発表とかばっかりだったので……」

「うちはいろいろやってるよ? 定番どころはもちろん、ちょっとしたジェットコースターとか占いとかヘンなのまであったかな」


 昨日美咲と一緒にいろいろ回ったけど、なかなか退屈しなかった。


「占い! 後で行ってみます!」


 女の子だなぁ。すごい食いつきがいいや。……私も女の子なのに、あんまり興味はないや。恋愛運とか占ってもらっても気にならないし。気になるとすれば健康運とか?


「お姉さんは……なんの出し物してるんですか?」

「ん? 私? ……なんだと思う?」


 ぶっちゃけると『見れば分かるでしょ?』……なんて思ってしまった。何度も言うようだけど、メイド服なんてベタな格好してるんだし。

 けど、女の子の視線は私の服装よりも顔に注目していた。


 ──どうしたんだろう?

 そう思ってすぐに、女の子は口を開いた。


「えーっと……お化け屋敷……とかですか?」

「………………?」


 えーっと?

 お化け屋敷?

 ……なんで?


 少しポカンとしてしまう。

 けど、その答えに至るまでそれほど時間は必要なかった。


 ………………。

 …………ああ! 火傷か!


「ふふ、あっははは! うん、そうそう! 本物みたいでしょ! これ!」


 「これ」といって頬の火傷跡を指さしながら笑ってしまう。

 斜め上の回答に、理解できた瞬間なんだか可笑しく感じてしまった。

 いや、確かにウチは男女平等を掲げて男子にまでメイド服を着せてるから半ば(なか)お化け屋敷みたいになっちゃってるし、うん! 確かに正解だ!


「すごいですね……! こんなに自然なメイク初めて見ました……!」


 女の子はすっかり信じ込んで火傷跡に魅入っていた。

 それでいい、せっかくの文化祭だ。

 訂正したら気にしちゃって楽しむどころじゃなくなるかもしれない。

 こんなことで楽しめなくなったら、勿体ない。可哀想じゃないか。




 ──…………。


 「…………っ!」


 夢の途中で目が覚めた。

 私と女の子、東雲さんが初めてあった日の夢。元から嘘や間違いかもなんか疑ってなかったけど。寝て忘れた記憶を夢で思い出すというのも変な気分で。


 そして、記憶が少し戻ったことで昨日の東雲さんの態度にも少しは察しがついた。

 私の火傷に過剰に反応していたのは、あの時の自分の言葉を覚えていたからだ。知らずとはいえ、『お化け屋敷』なんて言ってしまったことを後悔しているのかもしれない。


 もしそうなら、昨日逃げるように飛び出していったのもそれが理由なんだろう。

 ……思い返せば、私の言葉も追い打ちみたいになってたような気がする……。


 それと、詩葉先輩の言う通り、私が忘れてたことにもショックは受けてたみたいだし……本当に申し訳ない。


 あのあとのあれは、私にはかなりの醜態だったから……。

 そのせいですっかり……。


 いろいろと考えていると、私の部屋のドアが静かに開かれた。


「……んん? あれ? 今日はもう起きてるんだね、姉さん。珍しい」


 いつものように私を起こしに来た護だった。

 どうやら私はちょうどいつもと同じくらいの時間に目が覚めたらしい。


「いや~ん! 護ってば、私の寝込みでも襲う気だったの?」


 窓まで移動した護はカーテンに手を掛けながら返事をする。


「いつもいつも遅くまで寝てるから……起こしに来てるんで、しょっ!」


 カーテンを勢い良く開く護。

 途端私に向かって朝日が降り注いだ。


「うにゃあああああああ‼」


 痛い痛い痛い!

 護が一気にカーテンを開いたせいで朝日が目に突き刺さった!

 寝起きの目に特大のダメージが!


「これ完全にDVだよ! 家庭内暴力!」

「ふふん、馬鹿なこと言ってる元気があるなら早く降りてきなよ~?」


 私の抗弁も全く取り合わない、つれない護だった。

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