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影から伸びてきたような左腕が今、夜の角を曲がって右斜め上に沈んで消えた。私はそれを見つめていてさようならを言った。さようなら。さようなら。気がついたら影はどこかに消えていた。もしもこの先に伸びてきたものが私のものでないなら緩やかに失われていく。どこかに隠れてしまっている言葉。その向こうには遠い影。また会えたねって言っていた。それはとても煩わしいことだった。
未来を見てきたと言った。ともするとこの日から変わってしまったのかもしれなかった。だからといって後悔してるわけでもなかった。そのままに。そのままにしておいて。流れ込む気持ちがとぐろを巻いている。すれ違うときには挨拶を忘れないようにしよう。ところでどこまでいっても同じ気分。どこまでいっても同じ身体。見つからない。日々。いつもより。気にしていない。傍にいる。ついてくる。同じ形。昔のことだな。
また三角形になって組み直しが終わらなくなるのに。まだ誰もやってこない。少しずつ無くなってくる気力と体力ともう何もかも笑い損ねてしまった。とある日に出かけていくと落ち込んでしまった。穴の中に深く潜っていくと忘れられた悲しみがありました。そこにはなんとなくの嬉しさもありました。元気になれたらいいのに。元気になれたらとある日に曲がってしまった角を覚えている。どこかにいってしまった。どこかに忘れてしまったのならそれを取り戻していける。それを忘れたままでいられる。どこまでも。どこにいても。忘れてしまう。覚えていない。どこかにある。物語の続きに寄せて。悲しみをつぶやいた。嬉しさを投げ出した。
暇になった体をもて余して、天気のように。お天気雨のように過ごしていた。そうであるならばいつものように体を浮かそうと思って、そうでないならば私はここにはいられないと思って。溶けてしまう。一日、一日ごとに体はどこかにいってしまって振り返る暇などない。どこにもないなら仕方がないので小切手を使って一日一万円の暮らしをしてみたい。一日中寝て暮らしてどこにもない体、暇になった体をもて余す日々に終わりはない。
もしもいつも通りに戻れたら。その時はいつものように声をかけて目を瞑ったままでいよう。もしも一日のうちで何回も起こることが信じられないでいるなら。その時はいつものように鍵をかけてしまおう。忘れないでいるということは忘れないでいられるということは。それはいつものことではない。私たちは忘れないでいるということが。いつも通りのことではないということを知っている。気がついたら私はまた欲しいものだけ必要な言葉だけ身の回りにあるものだけ。かき集めってしまった。閉ざされてしまった。氷の中。にいる。氷の中。は冷たい日々。明るい暮らし。閉ざされた日々。
この場所に残ってしまうことは。良くないことだと分かってはいるが。できないことを積み重ねて。忘れてしまったら。できないことがたくさんある。忘れないでいてくれるとありがたい。でも消えてしまったら。どこかにいってしまったら。魔法のように。溶けてしまったら。思い出せるでしょうか。思い出せる形のまま残しておけるでしょうか。それは風前の灯火のように。消えてしまうということが。当たり前のことであるかのように。失われてしまうということが。いつも通りのことであるかのように。振る舞って。いられたら。溶けてしまう心。冷たい氷の中。忘れてしまった形。
知らない。何も。知らないまま。生きていられたら。どこかに。形を残して置けたら。変わらない。間違いのない。嬉しさのない。面倒のない。どこにもない。形を壊して。氷を壊して。どこかに流れ出る小川のように。染み込む透明な雨水のように。流れ込む。体内に。地下水に。空気中に。解き放ってしまえば。ガラスの向こうを想像すると。足元が震えてしまう。足元がおぼつかなくなってしまう。いつからこうなってしまったのだろう。溶け出して。凍りついて。戻れなくなって。思い出せなくなって。ここまでたどり着いてしまった。小川の果て。