55.逃がしませんわーーーーーー!
学院内にわたくしに対する不穏な噂が流れている、と最初に気づいたのはミラベル様でした。
自分で言うのもなんですが、わたくしは学院では人気の高い方です。
生徒会副会長をしておりますし、成績も上位、容姿もそれなりだと自負しております。
筆頭公爵家の娘というだけで持ち上げてくださる方もいますし、わたくしも家名に恥じないような振る舞いを心がけております。
ですが、ヨゼフィーネ様のように逆の派閥の方々からは快く思われていないだろうことは存じております。
家名を抜きにしても、わたくしが生意気だとか、女だてらに勇者になろうとしているとか、髪を短くしたからとかで、個人的に気に入らないという方もいるのでしょう。
噂は、そういう方々の間で密やかに広まっていたそうです。
あからさまではないので、クリストフ様やほかの生徒会のメンバーもわからなかったとか。まあ、こういった噂などは女生徒の方が得意というのもございますわね。
ミラベル様は生徒会に相談し、噂の元を探ることにされたそうです。
どうやら、噂を流している側はミラベル様をわたくしが虐めていることにしたかったらしく、彼女に何度か接触していたようなのです。
ミラベル様は彼女たちの誘いに乗ったふりをして、情報をいろいろ聞き出し、噂を流しているのはヨゼフィーネ様であること、そして卒業パーティーでわたくしを断罪しようとしていることを知ったのです。
何度か申しましたが、卒業パーティーで騒動を起こされては、主催である生徒会の面目は潰れてしまいます。
ヨゼフィーネ様も、どうして卒業パーティーを選んだのか……。
ミラベル様からお話を聞いたとき、わたくしはとても不思議だったのです。
ヨゼフィーネ様はわたくしをライバル視していますが、第二王子であるクリストフ様とはむしろ良好な関係を保ちたいはずです。
ヘンチュケ公爵はヨゼフィーネ様を王子妃にと願っている……なんて噂もあるぐらいです。
わたくしを断罪したいだけなら、他にもいろいろ手段はあったはず。
ミラベル様のお話では、ヨゼフィーネ様は噂を真実だと信じ込んでいらしたそうです。ある意味真っ直ぐな気性の方なので、思い込んだら視野が狭くなってしまうのですよね……。
それは先ほどの彼女の言動からもわかります。
ヨゼフィーネ様にあれこれ吹き込んだ者がいるのです。もしかしたら卒業パーティーでわたくしを断罪するよう誘導したかも知れません。
パーティーの責任者はわたくしですから、わたくしを断罪してもクリストフ様には影響はないとでも唆したのでしょう。
それは、武者修行者や狩人たちの間でのわたくしの噂を知っている者であり、おそらくは噂を流した張本人であり、わたくしの幼い頃の話を知っている者、わたくしのお転婆ぶりを快く思っていない者――。
わたくしの脳裏にひとりの人物が浮かびます。
とはいえ、まだまだ証拠は足りません。
武者修行者の方の調査と合わせて、もっと詰めていかなければ、あの方を黙らせることはできないでしょう。
それまでは今回のように、おかしな動きがある都度、対処していくしかありません。
今回の場合、事前にヨゼフィーネ様の計画を潰すこともできましたが、それでは噂は残りますし、また別の計画を実行されてしまう可能性もあります。
ですから、ヨゼフィーネ様の計画を逆手にとり、断罪劇をパーティーの余興にしてしまうことになったのです。
ミラベル様を虐めたわけではありませんが、わたくしが過酷な鍛錬を課してしまったのは事実です。そこを下手に否定してしまうと、他も全部嘘をついているように思われかねません。
ですから鍛錬のことは認めるけれども、結果的に高い能力を手に入れたと、その成果を誇るという方向性だったのですが……ミラベル様のアドリブのおかげで、武者修行の方の噂まで払拭できてしまったようです。
「オルテンブルク様、巨大熊を倒されたというのは本当ですか!?」
「いえ、わたくしはただ足止めをしただけで、実際に倒されたのはクリストフ様や騎士様方ですのよ」
「クリストフ様が!」
「でも、足止めされるだけでも凄いです!」
ファッションやお芝居に興味のある女生徒たちから解放されたと思ったら、今度は騎士志望や魔術士志望の方々に捕まってしまいました。
「私もいつか武者修行に行きたいと思っているんです。今度お話を聞かせてください」
「あ、ずるい! 私も!」
「先ほどの魔術、とても素敵でした!」
「光の魔術の応用ですよね? あんな風に幻像を生み出すのはどうやって……」
「そうだ! 光の魔術にあのような呪文などなかったはず!」
騎士・魔術士の卵たちを掻き分け、レグノルト助手も参戦してきました。
「今度護符をお見せいたしますわ」
あの術は武者修行で使われている救難信号弾やミラベル様が研究されていた魔道ランプの改良から思いついたもので、前世の知識は使っておりませんので、相応の魔術知識があれば読み解けるはずです。
「いや、今! 今教えなさい!」
「アッカーマン様、今度僕と手合わせを」
「わたしにも護符を見せていただけますか? あ、今じゃなくて大丈夫ですから!」
……だんだん収拾が付かなくなってきましたわね。
仕方がないので、一度、ミラベル様と控え室にでも避難しようかと思ったとき、
「アレクサンドラ」
聞こえてきた声に、人垣がさっと割れました。そこにいたのは、太陽のような笑顔の第二王子殿下。
「君たち、ちょっとアレクサンドラたちを借りてもいいかな。二人を呼んでいる方々がいらしてね」
方々――クリストフ様が敬語を使われる対象は、そう多くはありません。
相手を察したミラベル様が隣で息を呑みました。
わたくしはにこやかに微笑みつつも、内心で青くなっております。
すっかり肩の荷が下りた気分になっておりましたが、国王陛下夫妻とお会いしなければならないのを忘れていましたわーーーーーーーー!
……ん、でも、ふたり……?
「ク、クリストフ殿下……失礼いたしました」
「あ、アッカーマン嬢はそのまま」
わたくしたちの周囲にいた学生たちと一緒に、ミラベル様が下がろうとするのをクリストフ様が止めます。
「え……」
ミラベル様の顔がさっと緊張します。
「ま、まさか」
「ああ、先ほどの魔術がお耳に入ったみたいで、君もと」
クリストフ様が少し困ったような笑顔を浮かべます。
「好奇心の強い方々だから話を聞きたいらしい。非公式だし、礼儀などはもともとうるさくないので、そう構えることはない」
「~~~」
ミラベル様は言葉もなく、ただ首をブルブルと横に振っています。彼女の気持ちを代弁するなら「無理無理無理無理無理」というところでしょうか。
けれども。
「まあ、ミラベル様がご一緒なら心強いですわ!」
わたくしはがしっとミラベル様の手を握りました。ミラベル様が信じられないといったような表情でわたくしを振り返ります。
「ささ、お待たせしてもいけませんし、さっそく参りましょう」
小動物のようにぶるぷると震えているミラベル様。
でも、逃がしませんわーーーーーー!
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