52.――断罪劇ふたたび、ですわね。
今回難産で、後でちょっと修正したり追記するかも知れません。
修正しても話の流れ自体は変わりませんので、読み直さなくても大丈夫です。
両代表の挨拶が終了し、大ホールはしばらく歓談タイムです。
芸術コースの生徒による演奏は、卒業生入場時の華やかさから少しトーンを抑えて、明朗ながらも落ち着いた雰囲気の音楽を奏でています。
薔薇、ウサギ、ユニコーン……魔術コースの生徒が、風の魔術で先ほど撒かれた花びらをさまざまに形作り、会場を沸かせています。
実はこれ、花びらの掃除という面も持っています。この掃除が終わったら、中央のフロアではダンスが始まる予定です。
わたくしは卒業生の方々にご挨拶しながら、ゆるやかに会場を回ります。
今のところスケジュールは予定通り。特に不備や問題は起きてないようで安心いたしました。
何より、卒業生の方々が楽しそうに笑っていらっしゃるのが嬉しいですわね。
そのとき、会場がひときわ大きな歓声に包まれました。中央フロアに、花びらで作られた我が学院の大鷲の紋章が浮かんでいました。
やがてそれはほろほろと崩れ落ち、床に卒業生へのお祝いのメッセージを描きます。
一斉に沸き起こった拍手に見送られ、花びらの文字は会場の外へとするする移動していきました。
素晴らしいですわ!
わたくしは大鷲の紋章を作った生徒を探すため、魔力の流れを追いました。
――いた。
中央フロア近く、青いドレスを着た女生徒……魔術コースの上級クラスの一年生で、何度か授業でご一緒したことがあります。確かゼウィン伯爵のご令嬢、サリーチェ様だったはずです。
いまひとつ自信がないのは、豊かだった黒髪が肩口でばっさりと切られているためです。
「サリーチェ様」
「アレクサンドラ様!」
わたくしが声をかけると、サリーチェ様の表情がパッと輝きました。
「先ほどの風の魔術、お見事でしたわ! 滑らかな花びらの移動、空中で静止させるための風の制御……あれほどの繊細なコントールを風の精霊に叶えていただくには、かなりの練習を重ねられたのでしょう?」
「ありがとうございます! まだまだ及びませんが、いつかアレクサンドラ様のようになりたいと、研鑽を積んでおります」
サリーチェ様は生花の飾られた髪を手の甲でさらりと触れました。
「アレクサンドラ様の真似をして、髪も切りました!」
「そこまで真似る必要は……」
髪を切ることには反発する方も多いので――特にある程度の年齢の方々――サリーチェ様の負担とならないか心配になってしまいます。
「いいえ! ……実はわたし、ずっと髪を切ってみたかったのです。なぜ男の子はいいのに、女の子は長くしなければならないのか不満で……。わたしは絶対短い方が似合うと思うんです!」
どうですか、とばかりに、サリーチェ様はくるりと一回転されました。
「ええ、とてもよくお似合いですわ」
「ですよね! 手入れも簡単だし、思い切って短くして良かったです。勇気を出せたのは、アレクサンドラ様のおかげです」
「その勇気はサリーチェ様ご自身のもの。わたくしは何もしておりませんわ」
サリーチェ様は短い髪を本当に楽しんでいるようで、わたくしも嬉しくなってしまいます。
勇者になるための決意、だとか、ニューモードの牽引役、だとか、そんな建前を用意しなくても、ただ短い髪が好きだから短くする。そんな方が、これから増えていったらよいですわね。
もちろん長い髪が好きならそうすればいいのです。
そうしていつか、前世のように誰でも自由に髪型が選べるようになれば素敵です。
「まあ、パーティーにあんなみすぼらしい髪型で来るなんて」
わたくしがサリーチェ様とほのぼのとしていたら、背後から聞こえよがしの嫌味が投げつけられました。
振り返らなくともわかります。ヘンチュケ公爵令嬢のヨゼフィーネ様です。
わたくしは気にせず、サリーチェ様と話を続けます。
「サリーチェ様は髪に生花を編み込まれていますのね。可愛らしいですわ」
「アレクサンドラ様のドレス、背中の刺繍レースがとてもお美しくて……。短髪だからこそのドレスですよね。友人たちも目を奪われておりましたわ」
「まあ、そこに気づいていただけるなんて嬉しゅうございますわ」
この国では成人までは女性は髪を結い上げず、長く垂らしているのが普通です。ですから、ドレスの背中上部のデザインは隠れてしまうことが多いのです。
ですが、わたくしが身につけているドレスは、首の後ろから背中の中程にかけて立体的モチーフを刺繍したレースが覆っています。ステンドグラスのような幾何学模様や植物が立体的に編み込まれた大変手のかかったレースで、透け感はそれほどありませんので、肌の露出はさほど感じません。
短髪だからこそのデザイナーの改心のアイディアなのです。
わたくしがもっと大人だったら、背中をぱっくり開けたようなセクシーなドレスにしたかったなんて、冗談を言っておりましたけどね。
「今度、真似させていただいてもいいですか」
「もちろんですわ。デザイナーをご紹介いたしますわね」
