チャーハン回②
ゴルゴンゾーラを作ってしまった。
チャーハン作りたかったのに、、、
アパートのベランダでは野良猫の鳴き声がする。
いつも来るブチだろうか。
うちは2階だが、ベランダのすぐ側にブロック塀が隣接している。
自分のアパートに対して、一段上と言うべき住宅街から飛び乗ってくる形で、その小さな来客は度々顔を出した。
ブチというのはブチ模様だからではない。初めて顔を見たとき、ブチブチに怒っていたからだ。
眉間をこれでもかと圧縮し、そこだけ漆黒のような陰の落ち方をしていて笑ったものである。
「ブチぃーっ ゴンゴンゾーラ食うかー?」
せっかくだし聞いてみる。
「イラねェーーッッッッッ!」
喋る猫だ。初めて見た。
心は異常事態に対して平穏である。
それもそのはずだ、驚くような感情の余力はない。
先ほどチャーハンが作れなかったことに苛立って、部屋中の破壊の限りを尽くしたばっかりなのだ。
鏡は割った。フライパンは壁に突き刺さした。
幼馴染のあの子が写った卒業文集とかも、破り捨ててどこにやったかもうわからん。ジグソーパズルより細かくできたことは確かだ。
「じゃあー チャーハンだったら食う?」
もう一度聞いてみた。
「食う食う食う食う食う食う食う食う!!!」
おっほ。こいつめ。
これは今度こそは、ちゃんとチャーハンを作らないとなぁ。
心の中で意気込んだ2秒後。
やっと、寒気がし始めた。
怒りの頂点にいた自分には、状況を理解するのに時間がかかったようである。
外にいるのは猫ではない。
喋る。何らかの得体の知れない化け物だ。
音を立てないように、スッと散らかった部屋の中で足を運ぶ。
レジ袋が足に当たった。
ガサッ!
こんなに大きな音がするものだったか?
「今更逃げようったってオセ〜んだよぉ!!!」
ベランダの窓に映る、"猫のような影"が巨大になっていく。
逃げようとは思っていない。
右手が壁に届く距離だ。
窓から視線を逸らさず、俺はゆっくりと刺さったフライパンを引き抜いて。
構える。