「~~~アレクサンドラ様、少しよろしいでしょうか」
とうとう痺れを切らして、ヨゼフィーネ様が話しかけてきました。
振り返ったわたくしは、気づかれない程度に眉を顰めてしまいます。
ドレスアップした本日は赤茶色の髪をより気合いを入れてセットしたのでしょう、大ボリュームのカールがヨゼフィーネ様の顔の横で揺れています。
……それはいいとして、その緑のドレスはちょっと派手ではないでしょうか。色合いはよくお似合いだとは思いますが、もう少しフリルやリボンを抑えるべきでは。
横にいらっしゃる三人ほどのお友だちも、やはり盛りすぎのような気がします。
本日の主役は卒業生の方々です。特にルールはありませんが、皆様方より派手なドレスは控えるというのは暗黙の了解となっております。
もちろん全卒業生のドレスを把握することなど無理ですので、普段より飾りを抑える程度の話ではあるのですが。
わたくしのドレスも背中のレース刺繍は見事なものですが、全体的なラインはシンプルで、色も濃い青にしております。
サリーチェ様はAラインですが膨らみを抑えた淡いピンクのドレスです。
「ごきげんよう、アレクサンドラ様。楽しんでいらっしゃいますか?」
ヨゼフィーネ様の言い方は、まるで彼女がパーティーの主催者のよう。
無論、大鷲会として準備に携わられたので関係者ではありますが……。
「ごきげんよう、ヨゼフィーネ様。いいパーティーですわね」
「おかげさまで。主催の方が何もなさらないので大変でしたけど、クリストフ様や大鷲会のメンバーが優秀なので、このような盛大なパーティーを開催することができて、わたくしも鼻が高いですわ」
……えーと。
「パーティーの主催者はクリストフ様ですわよ?」
正確には主催は王立学院生徒会ですが、主催者として誰か一人を選ぶとなるとクリストフ様になります。ですから、開会のご挨拶はクリストフ様がしております。
わたくしはこのパーティーの責任者ではありますが、主催者ではありません。どうやらヨゼフィーネ差は勘違いなさっていたようですわね。
「そ、そんなこと存じておりますわ! 揚げ足をとって誤魔化そうとしても無駄ですわよ。アレクサンドラ様は武者修行にうつつを抜かし、卒業パーティーの準備を何もなさらなかったではありませんか」
「武者修行前にわたくしの仕事は終わらせておりましたし、修行を始めてからも進行には目を配っておりましたが」
学院に来る時間は確かに減って、生徒会の皆様のお手を煩わせることもあったでしょうけれど、何もしないとまで言われるのは心外です。
「そうですわ。花びらをただ掃除するのではなく、風の魔術でいろんな形を作るアイディアは、アレクサンドラ様が出されたものだと伺っております」
サリーチェ様がわたくしのフォローをしてくださいます。
「そのアイディアを実現するために手配をしたのが、わたくしたち大鷲会です!」
「そうですわね。大鷲会の皆様は優秀な方が多くいらして、わたくしの拙いアイディアを素晴らしい形で実現してくださって、感謝しておりますわ」
わたくしが素直に認めたので、ヨゼフィーネ様は少々鼻白んだ様子でしたが、すぐに立ち直りました。
「ええ、アレクサンドラ様が何もなさらないから、まったく大変でしたわ」
「ロベルト様からは問題なしと伺っておりましたが、ヨゼフィーネ様個人で何がお困りごとがあったということでしょうか?」
ならばロベルト様に相談すべきですし、そうしたらわたくしにも話が上がってきたと思うのですが。
けれど、ヨゼフィーネ様は得意満面で胸を張りました。
「いいえ、わたくしに困りごとなどあるわけありませんわ!」
「……では、何も大変なことなどなかったということですわよね?」
いったい、この方は何が言いたいのでしょう。
わたくしにケンカを売りたいことだけはわかりますが、内容の方はさっぱり要領を得ません。
いずれにしろ、ここは卒業パーティーの場。先輩方の門出の日に、無関係な騒ぎを起こすのは好ましくありません。
「ヨゼフィーネ様、お話は後でお聞きしますわ。今この場は、卒業生の方々に――」
「逃げるのですか!」
ヨゼフィーネ様が大声を上げるものですから、こちらに注目が集まってしまいます。
彼女はわかっているのでしょうか。もしもこのパーティーが台無しになれば、評判に傷が付くのは主催者であるクリストフ様なのです。
「誤魔化しても無駄です。アレクサンドラ様の悪行はもはや皆が知っております!」
ヨゼフィーネ様は勝ち誇った表情で、わたくしに指を突きつけました。……マナー違反ですわよ。
「あなたは生徒会副会長にはふさわしくありません! 今この場で、その座から降りていただきます!」
――断罪劇ふたたび、ですわね。
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次回は土曜日夜に投稿いたします。
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